Special Feature
進化するコールセンター 柔軟な環境がCX向上に貢献
2019/05/22 09:00
週刊BCN 2019年05月13日vol.1775掲載
コールセンターも時代は完全にクラウド!
というほど単純ではない
コールセンターシステムに限らず、多くのシステムでクラウド化が進んでいる。この流れは確実だが、必ずしも全てがパブリッククラウドに置き換わるとは限らない。コールセンターシステムにおいても、オンプレミスに対するニーズは根強いという。では、コールセンターシステムはどこに向かうのか。主要各社の取り組みから、市場動向を分析する。
アバイア
クラウド化を意識しつつも
AI活用による効率化を重視
日本のコールセンターシステムにおいて、大きなシェアを継続して獲得してきた米アバイア。長く提供を続けてきたこともあり、近年のオンプレミスからクラウドへの移行の流れを間近で見てきた。日本アバイアのマーケティング部 日本・韓国地域担当の加瀬健部長は、「オンプレミスの需要が完全になくなることはないが、クラウド化の流れは確実に進んでいる」と語る。設備を持ちたくない小規模事業者を中心として、コールセンターシステムのクラウド化が進んでいるのだという。とはいえ、「将来を見据え、自社内にノウハウを蓄積したいと考えるお客様はオンプレミスを選ぶ」(加瀬部長)傾向にあるという。また、クラウドに対するセキュリティの懸念は払しょくされつつあるものの、いまだにそのリスクを口にするIT担当者が多いのだという。
加瀬 健
部長
クラウドに対しては適材適所をスタンスとする一方で、アバイアはコールセンターシステムにAIを適用する取り組みに注力している。同社のパートナー戦略からも、その方針は明らかだ。
同社のビジネスモデルは、全てパートナーを起点とする間接販売。それだけにパートナーに対する施策の重要度は高く、2月26日から27日にかけて開催された同社のパートナーイベント「Avaya Partner Summit 2019」において、米アバイアのニダル・アブリテフ・バイスプレジデントは「高付加価値のサービスを提供するにはパートナーが不可欠」として念を押すように強調している。同社は2017年、パートナーが持つAIテクノロジーを組み合わせたソリューションを展開するべく、AIを中心としたパートナーエコシステム「A.I.Connect」を設立し、連携を強化している。
日本国内でも、今後テクノロジーパートナーとの協業を予定しており、特に音声認識やチャットボットといったAIに絡めたテクノロジーベンダーとともに開発を進める。顧客属性に最適なオペレーターを割り当てたり、問い合わせ内容を解析して情報を提示したりすることで作業効率を上げ、多くのコールセンター事業者が直面している深刻な人材不足に対応する。
また、加瀬部長は「私達のソリューションはロイヤルカスタマーを特に重視してきた。一般のカスタマーを少ない投資で新たなロイヤルカスタマーにし、既存のロイヤルカスタマーにはより質の高いCXを提供することができる。こうした技術とAIが組み合わさることにより、私たちのソリューションは新たなステップへと進む」として、人材不足解消にとどまらない効果を期待する。
コールセンター分野における現在のパートナー数は維持しつつも、同社の本業ともいえるテレフォニー分野でのパートナーを拡大させる。コールセンターでのシェアを維持しつつ、足りない部分を補完することで国内のビジネス規模を拡大させたい考えだ。
ジェネシス
コールセンターで重視される
カスタマーエクスペリエンス
米ジェネシスは2016年、インタラクティブ・インテリジェンス(ININ)を買収し、クラウドベースのコールセンタープラットフォーム「Genesys PureCloud」をサービスポートフォリオに追加。クラウド型コールセンターにおいて存在感を見せつつある。PureCloudをリリースしてから2年以上経過した現在、国内では100社近くが導入し、順調にビジネス規模を拡大させている。当初想定していた50~100席規模のミッドマーケットだけでなく、1000席近くの大規模事業者でも導入が進んでおり、特に18年は製薬業界での受注が増えた。
PureCloudでは機能を提供するのではなく、CXを提供することに重きを置く。そのため、コールセンターをコストセンターではなく、プロフィットセンターとして捉える企業からの問い合わせが増えているという。ジェネシス・ジャパンの 第一営業本部(エンタープライズ)本部長のポール・伊藤・リッチー常務執行役員は「時代の流れに伴って、さまざまな側面から企業を評価できるようなった。コールセンター事業者側の意識にも変化が出てきている」と分析する。CRMなどと一緒に導入する案件が拡大しているほか、将来的な機能追加を想定している場合もあるという。同社ではクラウドで開発している新機能と既存のオンプレミスのシステムとの連携を可能にすることで、高い拡張性を実現しており、新規だけでなく既存顧客のマイグレーションにも対応する。
スペシャリストの正木寛人氏
同社はクラウド事業において堅調に売り上げを伸ばしてきたが、オンプレミスからクラウドへの軸足の移行は、販売パートナーに大きなインパクトが与えたという。現在は既存のパートナーによる新ビジネス立ち上げの支援を強化し、エコシステムの土台を固めつつ、現状のパートナーで拾いきれないニーズに関しては、システムの構築やサポートを担当する「サービスパートナー」がカバーする体制を採る。また、同社は18年12月、顧客動線を分析するソリューションを開発する「Altocloud」を買収しマーケティング領域を強化していることから、ウェブマーケティングとコールセンターを組み合わせて提案できるパートナーを開拓していく。
ジェネシスは「ソリューションを提供するのではなく、CXを提供する」というビジョンを掲げる。だからこそ、他社との差別化要素は、個々の機能ではなく企業としてのビジョンなのだという。リッチー常務執行役員は「業界で最初のCXP(カスタマーエクスペリエンスプロバイダー)となり、この分野においてリーダーを獲得していく」としてさらなる成長を目指す。
NEC
本当に戦略的な投資は
プライベートクラウド
「多くのコールセンター事業者は、プライベートクラウドを選ばざるを得ない」。そう語るのはNECのデジタルネットワーク事業部 カスタマーフロントソリューション事業グループの山本史シニアマネージャーだ。多くのコールセンターシステムのベンダーがパブリッククラウドやマルチクラウドをベースとしたソリューションを展開する中、NECはプライベートクラウド型で売り上げを伸ばしている。コールセンター事業者はパブリッククラウドの有用性を認識しつつも、自社のポリシーにより、パブリッククラウドに踏み切れないというケースが多い。また、IT人材の不足により、社内でのシステム担当者の確保が難しいため、運用・保守を丸ごと任せたいというニーズが強くなってきている。そこで、プライベートクラウドを選択するというわけだ。
コールセンターシステムが、競合他社との優位性の確保に不可欠となってきたことも、プライベートクラウドの採用を後押ししている。山本シニアマネージャーは「画一的なSaaSサービスでは柔軟なカスタマイズに対応できない。本当に戦略的な投資が必要な領域では、自社の方針にマッチしたシステムが必要とされる。それはコールセンターシステムにおいても変わらない」という。NECには、本格的なIT投資を検討しているコールセンター事業者からの引き合いが増加しているという。
かつては、比較的大規模な案件が主流だったコールセンターシステムだが、近年増加するスモールスタートのニーズもキャッチアップするため、NECでは「コンタクトセンター交流会」を2016年から無償で開催。セミナーや勉強会を通じ、コールセンターの現場でシステムを活用したり運用したりしている担当者と生の声を交換することで、現実の課題に即したソリューション提供を目指している。現在では第7期の募集が始まっており、開発・販売の両面で成果が生まれている。
今後は、交流会で得られたノウハウや情報を全国の販売網と共有し、よりきめ細やかな販売・サポート体制を構築して、他社との差別化を図っていく。同時に同社のAI技術群「NEC the WISE」や生体認証技術ブランド「Bio-IDiom」などと連携するテクノロジーパートナーの開拓を目指す。特にテクノロジーの共同開発については「ハードルが高いと誤解されることが多い。それを払拭したい」と山本シニアマネージャーは語り、積極的に広げていくという。
AWS
完全クラウド型システムが
東京リージョン開始で攻勢
アマゾン・ウェブ・サービスは、コールセンター事業者が自身で構築できる完全クラウド型コールセンターシステム「Amazon Connect」を2017年から提供している。アマゾン・ドットコムのカスタマーサービス部門から誕生した同ソリューションは、「Amazon Prime Day」にも対応できるフレキシブルなシステムを電話回線がない状態から短期間で構築できる。
大久保 順
部長
18年12月には東京リージョンからの提供が始まったことで、03(東京の地域番号)や0120の番号を割り当てられるようになったり、国内でデータを保持できるようになったほか、以前のシドニーリージョンを利用するよりも低遅延で高品質な音声を実現した。かねてより強い要望があったことから東京リージョンからの提供が発表されると同時に100を超えるインスタンスが立ち上がったという。サービスのローンチ当初はスモールスタートのニーズが強かったのが、現在では数千席を超える大規模な案件もある。規模を選ばないソリューションとなっている。
AWSの各種サービスと容易に連携できるというのも、コールセンター事業者のニーズに合致しており、同社では音声合成やチャットボット、感情認識といったAI技術が用意されている。ただ、中には日本語対応していないサービスもある。そのため、アマゾンウェブサービスジャパンの事業開発本部プラットフォーム事業開発部の大久保順部長は「日本市場において言語の壁は非常に難しい部分。コールセンター事業者によってそれぞれニーズが異なってくるため、国内の有力ISVとの連携を積極的に進めていく」と語る。既にNTTコミュニケーションズやアドバンスト・メディアの各種音声サービスとの連携が始まっている。
コールセンターシステムの市場は、クラウドによる拡大が期待されるものの、オンプレミスのニーズも根強い。クラウドベンダーとして圧倒的なシェアを誇る同社だが、コールセンターシステムにおいてはチャレンジャーの立場。「従来のAPN(AWS Partner Network)パートナーに加えて、競合他社のノウハウを持つSIerなどを中心に開拓し、エコシステムを拡大させていく」と大久保部長は語る。新規顧客だけでなく、競合他社からの移行もアグレッシブに取り組んでいく考えだ。
かつては利益を生まないとして、“お荷物”だと軽視されることもあったコールセンター。いかに効率良く数をさばけるかにフォーカスされてきた。しかし、カスタマーエクスペリエンス(CX)の向上が重要課題として浮上し、主たる顧客接点の一つであるコールセンターへの風向きが大きく変わることになる。こうした市場ニーズの変化は、コールセンターシステムに対して、柔軟性や拡張性などの要求を強めていく。その解として主流になりつつあるのが、クラウド型コールセンターシステムである。(取材・文/銭 君毅)
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