元号が「令和」へと変わり、新たな時代の幕開けとなった2019年。社会的なビッグイベントであった消費税率改正はIT投資の追い風になった。同時に導入された軽減税率は、多少の混乱を引き起こしつつ、キャッシュレス化推進の呼び水にも。特にスマホ決済、〇〇ペイの勢いは目を見張るものがあり、利用拡大は続きそうだ。これも社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた一つのプロセスとみることができよう。一方で、DXの気運はIT市場のパイ拡大につながっているが、この新たな商機をつかむためには、ITベンダー側にも全社一丸「ONE TEAM」となって自らのビジネスをトランスフォームする姿勢が求められている。変革の痛みを乗り越えて、来る五輪イヤーを「後悔などあろうはずがない」ものにしたい。あなたの番です。
(構成/本多和幸)
「サブスク」はハードウェアにも
ユーキャンの新語・流行語大賞で惜しくもトップテン入りは逃したが、ノミネートはしっかりされた「サブスク」。昨年あたりからバズワード的な盛り上がりを見せているサブスクリプションビジネスの流れは、従来モノ売りからの脱却が難しいのではと考えられていた領域にも広がってきている。
それはIT業界においても例外ではない。事実、近年は「製品販売からサービス提供へ」のかけ声が繰り返されてきたが、グローバル大手のサーバーメーカー各社が従量課金制の提供モデルを打ち出し、いよいよハードウェア領域でもサービス化の動きが本格化しつつある。
米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)のアントニオ・ネリCEOは、6月に米ラスベガスで開催した年次イベントで「向こう3年以内に、当社は消費主導型(consumption driven)の企業となり、全ての製品をサービスとして提供可能とすることを約束する」とコメント。2022年にはサーバー、ストレージ、Arubaブランドのネットワーク機器からソフトウェアに至るまで、同社の全ての製品ポートフォリオを「as a Service」形態で提供可能にすると宣言した。
近年ではHPEに加えて、デルテクノロジーズやレノボなど、グローバルの大手ITインフラメーカーが、サブスクリプション型での製品提供に力を入れつつある。今年7月にはレノボ・エンタープライズ・ソリューションズが、サーバーとストレージの従量課金制サービスを国内でも提供開始した。またデルテクノロジーズは今年4月、Dell EMC製ハードウェアとヴイエムウェアの仮想化技術を組み合わせたHCI製品を使い、オンプレミスのインフラをマネージドサービスとして提供することを発表した。11月にはサーバーの従量課金制サービスも発表している。リソースの消費量に応じて料金を支払う形態は必ずしも新しいビジネスモデルではないが、最近の動きは、サーバーやネットワーク、運用管理ツールなど、インフラ全体のサービス化を推進しようとしている。
売り手の変革も急務
こうした市場の変化に、売り手も危機感を募らせている。日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)は今年6月、大塚商会の大塚裕司社長からソフトクリエイトホールディングスの林宗治社長に会長が交代。林新会長は、会員の事業環境について「クラウドやサブスクリプション型ビジネスの浸透により、大変革期に突入している。ある日、市場から一斉に販売店はもう必要ないと言われたとしてもおかしくない」と見る。そこで、JCSSAのこれからの活動について、「クラウドビジネス/サブスクリプションビジネスのステークホルダーであるサービスベンダー、販売店、エンドユーザー間で責任範囲をどこで切り分けるかという問題や、売り上げ計上のタイミングや方法、値引きの方法、受発注の手続きなどについて、業界のスタンダードを定め、ガイドラインのようなものをつくる」方針を示している。販売店にとっての新しいビジネスのインフラづくりを進めたい考えだ。
“2位以下”のマルチクラウド戦略
成長を続けるパブリッククラウドIaaS/PaaS市場では、メインプレイヤーの戦略に方向性の転換があった。トップベンダーのAWSを除き、マルチクラウド戦略に向かう姿勢が鮮明になってきた。
米IBMは今年2月の年次イベント「Think 2019」で、レッドハット買収で一段と加速するマルチクラウドの戦略を特に強くアピールした。門外不出だったAIエンジン「Watson」も、オンプレミスや他社クラウド上でも展開できるようにする方針に変えた。
米グーグルが4月の年次イベント「Google Cloud Next '19」でエンタープライズ領域のビジネス拡大の切り札として発表したのも、ハイブリッドクラウド/マルチクラウドを実現するためのKubernetesベースのプラットフォーム「Anthos(アンソス)」だった。Anthosのエンジニアリングを担当する責任者が「企業のワークロード全体のうち80%はいまだクラウドの外にある。ただ一つだけのクラウドに投資を片寄らせることは危険だ。88%の企業は、マルチクラウドの戦略を採ると見込まれている」としているのは印象的だ。
クラウドでは後発ながら垂直統合的な戦略が色濃かった米オラクルにも変化が見られた。今年6月、同社と米マイクロソフトは「Microsoft Azure」と「Oracle Cloud」を相互接続し、両社のクラウドサービスをシームレスにつなぐ環境を拡充していく方針を発表した。さらに今年9月の年次イベント「Oracle Open World 2019」では、両社の協業をさらに深め、オラクルのIaaSがマイクロソフトのリレーショナルデータベース(RDB)「Microsoft SQL Server」をネイティブにサポートすることなどを明らかにした。近年、両社はDB市場で熾烈な競争を繰り広げてきたし、特にオラクルにとってDBは虎の子の領域。こうした連携が実現するのは、大きな方向転換に見える。
さらにAWS追撃の急先鋒である米マイクロソフトも、11月には米オーランドで開いた「Microsoft Ignite 2019」でマルチクラウドプラットフォーム「Azure Arc」を発表している。
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