顧客の成功体験を後押しする
カスタマーサクセス最前線!
先駆けてカスタマーサクセスに取り組む企業での具体的な活動内容とは?
コンカー
自社製品の周辺技術スキルも身に付け提案
出張・経費管理のクラウドサービスを提供するコンカー。世界で4万8000社の企業が同社のサービスを利用している。
コンカー日本法人でカスタマーサクセス部を立ち上げたのは2年前。コンカーは主に経費精算システムで知られるが、出張管理や請求書管理など企業の間接業務を幅広くサポートする機能を提供しており、「機能が多くなかなか使いこなせない」との声が届いていた。さらに、外部サービスとの連携機能もあり、それを活用したいとの要望もあったという。
カスタマーサクセス部の萩原則行部長は「顧客の成功にはずっとフォーカスしていた。サービスをきちんと使ってもらい、顧客に価値を高めてもらう。以前は営業担当のアカウントマネージャーがそれに対応してきたが、営業活動と顧客に満足してもらうアプローチは異なる。そこでカスタマーサクセスの組織をつくることにした」と説明する。
コンカー
萩原則行
部長
カスタマーサクセス部では、そうした顧客の要望をかなえることを目的としている。一方、組織ができた際には、特段、顧客の解約率を下げるミッションは負っていなかった。「まずはConcurを使ってもらい、良さを実感してもらう。満足してもらえれば、口コミでコンカーの良さが伝わるはずと考えていた」と萩原氏は話す。
外部サービスとも
積極的に組み合わせ提案
カスタマーサクセス部は、顧客がコンカーを本番で使い始めたところから動き出す。顧客が本来Concurを使って実現したかったことと、実現できていることのギャップを埋めるところから始め、ギャップを埋める活動をして行く中で「さらにこういう使い方をしたい」という新たな要望を実現する手助けもする。
また、サービスを使いこなせるようにするために、積極的にトレーニングも開催している。最近では軽減税率や電子帳簿保存法に対応するためのセミナーを開催し、好評を得ているという。「コンカーはセルフサービスで使ってもらうのがコンセプト。使い方のレクチャーのところには力を入れている。また、セミナーを開催し参加してもらうことで、顧客同士のコミュニケーションの場を提供できるメリットもある」と萩原氏は語る。
他の顧客ですでに課題に取り組み解決した企業を、同じような課題を抱える企業に紹介することもある。このような顧客同士の引き合わせも、成功してもらう手段の一つと捉えている。外部のツールをコンカーと組み合わせる提案も行っており、最近ではRPAを組み合わせて使う提案の機会も増えているという。
「コンカーと連携させて使いやすくなる仕組みがあれば、積極的に提案する。そのためにカスタマーサクセス部のメンバーは、自社サービスの知識はもちろん、周辺の技術の知識を増やすことも重要」(萩原氏)だという。周辺の知識も獲得し提案するスキルを要するところは、自社サービスの知識を深く追求するのが主体のカスタマーサポートとは異なる点といえるだろう。
中長期的な視野で
カスタマーサクセスに取り組む
コンカーのカスタマーサクセス部は営業部隊の中に置かれているが、営業部隊とは組織文化も異なり、比較的独立して活動する。そのためもありカスタマーサポート、導入支援、マーケティングなどのチームとフラットな関係性を築き、活動しているという。対顧客としてはアカウント営業やサポートサービスも窓口となるが、顧客はどこにコンタクトしても良く、社内で最適な担当が対応に当たる。
カスタマーサクセス部の組織としてのKPIは、「顧客の離脱率」、顧客ロイヤルティーのスコアリングの「NPS(Net Promoter Score)」「事例化」の三つだ。メンバーの評価は、解約率と事例化が中心に行われる。保守的で表に出たがらない企業が多いといわれる日本市場だが、「顧客が成功を実感してくれれば事例化は難しくない」と萩原氏。そのため、事例化の数は十分に個人の指標にできるのだ。
「カスタマーサクセス部はスタートして2年、まだまだ道半ばなところもある。顧客のことを知るためのデータの収集や分析などは、グローバルチームの力を借りている状況だ。今後は日本独自の目線で顧客を分析し改善提案ができるようにしたいと考えている」と萩原氏。
また、コンカーはこれまで主に大手企業向けにビジネスを展開してきたが、今後は全国の中堅・中小企業にもターゲットを広げる戦略を立てている。この変化にカスタマーサクセス部でも対応する必要があり、必要に応じてテクノロジーを活用し、顧客に距離を感じさせないサポートをしていく考えだ。「これからは商品やサービスを売って終わりではない。むしろ売ってからが勝負で、カスタマーサクセスはそれに中長期的な視野で取り組む組織だと思っている」(萩原氏)。
Sansan
カスタマーサクセス部をプロフィット部門に変える
クラウド名刺管理サービスを提供するSansanは2007年に創業、翌年にはサービス部をつくり、まず100社の顧客獲得のための活動を開始した。そのために取締役で共同創業者でもある富岡圭氏らが率先して顧客の元を訪れ、直接顧客の名刺を取り込む作業を手伝った。「まずは名刺を登録してもらいたい。その純粋な気持ちからサービス部が始まった」と、執行役員でSansan事業部カスタマーサクセス部部長を務める小川泰正氏は話す。このサービス部の活動が、12年にできたカスタマーサクセス部につながっている。
Sansan
小川泰正
執行役員
その12年ごろは、中小企業の顧客も増えていた中、どの企業に対しても1社1社フォローする体制でサポートを行っていた。その後さらに顧客数が増えたため、効率化のために企業規模ごとに対応方法を変更。大企業は今まで通り個別に直接フォローするが、中小企業はオンラインのサポートを中心とする形に変えた。
とはいえこの対応の変更は、解約率に影響を与える。オンラインで効率的にフォローするようになると、全ての企業を同じように扱うことになる。例えば使い始めの頃は手厚くサポートする必要があるが、顧客状況に合わせた対応は難しい。また顧客が増えると「どうしても声の大きな顧客に対応が集中したり、営業からの依頼に偏ったりした」(小川氏)。
こうした状況を打開する役目で小川氏が2015年にSansanに入社、カスタマーサクセス部の運用を任される。16年には既存顧客に対応するリニューアル・セールスの組織をカスタマーサクセス部に吸収し、リニューアルの契約も含め顧客価値の最大化に取り組むことになった。
この頃、小川氏には違和感もあった。「顧客のライフタイムバリュー(LTV)を追求していたが、それには顧客を本気にさせる必要がある。しかしカスタマーサクセスのサービスが無料だと、顧客側もあまり真剣になってくれない。これは無料のために、顧客を本気にできないのではとも思った」
そこから2年間模索し、17年にはカスタマーサクセスのサービスを有償化する。これは、自分たちが提供するサービスに自信があるからこそできた決断でもある。この変更でカスタマーサクセス部はコストセンターからプロフィットセンターに変わり、新たなツールの導入など予算を立て積極的に活動できるようになった。
Gainsightで
顧客にかかわる情報を集約
さらに大きくカスターサクセス部の活動を加速したのが、カスタマーサクセスマネジメントツール「Gainsight」の導入だ。それまでもCRMやMA、問い合わせ管理ツールなどをカスタマーサクセスの活動に利用していた。しかしながら、それぞれの仕組みから得られるデータはばらばらに存在し、連携できずタイムリーでプロアクティブな顧客サポートがなかなかできなかったという。「顧客も増え、対応するメンバーも増えた状況では、ばらばらな情報を見ていても思うような対応ができなかった。Gainsightはばらばらな顧客に関する情報を一元的に集約し、次に顧客に対し何をしたら良いかを導き出せる」(小川氏)。
一連の取り組みで、15年以降、Sansanの平均月次解約率の数値は下がっている(下図参照)。この数値は単月数字で、年間換算すれば8%~9%程度になる。とはいえ新規顧客の獲得ペースにこの解約率を合わせれば、年間のビジネス成長率は110%程度。Sansanが目指すのは125%程度の成長、そのためには解約率は5%を切ることが目標となる。「解約率には10%、5%に壁があり、5%の壁はかなり大きい」と小川氏。
5%の壁を越えるべく、使い始めたGainsightをさらに活用することになる。海外ではこのツールを使いこなしている例も多く、それらを参考にし新たな取り組みを行う。さらに今年は、顧客同士で成功事例の情報を共有してもらう、顧客のコミュニティーの活動を重視しているという。
カスタマーサクセスの前に
まずは自社製品を信じているか
小川氏は、カスタマーサクセスはサッカーで例えると「ボランチ」のような役割だという。ボランチが守りをしっかりと固めれば、点をとられず試合に負けない。しかし勝ち点3はとれない。良いタイミングでパスを出し、得点に結び付け勝利する。これはタイムリーに営業ともコミュニケーションをとり、プロアクティブな対応をすることに通じるのだ。
今後SaaS的なビジネスを指向すれば、どのような企業でもカスタマーサクセスは必要になる。カスタマーサクセスでは顧客の価値を最大化するために活動するが、根本には自分たちの製品やサービスに対する「愛」も必要だといい、「自分たちのプロダクトを愛せているか、信じているかが重要だ」と小川氏は説く。それがあるからこそ、顧客の価値に真剣に取り組めるというわけだ。