TIS
ロボティクスなど3分野に注力
アクセンチュアと同様、地方創生モデル創出のためのコラボレーションと実証実験を会津若松市で進めていきたいのがTIS(桑野徹社長)だ。
TISは18年に、20年度が最終年度となる中期経営計画の中で、サービス事業統括本部を新設することを決めた。主力事業である金融や産業公共向けのSI開発事業をインダストリー事業統括本部とし、サービス事業統括本部は成長事業として今後ニーズが高まると予想される社会課題を解決するサービスを開発していく。スピードを重視したソリューション提案型ビジネスとして力を注ぐ方針。このTISが、解決すべき社会課題として挙げているのが働き方改革、少子高齢化、そして地方創生だ。そして地方創生に向けてスマートシティを展開していく。
TISは会津若松市でロボティクス、キャッシュレス、ヘルスケアの3分野に取り組み、新たなソリューションの創出を目指す。地方創生プロジェクトの推進担当の一人であるサービス事業統括本部の油谷実紀・エグゼクティブフェローは、「この三つの分野は、最大公約数が大きいテーマ。そしてTISの強みが生かせる分野」と説明する。
三つの中ですでに着手をしているのがAI・ロボティクス分野だ。会津大学と産学連携を進め、18年には会津大学内でロボットを活用した来訪者の誘導案内を行う実証実験を行った。実証実験はロボットが来訪者の受付を行い、各フロアにある誘導ロボットがセンサーやカメラなどのIoTと連携し、来訪者を目的地に誘導するというもの。受付ロボットと誘導ロボットの異種複数のロボット間の連携や、ロボットとセンサー、カメラなどのIoTとの連携を実現するため、必要なプラットフォームの機能や有効性の評価などを行った。これにより駅や商業施設、公共施設といったさまざまな場所の誘導案内や、警備や荷物運搬などの業務でロボットの活用を促進できる。
油谷実紀
エグゼクティブフェロー
一方、キャッシュレスやヘルスケアの分野ではまだパートナーやPoCが定まっておらず、現在は計画・調整を進めている段階だ。この二つの分野は、TISの既存事業でクレジット会社や保険会社向けのシステム構築や医療データの分析などを行っており、知見を生かせる分野だ。TISは大きな期待を寄せる。
会津若松市で生まれ、実証フェーズにまでたどり着いたプロジェクトは、福島県内だけではなく、いずれは全国の自治体にも展開していく。ほかの地域で創出した案件を会津若松市で実証を行うことも視野に入れている。
オープンイノベーションの核は地元企業
エフコム
AI、IoT活用の新サービスに挑む
AiCTに入居する企業は首都圏のIT企業だけではない。半数は地元企業が占める。そのうちの一社、エフコム(瓜生利典社長)は郡山市でシステム開発を手掛ける中堅企業だ。データセンター事業、アウトソーシングサービス、SI、BPOサービスなどを展開する。従業員数は約360人。
R&D戦略室の齋藤広幸室長は「お客様からデジタルトランスフォーメーションを実現するソリューションを求める声が増えている。しかし、われわれが行ってきた旧来のシステムインテグレーションや業務効率化に重きを置いた守りのICTでは対応が難しい。今、私たち自身のビジネスモデルの変革が求められている」と説明。新たなビジネスモデル創出のため、会津大学や他のIT企業との協業を期待し、AiCTへの入居を決めたという。
エフコムの強みはデータセンター事業だ。ビッグデータの活用が広がり、膨大なデータを処理するデータセンターの役割は高まっている。齋藤室長も「クラウド基盤もAIやIoTのデータ集積場所もデータセンター。エフコムのデータセンターとパートナー企業がもつ技術シーズをうまく組み合わせて、市場の期待に応えられるサービスを提供していきたい」と意気込む。
齋藤広幸
室長
AIの領域では、会津大学との共同研究契約を18年11月に取り交わした。デジタルプラットフォーム上にAIを実装させる研究で、まずはデジタルプラットフォームの構築について研究を行うほか、IoTの分野ではIoTクラウドの要素技術の研究を進めている。エンドデバイスと通信技術の組み合わせを含め、業種業態に合ったサービスを構築していく。
技術的な融合だけではなく、ビジネス戦略での融合にも期待している。エフコムは福島県内を中心にビジネスを展開しているが、首都圏のIT企業と協業することで、福島県以外の地域、または異なる領域にビジネスを拡大したい考えだ。
AiCT内に設けた「FCOM・DIGITAL・LAB」は、研究開発チームとセールスチームの両方を据える。セールスチームを一緒に置いた理由を齋藤室長は「セールスと通じて市場やお客様の声、ニーズを開発チームに伝えることが目的。市場にマッチした製品、サービスが開発していきたい」と説明した。4月末時点ではセールスが7人、開発は3人の体制だが、プロジェクトの拡大とともに増員を検討している。
會津アクティベートアソシエーション
観光産業のデジタル化を促進
AiCTには数は少ないがIT企業と協業したい非IT企業も入居している。18年9月に設立した會津アクティベートアソシエーション(AAA)は、地域創生を目的に地域ブランディングやマルシェ事業を展開している。
AAAがAiCTへの入居を決めた理由は二つある。一つは交流棟の利用だ。AAAが会津地域の13の酒蔵が参加する日本酒のブランド「AIZ'S-EYES(アイズアイズ)」や会津コシヒカリの新ブランド「AIZ'S-RICE(アイズライス)」など、会津17市町村の地域資源を生かしたブランドを展開している。週末に交流棟でマルシェを開催し、会津ブランドの商品を販売することで、国内外に会津をアピールしていきたい考えだ。
もう一つがITを活用したインバウンドソリューションの開発だ。震災前、会津は観光と農林業が基幹産業だった。震災後は訪日外国人旅行者数が激減し、今は徐々に回復へと向かいつつあるとはいえ、ITを活用した観光産業の再建は大きな課題となっている。そのため、訪日外国人旅行者数と滞在日数を増やすため、観光各所の多言語音声案内やキャッシュレスなど、利便性を高めるソリューションが必要だ。
満田善護
社長
まずはアクセンチュアと協業して、プランの策定を進めていく。そのほかのAiCT入居企業とも連携していきたい考えで、満田善護社長は「アナログである観光とデジタルをどう結び付け、活用するか。こうしたことをIT企業と一緒に考え、会津創生のためAiCTでともに歩みを進めていきたい」と話した。