新型コロナウイルスの感染拡大に伴う在宅勤務の広がりで、企業の営業活動に変化が起きている。営業する側・受ける側の双方が会社にいないという状況もあるなかで、足を運び訪問する対面営業の代替として、ITツールを利用してリモートで商談するオンライン営業を取り入れる企業が増加。ただ、うまく成果をあげられず悩む声も。ベンダー・ユーザー企業のそれぞれの取り組みから、オンライン営業の成功法を探る。
(取材・文/本多和幸、日高 彰、前田幸慧)
インサイドセールスの伝道師が解説
オンライン営業成功の秘訣
ビズリーチ
対面営業の置き換えではなく 新しい営業の形を模索すべき
転職支援や新卒の就職活動支援サービスで知られるビズリーチは、採用管理を中心とするHR系の法人向け業務アプリケーション群「HRMOS」シリーズも提供しており、主力事業に育ちつつある。同社は近年、インサイドセールスへのシフトによる営業改革を進めており、コロナの影響でその流れはさらに急激に進み、オンラインで完結するケースがほとんどになったという。同社の営業変革をリードしてきた茂野明彦・HRMOS事業部インサイドセールス部部長は、インサイドセールスの“識者”として社内外でエバンジェリスト的な活動も積極的に行っている。同社における営業スタイルの変化の状況やオンライン営業の極意を聞いた。
ビズリーチ 茂野明彦 部長
インサイドセールスは
単なる“アポ取り”ではない
――直近のHRMOSの営業状況はどうですか。
コロナ以前の首都圏エリアは基本的に訪問営業だった。遠隔地や顧客の要望によってはオンラインを織り交ぜてという形だったが、コロナで一変した。ほぼ全ての営業活動がオンラインになった。
――完全オンラインの営業にスムーズに移行できたのですか。
従来は全ての事業を一つのインサイドセールスチームでサポートしていたが、2019年から各事業部の中にインサイドセールスチームを設ける形に組織変更した。HRMOSもオンラインセールスを強化している最中にコロナ禍が発生したので、ある程度準備はできていた。
――インサイドセールスはアウトソーシングサービスもありますが、自社内、しかも事業部単位でチームを抱える目的は?
HRMOSのようなSaaSビジネスは、アップグレードが頻繁だったりして機能の変化が激しい。商材に対する理解が高い、プロフェッショナルな人材が顧客に相対すべきだと考えている。また、市場環境の変化も激しいので、そこに対応できる体制が必要だという意図もあった。ターゲットになる顧客の属性変化を把握しながら新製品・新機能をどう訴求していくかなど、マーケティングチームと連動した施策の立案・実行・修正などが重要なので、この役割を担うチームを事業部内に設けることにした。これは当社に限らず大きなトレンドになっていくと考えている。
――法人向けのIT商材は顧客側が訪問営業を求めるケースも少なくありません。
インサイドセールスが難しいのは、ステークホルダーが複数いて承認プロセスが複雑だったり、コンペティターが非常に多いような商談。しかしコロナ禍の影響で、顧客側の商慣習も大きく変化しようとしている。購買プロセスのデジタル化やオペレーションの見直しはかなり進んでおり、商談のオンライン化という意味ではそこまでハードルを感じなくなった。
ただ、複数人で複雑なディスカッションをしなければならないような超大手企業の案件などは、これまで通り訪問して商談をするということはあり得る。
オンライン会議システム、
CRM、IP電話が三種の神器
――営業のオンライン化にスムーズに対応するための環境として必要な要素は?
不可欠なツールが三つある。オンライン会議システム、CRM、IP電話だ。
――CRM、オンライン会議システムはイメージしやすいですが、IP電話は盲点になりがちかもしれません。
コロナ禍のようなケースで固定回線に縛られていると対応がかなり難しくなるので、とにかくIP電話化は必須。より働き方の自由度が高まるので、できればモバイルアプリがあるものがいい。データ分析などの付加機能を使えるケースもある。
当社はRevComm(レブコム)のAI搭載型IP電話「MiiTel」(通話録音・自動文字起こしや通話内容の解析、CRM連携などの機能を持つ。茂野氏はMiiTelのインサイドセールス・エバンジェリストも務めている)を使っている。CRMもクラウド製品を使っていたので、インサイドセールスチームは働く場所がオフィスから自宅に変わっただけであまり苦労しなかった。
――“三種の神器”に加えて、できればあったほうがいいツールは?
マーケティングオートメーション(MA)ツールはあったほうがいい。当社はセールスフォース・ドットコムの「Pardot」を使っている。オンライン営業は対面営業と比べて、より短い時間で、より良質なコミュニケーションを追求する必要がある。顧客が何に関心があってどんなことを考えているのか知ることができるツールは有効だ。
――オンライン営業に資するツールも市場に多く登場しています。選定のポイントは?
多くのツールはSaaSで提供されるが、どんなシステムかにかかわらず、SaaSの採用にあたってはベンダーのビジョンを確認することが大事だと考えている。一年の中で何度もアップデートがあって、半年前と現在では全く機能性が違っていたりする。もちろん、現時点で必要な要件を満たしているかは大事だが、その会社がどんな方針で機能開発をしていくのか、例えば使いやすさを追求しているのか、データ分析に重きを置いているのか、といった方向性と、自分たちのニーズが合致しているのかをしっかり確認するべきだ。
――新規の営業はやはりオンラインでは難しいという声もあります。
個人的な見解では、あらゆる業種で新規も含めて営業のオンライン化は可能だと考えている。ただし、既存の訪問営業をオンラインに置き換えるというよりも、オンライン前提の新しい営業の形をつくるというアプローチのほうがおそらく正しい。紙の資料をペンで指し示して「こちらをご覧ください」というようなコミュニケーションはできなくなるが、反対にオンラインだからできることもたくさんある。例えば、営業トークのスクリプトを用意して、それを読みながら商談を進めてもバレないし、時間と場所の制約が緩くなることから、プリセールスやエンジニアが同席した商談のセッティングもしやすくなり、持ち帰らずにその場で問題を解決して営業のリードタイムを短縮することも可能になる。
――営業のオンライン化を機能させるコツは?
まずは量をこなすこと。あらゆる業種業態、企業で、勝ち筋は違う。Webにもインサイドセールスなどの情報がたくさん出始めたし、とにかくさまざまな施策を試して効果検証を繰り返し、自分たちの正解を見つけることが大事。
営業のキャリアが長い人ほど、ちょっとでも顧客から「来てほしい」というニュアンスの要望が出たら、これ幸いと訪問してしまう。本当に営業のスタイルを変えたいなら、これをいったんロックして、新しい取り組みを徹底して行ってみることも必要ではないか。
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