クラウド市場の2強といえるAmazon Web Services(AWS)とMicrosoft Azureの競争が激しさを増している。矢継ぎ早に新しい機能をリリースして継続的にサービスポートフォリオを充実させようとしている点は両者共通だが、パートナーエコシステムの現状には大きな違いがある。その違いがこれからの成長にどんな影響をもたらすことになるのだろうか。(取材・文/本多和幸)
クラウド市場は2強の寡占状態が進む
データで見る市場の現状
成長率の比較だけでは見えてこないAWSの強さ
米調査会社のガートナーが今年8月にIaaSに絞って発表した2017年のパブリッククラウド市場調査レポート(表1)では、AWSの売上高が122億2100万ドルで市場シェアは51.8%、マイクロソフトは31億3000万ドルで13.3%という結果になった。以下、アリババが10億9100万ドルで4.6%、グーグルが7億8000万ドルで3.3%、IBMが4億5700万ドルで1.9%と続いており、AWSが圧倒的なシェアを誇り、マイクロソフトが追い上げる構図だ。
年間成長率に目を向けると、AWSが25.0%、マイクロソフトが98.2%、アリババが62.7%、グーグルが56.0%、IBMが53.9%で、マイクロソフトの成長率の高さが抜きんでている。シェアについても、AWSが16年の53.7%から51.8%に若干落としたのに比べて、マイクロソフトは8.7%から13.3%に上げている。マイクロソフトの追い上げで両者の差は縮まっているようにみえるが、16年から17年にかけての売上高の増加額はAWSが24億4600万ドル、マイクロソフトが15億5100万ドルであり、AWSのほうが約9億ドル多い。IaaS市場に限っては、2位のマイクロソフトをもってしても、AWSとはビジネス規模そのものに大きな開きがあるのが現状であり、年間成長率だけを見て、「マイクロソフトがいずれAWSを追い抜く」と考えるのは早計だと言えるだろう。
一方、米調査会社のシナジーリサーチグループは、IaaSにPaaS、ホステッド・プライベート・クラウドを加えた市場シェアに関する調査を四半期ごとに、さまざまな形に整理してレポートを発表している。直近1年間でのシェア変動に言及した今年2月のレポートでは、AWSが0.5%増、マイクロソフトは3.0%増加したとしている。また、各社のシェアについて具体的な数字は発表していないものの、AWSが35%弱、マイクロソフトが15%弱程度であることも示唆している。首位をひた走るAWSをマイクロソフトが追う構図はここでも変わらない。
レイヤーを上げると際立つマイクロソフトの攻勢
レイヤーをさらに広げてみると、パブリッククラウド市場での両社の競争はまた別の様相が見えてくる。マイクロソフトは直近の通期決算(18年6月期)で、AzureやOffice 365、DynamicsなどIaaS、PaaS、SaaSの全てのレイヤーを総合したエンタープライズ向けのパブリッククラウド事業の売上高が前年度比56%増の230億ドルまで成長したと発表した。AWSの18年12月期決算の売上高予測は200億ドルであり、パブリッククラウド事業全体でみれば、マイクロソフトのビジネス規模はAWSを超える水準になったと言える。事実、四半期ごとの決算でも、パブリッククラウド事業全体の売上高はマイクロソフトがAWSを上回る状況が続いている。AWSの主戦場はIaaS/PaaSであり、そこでのAzureとの競争ではまだまだ大きくリードしているが、幅広いレイヤーで競争力を発揮しているマイクロソフトの底力はAWSにとっても侮れないだろう。
国内市場についての調査レポートも見てみよう。MM総研が昨年12月に発表した「2016年度国内クラウドサービス市場規模調査レポート」では、すでにPaaSを利用しているユーザーではAWSの利用率が41.4%でトップ。Azureが29.0%で3位以下を大きく引き離して2位につけた。IaaSはAWSが35.5%、Azureが24.8%で同じくワンツーフィニッシュとなった。また、利用を検討中のサービスについても調査しており、IaaSではAWSが1位、Azureが2位という構図は変わらなかったが、PaaSではAzureが24.6%、AWSが24.2%と、わずかだがAzureが上回った。また、今年3月に矢野経済研究所が発表した「国内のクラウド基盤(IaaS/PaaS)サービス市場の調査結果」でも、パブリッククラウドを導入検討中の法人は、Azureを検討している割合が最も多く、35%に達したとしている。
ただし、MM総研の調査は回答数が200~300社程度、矢野経済研究所の調査は34社であることから、母数はそれほど多くない。市場の状況がどれほど正確に反映されているのかには留意する必要があるだろう。
いずれにしても、AWSとマイクロソフトのIaaS/PaaS市場における存在感はますます高まる一方であり、今後も両社を中心にパブリッククラウド市場が動いていくのは間違いない。
AWSの強さを支えるパートナー認定プログラム
“質”にこだわったエコシステム構築
AWSは、ユーザーがITやクラウドのメリットを余すところなく享受してデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するには、段階を踏む必要があると提言している。AWSのパートナー戦略担当者は「新しいビジネスのための新しいシステムなら最初からクラウドネイティブで考えてAWSを使えばいいが、既存のシステムがある場合はそうもいかない。まずは、個別プロジェクトの課題解決のためにAWSを使い始め、次の段階でクラウドの長期利用に向けたシステムのインテグレーションと基盤の再構築を行い大規模なクラウド移行を実現する。ここまでをITトランスフォーメーションと定義し、その次の段階で、クラウドネイティブなIT活用によりビジネスにイノベーションを起こすDXが実現できる」と説明する。同社はこのプロセスを「クラウドジャーニー」と呼んでいる。AWSはこのクラウドジャーニーの各フェーズでユーザーを適切に支えるパートナーこそがビジネス拡大のキモになると考え、認定制度の下、“質”重視でパートナーエコシステムを拡張してきたと言える。
まずは、AWSのパートナープログラムである「APN(AWS Partner Network)」の基本的な仕組みをおさらいする。APNは基本的にはパートナーの認定プログラムであり、APNパートナーは大きく「コンサルティングパートナー」と「テクノロジーパートナー」の二つに分かれる。コンサルティングパートナーはSIerやコンサルファーム、VARなどが対象。テクノロジーパートナーはISVが主な対象だ。パートナーの技術力に応じてレベル分けされており、コンサルティングパートナーは「プレミア」「アドバンスド」「スタンダード」の三つ。テクノロジーパートナーは「アドバンスド」「スタンダード」の二つのカテゴリがある。
コンサルティングパートナー、テクノロジーパートナーとも、ウェブ登録だけで参加でき、パートナー予備軍といえる「レジスタード」という階層も用意していて、新規パートナー獲得のための間口は広い。しかし、「スタンダート以上のパートナーの認定要件は厳しく、お客様のクラウド活用をさまざまなフェーズでしっかりサポートできるパートナーを認定している」と同社担当者は話す。それでも、今年5月の時点でコンサルティングパートナーは223社、テクノロジーパートナーは315社に達し、APNパートナー全体としては、昨年比で130社増えているという。「IoTやAI、デバイスなどの領域にパートナー網が広がっているし、いままでクラウドに興味がなかったプレイヤーの方々が、クラウドのパートナービジネスに参加しないといけないという危機感をようやく本気で持ち始めている。地方のパートナーも徐々に増えており、今年はパートナー網の拡大が一層加速する」というのが同社担当者の見立てだ。
APNパートナーの認定に当たって、AWSはパートナーを認定する評価軸として、三つのプログラムを用意している。一つは、SAP製品のクラウド提供、ビッグデータ活用ソリューション、各種のクラウドマイグレーションなど、AWSを活用したニーズの高いソリューションを提供する能力を認定する「コンピテンシープログラム」。二つめは、「Aurora」や「Redshift」など特定のAWSのサービスを活用する能力を認定する「サービスデリバリープログラム」。そして三つめが、クラウドの運用能力を認定する「MSPプログラム」だ。
こうしたプログラムをつくった理由について同社担当者は、「パートナーのケイパビリティ(能力)をしっかり認定することで、お客様がAWSの導入ベンダーを選定しやすくなる」と説明する。AWSがパートナーに対してどのような支援をすべきかも明確になる。このAPNの仕組みがAWSの強さを支えてきた大きな要素の一つであることは間違いない。
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