新型コロナウイルス対策のための緊急事態宣言を受け、オフィスのロックダウン(封鎖)を実施した企業は多い。緊急事態宣言が終息し、徐々に従業員の職場復帰は始まっているものの、パンデミック発生前と同じ働き方には戻せない。新型コロナウイルスへの感染拡大を予防しつつ、従業員が安全に、安心して働ける環境が必要だ。そのような環境をいち早く整備し、迅速な従業員の職場復帰を実現するだけでなく、これまで以上の生産性向上も求められる。企業がアフターコロナの状況に対応するために、ITはどのような貢献ができるのだろうか。
(取材・文/谷川耕一 編集/日高 彰)
セールスフォース・ドットコム
CRMプラットフォームを使った 従業員向けのソリューション
企業の新型コロナウイルスへの対応には、三つのフェーズがある。新型コロナウイルスが発生した初期段階では、パンデミックの中でも事業を継続するため至急の対処がいる。このフェーズではインフラ整備、従業員の心理面のケアなどが必要となる。
感染拡大の影響が落ち着けば、次はビジネスの再始動フェーズだ。オフィスのロックダウンを解除し、密を避けながらオフィスへ復帰する。再始動後の働き方は、リモートワークとオフィスワークが併用され、従業員の感染リスクを最小化するさまざまな工夫が求められる。
仮に新型コロナウイルスが終息しても、新たなパンデミックや大規模災害など、事業の存続を脅かす因子はゼロにならない。企業のビジネス継続の体制整備は必須だ。新しい働き方を実現しつつ、ビジネスを成長させなければならない。この新たな成長フェーズが三段階目となる。
現状日本は、二つ目の再始動フェーズだ。多くの企業がオフィスでの業務を再開し、従業員の安全を確保しながら新たな働き方でビジネスを進めようとしている。新型コロナウイルスへの対応は過去に誰も経験したことがなく、どう対処するのが正解かは誰にも分からない。
手探りの再始動フェーズを支援するのが、セールスフォース・ドットコム(SFDC)が提供する「Work.com」だ。企業は「社内外のさまざまな情報を集約し、それを基に再始動を判断する必要がある」と話すのは、同社マーケティング本部の岩永宙・プロダクトマーケティングマネージャーだ。ここで言う社外のデータとは、地域ごとの感染者数推移などのさまざまなオープンデータだ。Work.comでは社内外の情報を収集し、ダッシュボードで見やすい形で表示する。それを使って各地のオフィスの状況を迅速に把握し、どの地域をどのタイミングで、どのような形で動かし始めれば良いかの判断が可能となる。
次は従業員が、出社し働ける状況にあるかをチェックする。そのためにWork.comには、従業員の健康状態を尋ねるアンケート機能がある。テンプレートが用意されており、地域や企業の状況に合わせてカスタマイズし利用できる。単に出社して働けるかを尋ねるだけでなく、「子どもが自宅待機で毎日朝からは出社できない」など、より細かいレベルで出勤の可否を確認できる。健康状態を毎日確認して、従業員がどのような状況にあるかをタイムリーに把握するのだ。
オフィスへの出社が増えれてくれば、密を避けるために誰がいつ出社するかを管理する。大きなオフィスでは出社の有無だけでなく、いつ・誰が・どのフロアの・どのエリアで執務をしたかを時間単位で管理したい、という要求もある。さらに「エレベーターの中やエレベーターホールで待っている際の人数までも確認したくなる」と岩永マネージャー。これについても、カメラやセンサーデータをWork.comと組み合わせて予測が可能だという。またそれぞれの従業員の状況や出社の希望、従業員が関わるプロジェクトの重要度などを考慮し、密を避けた詳細なシフト管理表も作れる。
万が一、感染者が発生した場合に備え、従業員の行動履歴から感染者と関わりのあった人を可視化する機能もある。カレンダーから同じ会議室を利用した人の情報を取得し、さらにはIoT機器も使い、細かいレベルでオフィス内の従業員の行動を補足する情報を集める。それらをSFDCのプラットフォーム上で連携させ、濃厚接触者を“見える化”することで、迅速な対処につなげられる。
岩永 宙 プロダクトマーケティング マネージャー
同社は顧客を管理するCRMのプラットフォームを提供してきたが、Work.comの対象は従業員だ。とはいえ、CRMでは顧客ごとの営業担当者の情報があるように、これまでも従業員情報の一部は管理していたのだ。Work.comは同社にとってまったく新しいソリューションというわけではなく、従来の延長線上にある領域と捉えられる。「Work.comは、企業の今後の人材戦略に関わる部分でもある。安全な再始動だけでなく、その先の人材活用こそが重要」と岩永マネージャーは言う。危機でも平時でも、顧客の満足度と同時に、従業員が健康に働けて、職場に対する満足度が高いことが企業の成長を支える。そのために活用するツールが、Work.comというわけだ。今後SFDCは、顧客と従業員の情報を併せて活用する方向性に向かいそうだ。
マイクロソフト
Power Platformのデータが職場復帰の鍵に
マイクロソフトにも、職場復帰のためのソリューションがある。2020年3月にいち早く、誰がどこで働いているかを確認する仕組みを、データの収集と分析をローコーディングで実現する基盤である「Power Platform」のテンプレートで提供した。これは、同社の複数の従業員がボランティア的に開発したものがベースだったという。
そして7月には、より充実させた機能を体系的に整理し、より便利に使える形にまとめたものを、「職場復帰ソリューション」としてリリースしている。このソリューションについて、日本マイクロソフト マーケティング&オペレーションズ部門 ビジネスアプリケーション事業本部の平井亜咲美・プロダクトマーケティングマネージャーは「オフィス再開に当たり安全性を確保するために必要な資産管理の機能や、従業員の安全性確保の機能を備えている。これもPower Platformで開発されたもの」と説明する。Power Platformの管理ライセンスがあれば、追加費用なしで利用できる。
平井亜咲美 プロダクトマーケティング マネージャー
職場復帰ソリューションには、マネージメント層向けのPower BIを用いたダッシュボードと、従業員向けのアプリケーションがある。ダッシュボードでは、各地の感染者の推移などを見ることができ、従業員向けでは健康管理機能、出社する従業員の行動管理機能などがある。このあたりはWork.comと同様だ。また、施設管理者向けに、衛生用備品などの資産管理機能や、オフィスの混雑具合を管理するツールも用意されている。「職場復帰ソリューションでは、企業のさまざまな立場の人たちが、職場復帰後に業務の適切な判断を行う支援をする。そのためにデータを集め、それを活用できるようにしている」と平井マネージャー。
Power Platformはクラウド上の柔軟なプラットフォームなので、セキュリティゲートなどと連携させることで、自動で従業員の行動情報を収集できる。また従業員の健康に問題が出れば、チケットを発行してモニタリング、追跡し、企業として確実で正確な対応も行える。
従業員の健康情報などは「かなりプライバシーレベルの高いものなので、レコードレベルで制御できるPower Platformのデータアクセスコントロール機能を用い、慎重に扱えるようにしている」という。情報はPower Platformのデータストア「Common Data Service」に集約し、Active Directoryと連携したロール管理などで安全性を担保している。このように他のマイクロソフト製品との親和性が高いことも特長で、TeamsやMicrosoft 365など普段利用しているツールと合わせて使えば、アフターコロナの新しい働き方における生産性向上を目指せるだろう。
マイクロソフトでは、Power Platformをデータ収集のみならず解析・予測まで行えるプラットフォームとして訴求している。今回の職場復帰ソリューションをきっかけとして新たにPower Platformに関心を持った企業に対しては、新型コロナウイルス対策で終わることなく、今後の新たなデジタル変革の基盤として活用してもらいたいという思惑がありそうだ。
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