着実に広がる連携の輪
ITベンダーの役割は?
協議会の代表幹事法人を務める弥生の岡本社長は「参加組織の連携が成功のカギ」との考えを示している。9月23日現在、協議会にはITベンダーやユーザー企業など57の組織と5人の個人が加入している。着実に環が広がる中、ベンダーはどのような役割を果たすのか。協議会の幹事法人になっている5社に聞いた。
インフォマート
集まることに意義がある
インフォマートの長尾收社長は「仕様を統一することは重要で、そのためにベンダーが集まり、一緒に進めることには大きな意義がある」と話す。
長尾 收 社長
同社はこれまで、主力製品の「BtoBプラットフォーム」を中心に、多くの企業の取引を支えてきた。特に請求書業務の電子化には強い思いがあり、長尾社長は「日本国内で行われている請求書業務をできるだけたくさん電子化したい」と話す。
さらに「標準仕様の策定は、協議会として一つの大きな目標になっているが、その後、多くの企業に仕組みを使ってもらうことが、当社が本当に目指しているところだ」と説明。「世の中に広めていくという部分は、各ベンダーの腕の見せ所で、当社は、顧客へのサポートなどで今までに培ったノウハウをしっかりと発揮できると思っている」とも述べ、電子インボイスの普及に伴う自社ビジネスの拡大に一定の期待感を示した。
同社は、「中小企業共通EDI」を通じた受発注の電子化を検討する「つなぐITコンソーシアム」に加入している。協議会の幹事法人としては、協議会とコンソーシアムの調整役を担うことになっており、同社の木村慎・執行役員事業推進・戦略営業部門担当は「つなぐITコンソーシアムでは、既に電子インボイスの仕様を決めている。それぞれの団体がばらばらにならないよう、協議会とコンソーシアムをしっかりつなげる役割を担っていく」と語る。
木村 慎 執行役員
長尾社長は「新型コロナウイルスの感染が広がり、電子化の良さについて理解が広がっている。これを一つの好機と捉え、電子請求書を速いスピードで広げ、顧客が便利になる世界の実現を協議会のメンバーと一緒に目指していきたい」と意気込む。
SAPジャパン
プロセス全体を俯瞰すべき
SAPジャパンの内田士郎会長は「日本の中だけで閉じるのではなく、世界とつながっていくことを視野に入れながら検討を進めるべき」とし、そのためには「電子インボイス単体だけではなく、全体のビジネスプロセスを俯瞰することが重要だ」と指摘する。
内田士郎 会長
同社は、グローバルベンダーとして、日本を含めて世界中の企業のデジタル化を支援している。世界から見た日本の状況について、内田会長は「進んでいるところは進んでいるし、遅れているところは本当に遅れており、濃淡が非常にある」とみている。
日本企業が競争力を高めていくためには「業務プロセス全体を意識し、しっかり構造化したデータを持つことが重要で、それを担保する仕組みが必要になる」とし、「大企業だけでなく、中小企業も使えるようにしなければならないので、協議会が目指す標準仕様の策定は非常に大事な視点だ」と語る。
さらに「全て自前主義では連携はできない。ITの世界では、世界の標準仕様が決まっている部分もある。グローバルで物事が動く中では、日本だけで電子インボイスができても、世界とつながれないという形では意味がない」と警鐘を鳴らす。
企業経営の観点では、既に世界中の企業との競争は避けられない。内田会長は、協議会の取り組みを通じて「単に個社の利益を追求するのではなく、日本企業の競争力を高めることにつなげたい」と考えており、「われわれは、世界のベストプラクティスを標準化することを得意としている。その部分の知見を協議会で共有し、日本の企業に取り入れていただけるようにしていく」と話す。
TKC
誰もが使える仕組みを
インボイス制度は、日本全国の企業に関係する。宇都宮市を拠点にビジネスを展開するTKCの飯塚真規社長は、電子インボイス普及のためには、東京と地方のIT格差を乗り越えることが一つの課題になるとの考えを示し「IT格差の崖や谷を越えるようにしていくことが各ベンダーの責任だ」と訴える。
飯塚真規 社長
飯塚社長は「ITに関しては、世代や地域で格差があり、東京と地方は状況が全然違う」と持論を展開。さらに「ここ最近のクラウドや自動化の話は、ITが分かっている人だから使える仕組み。誰もがメリットを享受できるほどこなれた技術にはなっていない」とし、電子インボイスについては「ITの力で、どんな人でも使える仕組みを目指していかないといけない」と主張する。
標準仕様の策定を当面の目標として掲げる推進協議会の取り組みについては「標準仕様が決まれば、開発の工数を最小に抑えられるので、ベンダーとしては、顧客のサポートなどにリソースを振り向けることができる」と期待を寄せる。協議会での役割については「しっかりと法令を順守し、実務上耐えられる標準仕様の策定に尽力する」と話す。
同社が会計士・税理士のパートナー網を通じて業務システムを提供しているユーザー企業には、小規模・零細企業も多い。飯塚社長は「顧客からは、制度が始まることに対する不安や心配の声を聞くことがある」と説明し、「弊社の顧客が電子インボイスに対応できるのかということを考えると、相当な準備期間や習熟が必要。標準仕様を可能な限り早く決めたい」と語る。
マネーフォワード
「当たり前」の先の議論も
協議会の幹事法人には、クラウド会計ソフトベンダーのマネーフォワードも名を連ねている。同社の瀧俊雄取締役Fintech研究所長は「インボイス制度への対応は、当たり前にやらなければならないこと。その一歩先の議論までするべきだ」と話す。
瀧 俊雄 Fintech研究所長
瀧所長は「デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が注目されているが、それはまだ先の世界」とし、「今の世の中でやっているのは、書類をスキャンして、帳簿に入れて、そこをなんとか自動化するような取り組みが多く、十分に電子化ができているとはまだ言えない」と指摘する。
同社は、バックオフィスのDXを実現するためには、段階的に壁を越えていく必要があると考えており、瀧所長は「電子化の壁を越え、その後のクラウド化の壁を乗り越えれば、一気に変わってPDCAが何倍も回り始めるが、そもそも電子化ができていなければ、DXにはたどり着けない」と解説する。
その上で「今後は人口が減り、これまでのやり方が通じなくなる。企業は、わざわざやらなくていいことに時間や費用をかけるのではなく、本当に得意なことをやればよくなる。インボイス制度は、向こう5年で最も大きなテーマの一つになると思っている」とみる。
自社の強みについては「われわれのようなクラウド系の新興勢の強みは、ユーザーに若い企業が多いところだ」と紹介し、協議会に対しては「若いユーザー層からの声などを伝えていくので、虚心坦懐な協議会であってほしい」と要望する。
また「インボイス制度は、会計ソフトベンダーが訴求しているような業務の効率化が純粋に期待できる。1社で取り組んでもメリットを享受できない。みんなで取り組むことで、会計ソフトの価値が上がっていくはずだ」と強調する。
ミロク情報サービス
ベンダーが足並みを揃えるべき
ミロク情報サービスの岩間崇浩・取締役常務執行役員は、標準仕様の策定に当たり「われわれのような顧客に近いシステムを提供するベンダーだけで標準仕様を決めても、電子インボイスを発行する販売管理のような上流のシステムで使われなければ意味がない」とし、ベンダーが足並みを揃えることが重要との認識を示す。
岩間崇浩 常務執行役員
岩間常務は「昨今のDXの観点からも、有象無象のフォーマットが乱立するのはどうかと思うので、標準仕様を決めて、みんなでそれ使いましょうとなるのが一番いい」と協議会の方向性を評価する。
一方で「標準仕様ができてうれしいのは、われわれのような下流システムのベンダーで、上流のシステムでは独自仕様でも問題ない」とし、「今は下流のベンダーが主に議論しているが、上流システムを開発するベンダーが発言するようになると、議論がどうなるのかなという思いはある」と懸念する。
インボイス制度自体については「日本にとってはいい流れで、日本全体の競争力向上につなげていける」とし、「中小企業はシステム化がされていない企業もあるが、今後、システム入れたほうがいいと判断する企業は増えてくるだろう」と語る。
また、制度の開始によって「システムの流れが根本的に変わってくる可能性がある」と予想し、「従来型の手入力のシステムから、自動取り込み型のシステムになるので、今後の会計パッケージの在り方も根本的に変わってのではないか」と話す。