多様化する音声通話サービス
従来は専門メーカーのシェアが高かったPBX・ビジネスフォン市場だが、クラウド時代に突入して以降、さまざまなソフトウェアベンダーが市場へと参入している。大手ITベンダーや老舗ベンダー、スタートアップなど各社が取り組みを強化しており、その一部を紹介する。
NTT東日本
クラウドPBXを起点に 業務改革をトータルサポート
NTT東日本では長年オンプレミス型のPBXを販売してきた一方、5年前からクラウド型商材の拡販にも積極的に取り組んできた。ビジネス開発本部 第一部門 ネットワークサービス担当の鈴木健太・担当課長は「オンプレミスとクラウドのそれぞれに需要がある。クラウドサービスの多くは、高性能な従来型PBXが持つ機能全てをキャッチアップできているわけではないため、電話を中心とした業務を行っている企業では、ある一つの機能が使えなくなるだけでネガティブな印象を持たれてしまうことが多い。ユーザーの業務自体を変えていくアプローチも必要になる」と説明する。
鈴木健太 担当課長
テレワークの導入はいわば強制的な働き方改革を迫るもので、ユーザーはクラウドサービスの導入に必要な業務の見直しをせざるをえない状況にある。そこで、同社は主力ソリューションとして「ひかりクラウドPBX」を提供するとともに、手厚いサポート体制を構築することでこれを支援している。ビジネス開発本部 第一部門 ネットワークサービス担当 伊藤遼優氏は「電話というコミュニケーションは、問題が発生するとビジネスに直結してしまう。各地域にすぐに相談できる担当者がいるという安心感は、長年電話の機能を提供してきたわれわれにお客様が期待しているところだ」と強調する。
伊藤遼優氏
今後同社では、他社のコミュニケーションツールやテレワーク関連商材と組み合わせた提案を積極的に行っていく考え。鈴木課長は「ユーザーのニーズは多様化していて、ユニファイドコミュニケーションツールの導入を検討している企業も多い。また、電話の問い合わせをいただいた企業の中には、後々ITインフラやセキュリティといった追加の問い合わせをいただけることもある」という。ユーザーに密着しつつ幅広い製品をカバーすることで、ビジネスフォンをトリガーにユーザーの業務改革をトータルでサポートしていく方針だ。
日本マイクロソフト
「Teams」を企業の電話にする
この春以降、テレワーク環境におけるコミュニケーションツールとして普及率をさらに伸ばしたマイクロソフトの「Teams」。昨年よりキャリア各社との連携を強化し、Teamsと電話を組み合わせたサービスを次々に展開。Teamsを外線電話としても活用する仕組みを強化している。
吉田馨一 シニアプロダクト マーケティング マネージャー
日本マイクロソフト Microsoft 365ビジネス本部の吉田馨一・シニアプロダクトマーケティングマネージャーによると、Teamsを電話のシステムとして活用することに関して、引き合いはあったものの、実際の導入に至るまでは時間がかかることが多かったという。しかし、新型コロナ禍で電話が取れないという問題が発生したことで「後回しではなく、今やらなければならないという判断をする企業が増えた」。テレワークでTeams自体の利用が活発になったことも、電話としてのTeamsの活用の後押しとなっており、ビジネスチャットやWeb会議といった機能を使っている企業が、さらに電話機能のライセンスを購入するケースも増えているという。
また、「会社にかかってきた電話を場所を選ばずに取りたい」以外のニーズとしては、社員全員に社用の携帯電話を給付できないため、社員の私用スマートフォンを「BYOD」で業務に持ち込み、Teamsアプリを入れることで社用電話としても活用するといったケースのほか、老朽化したPBXや、全国の小規模拠点に散在しているPBXを置き換える目的での導入もあるという。
電話・チャット・Web会議などの機能を持つコミュニケーションツールはTeams以外にも多数あるが、同社ではデータの共有や、文書の共同編集など、Microsoft 365の諸機能との親和性の高さを差別化ポイントとして強調する。吉田マネージャーは「テレワークという制限された環境で、会議から1対1の会話、チームでの共同作業まで、さまざまなコミュニケーションを行おうとしたとき、それらが一つにまとまっているTeamsはとても使いやすいツールになっている」と説明する。
Twilio
早く、安く、簡単に電話機能を実装できる
トゥイリオは、電話APIを中心としたコミュニケーションプラットフォーム「Twilio」を提供している。同社が“カスタマーエンゲージメントプラットフォーム”と呼ぶこのサービスでは、コンタクトセンターやメールマーケティングといった顧客体験の向上を目的としたSaaSを展開している。
今野芳弘 社長
最も特徴的な要素は、ユーザー自身がAPIを活用することで、さまざまなコミュニケーション機能を自社のシステムやサービスと組み合わせられることだ。電話だけでなくWeb会議やチャット、メッセンジャーなどの機能を、初期費用を必要とせずローコーディングで実装できるため、テレワーク需要でユーザー層を一気に拡大しているという。今野芳弘社長は「もともとはコンタクトセンターでの利用が多かったが、直近では一般のオフィスでのビジネスフォンの置き換えを目的としたユースケースが目立つようになってきた」と強調する。
代表的な事例が、同社のリセラーパートナーのテラスカイによるもので、4月6日からTwilioを活用した在宅コールセンターを運用している。もともとテラスカイではインサイドセールス部門を設置してアウトバンドコールによる営業活動を行っていた。新型コロナ禍をきっかけに各オペレーターを在宅ワークに切り替え、インサイドセールスの通常業務だけでなく、本社を含む五つの拠点全ての代表電話に応答できる仕組みを、設計から構築、テスト、稼働に至るまで5営業日で導入した。Salesforceと連携することでよりきめ細やかな営業活動が可能になったのもメリットだという。
Twilioの長所はカスタマイズ性の高さだが、それを生かすには一定のノウハウが要求される。そこで同社は、国内市場においてはパートナーエコシステムを充実させることでその課題を補う。クラウドインテグレーターを中心としたエコシステムを構築し、ユーザーの要求に応えていく考え。今野社長は「柔軟性の高いTwilioはパートナーにとっても付加価値をつけやすい商材。今後もエコシステムを広げてプラットフォームの価値を高めつつ、ユーザーの課題に対応していきたい」と意気込む。