学習指導要領が改定し、2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化されることになった。小学校段階で論理的・創造的思考力を育成することが狙い。将来的な意味では不足が予想されるIT人材を育てることにも期待されていて、中学校や高校への拡大も決まっている。関連市場は今後、大きく伸びるとみられており、ITベンダーにとっては商機拡大のチャンスがある。この動きに目を付けた中国企業は日本への進出を本格化、事業拡大を虎視眈々(こしたんたん)と狙っている。(取材・文/齋藤秀平)
中国メディアは「ブーム」と報道
「日本では今、プログラミング教育のブームが起きている」。中国共産党の機関紙「人民日報」のニュースサイト「人民網日本語版」は今年6月4日、1本の記事を掲載した。テーマは、日本のプログラミング教育についてだ。
記事は「ソニーやソフトバンクなどの企業は、自社の電子業界やロボットの分野などの資源の優位性を活用し、コンピューター関連の電子教材を開発し、そこにあるビジネスチャンスを先取りしようとチャンスをうかがっている」と報道。さらに、学習塾が小学生向けのプログラミング教室を開設していることを紹介し、日本政府が「大学受験にプログラミング科目を設置することを検討している」とも報じた。
中国政府は、2017年7月に発表した「新世代人工知能(AI)発展計画」において、AI産業で世界トップレベルを目指す方針を打ち出し、実現に向けてAI人材の育成に力を入れることを決定。小中高校でプログラミング教育を徐々に取り入れていくことにしている。
中国にとっては、小学校でプログラミング教育を必修化させる日本の動きは先例となる。中国メディアが日本の状況を報道したことは、プログラミング教育必修化の動きが中国側から一定の注目を集めたといえそうだ。
30年には78万9000人が不足
経済産業省がまとめた「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、IT企業やユーザー企業の情シス部門に所属する人材は、19年をピークに減少傾向となる見通し。15年に約17万人だった不足人数の規模は拡大し、30年には最大で約79万人が不足するとされている。
ただ、IT人材の不足は、日本だけの問題ではない。中国のIT大手騰訊控股(テンセント)が発表した「2017グローバル人工知能人材白書」は、グローバルでAI領域の人材は30万人だが、市場の需要は数百万人と推定。米国や中国など、世界各国がAIやビッグデータの研究開発に積極的に取り組むなか、今後、人材の奪い合いがより一層、激化することを示唆した。
人口減少時代を迎えた日本では、IT人材の獲得は喫緊の課題となっている。未来投資会議の構造改革徹底推進会合で国が示した資料は、世界の状況を踏まえてAI・IT人材の必要性を強調し、教育改革の一環としてプログラミング教育の充実をあげた。
新学習指導要領によると、20年度の小学校を皮切りに、中学校では21年度から、技術・家庭科(技術分野)でプログラミングに関する内容を全面的に実施。高校では22年から、情報科の共通必履修科目を新設し、全生徒がプログラミングや情報セキュリティを含むネットワーク、データベースの基礎などについて学習できるようにする。
25年の市場規模は約230億円
シード・プランニングの調査では、16年度のプログラミング教育関連市場の規模は、39億9000万円と推計された。20年度の小学校での必修化に向けて市場は大きくなっており、20年度には94億6000万円に達する見込みだ。同社は「20年度以降の本格的なプログラミング教育の実施により、多くの子どもたちが、学校教育を通じてプログラミングに興味・関心を持つことが想定される」と予想。25年度の市場規模は、16年度の約6倍の230億5000万円になるとみている。
関連市場では、学校外の「プログラミング教室・スクール」のほか、授業などで活用する「教材・プログラミングツール」、教員の研修や育成など「人材関連支援」の三つに分類される。ITベンダーは、自社商材を活用してすでに市場への参入を進めている。
例えばサイボウズは、業務アプリケーション構築基盤「kintone」で小学生向けプログラミング教育指導案を作成し、無償で提供。また、ダイワボウ情報システムは、小学校でのプログラミング教育/コンピューター教育の推進を目的に、プログラミング指導テキスト「はじめてのプログラミング授業実践」を全国の自治体、教育委員会、小学校向けに無償提供する。
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