新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、従来の「働き方改革」の枠を越え、多くの企業で働き方が変わり始めた。変化を支える製品やサービスを提供するITベンダーも、ニューノーマル(新常態)を見据えて独自の取り組みを推進。デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けて、オフィスや業務のデジタル化を加速させている。
(取材・文/齋藤秀平)
テレワークには「中長期的なメリットがある」
新型コロナウイルスの感染拡大で、新たな広がりを見せた働き方がテレワークだ。総務省が8月4日に公表した「令和2年版情報通信白書」では、企業でのテレワークの普及など「ICTによる対面によらない生活様式への取組が一気に拡大している」とされた。
テレワークの導入を強く後押ししたのが、4月の緊急事態宣言だ。パーソル総合研究所(東京)が、緊急事態宣言が出た後の4月10日~12日に全国2万5000人を対象に実施した調査結果によると、正社員のテレワーク実施率は27.9%となり、3月半ばの13.2%の2倍以上になった。
最初に緊急事態宣言の対象となった7都府県では、テレワークの実施率は38.8%となり、3月の17.2%から大きく伸びた。導入率が最も高かったのは東京の49.1%(3月は23.1%)。
全体としてテレワークは普及が進んだといえるが、都市部とその他の地域との間で実施状況に差がある点は否めない。7都府県以外の地域では、3月の実施率は8.5%で、4月の実施率は13.8%となった。
同社は、緊急事態宣言後解除後の5月29日~6月2日にも調査を実施した。それによると、全国平均の実施率は25.7%となり、4月から2.2ポイント下がった。テレワークの実施率は、全国で一時的に下がったものの、感染者数が増加傾向になっていることから、再びテレワークの実施が増える可能性がある。
同社の小林祐児・上席主任研究員は「今後もテレワークは定着させるべきだ。なぜならば、労働生産性や働き方の多様性確保の面で、日本社会に中長期的なメリットをもたらすからだ。新型コロナの感染拡大の継続的リスクを考慮しても、不必要な出社が増えていく事態は避けた方がいい」と分析する。
リアルとオンラインの融合を
NECが考えるオフィスのあり方
テレワークによって、オンラインで会議や営業を実施するケースが増えているが、出社が必要な業務があるのも事実だ。NECクロスインダストリー事業開発本部の大澤健一氏は「ニューノーマル時代に向けて世の中の働き方が変わっているが、単純に全ての業務がオンラインになるわけではない」と話す。
NEC 大澤健一氏
同社は7月から、生体認証による共通の「Digital ID」を中心に据え、オフィス空間をシームレスにつなげることを目標に、東京の本社ビルで「ニューノーマル時代の新しい働き方をDXの力で実現するデジタルオフィスのプロジェクト」の実証を開始した。
大澤氏によると、オフィスのデジタル化には以前から取り組んでおり、当初は働き方改革の一環で進めていた。新型コロナウイルスの感染が拡大して以降は、感染予防策につながる機能も取り入れながら実証用のシステムを構築した。
大澤氏は「働き方が日々変化している中、環境が変わることで新たに出てくる課題に対し、Digital IDを活用して効率的に働けるようにすることを目指している」とし、「共通して意識しているのはタッチレス。自分の体だけでやりたいことが実現できるようになっている」と説明する。
例えばエントランスでは、マスクを着用した状態でも複数の人を同時に検出・照合し、入場ゲートや警備員によるセキュリティチェックで立ち止まらなくても本人確認が可能になっている。さらに、通行者の体表面温度を自動測定し、感染症対策も同時に行えるようにしている。
顔認証を活用した自動販売機の使用イメージ(NEC提供)
ロッカーや自動販売機、自動ドア、複合機、共有PCを利用する際には、顔認証技術を活用し、顔を向けるだけで利用できるようにした。社員へのアンケートで、チームのメンバーが社内のどこにいるか分からないという課題が浮かんだため、顔認証とネットワークを組み合わせて居場所を知らせるシステムを用意した。
このほか、人物検知カメラでマスクの着用を検知し、未着用者がいた場合にアラートを出すシステムや、食堂やエレベーターホールなどの混雑状況を映像解析技術で可視化し、自席のPCなどからリアルタイムで人数や混雑度などの状況を確認できるシステムもある。
同社は、実証の成果やノウハウを踏まえ、20年度内を目途に、順次、外部への提供を開始する予定。すでに顧客からの問い合わせは多数寄せられているといい、大澤氏は「社内で使った上で、本当に効果のあるものを皆様に提供できるようにしたい」と語る。
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