IT商材の市場ではここ数年、「製品販売からサービス提供へ」のかけ声が繰り返されていたが、グローバル大手のサーバーメーカー各社が従量課金制の提供モデルを打ち出し、いよいよハードウェア領域でもサービス化の動きが本格化しつつある。これは単なる支払い形態の変化ではない。誰がITインフラを運用し、ITベンダーはどこから収益を生むか、その構造がオンプレミスの世界でも変わりつつある。(取材・文/日高 彰)
HPE、3年以内に
全製品をサービス化
「向こう3年以内に、当社は消費主導型(consumption driven)の企業となり、全ての製品をサービスとして提供可能とすることを約束する」
米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)のアントニオ・ネリCEOは、6月に米ラスベガスで開催した年次イベントでこのように述べ、2022年にはサーバー、ストレージ、Arubaブランドのネットワーク機器からソフトウェアに至るまで、同社の全ての製品ポートフォリオを「アズ・ア・サービス」形態で提供可能にすると宣言した。
HPEでは、データセンターで必要とされるIT機器を、ユーザー企業が毎月使った分だけ費用として支払う従量課金型のサービスを日本国内では約5年前から提供している。昨年2月には「GreenLake フレックスキャパシティ」の名称にリブランドし、販売活動を強化していた。
近年ではHPEに加えて、Dell EMCやレノボなど、グローバルの大手ITインフラメーカーが、サブスクリプション(定期契約)型での製品提供に力を入れつつある。リソースの消費量に応じて料金を支払う形態は、必ずしも新しいビジネスモデルではなく、消費量を計測しやすいストレージでは比較的メジャーな提供形態だったが、最近の動きは、サーバーやネットワーク、運用管理ツールなど、インフラ全体のサービス化を推進しようとしている点に特徴がある。
従量課金型ITインフラの最も分かりやすいメリットは、投資リスクの最小化だ。HPEでは、従来のIT投資が抱えるリスクを左のような図で説明している。オレンジ色の線は、サーバーやストレージなどの機器を購入して新規サービスを立ち上げた後、ユーザー数が増加したことから、3年目を迎えるタイミングでさらに機器を追加購入するというケースを示している。しかし、例えばユーザーの要求を満たすために必要だったITリソースの量が黒線のように推移した場合、サービス開始時点や、追加購入直後は過剰な資産を抱えていることになる。逆に、2年目の後半は、サービスの急成長に従って多くのリソースが要求されているにもかかわらず、企業が所有するIT機器ではそれをまかなえていない。サービス品質の劣化やサービスの中断が発生し、ビジネスの機会を逸している状態だ。
これに対して従量課金型のサービスを活用すれば、パブリッククラウドと同じように、実際に消費したリソースの量に応じて料金を支払えばよい。機器はユーザー企業のデータセンター内に設置されるので、オンプレミスの自由度を享受しながら、支払いはクラウド感覚になり、両方のいいところ取りができるという説明だ。
クラウドの普及は
オンプレの従量制に追い風
ハードウェアをクラウド的な料金形態で提供するというこのモデルは、ITインフラがパブリッククラウドへと“流出”しつつある中で、メーカー各社が何とかして顧客をつなぎ止めようとしている図式にも見える。しかし、日本ヒューレット・パッカードでサービス事業を統括する小川光由執行役員は、「パブリッククラウド市場の成長は、GreenLakeの訴求にはむしろ追い風となっている」と述べ、クラウドとGreenLakeは競合するサービスではないと強調する。
日本ヒューレット・パッカード
小川光由
執行役員
Pointnext事業統括
パブリッククラウドの導入が広がったことで、「将来的に消費量が増えることは確実だが、どれだけ使うかは分からない」システムの場合、従量課金制のインフラを活用すれば投資リスクを回避できることは、すでに多くの企業が理解している。しかし、セキュリティポリシー、遅延、ネットワークのコスト、データの物理的な格納場所など、さまざまな要件との兼ね合いで、クラウド化が難しいアプリケーションが少なくないという認識も広がっている。従量制で使えるオンプレミスのITインフラは、まさに今ニーズが高まりつつあるのだという。
実際に今年度の国内のGreenLake事業は、第3四半期までの9カ月(18年11月~19年7月)で、18年度の年間売上高を突破する成長をみせているという。
GreenLakeの場合、消費量にかかわらず発生する最低利用料金の「コミットメントキャパシティ」が設定されている一方、当初の消費が想定される以上のリソースをバッファーとして確保しておくことが可能。このバッファーは実際に使用されるまで課金されないため、追加コストなしで将来のビジネス拡大に備えられる。それでもキャパシティが不足する場合は、HPEによって追加バッファーが設置される。
また、データセンター事業者・エクイニクスのコロケーションサービスをGreenLakeの一部として提供する準備も進めているという。自社のオフィスにはサーバーラックを設置できない/したくないが、外部データセンターとの契約もないという中堅企業の利用を想定しており、IT機器とその設置スペースをセットにして提供する。日本ではまだサービスのメニュー化はされていないが、エクイニクスとは国内でもパートナー関係にあるため、個別での対応は可能という。
今年7月にはレノボ・エンタープライズ・ソリューションズが、サーバーおよびストレージの従量課金制サービス「TruScale」を国内でも提供を開始した。基本的なメリットはHPEのGreenLakeと共通だが、レノボ・グループ本社でTruScale事業を統括するマシュー・ホーン ゼネラルマネージャーは「従来あったリースの延長線上にあるサービスではなく、100%サブスクリプションベースなのが特徴」と訴える。
レノボ・グループ
マシュー・ホーン
ゼネラルマネージャー
TruScaleは、リモートでのモニタリングや保守・管理の費用として「ベース・プログラム・コスト」が設定されており、これが基本料金に相当するが、ITリソースの利用料金部分は、コミットメントなしの「100%従量制」で契約することも可能。月ごとにリソース消費量の変動幅が大きい企業にも高い経済性を提供できるとしている。
国内電機メーカーの間でも、ストレージ機器を実使用容量に応じた従量制で提供するサービスが行われている。サーバーに関しては、メニュー化されたサブスクリプションサービスはこれまでなかったが、富士通がハイパーコンバージドインフラ(HCI)を従量制で提供する準備を進めているという。ビジネスの成長に応じてインフラを拡大していくという従量制サービスの考え方は、ノードを追加するだけで性能と容量を拡張できるHCIと相性が良さそうだ。
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