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Windows 7のサポート終了から見るPC市場 インテル製CPU不足で勢力図に変化
2019/08/21 09:00
週刊BCN 2019年08月12日vol.1788掲載
デバイスを月額利用できる「DaaS」
中小企業向け施策の最適解に?
中堅・中小企業や地方企業に対して、移行支援のためのさまざまな施策が用意される中で、注目を集めているのが、「DaaS(Device as a Service)」と呼ばれるサブスクリプション型の販売方法だ。PC本体とMicrosoft 365、サポートを組み合わせて、月額で販売。初期費用を抑えた導入が可能であることから、中堅・中小企業における新たな環境への移行方法として注目を集め始めている。すでに、大塚商会、オリックス・レンテック、パシフィックネット、横河レンタ・リース、富士通、VAIOなどが提供。今後、DaaSの提案を行うPCベンダーやシステムインテグレーターなどが増えることになりそうだ。
直近では、モバイルノートPCで圧倒的なシェアを誇るパナソニックがDaaSへの取り組みを発表。パナソニック コネクティッドソリューションズ社の販売子会社であるパナソニック システムソリューションズ ジャパンは、PCオフィスワークトータルサービス「スリムワークサポート」の提供を19年10月に開始すると7月に明らかにした。
スリムワークサポートは、パナソニックがPC向けに個別提供してきた各種サービスを一元的に体系化したもの。働き方支援の各種アプリケーションと、PCのトータルライフサイクルマネジメント、PC本体や基本ソフトを組み合わせて提供し、「柔軟な働き方」と「生産性の向上」の実現をサポートするという。
具体的には、各種デバイスから安全にアクセスできるテレワークインフラサービス「まるで社内/CACHATTO」、長時間労働を抑止する勤務管理支援サービス「Chronowis(クロノウィズ)」、PCの使用状況を可視化し、時間の使い方を効率化する働き方改革支援サービス「しごとコンパス」、しごとコンパスのオプションで、PCに搭載したカメラで心と体の元気度を推定する「きもちスキャン」、レッツノートのバッテリー劣化を検知し、新品交換するバッテリー見守りや、データの遠隔消去を行う「あんどコネクト」、さまざまなPCのライフサイクル管理を代行する情報システム部門向けBPOサービス「PCライフサイクル管理サービス」などと、レッツノートおよびOffice 365やMicrosoft 365などを組み合わせて、サブスクリプション型で提供する。
中堅・中小企業でも導入しやすいように、パック製品も用意。モバイル利用が多い企業向けに、バッテリー寿命の管理やセキュリティを重視した「モバイルパック」、在宅勤務や外出先での勤務などを想定し、勤退管理を行う「テレワークパック」、情報システム部門の業務のアウトソーシングを行う「PCLMパック」(いずれも仮称)を用意し、レッツノートを含めて、月額1万円以下で提供する予定だという。
今後、サービス内容を強化したり、最終的な料金設定を決定する予定だ。
こうしたDaaSの動きは、EOS終了間際の駆け込み需要にも対応できるサービスとして注目を集めそうだ。
戦略的投資としての移行呼びかけ
日本マイクロソフトがWindows 7のEOSで重視しているのが、セキュリティの脆弱性などの課題を前面に打ち出して恐怖感を煽るのではなく、むしろ、新たな環境に移行することが企業の生産性向上や競争力強化にプラスになるという提案だ。
日本マイクロソフトの平野拓也社長は、「クラウド化やITの最新化は、日本の企業にとって重要であり、日本の社会にとっても大きなメリットを生むことになる。特に中小企業こそクラウドのメリットを享受できる。日本マイクロソフトがエンタープライズビジネスで培った経験を中小企業でもしっかりと使えるように新たな環境を提供していきたい」と語る。
最新のITを活用することで、中小企業における人手不足を解消したり、高齢化や出産、育児といったさまざまなライフステージにいる社員を支援したりといったことが可能になる例など、あらゆる働き方に対応するためには、最新の環境を搭載したモダンPCを利用することがプラスになると提案する。
「Windows 7のサポート終了によって、仕方なくPCを買い替えるのではなく、新たなPCによって、より創造性を発揮してもらったり、効率性を高めてもらったりといったように、生活や仕事を変え、楽しく利用してもらえる環境を提案したいと考えている」と、日本マイクロソフトの執行役員常務でコンシューマー&デバイス事業本部長の檜山太郎氏は語る。
さらに、同社の執行役員でコンシューマー&デバイス事業本部 デバイスパートナー営業統括本部長の梅田成二氏は、「優秀な人材ほど、働く環境を重視する。人材確保が難しい中、古いPCしか与えない会社からは、離職してしまうというリスクが発生する可能性も捨てきれない」と、古いPCを利用することで、これまでとは異なる新たな課題が発生することも指摘。「最新の環境を実現するデバイスを導入することで、社員の生産性とモチベーションを上げることができ、ひいては、会社の競争力の向上につながる」と提案する。
また、日本マイクロソフトの業務執行役員Microsoft 365ビジネス本部長の三上智子氏は、「日本の企業はデバイスを投資と考えず、コストと考える傾向が強い。そのため、『まだ使えるので使っていたい』と考えるケースが目立つ。新たな環境への移行を戦略的投資と考えて、それによって得られるメリットを最大化してほしい」とする。
Windows 10に移行すれば、今後は継続的なアップデートが提供される環境が手に入れられると同時に、サポート終了という概念がなくなるOSへと移行が可能になるともいえる。
こうした理解を深め、Windows 7のEOSを最新環境へ移行するための戦略的投資と捉える中堅・中小企業を、これからどれだけ増やすことができるかも重要な要素となる。
Windows Server 2008/2008 R2やOffice 2010も…
2020年はマイクロソフト製品のEOSラッシュ!
マイクロソフト製品のEOSが、ここにきて相次いでいる。19年7月9日にSQL Server 2008のサポートが終了したのに続き、20年1月14日には、Windows 7のほかにも、Windows Server 2008/2008 R2、20年10月13日にはOffice 2010のサポートが終了することになる。日本マイクロソフトでは、Windows Server 2008のEOSのタイミングでの稼働台数は、約10万台と予想している。Windows Server 2008については、従来のWindows ServerやSQL Serverによるオンプレミスの運用から、クラウド環境への移行を提案。「リフト&シフト」によって、新たな環境への移行を促進する考えだ。
クラウド移行を支援するために、日本マイクロソフトでは、Microsoft Azure環境へと移行したWindows Server 2008を対象に、サポート終了後も3年間に渡り、セキュリティ更新プログラムを無償提供することを発表。また、パートナー企業とともに、マイクロソフトサーバー移行支援センターを設置して企業のクラウド移行活動を支援することにも力を注いでいる。
さらに、ハイブリッドクラウドの実現に親和性が高いWindows Server 2019への移行も提案。日本マイクロソフトでは、20年1月までに、Windows Server 2019の利用環境の80%を、ハイブリッドクラウドにする目標を打ち出している。
一方で、Office 2010については、Office 365への移行を重点的に提案する予定であり、こちらもクラウド移行がカギになる。
ここでもクラウド移行のための環境づくりに注力。例えば、IT管理者の労力を助けるための互換性検証ツールの提供のほか、Office 365 ProPlusであれば、常に最新のOfficeを使用できること、さらには、1ユーザー当たり最大15デバイス(PCまたはMac5台、タブレット端末5台、スマートフォン5台)までインストールして使用できることなど、クラウドならではの特徴を訴求。さらに、「導入済みのユーザーからは、互換性の問題を懸念していたが、大きな問題はなかったという声が出ている」といった事例も紹介しながら、Office 365のメリットを訴求する。
日本マイクロソフトでは、20年10月13日のサポート終了までの間に、中小企業におけるOffice 365の利用数を10倍まで増やす考えだ。
インテル製CPUの供給不足が顕在化
この影響でAMD製の売れ行きは拡大
Windows最後のEOSに向けて、国内PC市場も活況を呈している。電子情報技術産業協会によると、19年度第1四半期(19年4月~6月)の国内PCの出荷台数は、前年同期比35.5%増の216万7000台と高い伸びをみせている。Windows 7のEOS特需に加えて、19年10月に見込まれる消費増税による駆け込み需要が加わっている格好だ。その一方で、成長市場の中でインテル製CPUの供給不足の問題が顕在化。それが業界勢力図にも影響を与えている。例えば、インテルの対抗となるAMDのシェアは、今年に入ってから大きく上昇している。
全国の主要家電量販店・ネットショップのPOSデータを集計したBCNの調査では、AMD製CPUを搭載したPCは、18年6月にはわずか3.0%だったが、19年4月には9.0%に拡大。19年5月には12.5%と2桁に達し、翌6月には14.7%にまで拡大している。
NECパーソナルコンピュータが、15型のスタンダードタイプのノートPCにAMDを採用。また、特定販売店向けモデルにおいてもAMDを採用するなど、売れ筋モデルや販売店が推奨する製品でAMDの存在感が高まっていることが影響している。AMD製CPUを搭載したPCという切り口でみた場合、NECパーソナルコンピュータのシェアは、19年6月には77.2%と圧倒的だ。
NECパーソナルコンピュータおよびレノボ・ジャパンの社長を務めるデビット・ベネット氏は、「リスクを回避するためにマルチソースは当然の選択。製品を選んでいるのはあくまでもユーザー」とし、AMD製CPUを搭載したPCを選択するユーザーが増加していることを示す。
法人向けルートでは、AMDのシェアはここまで上がっていないようだが、それでも大手企業などにおいて、AMD製CPU搭載PCの導入を検討している企業が増えているという。
AMDは、パーツとしてのCPU販売でも存在感を発揮している。BCNの調査では、19年6月のAMDのシェアは46.7%。18年1月には、17.7%だったことと比較すると、1年半で29.0ポイントも伸ばしている。さらに、7月に入ってからは、7月9日から発売となった「Ryzen 9」をはじめとした第3世代Ryzenの動きもプラスに影響し、シェアは50%を超える勢いで推移。7月8日~14日の集計では68.6%に達しているほどだ。
PC市場の勢力図に変化
HPが首位に
一方で、インテル製CPUの調達力の差と、日本市場に対する姿勢の差が、PCメーカーのシェアにも影響を及ぼしている。
IDC Japanによると、19年第1四半期(19年1~3月)のブランド別集計において、トップシェアとなったのは日本HP。18.7%のシェアを獲得して、18年第4四半期(18年10~12月)の第3位から一気に首位を獲得した。さらに、2位には15.5%を獲得したデルが入った。一方、それまで首位を維持していた富士通クライアントコンピューティングは3位に後退した。
実は、約40年間の国内パソコン市場の歴史の中で、国内PCメーカーが首位の座を明け渡したのは黎明期以外にはない。四半期の集計とはいえ、異例ともいえる出来事が起こったのだ。
では、なぜこうした「事件」が起こったのか。それは、インテル製CPUを巡る各社の戦略の違いだといっていい。
首位を奪取した日本HPは、グローバルでの調達力を生かして、インテルCPUを調達。それを優先的に日本市場に供給するといった手を打った。
日本HPの岡隆史社長は、「本社を通じた日本HPに対するPCおよびCPUの供給は比較的潤沢であり、納期に関するお客様への影響は最小限にとどめることができた」とする。
日本のPC市場は世界的に見ても、付加価値モデルが売れる市場であり、そのため、他国に比べて売り上げを最大化でき、利益幅も確保しやすいといえる。主要部品が供給不足となった際、最も販売効率が高い日本市場に優先的に部品を回すといったことは、外資系PCメーカーの場合には当然の戦術だといえる。かつて、タイの洪水によりハードディスクの供給が滞った際にも、日本市場を優先してハードディスクを供給する外資系PCメーカーが多かったのも同様の理由からだ。今回のCPU不足でも同じ措置が取られたというわけだ。
これはデルも同様だった。デルの平手智行会長は、「デルはグローバル戦略において日本市場を最優先市場に位置付け、旺盛な需要に応えることができる体制を維持できた」とする。日本の官公庁や企業の多くが期末を迎える時期に、公共や教育分野、大手や中堅企業でシェアを拡大することに成功している。
普及価格帯PC用のCPUは
需要に追いつかない?
これに対して、富士通クライアントコンピューティングは、顧客に対する信頼性を重視。供給不足を背景に、一時的に受注活動を停止させるなど、極端な納期遅れを回避するための措置を取ったことがシェア争いでは裏目に出た。こうした各社の戦略の違いが、初の国内PCメーカーの首位陥落という事態を招いたといえる。
インテルでは、世界的なPC需要の拡大や、データセンターの拡張需要の高まりに、CPUの供給が追いつかない状況が続いている。18年秋に、現行の14nmの生産キャパシティの拡大に向けて10億ドル(約1080億円)の投資を行い、米国とアイルランド、イスラエルの工場の生産体制を強化。さらに、インテル全体としては、年間合計で150億ドル(約1兆6200億円)を投資し、最新の10nmの生産体制の確立にも投資を行ってきた経緯がある。
インテルの鈴木国正社長は、「19年第3四半期(19年7~9月)以降は、需要総量に対して生産総量が追いつくと見ている。需要を満たすことができるだろう」としている。ただ、「総量としては供給できても、モデルミックスの観点から捉えると、その全てをいつまでに満たすことができるかどうかについてはめどが立っていない」(インテルの執行役員パートナー事業本部長の井田晶也氏)。
同社では、Core i7/i9、Xeonなどの高性能CPUを中心とした生産量の拡大を進めており、普及価格帯のPCに搭載するCore i3/i5、CeleronといったCPUに関しては、旺盛な需要を埋めることができない可能性が高い。
Windows 7がEOSを迎える20年1月までは、旺盛な需要が見込める国内PC市場だが、CPUの供給問題が絡み合って、PCメーカーの勢力図にも変化が生まれている。EOS後の市場動向にも影響することになりそうだ。
2020年1月の「Windows 7」サポート終了(EOS)まであと約5カ月。大手企業や官公庁・自治体などでは移行が順調に進む一方、中小企業や地方では依然遅れが見られる。さらに、インテル製CPUの供給不足が顕在化し、これが市場の勢力図にも影響を与えている。Windows 7のEOSを取り巻くPC市場の動向を追った。(取材・文/大河原克行)
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