ネットワークの構成を仮想化し、ソフトウェアによる集中制御を可能にする技術のSDN(Software Defined Networking)。ネットワーク技術としては決して新しいキーワードではなく、データセンターではすでに活用が進んでいるが、セキュリティー要求やデジタルトランスフォーメーション(DX)の機運の高まりで、一般企業のネットワークでもSDNの導入が進みつつある。なぜ今になってSDNなのか。(取材・文/日高 彰)
専門家以外には難解だったSDN
企業のITインフラを構成する三つの主要な要素であるサーバー、ストレージ、ネットワーク。これらのうち、サーバーとストレージについては仮想化技術の導入が一般的で、複数台のサーバーやストレージ機器を統合して運用する形態は今や当たり前となっている。また、さらにサーバーとストレージを統合したハイパーコンバージドインフラも大きな市場を形成しつつある。
今回のテーマのSDNは、ネットワークの領域で仮想化を実現するための技術だが、サーバーやストレージの仮想化では「多数のハードウェアを1台に統合してコストを削減できる」という非常に明解なメリットがあるのに比べて、「ネットワーク仮想化」の意義はやや難解だ。SDNの解説書を開いても、「ネットワークの経路を制御する“コントロールプレーン”と、実際にパケットのやりとりを行う“データプレーン”を分離する考え方」といった説明から始まり、ネットワークの世界に詳しい人以外は読み進めることすら困難である。
しかし、ITの世界で永遠の課題であるセキュリティーの強化や、近年の企業経営では避けて通れないDXの文脈において、一般企業にとってもSDNが重要なキーワードになりつつあるという。調査会社IDCジャパンは昨年発行した報告書の中で、2017年の企業ネットワークSDN市場は前年比96.5%増だったとしている(「国内SDN、NFV市場予測、2018年~2022年」)。データセンターや通信事業者ではなく、企業や官公庁、地方自治体など、一般組織の事業拠点におけるネットワーク構築で、SDNに対する支出が前年からほぼ倍になったというのだ。
ITインフラ構築を手掛けるSIer各社からも、「企業ネットワーク更改の案件で、いよいよSDNを導入した」という話が聞かれる機会が増えてきた。小難しく思えるSDNだが、きちんとメリットを説明すれば、課題を解決するために有効な技術であることをユーザー企業も理解してくれるのだという。
なぜ今、業務の現場でSDNが求められるようになったのか。それを知るため、まずはSDNの考え方の理解から始めよう。
本質は「物理構成からの解放」
読んで字のごとく、SDNはネットワークの形をソフトウェアで定義する技術であるが、特定の製品や規格を指すものではないので、この言葉が用いられる状況やベンダーによって定義が異なることも多い。ただ、「ネットワーク機器が物理的にどのように接続されているかに関係なく、ユーザーの要求に応じて論理的なネットワークを構成できる」ことを目指している点は、多くの場合共通している。
SDNを用いない従来のネットワークは、システムの用途に応じて構成を設計し、その通りに機器を接続する必要があった。ルーターやファイアウォールはネットワークの境界に、ロードバランサーは負荷分散の対象となるサーバー群の手前に、それぞれ配置するのが当然だった。このため、接続先やセキュリティー要件が異なる新たなシステムを追加する場合、すでに敷設されているネットワークとは別のネットワークを構築する必要があった。また、機器を別のネットワークへ移設する際などは、技術者が現地へ行って関連するネットワーク機器の設定をやりなおさなければならなかった。
これに対して、SDN対応のスイッチを利用して構築した企業ネットワークが、上図の左側に描かれた構成である。企業の拠点内に複数のSDN対応スイッチが配置されており、各機器はそれらのうちどのスイッチに接続されていてもよい。ファイアウォール、ロードバランサーといったネットワーク機器や、サーバー、業務端末のPCなどが、物理的にはバラバラに接続されているが、SDNの場合、これらがどのような経路で通信するかは、管理ソフトウェアに相当する「コントローラー」によって制御されており、実際にはこのネットワークは、上図の右側の論理構成のように動作している。
物理的なケーブルの差し替えや、一つ一つのスイッチの設定を行わなくても、コントローラーに指示を出すだけで、各機器の接続を自在に切り替えることできる。これがSDNの考え方だ。
大量のサーバーや仮想マシンが動作し、機器の追加や構成変更が日常的に発生するデータセンターでは、人手で巨大なネットワークの設定を行うのはもはや不可能であり、管理運用を省力化・自動化できるSDNの威力はわかりやすい。しかし、一般企業ではそこまで頻繁にネットワークの構成を変更するわけではない。企業がSDNを導入するメリットは何なのか。
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