6000億円が動いた博覧会
「貧困地域に無限の希望」
ビッグデータの街として注目されている貴州省貴陽市では5月26日~29日、「中国国際ビッグデータ産業博覧会」が開かれた。期間中は世界中のIT企業388社が最新技術を披露。中国国営新華社通信によると、プロジェクトの成約額は350億元(約6000億円)を超えた。
中国国際ビッグデータ産業博覧会の会場
ビッグデータで高品質な成長へ
「われわれはビッグデータ戦略に力を入れ、これまでの高速な経済成長を高品質な成長に転換するために役立てる」。大勢の人が詰めかけた初日の開幕式。壇上に上がった全国人民代表大会(全人代)常務委員会の王晨副委員長は、大会に寄せた習近平国家主席のメッセージを読み上げた。
博覧会は、今回で4回目。2016年から国家イベントに昇格した。国内外に貴州省の先進性や中国政府の方針をアピールする場としては絶好の機会で、王副委員長は「ビッグデータの発展に向けた重要なチャンスを見逃さず、ビッグデータ産業を健全に発展させる」と力を込めた。
また、中国国家発展改革委員会や中国工業信息化部からも幹部が駆けつけ、「貴州省など国内8か所でビッグデータの総合試験区を建設し、関連の企業数は60%以上伸びている」「中国がもつデータの世界シェアは、20年までに20%に達し、最も量が多く、最も豊富なデータを持つ国の一つになるだろう」などと訴えた。
「BAT」のトップも参加
テンセントの馬化騰会長
博覧会では、「BAT」と呼ばれるIT大手グループを形成するアリババやテンセント、バイドゥのトップも参加。テンセントの馬化騰(ポニー・マー)会長は「ビッグデータは貴州の新しい名刺になっている」などと述べ、貴州省で投資する理由などを訴えた。
このうち、アリババの馬雲(ジャック・マー)会長は「貧困は農民や貧困地域が努力を怠っていたわけではなく、教育の不均衡や医療・健康分野のリソースが十分に足りていないなどの問題に由来するものだ」とし、ITの力で貴州省が抱える貧困問題を解決したいとの考えを示した。
そのうえで「貴州省が力強く発展するテクノロジーやビッグデータ産業をこの目で見て、貧困地域に無限の希望を感じた」と強調。さらに「農村の現代化を必ずや実現するために、この方面にわれわれが注力しなければならないと思っている」とし、「貴州省が、将来の中国で最も意義があり、最も富める地域のひとつになることを信じている」と呼びかけた。
テンセントの馬会長は「博覧会に参加するのは4回目で、この4年間で貴州省の活力が増しているのを強く感じている」と説明。さらに「近年は国内のインターネット企業がこぞって貴州省にDCを建設している」と述べ、ビッグデータ産業が貴州省の活力向上に寄与しているとの認識を示した。
また「テンセントは、この地域で七つ星のDCを建設して試運用を始めており、将来的に重要なデータをこのDCに蓄積する」と今後の方向性に言及。同社が提供するSNSアプリ「微信(WeChat)」やメッセンジャーアプリ「QQ」の統計から、「都市別のランキングで、貴陽市は全国で最も若年層のユーザーが多い都市になった」とも語った。
一方、バイドゥの李彦宏(ロビン・リー)会長は、「博覧会の影響力は年々高まっていると感じる」と持論を展開し、AIや自動運転について説いた。
中国政府の要人も出席した開幕式
3日間で12万人超が来場
主催者によると、今回の博覧会には、3日間で世界中から12万人超が訪れ、中国のビッグデータが大きな注目を集めていることを印象づけた。国家イベントだけあって広報活動にも注力し、米ニューヨークにあるナスダックの大画面でビデオクリップを放映したり、263回のメディアリリースをしたりした。中国の国内メディアが博覧会関係で62万回の報告をしたほか、ニュースサイトなどでは8万9000件の記事が外国語に翻訳されたという。
期間中は、企業トップらによるスピーチのほか、各企業がソリューションなどを披露する展示もあった。展示エリアは広さ約12万平方メートルが確保され、アリババやテンセント、華為技術(ファーウェイ)などの中国企業のほか、マイクロソフトやグーグル、オラクル、フェイスブックなどの海外企業もブースを設けた。
日本企業で唯一出展したNTTデータグループは、地元の貴陽市当局と協力して実証実験中の交通ソリューションや河川の水質管理ソリューションなどを展示。貴陽市との協力関係について、中国・APAC事業本部の宇平直史本部長は、会場でのインタビューで「貴陽市は、ビッグデータの活用を広げていくうえで非常にいい場所だ」とし、さらに「貴陽市には大きな発展の可能性がある」と期待感を示した。
NTTデータグループのブース
在重慶日本国領事館によると、貴州省に進出している日系企業数は15社(17年10月現在)で、日本人の長期滞在者は20人(18年1月現在)。ビッグデータ産業で貴州省が注目されているとはいえ、まだ日本との関係が深いとはいえない状況だ。NTTデータグループの取り組みが進展すれば、貴州省のビッグデータ産業と日系企業の関係が活発化する可能性がある。
どうする日系ベンダー
中国のデータで新たな価値を
中国でビッグデータの活用が進むなか、日系企業は次の一手をどう打つのか。貴州省で着々と準備を進めているNTTデータグループだけでなく、ほかの日系ベンダーも新たな取り組みに着手している。
貴陽市で実証実験を進めている交通ソリューションの展示
「本気」の意思表示
今回の博覧会に初出展した狙いについて、NTTデータ中国信息技術(NCIT)の高永東総裁は、「NTTデータグループが、中国でのビジネスを本気でやるという意思表示をする狙いがあった」と説明する。
NTTデータは2017年、貴陽市政府と中国科学院ソフトウェア研究所と共同で、貴陽市にビッグデータ先進技術研究院を設立し、20年までに中国国内やAPACに展開可能なソリューションを開発することを目標に定めた。
博覧会で展示した交通ソリューションは、信号に設置しているカメラの映像をもとに、実験エリアの交通量を分析。信号を制御して渋滞の発生を抑制することを目指している。
NTTデータ中国信息技術の
高永東総裁
実験は2回目。16年2月から3月までの期間に実施した1回目の実験では、延べ100万台のデータをもとに信号を制御。対象区間の移動時間は平均10%、最大51%改良され、交通処理能力も平均34%改善したことを確認したという。
高総裁は、「交通ソリューションは、中国のトップベンダーも取り組んでいるが、技術的にはわれわれのほうが優れていると思っている」と分析。「中国は面積が広く、交通問題はどこの都市でも顕在化している。1社がすべての都市でシェアを握ることはないだろう」とみている。
さらに「貴陽市で進めている実証実験は、決して中国マーケット向けだけに終わることはない。中国でソリューションが成熟化していけば、将来は貴陽発のソリューションとして中国国外に展開することも期待できる」と考えている。
データ量は日本の10倍以上
一方、ソフトバンクの中国法人軟銀通信科技(上海)は、従来のネットワークを中心としたビジネスに加え、中国の最新技術やデータを使い、新たなビジネスにつなげることを検討している。
同社はこれまで、ネットワークを軸とするSIビジネスのほか携帯端末やSIMカードを扱う物売りのビジネスを中心としてきた。しかし、顧客のニーズが変化していることなどから、「新しい分野で、中国のソフトバンクとしてできることを模索している」と千ヶ崎貴久総経理は話す。
軟銀通信科技(上海)の
千ヶ崎貴久総経理
日本でも展開しているロボットやAI、IoTに加え、中国では、チャイナテレコムが所有する4億人分の通信データの活用も見据え、リコーグループと共同研究を進めている。
千ヶ崎総経理によると、チャイナテレコムユーザーの性別や居住エリア、アクセスしたURLの履歴などのデータを分析し、行動予測につなげていくことを想定している。現時点では「まだ勉強会の延長」の段階だが、将来的に「利益に直結するようにしていきたい」と語る。
ビッグデータは、分析後の活用をどのように進めるかが課題になる。千ヶ崎総経理は、「中国のデータ量は日本の10倍以上。使い方によっては大きく化ける可能性がある」とし、「いろいろなものを組み合わせることで、新たな価値が生まれるかもしれない。ソフトバンク単体では弱いので、パートナーの協力を得ながら着実に進めていく」と意気込む。