ビジネスや働き方の“ニューノーマル”は、クラウドに対する需要をさらに一段押し上げた感がある。当たり前の選択肢になりつつあったクラウドだが、まだまだ大多数のワークロードはオンプレミスで動いており、クラウドビジネスの成長の余地が大きいことを改めて知らしめたのが2020年だった。明けて21年、新たなフェーズに突入した市場で、主要プレイヤーはどんな戦略を打ち出すのか。2週にわたり、グローバル大手クラウド各社の日本市場における動きを中心に展望する。
(取材・文/本多和幸、日高 彰)
AWS
ポートフォリオ拡大は加速の一途 5G+クラウドの可能性も提示
年末を彩る法人向けIT市場のビッグイベントとしてのイメージが国内の関係者にも定着した感のあったAWSのプライベートイベント「re:Invent」。例年、米ラスベガスで開催されていたが、他の多くのイベントと同様に、2020年はオンラインで、11月30日から12月18日まで3週間にわたって開催された。まさに新型コロナウイルス感染症とともに生きることを余儀なくされた昨年の象徴的なエピソードだ。
新型コロナ禍により、働き方の柔軟性や企業のビジネス基盤としての情報システムのレジリエンスに世界中が改めてフォーカスしたことなどを背景に、そうしたニーズに適した環境を提供できるクラウドの成長はさらに加速している。市場のリーダーであるAWSも、新機能・サービスの開発スピードを落とすどころかさらに加速させている。今回のre:Inventでも、アンディ・ジャシーCEOの基調講演(12月2日)だけで約30の新発表があり、「われわれは立ち止まるべきではない。顧客の課題にフォーカスして再発明(re-invent)を続けていく」と強調した。
コンテナオーケストレーションのマネージドサービスでは、オンプレミス上のリソースでもワークロードを実行でき、かつAWS上のコントロールプレーンから管理できる機能を追加すると発表。21年にリリースする。AWS専用のハードウェアを顧客のデータセンター(DC)などに設置して同社サービスをオンプレミスで実行する「Outposts」のハードウェアには、従来のフルラック型に1Uと2Uの製品が追加された。クラウド側のDCにワークロードを囲い込むのではなく、AWSのサービスをより多様な環境に展開していく方向での進化が目立つ。
さらにジャシーCEOは、19年のre:Inventで発表した、「AWS Wavelength」の提供をいよいよ開始すると発表。5Gネットワーク内の通信事業者のDC(モバイルエッジ)にAWSのコンピューティングとストレージを拡張するサービスだ。5Gの特性を生かし、“超低遅延”でAWSのサービスを利用できるようになる。ヘルスケアやコネクテッドカー、スマートファクトリーなどの分野での活用が期待される。まずは世界で4社の通信事業者とともにサービスを提供するとのことで、日本ではKDDIとの協業により12月16日にサービスを開始した。KDDI側も、5G活用の裾野を広げるキラーコンテンツとして大きな期待を寄せる。
マイクロソフト
Azure活用したDXを実践段階へ 協業のリアル拠点を全国展開
日本マイクロソフトは、Azureを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進すべく、国内での取り組みを強化している。
2020年10月14日には、同社とパートナーが共同でDXプロジェクトの実証を行える施設「Azure Base」を、全国10カ所(開設時点)でオープンした。これは日本独自の取り組みで、日本マイクロソフトが直営する拠点に加え、パートナーが運営する拠点が各地に設けられているのが特徴だ。
Azure Baseでは、Azureを活用したパートナーソリューションの体験や、MR(複合現実)デバイス「HoloLens」を活用した実証実験が行えるほか、Dynamics 365などマイクロソフト製ソリューションのハンズオンなども開催する。21年からはパートナーにも開放し、セミナーやイベントの会場として活用が可能。また、拠点に足を運べない遠方のユーザー向けには、インターネット上のバーチャル空間として「Virtual Azure Base」を用意する。
同社がリアル拠点を全国規模で展開する目的は、地場のパートナーを巻き込んでAzureエコシステムを強化していくことにある。Azure Baseを運営するパートナーは、「地場での新産業の創出」「地域の伝統とITの融合」など、それぞれ注力するテーマを掲げており、地域の課題にフィットするDX拠点となることを目指す。
また、公共向けにもAzureを中心としたクラウドサービスと、それを活用したDXの提案を強化している。20年には、厚生労働省の「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム」でAzureやPower BIなどの技術が活用されたが、単に基盤としてマイクロソフト製品を利用するだけでなく、スモールスタートし継続的に機能を追加・改善していくアジャイル開発の手法を、中央省庁のシステムに適用したことが特徴。数年ごとの更改が当然だった行政システムに、クラウドの力でDXの第一歩をもたらした事例となっている。