Special Feature
ニューノーマルで変わる働き方 DXへの第一歩としてのデジタル化
2020/08/27 09:00
週刊BCN 2020年08月24日vol.1838掲載
コロナ禍を変革の加速につなげる
ニューノーマルの働き方を支援するツールも登場
大手ITベンダーにとってコロナ禍は、顧客のDX支援などの取り組みに一層注力するきっかけになったとも見ることができる。各ベンダーには、まずは時間や場所にとらわれないニューノーマル時代に適した働き方を実現することで、DXに向けた変革を加速させたいとの狙いがあるようだ。新たな働き方を支援するツールも、続々と登場している。富士通
制約をなくし社員の幸福を実現する
富士通は7月6日、ニューノーマルにおける新たな働き方「Work Life Shift」を推進すると発表した。人事制度やオフィス環境を刷新し、生産性やイノベーション力の向上を目指すことが大きな柱だ。
同社は2017年4月にテレワーク制度を本格的に導入した。これまでは育児や介護といった要件を満たした場合、週2回の終日テレワークを認めてきたが、新型コロナウイルスの感染が拡大して以降は、実施に必要な要件を撤廃。原則国内の社員全員を対象にテレワーク勤務を開始した。
総務・人事本部の森川学・シニアディレクターは「もともとテレワークは拡大していく流れになっていたが、コロナ禍がテレワークを一気に拡大する引き金になった」と振り返る。
その上で「これまでは時間や場所にとらわれた働き方をしており、それがある意味でビジネス上の制約になっていた。これを取り払うことがWork Life Shiftの一つのコンセプトになっている」と語る。
さらに「会社と社員がお互いに信頼し合うことを前提に考えることが重要。時間や場所にとらわれない働き方ができるようになると、オフィスも今の形態が正しいのか考えなければならないし、時間や仕事のアサインの仕方、評価の仕方も変えていかないといけない」と話す。
同社は22年度末までに、国内の既存オフィスの床面積を50%程度に減らして最適化し、快適で創造性のある環境を構築することを目指している。同部ファシリティマネジメント統括部の阪本陽二・統括部長は「オフィス先行の考え方ではなく、社員の働き方に合わせてオフィスを変えていくことが狙い。最適なオフィスを構築するために、これからリロケーションやリノベーションなどを進める。コストが減るところもあれば、投資するところもある。単純にコスト削減が目的ではない」とし、「オフィスが変われば、社員のマインドも変わりやすくなる。こんなところで働いてみたいと思ってもらえるようなオフィスを実現し、生産性の向上を追求し続けるつもりだ」と説明する。
社員の働き方改革を支援するために、同社は独自のITツールの開発と自社内での活用も開始している。社員の業務の状況を可視化し改善につなげることを目的に、マイクロソフトの統合ソリューション「Microsoft 365」の利用状況などを同社のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」で解析する「Zinrai for 365 Dashboard」はその一つだ。11月に外販を開始する予定で、森川シニアディレクターは「グローバル展開を見据えている」と青写真を描く。
オフィス関連では、富士通アドバンストエンジニアリングが提供している位置情報活用基盤「ロケーションプラットフォーム EXBOARD for Office」を利用。センサーでサテライトオフィスの空席状況が把握できるため、効率的なモバイルワークが実現できているという。
森川シニアディレクターは「日本企業は働くことが人生の中心に置かれてきたが、今後は仕事だけというより、家族や友人との関係を含めたプライベートを充実させることも重要になる。社員個人の幸福を実現できる会社にならないといけない」と強調する。
日立製作所
ピンチではなく変わるためのチャンスに
日立製作所は、99年から在宅勤務を制度化した。しかし、「制度はあったが、なかなか利用が進んでいない状況」(同社広報)になっていたという。今年に入り、新型コロナウイルスの感染が拡大してからは事態が一変。在宅勤務活用を標準の働き方とする方針を決定し、在宅勤務の利用者は急増した。
グローバルソリューション統合本部ソリューション開発部の籾山二郎・部長は「リモート環境を整備する上で、大きく通信品質とリソース、ユーザーサポートの三つの面で課題が出た」と語る。
通信品質については、社内システムに接続するリモートアクセスが急増し、通信遅延が発生した。対応策として、東京五輪・パラリンピック期間用に用意していた通信資源を活用したほか、不足分はクラウドサービスを使って拡充。通信量を圧迫するリモート会議の音声について、一部通信経路を変更して負荷軽減を図ったという。
リモートアクセス網には、4月下旬以降で最大約8万人が同時に接続した。籾山部長は「ここまでの急増は考えておらず、想定していた量を超えていたのは事実だ」と話す。
リソースの面では、急激に需要が増加したため、クライアント環境とスマートデバイスの供給がひっ迫した。そのため、社内の休眠リソースを活用したり、セキュリティを確保した上で一時的にBYODを認めたりしてコントロールした。ユーザーサポートに関しては、オンライン会議のコツやマナーなどをポータルにまとめて社内に展開した。
同社では、基本的に既存のシステムを改善して在宅勤務の増加に対応したが、新しいIT基盤の検討も進めている。ITデジタル統括本部グローバルソリューション第2本部UXソリューション部の上船力哉・部長は「(社内中心ではなく)インターネットへの接続を前提としたIT環境をつくっていく方針で、主にネットワークとクライアントのセキュリティを強固にすることを考えている」と説明。籾山部長は「現在は閉域網の中に全てのITがある。社外から社内のネットワークに入る場合、ゲートウェイが1カ所にあり、負荷が集中してしまう」と現インフラのボトルネックを指摘。クラウドへは閉域網を経由せず接続できる仕組みを整備し、負荷軽減を目指す。
同社が5月に実施した社内アンケート調査によると、社員の半数が在宅勤務で業務効率が上がった、または変わらないと回答し、「通勤時間が減った分を有効に活用できる」「業務に集中できる」などの意見を寄せた。残り半数は効率が下がったと回答しており、同社は引き続き改善に取り組む考えだ。
籾山部長は「今までも在宅勤務の実施を呼びかけてきたが、今回のコロナ禍で実施の規模は一気に10年分くらい加速した。これまでは対面が当たり前だったが、今はオンラインが常識というように文化も大きく変わった」とし、「新型コロナウイルスは非常に大きなダメージを世界に与えているが、ピンチというより、変わるためのチャンスとみることが重要だと考えている。次の世代に向けて、仕事の変革をITで引っ張り、一歩先をいくニューノーマルを目指す」と話す。
上船部長は「今はまさに変革をする時なので、ITで働き方をどう変えられるかをこれからも考えていく。日本は在宅勤務が遅れているという見方もあるので、オンラインに抵抗がない若手の意見も取り入れて、しっかりと新しいITを提供し続けていきたい」と意気込む。
続々登場!新たな働き方を支援するツール1
VRを活用した会議システムを開発 物理オフィスの再現を目指す--NTTデータ
NTTデータは、VR(仮想現実)を使った会議システムを開発中で、技術革新統括本部技術開発本部AI技術センタの山田達司・シニアスペシャリストは「最終的なゴールは、物理的なオフィスをバーチャル空間に再現することだ」と語る。
VR会議システムは、テレワークを推進するツールとして17年ごろから開発を始めた。VRを採用した理由について、山田シニアスペシャリストは「現実世界では、目の前に人がいて、細かい表情や仕草が感じられる。既存のツールでは、こうした臨場感は感じにくいが、VRならばそういった部分を補える」と説明する。
利用する場合、まずは本人の写真を基に三次元のアバターを作成し、バーチャル空間の仮想会議室に表示する。参加者が話した内容は、音声に加え、バーチャル空間内の吹き出しに文字として表示できる。別の言語に自動的に翻訳することも可能だ。
ビジネス用途に特化した機能もある。ファイルやドキュメントを仮想会議室内に表示したり、ホワイトボードを使って情報を共有したりすることができる。会議の様子をウェブブラウザー上に中継できるため、同時に複数の会議に参加することも可能だ。
すでに商品化することは決まっているが、課題もある。山田シニアスペシャリストは「実験的に使ってもらうと、体験自体には高い評価をいただくことが多いが、VRヘッドセットの重さやVR酔いといった問題が出ている。VR機器がもう少し使いやすくなり、体に与える負担が減ると、普及が進みやすくなる」と話す。システムを使う場合にはクラウドの利用が必須になるため、セキュリティ面の障壁もあるという。
それでも、「たくさんの方が大変な思いをしているこういった時こそ、情報システムが果たす役割は非常に大きい」とし、「ニューノーマル時代に向けて、企業は働き方の見直しを迫られている。リアルとオンラインの両方でコミュニケーションを取る状況が続くことは覚悟しないといけないので、業務に役立つようなツールを提供し、新しい仕事の進め方を提案したい」と話す。
続々登場!新たな働き方を支援するツール2
ワークマネジメントツールを当たり前の世界に--Asana Japan
コロナ禍でテレワークが広がったことで、重要性が増していることの一つが業務管理だ。離れた場所にいる社員の業務の状況だけでなく、組織全体で目指す方向性を見失わないためには何が必要か。Asana Japan(アサナジャパン)の田村元・代表取締役ゼネラルマネージャーは「全ての組織で、ワークマネジメントツールの利用を当たり前にするべきだ」と訴える。
同社が提供するワークマネジメントプラットフォーム「Asana」は、組織やチームの目標とともに、自分に関係する業務の全体像を俯瞰できる点が最大の特徴だ。田村代表取締役は「現実世界の仕事のありようを、そのままAsana上に持っていくことができ、組織の目標と自分がやっていることのかい離をなくすことにつなげられる」と説明する。
アサナが今年6月、日本とオーストラリア、ドイツ、英国、米国で6000人を超える知識労働者を実施した調査では、半数近い45%が「リモートワークの開始以来、少なくとも1回は勤務先の企業の目標が変わった」と回答した。ただ、「自社で目標の設定・伝達が効果的に行われている」と答えたのは16%(日本は6%)、「自分の仕事と自社の目標のつながりをよく理解している」は26%(同15%)にとどまった。
グローバルの状況に比べて、日本は低い結果になったが、田村代表取締役は「日本の製造業の現場では、無理、無駄、ムラのない世界一のオペレーションができている。本来、日本人はこういった部分は得意なので、オフィスワークにも適用することができるはずだが、今まではツールがなかった」とし、「われわれは、仕事をきちんと管理することを事業のど真ん中にしている」とAsanaの有効性をアピールする。
同社によると、今年2月現在、世界195カ国で7万5000以上の組織がAsanaの有料版を利用しており、日本の導入組織数は1300以上になっている。新型コロナウイルスの感染が広がる前は、毎月100社ずつ増えてきたが、感染が拡大して以降は、今までのペースをはるかに上回る勢いで利用が増えているという。
今後の拡販戦略について、田村代表取締役は「部門単位で利用するところから、組織全体での利用を考える顧客が増えてきた。組織全体に適用する場合、ほかのツールとの連携や社内の制度も絡んでくる。われわれはその部分の専門家ではないので、顧客をしっかりとサポートしてくれるパートナーの力が今よりも重要になる」と説明。
その上で「東京や大阪などの大都市だけでなく、全国には組織や企業がたくさんある。大都市でビジネスを伸ばす余地はまだ大きいので、しっかりと注力していくつもりだが、チャンスがあれば他の地域でも導入を広げていきたい」と述べ、全国各地でパートナーとの関係構築を目指すとしている。

新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、従来の「働き方改革」の枠を越え、多くの企業で働き方が変わり始めた。変化を支える製品やサービスを提供するITベンダーも、ニューノーマル(新常態)を見据えて独自の取り組みを推進。デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けて、オフィスや業務のデジタル化を加速させている。
(取材・文/齋藤秀平)
この記事の続き >>
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