Special Feature
サブスクリプション革命 新時代の新たな業務システムをつくるか
2019/02/13 09:00
週刊BCN 2019年02月04日vol.1762掲載
「所有から利用へ」という言葉を聞いて、何を連想するだろうか。ITの世界では近年、クラウドの登場がまさに所有から利用へのビジネスモデル変革を強くリードしてきたこともあり、手垢がついたフレーズだと感じる読者も少なくないかもしれない。しかし、この流れはもはや特定の業界だけのものではない。「利用」のためのサービスを提供し、ユーザーとの契約が続く限り継続的な課金の機会が保証されるサブスクリプションビジネスは、あらゆる産業分野で急速に拡大する気配を見せている。その背景をあらためて考えるとともに、こうしたトレンドが生み出す法人向けITビジネスの新しい市場「サブスクリプションビジネスのためのITソリューション」の成長を追った。(取材・文/本多和幸)
あらためて考える
トヨタの変化に見る
サブスクリプションの潮流
サブスクリプションは、近年新しく使われるようになった言葉ではない。もともとはわが新聞業界や出版業界の「予約購読」「定期購読」の意味で使われていた。週刊BCNは基本的に読者の皆さんには年間購読契約を結んでいただいているので、本来的な意味でのサブスクリプションビジネスだ。また、私たちが当たり前のように使っている電気事業やガス事業、水道事業、通信サービスなども伝統的なサブスクリプションビジネスと言えるし、ITの世界でも、サブスクリプションは以前からなじみのある言葉だ。Linuxディストリビューションベンダーはソフトウェアを販売するのではなく保守と技術支援をサービスとして提供するサブスクリプション型のビジネスを展開してきたし、モノ売りの販売モデルからサービスを提供するサブスクリプションビジネスへのシフトを果たした成功例が出現しているという意味でも、IT業界は“優等生”と言えるだろう。アドビは2012年にサブスクリプション型のビジネスを開始し、翌13年にはソフトウェアパッケージの販売をやめた。この大きな決断により、(当然のことながら)短期的には売上高が減少したものの、今では安定した成長を実現し、ビジネスモデル変革の成功例として評価されている。また、もはや当たり前の選択肢になったクラウドも、多くは典型的なサブスクリプション型のビジネスだ。
しかし近年の「所有から利用へ」という大きなトレンドの変化は、モノ売りのビジネスモデルが支配的な状況が続くと思われた業界をも侵食している。その象徴とも言えそうなのが、自動車業界だ。トヨタ自動車は18年11月、自動車のサブスクリプションサービス「KINTO」を発表した。乗りたいクルマを自由に選んで、税や保険料金の支払い、車両メンテナンスなどをパッケージ化した定額料金で利用することができるという。もう間もなくサービスインするとみられる。
トヨタは、自動車を製造するメーカーから、移動ための機能や手段(モビリティー)に関わるあらゆるサービスを提供する「モビリティ・カンパニー」に自らを変革すると宣言している。18年1月のCESでは、MaaS(Mobility as a Service)事業のための電気自動車を発表したほか、10月にはソフトバンクとともにMaaS事業を手掛ける新会社「MONET Technologies」を設立すると発表。トヨタのコネクティッドカーの基盤とソフトバンクのIoT基盤を融合させて次世代のMaaSを構築し、社会変革につなげていこうという壮大なビジョンを掲げる。また、UBERやGrabなどライドシェア事業でモビリティー業界のディスラプターとなったプレイヤーもエコシステムに迎え入れようとしている。
トヨタの国内年間販売台数の推移を見ると、90年がピークで250万台を超えているのに対し、直近で通年の販売台数が明らかになっている17年の実績は160万台強。近年はほぼ横ばいだが、トヨタ自身、「バブル崩壊の91年以降は長期的な漸減傾向にある」と分析している。その危機感が、サブスクリプションビジネスへの注力方針を示した直近の施策に反映されているわけだ。
サブスクリプション≠月額課金
顧客起点のビジネス変革への挑戦
サブスクリプションビジネスのためのプラットフォーム製品を提供する米ズオラのティエン・ツォCEOは、かつて週刊BCNの取材に対して「あらゆるものが所有から利用へとシフトしていく」と断言した。その予言は現実に近づいているように思える。
一方で、ズオラの日本法人であるズオラ・ジャパンの桑野順一郎社長は、「サブスクリプションという言葉が日本でも浸透してきたのはポジティブなことだが、サブスクリプション=月額課金という誤解がまだまだ多いのは残念だ」と指摘する。「従来のプロダクト販売は、コストと品質に優れた良いプロダクトをつくって他社と差別化を図り、顧客の顔がはっきりとは見えないマスの市場に向けてチャネルを通じてできるだけたくさん売るという一方通行のビジネスモデル」(桑野社長)であり、単に支払いを月額払いにして課金形態を変えただけではその本質が変わるわけではないという。
では、近年の世界的なサブスクリプションビジネスの広がりをITソリューションベンダーとして後押ししてきた同社が考えるサブスクリプションとは何か。桑野社長は次のように説明する。
「顧客のニーズとウォンツは常に変化する。これを常に把握して対応するために、サービスのアップグレード、場合によってはダウングレードすら提案し、サービスをできるだけ長く利用し続けてもらうことに最も重きを置いて収益化を実現するのが、ズオラの考えるサブスクリプションだ」。
図1に示しているのが、同社が例示する典型的なサブスクリプション契約の成功パターンだという。まずは新たな顧客を獲得し、まさに“ニーズとウォンツ”を詳細に把握しつつ適切なアップグレードやオプションを提案し、受け入れてもらえれば顧客がサービスに払う金額は上がる。しかし、場合によってはバカンス中のサービス休止や閑散期のダウングレードなども提案し、サービス契約の更新につなげる。「サブスクリプションで成功するには、縦軸の金額よりも横軸の契約期間をいかに伸ばすかが大事」(桑野社長)だからだ。
「サブスクリプションビジネスではニーズに合わせていかに柔軟にプライス・パッケージを提示できるかが競合との差別化要因になるし、売り上げを拡大するために重要なのは顧客とのリレーションシップ強化ということになる。プライシングも、プロダクト販売モデルのように原価に利益を乗せて決めるのではなく、デマンドと使用量によって決めていく(図2参照)。つまり一旦サービスインしても、ユーザーの食いつきが悪ければフィードバックをもらってサービスの内容もプライシングも柔軟に変えていく。イノベーションにユーザーを巻き込んで、価値を継続して提供するということ」
ズオラが強調するのは、サブスクリプションは単なる課金形態ではなく、ビジネスモデルそのものの変革であるということだ。ITベンダーがオンプレミスからクラウドにビジネスをシフトするメリットとしても頻繁に指摘されることだが、プロダクト販売からサブスクリプション型のサービス提供モデルに変わるとフロー型のビジネスからストック型のビジネスに変わり、短期的には売り上げが下がっても中長期的に安定した成長を実現しやすくなる。しかしこの「中長期的に安定した成長」は、課金形態を変更すれば保証されるわけではない。サービス提供者が顧客と直接つながり、顧客を良く知ることで、顧客にとってのサービスの価値を常に最適に調整してロイヤルティーを高める。このビジネスの構造こそがサービス提供者の安定した成長につながるサブスクリプションの本質的な価値というわけだ。ツォCEOは自身の著書(ダイヤモンド社刊「サブスクリプション」)の中で、「サブスクリプションビジネスは顧客の幸せの上に成り立っている唯一のビジネスモデル。あなたの顧客が幸せになれば、彼らはあなたのサービスをもっと使ってくれ、友だちに勧めてくれ、あなたは成長することができる」とコメントしている。
IoTの広がりがB2B領域の
サブスクリプション化を進める
ズオラのツォCEOやズオラ・ジャパンの桑野社長のコメントを読んで、「きれいごと過ぎるし、米国の先進企業の考え方で、日本国内の現実とリンクしていない」と感じる読者もいるかもしれない。そんな読者のために、もう一人の識者にも話を聞いてみよう。国産のサブスクリプションプラットフォームベンダーであるビープラッツの藤田健治社長は、「自称・サブスクリプションを日本で一番知っている男」という謙虚?な自負を持っている。その藤田社長も、「サブスクリプションは単なる課金体系の話ではなく、その本質はビジネス革命である」と強調する。
ビープラッツは、現在サブスクリプション型と一般的に言われているビジネスは大きく三つに分類できると考えている(図3参照)。
「まず分類1はモノの販売を月額化・定額化しているもの、分類2は提供形態をモノからコトに変化させているもの、分類3がこれまでにない新たな価値を創造しているもので、順番にビジネスとしての複雑性や実行の難易度も上がっていく。そして分類3のビジネスでは、従来その業界に存在しなかったゲームチェンジャーが現れ、既存プレイヤーの外的脅威になるケースが多い。モビリティー分野・自動車業界を例に挙げると、レンタルやリースは分類1、カーシェアリングは分類2、ライドシェアやMaaSが分類3にあたるが、まさにそうした構図であることが分かるだろう」(藤田社長)。
大手自動車メーカーが自らプロダクト販売以外の事業を柱に据える一歩を踏み出したという価値は別にしても、この分類に照らせばトヨタのKINTOはまだ分類2に片足を突っ込んだ分類1のビジネスにしか過ぎない。だが前述したように、トヨタはそれだけにとどまらず、モビリティ・カンパニーを志向してIT領域のパートナーやライドシェアのディスラプター企業をも巻き込んでMaaSに取り組んでいる。サブスクリプション型ビジネスの進展が市場に及ぼす影響についての藤田社長の指摘に照らして考えると、合理性のある中長期的な生存戦略、成長戦略として理解しやすい。
藤田社長は、「モノの製造・販売を生業としてきたプレイヤーが分類1のサービスを手掛ける事例は日本でも相当数出てきているが、本質的に新たな価値をつくり出しているわけではないので、結局は従来のモノ売りビジネスの落ち込みをカバーする事業にはならず、短期間でサービスを畳んでしまう例も多い。一方で、IoTソリューションの活用などは、製造業などを中心にB2B領域で分類3の新ビジネスを始める非常に有効な手段になっている」とも話す。B2Cでも構造は同じだが、例えば産業機械メーカーがIoT製品をサブスクリプションのサービスとしてユーザーに提供する場合、課金の仕方が変わるだけでなく、データを通して顧客と直接つながり、顧客のことを従来とは全く別の次元で“知る”ことができるようになり、新しい価値を持つこれまでにないビジネスを創造できる確率が高まるということだ。
藤田社長は、現在のサブスクリプションの盛り上がりは、技術革新に裏打ちされたものだと強調する。「インターネット環境やクラウドコンピューティング、スマートフォンなどの普及により、個人がサービスに常につながることができるようになり、さまざまな分野でモノのコト化、販売のサービス化が進んだ。さらに、IoTソリューションやビッグデータの蓄積・分析、 AI活用などが一般化し、サービスの細かいパーソナライゼーションまで実現できるようになった」。こうしたテコノロジーの進化が顧客の個別のニーズをきめ細かく具体的に継続して把握することを可能にしたことで、大量生産品をできるだけ多くの人に売るビジネスとは全く違う、新しい価値を持つビジネスを創造しやすくなったということだ。冒頭に述べた通り、課金形態という観点ではサブスクリプションは目新しいものではないが、技術革新により、顧客起点で新たな価値創造を実現できるビジネスモデルとしての有効性が高まったことが、直近のサブスクリプションブームにつながっているのだ。
ビジネス変革の裾野拡大に貢献するか
サブスクリプションビジネスの認知拡大や振興を目的とする一般社団法人日本サブスクリプションビジネス振興会が、18年12月に発足した。代表理事にはサブスクリプションビジネスのためのECパッケージなどを手掛けるテモナの佐川隼人社長が就いた。サブスクリプションビジネスを手掛けたい事業者側と、それをコンサルテーションやITソリューションなどで支援する側の双方を取り込み、業種業界を問わずノウハウや事例を共有することでサブスクリプションビジネスの裾野拡大につなげたい意向だ。
今年1月23日には設立記念パーティーを都内で開催し、ネットショップ、SaaS、食品製造、建築、飲食など幅広い分野の経営者や担当者が来場したという。佐川代表理事は「日本中で“サブスク”が当たり前になるようにしたい」と宣言した。
1月23日に設立記念パーティーを開催
あらためて考える
いま「サブスクリプション 」が熱い理由
トヨタの変化に見るサブスクリプションの潮流
サブスクリプションは、近年新しく使われるようになった言葉ではない。もともとはわが新聞業界や出版業界の「予約購読」「定期購読」の意味で使われていた。週刊BCNは基本的に読者の皆さんには年間購読契約を結んでいただいているので、本来的な意味でのサブスクリプションビジネスだ。また、私たちが当たり前のように使っている電気事業やガス事業、水道事業、通信サービスなども伝統的なサブスクリプションビジネスと言えるし、ITの世界でも、サブスクリプションは以前からなじみのある言葉だ。Linuxディストリビューションベンダーはソフトウェアを販売するのではなく保守と技術支援をサービスとして提供するサブスクリプション型のビジネスを展開してきたし、モノ売りの販売モデルからサービスを提供するサブスクリプションビジネスへのシフトを果たした成功例が出現しているという意味でも、IT業界は“優等生”と言えるだろう。アドビは2012年にサブスクリプション型のビジネスを開始し、翌13年にはソフトウェアパッケージの販売をやめた。この大きな決断により、(当然のことながら)短期的には売上高が減少したものの、今では安定した成長を実現し、ビジネスモデル変革の成功例として評価されている。また、もはや当たり前の選択肢になったクラウドも、多くは典型的なサブスクリプション型のビジネスだ。

しかし近年の「所有から利用へ」という大きなトレンドの変化は、モノ売りのビジネスモデルが支配的な状況が続くと思われた業界をも侵食している。その象徴とも言えそうなのが、自動車業界だ。トヨタ自動車は18年11月、自動車のサブスクリプションサービス「KINTO」を発表した。乗りたいクルマを自由に選んで、税や保険料金の支払い、車両メンテナンスなどをパッケージ化した定額料金で利用することができるという。もう間もなくサービスインするとみられる。
トヨタは、自動車を製造するメーカーから、移動ための機能や手段(モビリティー)に関わるあらゆるサービスを提供する「モビリティ・カンパニー」に自らを変革すると宣言している。18年1月のCESでは、MaaS(Mobility as a Service)事業のための電気自動車を発表したほか、10月にはソフトバンクとともにMaaS事業を手掛ける新会社「MONET Technologies」を設立すると発表。トヨタのコネクティッドカーの基盤とソフトバンクのIoT基盤を融合させて次世代のMaaSを構築し、社会変革につなげていこうという壮大なビジョンを掲げる。また、UBERやGrabなどライドシェア事業でモビリティー業界のディスラプターとなったプレイヤーもエコシステムに迎え入れようとしている。
トヨタの国内年間販売台数の推移を見ると、90年がピークで250万台を超えているのに対し、直近で通年の販売台数が明らかになっている17年の実績は160万台強。近年はほぼ横ばいだが、トヨタ自身、「バブル崩壊の91年以降は長期的な漸減傾向にある」と分析している。その危機感が、サブスクリプションビジネスへの注力方針を示した直近の施策に反映されているわけだ。
サブスクリプション≠月額課金
顧客起点のビジネス変革への挑戦
サブスクリプションビジネスのためのプラットフォーム製品を提供する米ズオラのティエン・ツォCEOは、かつて週刊BCNの取材に対して「あらゆるものが所有から利用へとシフトしていく」と断言した。その予言は現実に近づいているように思える。
一方で、ズオラの日本法人であるズオラ・ジャパンの桑野順一郎社長は、「サブスクリプションという言葉が日本でも浸透してきたのはポジティブなことだが、サブスクリプション=月額課金という誤解がまだまだ多いのは残念だ」と指摘する。「従来のプロダクト販売は、コストと品質に優れた良いプロダクトをつくって他社と差別化を図り、顧客の顔がはっきりとは見えないマスの市場に向けてチャネルを通じてできるだけたくさん売るという一方通行のビジネスモデル」(桑野社長)であり、単に支払いを月額払いにして課金形態を変えただけではその本質が変わるわけではないという。
では、近年の世界的なサブスクリプションビジネスの広がりをITソリューションベンダーとして後押ししてきた同社が考えるサブスクリプションとは何か。桑野社長は次のように説明する。
「顧客のニーズとウォンツは常に変化する。これを常に把握して対応するために、サービスのアップグレード、場合によってはダウングレードすら提案し、サービスをできるだけ長く利用し続けてもらうことに最も重きを置いて収益化を実現するのが、ズオラの考えるサブスクリプションだ」。
図1に示しているのが、同社が例示する典型的なサブスクリプション契約の成功パターンだという。まずは新たな顧客を獲得し、まさに“ニーズとウォンツ”を詳細に把握しつつ適切なアップグレードやオプションを提案し、受け入れてもらえれば顧客がサービスに払う金額は上がる。しかし、場合によってはバカンス中のサービス休止や閑散期のダウングレードなども提案し、サービス契約の更新につなげる。「サブスクリプションで成功するには、縦軸の金額よりも横軸の契約期間をいかに伸ばすかが大事」(桑野社長)だからだ。
「サブスクリプションビジネスではニーズに合わせていかに柔軟にプライス・パッケージを提示できるかが競合との差別化要因になるし、売り上げを拡大するために重要なのは顧客とのリレーションシップ強化ということになる。プライシングも、プロダクト販売モデルのように原価に利益を乗せて決めるのではなく、デマンドと使用量によって決めていく(図2参照)。つまり一旦サービスインしても、ユーザーの食いつきが悪ければフィードバックをもらってサービスの内容もプライシングも柔軟に変えていく。イノベーションにユーザーを巻き込んで、価値を継続して提供するということ」

ズオラが強調するのは、サブスクリプションは単なる課金形態ではなく、ビジネスモデルそのものの変革であるということだ。ITベンダーがオンプレミスからクラウドにビジネスをシフトするメリットとしても頻繁に指摘されることだが、プロダクト販売からサブスクリプション型のサービス提供モデルに変わるとフロー型のビジネスからストック型のビジネスに変わり、短期的には売り上げが下がっても中長期的に安定した成長を実現しやすくなる。しかしこの「中長期的に安定した成長」は、課金形態を変更すれば保証されるわけではない。サービス提供者が顧客と直接つながり、顧客を良く知ることで、顧客にとってのサービスの価値を常に最適に調整してロイヤルティーを高める。このビジネスの構造こそがサービス提供者の安定した成長につながるサブスクリプションの本質的な価値というわけだ。ツォCEOは自身の著書(ダイヤモンド社刊「サブスクリプション」)の中で、「サブスクリプションビジネスは顧客の幸せの上に成り立っている唯一のビジネスモデル。あなたの顧客が幸せになれば、彼らはあなたのサービスをもっと使ってくれ、友だちに勧めてくれ、あなたは成長することができる」とコメントしている。
IoTの広がりがB2B領域の
サブスクリプション化を進める
ズオラのツォCEOやズオラ・ジャパンの桑野社長のコメントを読んで、「きれいごと過ぎるし、米国の先進企業の考え方で、日本国内の現実とリンクしていない」と感じる読者もいるかもしれない。そんな読者のために、もう一人の識者にも話を聞いてみよう。国産のサブスクリプションプラットフォームベンダーであるビープラッツの藤田健治社長は、「自称・サブスクリプションを日本で一番知っている男」という謙虚?な自負を持っている。その藤田社長も、「サブスクリプションは単なる課金体系の話ではなく、その本質はビジネス革命である」と強調する。
ビープラッツは、現在サブスクリプション型と一般的に言われているビジネスは大きく三つに分類できると考えている(図3参照)。

「まず分類1はモノの販売を月額化・定額化しているもの、分類2は提供形態をモノからコトに変化させているもの、分類3がこれまでにない新たな価値を創造しているもので、順番にビジネスとしての複雑性や実行の難易度も上がっていく。そして分類3のビジネスでは、従来その業界に存在しなかったゲームチェンジャーが現れ、既存プレイヤーの外的脅威になるケースが多い。モビリティー分野・自動車業界を例に挙げると、レンタルやリースは分類1、カーシェアリングは分類2、ライドシェアやMaaSが分類3にあたるが、まさにそうした構図であることが分かるだろう」(藤田社長)。
大手自動車メーカーが自らプロダクト販売以外の事業を柱に据える一歩を踏み出したという価値は別にしても、この分類に照らせばトヨタのKINTOはまだ分類2に片足を突っ込んだ分類1のビジネスにしか過ぎない。だが前述したように、トヨタはそれだけにとどまらず、モビリティ・カンパニーを志向してIT領域のパートナーやライドシェアのディスラプター企業をも巻き込んでMaaSに取り組んでいる。サブスクリプション型ビジネスの進展が市場に及ぼす影響についての藤田社長の指摘に照らして考えると、合理性のある中長期的な生存戦略、成長戦略として理解しやすい。
藤田社長は、「モノの製造・販売を生業としてきたプレイヤーが分類1のサービスを手掛ける事例は日本でも相当数出てきているが、本質的に新たな価値をつくり出しているわけではないので、結局は従来のモノ売りビジネスの落ち込みをカバーする事業にはならず、短期間でサービスを畳んでしまう例も多い。一方で、IoTソリューションの活用などは、製造業などを中心にB2B領域で分類3の新ビジネスを始める非常に有効な手段になっている」とも話す。B2Cでも構造は同じだが、例えば産業機械メーカーがIoT製品をサブスクリプションのサービスとしてユーザーに提供する場合、課金の仕方が変わるだけでなく、データを通して顧客と直接つながり、顧客のことを従来とは全く別の次元で“知る”ことができるようになり、新しい価値を持つこれまでにないビジネスを創造できる確率が高まるということだ。
藤田社長は、現在のサブスクリプションの盛り上がりは、技術革新に裏打ちされたものだと強調する。「インターネット環境やクラウドコンピューティング、スマートフォンなどの普及により、個人がサービスに常につながることができるようになり、さまざまな分野でモノのコト化、販売のサービス化が進んだ。さらに、IoTソリューションやビッグデータの蓄積・分析、 AI活用などが一般化し、サービスの細かいパーソナライゼーションまで実現できるようになった」。こうしたテコノロジーの進化が顧客の個別のニーズをきめ細かく具体的に継続して把握することを可能にしたことで、大量生産品をできるだけ多くの人に売るビジネスとは全く違う、新しい価値を持つビジネスを創造しやすくなったということだ。冒頭に述べた通り、課金形態という観点ではサブスクリプションは目新しいものではないが、技術革新により、顧客起点で新たな価値創造を実現できるビジネスモデルとしての有効性が高まったことが、直近のサブスクリプションブームにつながっているのだ。
ビジネス変革の裾野拡大に貢献するか
日本サブスクリプションビジネス振興会が発足
サブスクリプションビジネスの認知拡大や振興を目的とする一般社団法人日本サブスクリプションビジネス振興会が、18年12月に発足した。代表理事にはサブスクリプションビジネスのためのECパッケージなどを手掛けるテモナの佐川隼人社長が就いた。サブスクリプションビジネスを手掛けたい事業者側と、それをコンサルテーションやITソリューションなどで支援する側の双方を取り込み、業種業界を問わずノウハウや事例を共有することでサブスクリプションビジネスの裾野拡大につなげたい意向だ。今年1月23日には設立記念パーティーを都内で開催し、ネットショップ、SaaS、食品製造、建築、飲食など幅広い分野の経営者や担当者が来場したという。佐川代表理事は「日本中で“サブスク”が当たり前になるようにしたい」と宣言した。
「所有から利用へ」という言葉を聞いて、何を連想するだろうか。ITの世界では近年、クラウドの登場がまさに所有から利用へのビジネスモデル変革を強くリードしてきたこともあり、手垢がついたフレーズだと感じる読者も少なくないかもしれない。しかし、この流れはもはや特定の業界だけのものではない。「利用」のためのサービスを提供し、ユーザーとの契約が続く限り継続的な課金の機会が保証されるサブスクリプションビジネスは、あらゆる産業分野で急速に拡大する気配を見せている。その背景をあらためて考えるとともに、こうしたトレンドが生み出す法人向けITビジネスの新しい市場「サブスクリプションビジネスのためのITソリューション」の成長を追った。(取材・文/本多和幸)
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