Special Feature
「as a Service」化するネットワーク
2020/09/03 09:00
週刊BCN 2020年08月31日vol.1839掲載
大塚商会
コロナ禍でも中小企業の無線LAN投資は旺盛
中小企業向けネットワーク導入サービスの一環として、ネットワークの運用管理を代行するマネージドサービスを展開し、月額課金型のサービスビジネスとして成立させているのが大塚商会である。同社は2014年に開始した「たよれーる らくらくWi-Fi」を皮切りに、同「らくらくファイアウォール」、同「らくらくスイッチ」を展開。現在、「たよれーる らくらくネットワークシリーズ」として、ネットワークに関する複数のマネージドサービスをラインアップしている。中小企業の間では、ネットワーク領域でのマネージドサービスの必要性がまだ必ずしも広く理解されているわけではないが、無線LANに関しては確実なニーズがあると、同社マーケティング本部 共通基盤情報通信ネットワークプロモーション部 ネットワークプロモーション課の矮松浩上級課長は話す。「販売を開始した当初は、そもそも無線LANは『つながりにくいもの』、もしくは『セキュリティが危ないもの』という認識だった。そこでWi-Fiに関するお困りごとを解決するというスタンスで運用サービスの導入を促してきたが、昨今ではモバイル端末の活用が進み、Wi-Fi環境の運用を代行してもらうというメリットがさらに伝わりやすくなっている」という。
たよれーる らくらくWi-Fiは、無線LANアクセスポイント製品を導入し、遠隔でWi-Fi機器の環境管理を行うもので、「ユーザーのニーズに応じて選べるように複数のメニューを用意しているのが特長」(統合戦略企画部 統合戦略企画1課 宮武明秀係長)である。「たよれーる らくらくWi-Fi for Cisco Meraki」は、シスコシステムズの「Meraki」を活用して365日のマネージドサービスを実施。端末は買い取りとレンタルに対応し、ID・パスワードの管理やファームウェアのアップデート、死活監視などのサービスを提供。通信やアプリケーションの利用状況などを踏まえ、リモートでパフォーマンス低下の原因を究明し、必要に応じてオンサイトで解決する。
また、日本ヒューレット・パッカード(HPE)の無線LANアクセスポイントを活用した「たよれーる らくらくWi-Fi for Aruba」も用意している。こちらは、機器は買い取りのみとなるが、Wi-Fiの運用管理サービスに加え「セキュリティ監視(SOC)」のサービスを提供する。「当社のSIEM(Security Information and Event Management)と連携させた不正アクセス検知や、事前に障害や性能低下の予兆を察知して、対策も含めて先回りでアラートを通知する性能監視サービス」(ネットワークプロモーション課の細井宏明課長)となっている。
このコロナ禍では、オフィスへの投資を削減する動きもあるが、同社では中小企業向けの無線LAN導入はむしろ増えているという。「ユーザーがリモートワーク環境での働き方に慣れたことで、いざ会社に戻ったら有線環境しかなく働きにくいという声が上がることがある。そこで、急きょ無線LANを導入したり、全社展開したりというニーズが生まれている」(矮松上級課長)という。事務所の移転やフリーアドレス制への移行によるネットワークの引き直し商談もあり、新規導入に際しては、従来の機器購入型に比べて、マネージドサービスであるらくらくWi-Fiサービスが採用する比率が増えているという。
シスコシステムズ
中小企業向け新ブランドでマネージドサービスを強化
コロナ・ショックを機に、大手企業のみならず中小企業でもネットワーク環境を整備しようという意欲が見られ、こと無線LANに関してはマネージドサービスのニーズが高まっている様子がうかがえる。ただ需要が出てきていても、物販とインテグレーションという従来型のビジネスを展開しているSIerやリセラーが、急にマネージド型のビジネスに移行するのは難しい。そこで大手ネットワーク機器ベンダー各社は、ITベンダーのサービスビジネス展開を後押しすべく、ネットワーク機能のサービス型提供を支援するフレームワークを立て続けに発表している。市場をリードするシスコシステムズは、中小企業向け製品ブランド「Cisco Start」をこのほど「Cisco Designed」に刷新。ここで新たに注力する販売戦略として掲げたのが、まさにマネージドサービスである。
現在のシスコ製品では従来の「物販+インテグレーション」型の提供が大半を占めており、Cisco Designedでもこの形態の提供は継続するが、同社でパートナー事業を統括する大中裕士専務執行役員は「今後は『マネージドサービス型』で、運用まで任せたいというお客様が増えると想定している」と述べ、ルータやスイッチ、無線LAN、ネットワークセキュリティ、それらの運用支援などを含むハードウェアからサービスまでの「フルスタック」を、月額制で利用したいというニーズが伸びるとの見方を示す。
コロナ禍において、リモートアクセスやWeb会議の需要が中小企業においても急増したが、運用負荷やセキュリティの面で課題を認識した企業も多い。一方同社では、さまざまな製品やサービスのクラウド対応を進めてきたことで、企業のネットワークとセキュリティを単一のダッシュボードから管理できる仕組みが整った。この仕組みを利用したマネージドサービスをパートナー経由で提供することで、中小企業の課題を解決するのが今回のねらいだ。
中小規模のネットワークとはいえ、リモートワークに対応すべく各拠点のネットワーク機器を刷新・増強し、Web会議ツールや会議端末の導入、セキュリティの強化などを一括で行えば、数百万円の投資になる。一方、これをサブスクリプションとして提供すれば、月額数万円から利用することが可能になる。最新のテクノロジーを中小企業にも導入可能にするという点でも、ハードウェアからサービスまでを月額モデルで提供することの意義は大きい。特に、多くの店舗を構える小売り・サービス業や、現場事務所の新設・移転が多い建設業といった業種には、ハードウェアのサブスクリプションを含むマネージドサービスは相性が良いと考えられる。
シスコではマネージドサービスを提供するパートナー向けのパートナープログラム「Cloud and Managed Services Program(CMSP)」を用意していたが、Cisco Designedでマネージドサービスに注力するにあたり、中小規模のリセラーやSIerを対象としたエントリー版の「CMSP Express」を開始した。パートナーが新たなサービスを立ち上げるためマーケティング面、ファンド面での支援を行う。また、マネージドサービスパートナーにはディストリビューターのダイワボウ情報システム(DIS)も加わっており、DISパートナーのリセラー各社が、DISのプラットフォームを利用してサービスを提供する仕組みも整備されている。
APJCアーキテクチャーセールス ビジネス開発担当の中元聡氏は「今回のコロナ禍ではWeb会議などが緊急措置的に使われたが、どこでも働ける環境が本格的に必要とされるのはこれからだと考えている」と話す。Web会議ツールだけなら中小企業自身が自社で導入することもそれほど難しくないが、在宅勤務時のポリシーをいかに統制するか、会議端末やIoTデバイスをどのように安全に接続するかなど、ネットワークにも新たな課題は次々発生している。中小企業市場でのシェア拡大にマネージドサービスが果たす役割は大きいと同社ではみている。
HPE Aruba
パートナーのサービス事業を多方面から支援
HPEはArubaブランドのネットワーク製品として、ネットワークに求められる管理機能とインテリジェンスを統合したソフトウェア「Aruba Edge Service Platform(ESP)」を発表し、ネットワークのサービス化というアプローチを強化している。製品を導入した企業によるネットワークの自社運用に加え、パートナー企業がAruba製品を活用したマネージドサービスを展開することも可能で、APIを通じてパートナーのサービスを連携できる形にもなっている。ESPは、Arubaが提供するLAN、無線LAN、スイッチ、SD-WAN、VPN、IoTなどの「ネットワーク機器の一元管理」、ゼロトラスト型の「セキュリティ対策」、そして収集したデータの分析・予測および問題解決を行う「AIOps機能」を備え、これらをクラウド上の一つの画面から統合管理できる仕組みと一緒に提供する。このアーキテクチャーによって、クラウド側からゲートウェイ内部のLANを管理するマネージドサービスが可能になる。
Aruba事業統括本部長の田中泰光執行役員は、「これから企業には、さまざまなネットワーク運用が必要になる」と指摘する。フリーアドレス化で、オフィス内で無線LAN環境やセキュリティ環境の整備が必要になるほか、ブランチオフィスの増加も見込まれる。モバイル端末を企業内ネットワークに接続する際のユーザー認証とポリシーの実装や、SD-WANの管理も必要になるなど、インテリジェンスで高度な制御が求められるという。
特に中小企業の場合、これらをすべて自社で運用することは難しいため、サービスとして外部から調達するのが有効な解決策となる。そこで同社では、新たに全国の事業者がマネージドサービス事業を展開できるように、技術面に加えて、サービスベンダーがマネージドサービスを開始する際のファイナンス面での支援なども行う。すべてのネットワーク運用を行うことが難しいパートナーには、他の事業者がマネージドサービスのすべてや一部を代行し、それらを再販する仕組みも準備しているという。
その上で、「ネットワークにフォーカスした売り方だけでなく、業務端末やクラウドサービス、パートナー独自のサービスと組み合わせて、各社のブランドとして販売する」(田中執行役員)提供形態も提案していきたい考え。
さらに大企業向けにも、別のアプローチを用意。大企業に対しては、マネージドサービスを実施するにしてもテーラーメイド型になるが、パートナーである日立システムズは、ESPの仕組みを活用して日立グループに対してネットワークとセキュリティをサービスとして提供しているという。つまりIT子会社がハブとなり、グループ会社も含めてネットワークに他のas a Serviceを付加したマネージドサービスを展開するという形だ。「この形が大企業向けのモデルケースになる」と田中執行役員はいう。
Arubaはさらに、ネットワーク系のサービスプロバイダーだけでなく、物販型の事業モデルを中心としてきたSIerが参加しやすいよう、日本国内でのパートナープログラムを準備中という。
ユーザーニーズに合わせた事業変革が求められる
企業がDXを実施していくにあたっては、市場の環境変化に対応していくためのシステム基盤が必要とされるが、ネットワークも「張りっぱなし」「置きっぱなし」ではなく、同様に最適な仕組みの導入と運用、改善を可能とする手法が必要である。そこではユーザー企業が自ら専任の運用担当者を置くよりも、外部のサービスを活用して日々テクノロジーのアップデートに対応していくのが妥当だろう。これから企業のネットワークに繋がるものが増え、それらを管理しつつ柔軟に変更を加えていく必要が出てくる。そうなるとサービスの利用を開始する際のコストや運用に負担がかかるため、ハードウェアからサービスまでを含んだ形でのサブスクリプションとして利用したいというニーズも顕在化していく。シスコやArubaが提唱する、ネットワークと他のITサービスをパッケージングして提供していくというアプローチは自然なものだと考えられる。SIerや販社もこの流れに対応できるように、従来の売り切り・納入型だけでよしとせず、また回線、ハード、ソフトと自社の領域を限定せず、サービスビジネスという形で商材の選択肢を増やしておくべきだろう。

コロナ・ショックでデジタル化がさらなる加速をする中、今まで以上に適切な投資と運用が必要になってくるのが、ネットワークだ。そのようなニーズを踏まえて、他のITインフラと同様に、「as a Service(サービスとしての)」形態によるネットワーク提供というアプローチが広がりつつあり、ネットワーク機器メーカーによる、サブスクリプション型ビジネスの立ち上げ支援という動きも活発化している。
(取材・文/石田仁志、日高 彰)
国内ではこの数年、人手不足に伴う働き方改革や生産性向上、競争力の強化などを動機として、デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が叫ばれ、企業を中心にデジタル化とITの積極的な活用が推進されてきた。さらにその過程で、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生。是非を問うまでもなくITの活用が進んだ一方、ITインフラの目詰まりも多方面で発覚した。
中でも重要なのが、土台の部分であるネットワーク環境の整備だ。“ニューノーマル”の働き方は、通信インフラに障害や遅延があっては成立しない。しかし企業のDX状況をみると、レガシー化したアプリケーションのマイグレーションを進め、クラウドサービスを積極的に活用しようという議論にはなっていても、ネットワーク周りをどう見直していくかという動きは主に大企業で始まったばかり。中小企業では、無線LANやリモートアクセスの環境も十分でないというケースが少なくない。このままでは、ネットワークがDXの足かせになるのではという懸念も生ずる。
「ほったらかし」では
済まなくなるネットワーク
企業において、ネットワークは「つながっているのが当たり前」という考えになりがちである。特に中小規模の企業では、一度設計・構築し、ルータやスイッチなどの機器を購入・設置して回線を引いたネットワークは、障害がない限りそのまま使い続け、機器の故障などトラブルがあった時だけ、調達したベンダーに何とかしてもらうという運用形態が多い。組織の改変や、新たなシステムの追加時には、ベンダーを会社に呼んで機器の設定変更をしてもらう必要があった。今まではそれで何とかなっていたとしても、現在はテクノロジー的にも社会環境的にも端境期を迎えており、ネットワークへの要求は高度化・複雑化している。背景にあるのは、クラウドの普及とデバイスの多様化だ。企業規模の大小を問わず、Microsoft 365に代表されるクラウドアプリケーションの導入が進んでおり、ネットワークはただつながれば良いのではなく、従業員の生産性を確保するため、常に高い性能を発揮し続ける必要がある。モバイル端末を活用するには事務所や店舗・工場などのどこでも快適に無線LANがつながる必要があるし、今後「在宅」と「出社」のハイブリッドな働き方へ移行するにあたっては、有線/無線、自宅/会社のネットワークを一元的に運用したいというニーズも高まるだろう。そして、このように複雑化するネットワークの上で、確実にセキュリティを担保する必要がある。
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