(取材・文/本多和幸、日高 彰)
グーグル・クラウド
パートナーの「グーグル対応組織」を支援 エンタープライズ人脈強化も継続
グーグル・クラウドが近年力を入れているのが、エンタープライズユーザーの獲得だ。2019年1月には元米オラクル幹部のトーマス・クリアン氏がCEOに就き、企業向け営業担当者やサポート要員の大幅増員に着手。同年11月には日本法人の代表に元デルの平手智行氏が就任するなど、“エンタープライズ人脈”を拡充することで、大手企業の重要システムでグーグル・クラウドの採用を広げようとしている。この人事面の動きはその後も継続しており、20年秋には日本オラクルで副社長を務めていた石積尚幸氏が上級執行役員に就任し、パートナー事業を統括している。
国内でのエンタープライズ市場攻略のカギとなるのが、ユーザー企業と関係の深いパートナーをいかにグーグル・クラウドのエコシステムに取り込めるかだ。この点で、同社では大手SIerやコンサルティング会社との協業に力を入れている。20年11月には野村総合研究所が、企業のクラウド活用を支援するサービス「atlax」の新たなメニューとして、グーグル・クラウドの導入を検討から設計・構築・運用まで一括で支援する「atlax for Google Cloud」を発表した。グーグル・クラウドを基盤としたSIサービスだけでなく、デジタルトランスフォーメーションに関するコンサルティングを合わせて提供するのが特徴で、データ分析ツール「Looker」やマルチクラウド対応のコンテナ基盤「Anthos」など、グーグルの技術に特化したスキルを持つ専任の技術部隊も備えている。
また、コロナ禍における働き方の大きな変化で、オフィス業務用SaaSの「Google Workspace」(旧G Suite)や、クライアント端末のChromebookに注目が集まっていることも、同社にとっては追い風となっている。以前からChromebookのディストリビューターだったダイワボウ情報システムとシネックスジャパンが、新たにGoogle Workspaceの取り扱いも開始している。
レッドハット
パートナー支援を戦略的に拡充 将来はSIer向けのOpenShift支援も
IBMによる買収の完了から1年半が経過したレッドハット。オンプレミスにもクラウドにも展開可能なコンテナ基盤「OpenShift」を武器に、ハイブリッド/マルチクラウド時代のキープレイヤーとして、またIBMのクラウド戦略における切り札としても、ますます存在感を強めている。
2020年にリリースした最新バージョンでは、エッジコンピューティング向けワークロードへの対応を強化した。ネットワーク接続が断続的に失われるようなリモート環境でも安定してアプリケーションの実行できるようになったほか、リソースに制約のあるハードウェアへの展開も可能となった。オンプレミスとクラウドからエッジへと基盤を広げることで、機械学習技術を用いるソリューションやIoTでの採用を拡大したい考え。
パートナー支援の拡充も戦略的に行っている。19年12月には、国内でデータセンターを運用する大手SIer各社と組んで、OpenShift環境のマネージドサービスを提供するパートナープログラムを立ち上げた。それから1年後となる20年12月にはISV(独立系パッケージソフトベンダー)向けの支援を強化し、運用支援機能「Operator」への対応を促していくことを発表。ISV各社の製品がOperatorに対応することで、ユーザー企業はコンテナアプリケーションを簡単に導入・運用できるようになり、一方のISV各社は自社のアプリケーションをより幅広く流通させることが可能となる。
また、レッドハットでは将来の予定として、SIerのインテグレーションビジネスをOpenShiftで支援する計画があることを明らかにしている。時期や詳細は未定だが、業種・業務をよく知るSIパートナーが、ユーザー企業の要望に沿ったOpenShift環境を構築できるよう、支援を行う見通し。
オラクル
三澤新社長も驚くSaaSとIaaSの進化 クラウド市場での存在感は着実に高まる
日本では、トップ人事に大きな動きがあった。長年、日本オラクルの顔として活躍してきたものの2016年に日本IBMに移籍した三澤智光氏が、20年12月に社長として凱旋。三澤社長が復帰して最も驚いたのが、「Oracle CloudのSaaSとIaaSの進化だった」という。
もともとオラクルのクラウド事業戦略としては、強固な顧客基盤を持つ「Oracle Database」のアセットを生かし、PaaS領域での差別化を前面に押し出してきた印象がある。しかし三澤社長の言葉のとおり、目下オラクルが自らのストロングポイントとして強調しているのはSaaSとIaaSだ。
三澤社長は「エンタープライズの要求に応えられるシングルデータモデルのフルスイートSaaSと、ミッションクリティカルなワークロードに求められるパフォーマンス、セキュリティ、そして真のハイブリッドクラウド環境を提供できるIaaSを持っているのはオラクルだけだ」とアピールする。
IaaSでは、高いスケーラビリティや低レイテンシ、強度が高く自律的なセキュリティを実現するためのインフラをネットワークを含めて再設計して実装したことで、ミッションクリティカルなワークロードへの対応力を従来以上に高めたという。またSaaSについては、これまで買収した製品を含め、業務アプリケーションのラインアップを一つのデータモデルに統一して再構築し、業務横断的なデータ活用や自動化・効率化ができる製品群を実現した。データドリブンなビジネスを実現し、顧客のDX基盤となり得る製品としての価値を市場に訴求していく。