IoT/AI旋風 仙台市を中心に巻き起こる
経済産業省が、地域におけるIoTプロジェクトの創出に向け「地方版IoT推進ラボ」を推し進めている。「せんだいIoT推進ラボ」は17年3月に地方版IoT推進ラボの認定を受けた。設立したばかりのラボだが、すでにIoTに取り組んでいる団体を母体とすることで、事業化間近なプロジェクトがある。
官の取り組み
仙台市が大学とITベンダーをつなぐ
仙台市は、東北大学のテクノロジーと地元企業を結びつけ、地域課題解決を促進させるため、10年2月に東北大学内にIIS研究センターを開設した。仙台市が運営費用を負担し、企業出身の特任教授やスタッフを雇用する。仙台市経済局 産業政策部産業振興課の白岩靖史課長は「東北大学の最新のテクノロジーと地域産業を橋渡しする機関」と説明する。
研究会やラボなどの団体支援も行っている。IIS研究センターの支援を受けて設立した団体に、画像処理を中心に研究活動を行うマシンインテリジェンス研究会(MITOOS)、東北復興を進める東北IT新生コンソーシアム、ドローンを使ったサービスの事業化を進めるドローンテックラボ仙台の三つがある。この3団体を母体として「せんだいIoT推進ラボ」が発足した。白岩課長は「三つの団体を横串にハブとして機能するのが仙台市とIIS研究センターだ。これにより、それぞれの団体の取り組みや情報を共有し、地域課題解決を促進できる」と説明する。
左から
仙台市 経済局 産業政策部 産業振興課
大友康博 主査
白岩靖史課長
学の取り組み
画像認識技術が主軸に
IIS研究センターで事業化の軸となっているのは副学長の青木孝文教授が研究している画像認識技術だ。この技術を採用した事例はすでに10件以上にのぼる。判定が難しい鏡面体の凹凸や傷を検査するロボット、魚や食肉に残った骨を調べる残骨検査における自動検出装置などは、すでに事業化済み。このほか、桃の糖度を画像から判断する技術や動くものをトラッキングして映像を投影できるプロジェクションマッピング装置などを開発し、事業化に向けて検討している。
事例の傾向は、宮城県の地域課題である水産加工業の効率化、自動化にかかわるものが多い。先述の残骨検査における自動検出装置は、X線で撮影した映像をもとに残骨を自動検出し、取り除く。これにより残骨検査の高速自動化、見落としなどの誤判定を改善し、作業の効率化と高品質を実現する。すでに年間数億円の販売実績があり、事業は拡大中だ。
水揚げ現場向けのソリューションとしては、カツオの自動選別機を開発。画像判断に加え、重量センサーなどを組み合わせることでカツオのサイズ、鮮度、旨みなどの特徴を自動判定し、選別する。16年から気仙沼の漁港で稼働しており、ほかの漁港からの引き合いもあるという。
これまでに136社がIIS研究センターの支援を受けた。またIIS研究センターの支援により誕生した新規事業の売上高は22億7776万円、新規雇用者数は97名にのぼる。
左から
東北大学 大学院工学研究科 IIS研究センター
舘田あゆみ特任教授
高橋真悟特任准教授
産の取り組み
東杜シーテック
雌雄自動判定を超音波でタラの付加価値を高める
東杜シーテック
本田光正
代表取締役
IIS研究センターと地元ITベンダーが共同で開発したものに、東杜シーテックのタラの雌雄判別診断装置「Smart Echo」がある。超音波エコー画像をAIで判断することで、白子・魚卵の有無を判断し、音声やランプの点灯で知らせる。
タラはオス・メスによって市場での取引価格が異なる。オス・メスの判別が難しいため、混在した状態で水産加工業に出荷することが多い。
東杜シーテックは、ソフトウェアの受託開発業務を手がけるITベンダーで、ハードウェアの開発は今回が初めて。最も腐心した点は、耐久性能の実現だ。本田光正代表取締役は、「使う場所は水場、それも海水の近く。防水性能とさび対策が必須だった。ソフトウェアに比べ、ハードウェアの開発に時間がかかった」と開発の苦労を話す。
ソフトウェアをいち早く使えるデバイスとして外付け超音波プローブをスマートフォンと接続するスマホモデル「SXシリーズ」を先行してリリースした。17年はハンディタイプ「BXシリーズ」を製品化し、年内に数十台の販売を見込む。
Smart EchoのSXシリーズとBXシリーズ
ユニークな発想で新事業創出 仙台市のIoTベンダー
コー・ワークス
組み立てるIoT
コー・ワークス
淡路義和
社長
コー・ワークスは、ダム関連のシステム開発からエンベデッド・メカトロ開発、ITコーディネーターまでを手がける。エンベデッド・メカトロ開発事業として注力しているのが、IoTエッジデバイスの開発だ。
IoTはシステムだけではなく、センサーやエッジなどのハードウェアが必要だ。宮城県経済商工観光部新産業振興課によると宮城県のITベンダーの約6割がシステム開発に特化しており、ハードウェアの調達が大きな課題だという。同社はIoTの前身であるM2Mから取り組んでおり、10年にはいろいろな機器とつながり、ゲートウェイ機能をもつマルチインターフェースボードを開発し、中小企業から大手企業まで数多くの実績を上げた。
マルチインターフェースボードは、発注元とヒアリングをしながら基盤から組み立てる。基盤だけで約1週間、完成までに1か月以上かかる。「原材料費よりもエンジニアの人件費のほうが高くなってしまう。予算のある大手企業を優先するため、中小企業の仕事を断らざるを得なかった」と、淡路義和社長は説明する。
そこで、工期を短縮でき、低価格で提供できるマルチインターフェースボードの開発に着手。台湾のTibbo社と連携して、60種類以上のセンサーやI/Oなどのモジュールブロック「Tibbit Blocks」と「Raspberry Pi」を組み合わせたIoTエッジデバイス「Tibbo-Pi」を開発した。特徴は、ブロックの脱着だけで産業用基板の設計・開発ができる点だ。これにより、ハードウェアの開発工程を4分の1まで短縮できるほか、ハードウェア開発の知識がなくても組み上げることができるので、ユーザー企業側で組み立てることもできる。
「大手のIoTプラットフォームベンダーから高い評価を得ている。Tibbo-PiによりIoTのPoCがどんどん進むと期待している」と淡路社長は期待を寄せる。さらにハードウェアの販売だけではなく、コンサルティングサービスを含めた提案を行う計画だ。付随するサービスは現在開発中で、8月から販売予定。3年間で20億円の売り上げを見込む。
IoTエッジデバイス「Tibbo-Pi」
トライポッドワークス
飛ぶIoTと走るIoT
トライポッドワークス
佐々木賢一
社長
2005年に設立したトライポッドワークスは、セキュリティ事業を中心に展開する。14年に自動飛行するドローンをIoTエッジデバイスとして活用したIoTビジネスを開始。ドローンが撮影した空撮映像と動画処理システムを組み合わせ、災害被災地支援、セキュリティ対策、建設現場の進行管理などをソリューションとして提供している。
また空撮のノウハウを生かし、空撮映像のコンテンツ制作事業もスタート。今年6月にはKDDIとプロドローンと共同で、次世代移動通信システム「5G」を使ったドローンから4K映像の伝送実験を行い、国内で初めて成功した。
IoTビジネスはドローンだけではない。トラックなどのタイヤに装着するタイヤ空気圧監視システム「BLUE-Sensor」を今年1月にリリースした。タイヤキャップをBLUE-Sensorに交換するだけで装着でき、タイヤの空気圧、温度を測定し、Bluetoothでデータを送信する。データの受取先は専用機器のほか、スマートフォンやタブレット端末を設定でき、タイヤの異常をアラートで運転手に知らせたり、スマートフォン経由で管理者に通知を送信できる。BLUE-Sensorから送られるデータだけではなく、スマートフォン内のセンサーを活用し、経度・緯度、進行方向、走行スピード、高度、気圧などの情報を管理者に送信できる。今後は冷蔵・冷凍車の倉庫内の温度を測定するセンサー、運転手の状況を把握できるセンサーなどを追加し、荷物の状態、運転手の状態を管理できるソリューションとして提供する。
佐々木賢一社長は「今の売り上げ構成比はセキュリティが80%、IoTと映像関連が20%ほど。将来的にはIoT/映像の比率を50%まで引き上げたい」と抱負を語る。
BLUE-Sensor
記者の眼
宮城県のIT産業にとっても、人材確保と人材育成は今後の成長に向けた大きな課題だ。それを地域の課題とともに解決しよう、という動きがある。
宮城県大崎市の鳴子温泉郷は、年間宿泊客数が年々減少している。とくに平日の稼働率の低さが大きな課題となっている。元温泉宿や平日の温泉宿をIT人材育成の場所に活用できないか、という声が出ている。疲れたら温泉に浸かり、リフレッシュできる環境は、研修を行う企業にとっても魅力的に見えるはず。IT企業が地域経済の活性化に一役買う日も近そうだ。