中国で確認された新型コロナウイルスが、感染拡大の中心地を欧米諸国に移し、世界中で猛威をふるっている。4月7日時点で、感染者数は世界全体で130万人を突破。日本国内でも、クルーズ船の乗員乗客らを除く感染者数が4000人を超え、拡大の一途をたどっている。こうした状況から、国内企業の多くが感染防止および事業継続のための施策として在宅勤務やテレワーク勤務に移行しているが、急な“働き方改革”を迫られ戸惑う企業も多い。テレワークに周到な準備を重ねてきたIT企業では、今回の新型コロナ禍にどう対応しているのか。4社の取り組みを紹介する。(本記事の情報は4月2日時点のものです)
(取材・文/指田昌夫)
GMOインターネット
社員を守るためいち早く在宅を宣言
災害など緊急事態の発生時に、企業が存続し事業を継続するための計画(BCP=事業継続計画)は、情報システムの遠隔地へのバックアップや復旧手順、サプライチェーンの再構築など、技術的なテーマを中心に語られることが多い。だが、その前に重要なのは、いうまでもなく社員の生命、安全を守ることだ。
GMOインターネットは、今回の新型コロナ感染拡大にいち早く対応した1社だ。同社では1月16日に国内で感染者が確認された時点で、熊谷正寿会長兼社長らで構成する災害対策本部を発足。情報収集を開始すると同時に、社員に対して海外出張の禁止、その時点で海外に滞在中の社員には早期帰国を指示した。
在宅勤務については、「毎年の訓練の経験から『いつでも(在宅に切り替える)スイッチが押せる状態』であることを確認した。とはいえ、スイッチを押すのは慎重に判断し、2週間後の1月27日に全社在宅勤務を命じた」と、同社の福井敦子・取締役グループコミュニケーション部長は話す。同部はGMOグループの広報を統括するほか、災害対策本部における事務局の役割も担う。
同社は東日本大震災を経験した2011年に、自社のサービスを継続しながら在宅勤務をする仕組みを作り始めた。翌年の12年からは毎年5月に災害訓練を実施している。訓練では社員全員が在宅状態になり、まず全員の安否確認ができるかをテストする。非常時には連絡手段としてどのサービスが使えるのか分からないため、FacebookやLINEなど複数の通信手段を確保するほか、役員には衛星電話が貸与されている。
対策本部の発足から在宅勤務を発令するまでの2週間に取り組んだことは「社員の不安解消」だったという。「ネットやメディアのさまざまな情報が乱れ飛ぶ中、社員を落ち着かせ、安心させることが必要だと考えた。また、個人個人が正しい情報を探し出すことに時間を使うのは正直言ってムダでもある。対策本部が正しい情報を収集して、それを配布することに努めた。東日本大震災のときも正確な情報の社内共有と、共通認識の構築には力を入れてきたが、今回は、社内だけでなく社外の方にも伝えるため、まとめサイトとして公開し、日々更新している」(福井取締役)。
同社のまとめサイト※では、新型コロナ動向に関する政府や大手メディアなどの関連リンクに加え、同社グループにおける新型コロナ対策の取り組みや、実際にテレワークをしている社員が発信するブログのリンクなどを掲載。突然のテレワークに戸惑うビジネスパーソンにとってヒントになる情報も多い。また、感染拡大防止に関する情報も数多く掲載。「安全行動を多くの人が協調してしっかり取ることで、感染拡大を防ぎたい。そのための情報発信も行っている」と福井取締役は話す。
GMOインターネット 福井敦子取締役
(写真提供:GMOインターネット)
社員の声を集めて改善
当初渋谷区と大阪市、福岡市のオフィスに勤務する約4000人を対象にした在宅勤務は、その後グループの全社員に拡大し、現在まで続いている。銀行などの金融部門を中心に、一部出社せざるを得ない社員もいるが、交代で勤務するなど対策をとっている。
長期化する在宅勤務で、社員には不安や問題が出てきていないのか。同社ではこれまで2月上旬と3月上旬の2度、全従業員を対象にしたアンケートを実施している。
最初のアンケートでは在宅勤務全般に関する意見を集め、8割程度の社員が「よい」と回答した。だが一部からは「椅子がよくない」「腰が痛い」といった課題が挙がっているという。また同社の社員は会社に出社していたときは無料でランチやドリンクをとることができたが、在宅ではそれがないので食費が増えた、さらに自宅の光熱費が倍になったなどの声も届いているという。
こうした社内の声を受けて福井取締役は「会社としてどのような対応ができるのかを検討するため、役職者による分科会を複数つくっている」と言う。分科会のテーマは、在宅環境の改善策を検討するもの、生産性向上に関するものなどに分かれている。「社員に一律○○万円支給というものではなく、合理的な理由によって最適な対策をとれるように検討に入っており、その結果はまもなく出される予定だ」としている。
※GMOインターネット「新型コロナウイルスに関するグループの取り組みと関連リンク集」
https://www.gmo.jp/coronavirus/
サイボウズ
10年前から在宅勤務を取り入れ
サイボウズのテレワークへの取り組みは古く、2010年から始まる。最初は試験導入の形であったが、事前申請すれば月に4回まで在宅勤務ができるという、当時としては驚くほど大胆な制度を始めた。その翌年の11年3月に東日本大震災が発生。東京オフィスは一時的に原則在宅勤務化を決定する。
年々改善されてきた在宅勤務制度は社員に定着しており、平常時も、週に一度以上の在宅勤務を「必ず」実施している社員が全体の15%程度存在している。その他の社員も、必要に応じて事前に申請して在宅勤務をしており、ほとんどの社員は在宅勤務に対して通常の勤務形態の一部分として認識しているという。
今回の新型コロナ禍では、在宅勤務を2月28日に開始した。社員は在宅勤務に慣れており、広報チームが全社に調査をしたところ、これまで大きな問題は起きていないという。ただし、今回は全ての従業員を対象とするため、正社員だけでなく、派遣スタッフも含めたテレワークのために新たに準備を進めた。具体的には、派遣会社と交渉し、在宅で業務することへの承認をとる、必要な端末やインターネット回線、VPNソフトウェアの手当てを行うなど、総務部門および情報システム部門のスタッフを中心に動いたという。
在宅勤務移行後の各部署の状況としては、営業部門はこれまで基本的に顧客のところに出向いていたが、今は原則ビデオ会議を提案し、どうしても面談する場合は上長の許可を得て出向くようにしている。普段から営業担当者はほとんど外出しており、メンバーの動静は自社のグループウェア上の把握が中心だったが、在宅が中心となっている今は、むしろ交流が盛んになっているという。
ビジネスマーケティング本部コーポレートブランディング部広報チームの恵良知左子氏は、「原則在宅」体制でのコミュニケーションについて「営業部員の時間調整がしやすくなったので、毎日定時にオンラインで顔合わせができるようになっている。社内の情報も、自社の業務アプリ基盤である『kintone』の上に乗っているが、日頃は移動中の電車で見たりしていたものが、家でじっくり読めるようになったという声もある」と話す。また、コールセンター機能や、受注、発注などの販売管理業務も在宅で行うことができるという。
サイボウズ広報チームの
恵良知左子氏(左)と山見知花氏
出社は各部署「35%」まで
実は、同社が今回社員に求めている「原則在宅勤務」は、少し変わっている。部署ごとで、出社する人員を「35%以内」に抑えるように調整しているのだ。
「全員在宅」を原則とする企業もある中、35%以下という方針の意味は何か。広報チームの山見知花氏は、「当社では在宅勤務を推奨してきているが、社員の中には在宅での業務が毎日続くのは問題という人もいる。そのため、事前に届け出て、ラッシュの時間を避けて出勤し、会社で働いてもらってもいいことにしている」と説明する。オフィスに出勤する社員は少ないため、他の人との距離も十分に取りながら仕事をすることが可能。35%以下としているが、「実際は20%程度に抑えられている」(山見氏)という。
また、使用するコミュニケーションツールに関しても、「同期と非同期の使い分け」という独自の考えを念頭に置いている。ビデオ会議などの「同期」ツールでは直接議論したいテーマを取り上げるようにし、応答に時差があってもいいものや、記録として残したいものについては、自社のグループウェアなどの「非同期」ツールを利用する。
山見氏は、グループウェアの活用が社内の合意形成にも役立っていると指摘する。「今回在宅勤務を決める際も、社内の議論の過程がグループウェア上に開示されていたため、唐突に決まったと感じた社員は少なかったようだ。これがデジタル時代のチームワークの進め方だと思う」
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