Special Feature
人の業務を自動化し、助ける存在 コロナ禍でRPAは原点回帰する
2021/04/22 09:00
週刊BCN 2021年04月19日vol.1871掲載

2017年から19年にかけて、RPAは日本企業に広く知られるようになった。大規模な導入を含めて、多くの企業で採用が進んだ。20年の新型コロナウイルスの感染拡大で、リモートワーク対応が求められる中、RPAの利用は新たな局面に入ったとも言われる。リモートワーク時代のRPA活用法を改めて考えてみる。
(取材・文/指田昌夫 編集/日高 彰)
「デジタル労働者」と働く
ある銀行では、一人の行員が毎週水曜日の朝9時30分までにレポートをまとめる業務を命じられていた。そのレポートの元データは、当日の朝まで揃わないため、水曜日は朝7時台に出勤して作業に取りかからなければいけなかった。この作業をなんとかしたいと思った行員は上司に相談し、上司はシステム化を情シス部に持ちかけた。だが工数にして2時間弱の作業で、費用対効果的にシステム化は取り合ってもらえない。
そこでその行員はRPAツールを使い、自らシナリオを設定して業務を自動化した。その結果、水曜日の朝も、他の曜日と同じ時間に出勤すればよくなった。その行員は早朝出社をしなくてよくなっただけでなく、「いやな仕事をせずに済む」ことで精神的にも楽になったという。
周知の通りRPAは、大量のバックオフィス業務を自動処理する「サーバー型」と、オフィスで従業員が行ってきたPC作業を自動化する「デスクトップ型」に大別される。これまでは、いかに多くの時間を削減するか、またコストはどれだけ減るかという定量化できる効果に注目が集まり、大きな効果が見込める大企業を中心に、サーバー型RPAの導入が進んできた。
一方、デスクトップ型RPAは中堅・中小企業にも導入が広がり、より手元の細かい業務に対する効果が期待されている。労働力不足やコロナ禍のリモートワークに対応するためのツールとしても、注目されているのである。
冒頭の事例を紹介してくれた、RPAテクノロジーズの大角暢之代表取締役社長は、同社が提供するRPAの「BizRobo!」は、ITツールでなく、「デジタル労働者」だと言い切る。
「特に地方を中心に労働者が枯渇していく中で、単純労働を貴重な人材にさせていた『つけ』が回ってきていた。特に、女性の就労が大きな課題だが、優れたスキルを持っていても、出産、育児などでフルタイム勤務は難しい場合も多い。そこをデジタル労働者で補間し、企業の力になってもらうというのが、当社の大きな目標だ」
RPAをITツールでなく労働者の派遣と同じように考えると、人間の上司が指示命令を正しく出さなければ、狙ったとおりの成果を出すことができない。そのため、上司としての管理者は、あくまで業務の現場と位置づけている。
「RPAをITでなく人事の問題として考えている企業では、現場の業務を次々と自動化することに成功している。冒頭の例のように現場でいやな業務、面倒な定型作業を自動化することが重要。費用対効果を気にしていると失敗する」(大角社長)
大角社長は、RPAの利用が拡大しない企業は、費用対効果の呪縛から抜け出せていないと語る。「費用対効果に縛られると、最初は当然最大のインパクトが出る全社的な業務プロセスをターゲットにする。だがそこから対象業務を広げていくと、必然的に量的な効果は尻つぼみになっていく。それだけでなく、現場の小さな課題は置き去りにされてしまう」
この考え方を改め、現場主導、業務本位のRPA化を一から検討し直すべきだというのが、大角社長の主張だ。
RPAの潜在能力を引き出す
IT調査企業のアイ・ティ・アールで、国内のRPA市場を調査研究する舘野真人シニア・アナリストは、ここ数年のRPA市場について次のように語る。「国内RPA市場は、16~18年ごろまでは、導入率が15%程度で推移しており、大きな動きはなかった。それが19年に一気に上がり、23%に増えた。ここで『キャズム(本格普及の前段階にある溝)を越えた』と、私は認識している」
その翌年の20年、コロナ禍に見舞われる中でRPAの導入率は27%にさらに伸長した。舘野アナリストは、「内訳を見ると、コロナによって伸びた部分と、減少した部分の両方が存在する」と分析する。
「20年は建設や卸・小売りなど、特定の業種で、RPAの導入が伸びていた。建設業では施工管理など、現場でPCを使う作業がかなりあるため、その自動化にRPAを使い始めた企業が多かったといえる。また不動産業でも、物件の情報を更新したり、収集したりする際にRPAの利用が増えた。卸・小売業では、コロナによって消費スタイルが大きく変わったことで、在庫処理、注文処理などの業務量が増えたのに対応する需要がみられた」
逆に製造業などでは、もともと在宅でのオペレーションを想定していなかったこともあり、コロナ禍でプロジェクトが一時的に止まるなど、減速した部分もあったという。
舘野アナリストは、20年のコロナ禍でも、全体的なRPAの利用は思ったほど活発にはならなかったとみている。「給付金業務など、自治体のRPA活用がニュースに出たこともあったが、公共セクター全体が伸びたわけではなかった。実態は、コロナ前からRPAを導入していた企業や団体が、コロナに直面してその価値に改めて気づくというケースが多かったのだと思う」
海外ではすでに、医療機関などで感染者の情報を末端から吸い上げるためにRPAなどのツールをかなり活用しているという。国内では、そうした例はあまりない。日本でもワクチン接種が始まり、大量の事務手続きが待ち受けている。今こそ、RPAによる業務自動化が必要なはずだ。だがなぜ、日本ではRPAの活用が広がらないのだろうか。
舘野アナリストは、業務を分解してプロセスに落とし込むという考え方が、まだ日本企業には浸透していないと語る。「日本企業では、今やっている仕事を順番に記述せよと言われても、できる人は少ない。そのため、RPAのツールがあっても、生かすことができないのだと思う。19年にブームの中で導入して、最初の一つか二つめまでのプロセス自動化にとどまり、そこからの拡大、定着が進んでいない企業もみられる」
自分の仕事を分解するだけでなく、RPA化する業務は、社内の前後のプロセスを意識すべきだという。「自分の手元ではそれほど負担がなく、締め切りに追われていない業務であっても、そのアウトプットを待っている部署がある。全体を俯瞰してみた時に、自動化するとうまくつながる箇所を見定めることが必要だ」
さらに、舘野アナリストはRPAの利用用途について、これまでの「バックオフィスの大量の定型業務の自動化」以外にも、さまざまな可能性があると語る。
「マンパワーではコストが合わず、企業がこれまであきらめていた業務も、RPAによって行うことができる。例えば、少額支払いのチェックだ。あるメーカーでは、海外拠点で発生する販促費などの費用について、一定額以下はコストの関係からノーチェックで支払いを承認していた。そのため、不正に資金を着服する社員がいても、黙認せざるを得なかった。新たにRPAを使ったチェックのプロセスを入れることで、統制をかけることに成功した」
同様に、マンパワーとの兼ね合いで制限していた顧客サービスのレベルを、RPAを使うことで引き上げることもできる。ある企業では、顧客に対するレポートを、従来は月に1回手作業で集計していたが、RPAで自動化することで、日次で自由にダウンロードできるようにした。顧客にとってはサービスが向上し、企業側も負担がむしろ減るという好循環が生まれる。「単純に頻度を上げるだけで、顧客満足度が上がる場合もあるということに気がつき、検討を始めた企業がある」(舘野アナリスト)
RPAが生かせる分野は定型業務に限らない。工夫次第で、ガバナンス強化や顧客サービス向上にも活用できるのである。

2017年から19年にかけて、RPAは日本企業に広く知られるようになった。大規模な導入を含めて、多くの企業で採用が進んだ。20年の新型コロナウイルスの感染拡大で、リモートワーク対応が求められる中、RPAの利用は新たな局面に入ったとも言われる。リモートワーク時代のRPA活用法を改めて考えてみる。
(取材・文/指田昌夫 編集/日高 彰)
「デジタル労働者」と働く
ある銀行では、一人の行員が毎週水曜日の朝9時30分までにレポートをまとめる業務を命じられていた。そのレポートの元データは、当日の朝まで揃わないため、水曜日は朝7時台に出勤して作業に取りかからなければいけなかった。この作業をなんとかしたいと思った行員は上司に相談し、上司はシステム化を情シス部に持ちかけた。だが工数にして2時間弱の作業で、費用対効果的にシステム化は取り合ってもらえない。
そこでその行員はRPAツールを使い、自らシナリオを設定して業務を自動化した。その結果、水曜日の朝も、他の曜日と同じ時間に出勤すればよくなった。その行員は早朝出社をしなくてよくなっただけでなく、「いやな仕事をせずに済む」ことで精神的にも楽になったという。
周知の通りRPAは、大量のバックオフィス業務を自動処理する「サーバー型」と、オフィスで従業員が行ってきたPC作業を自動化する「デスクトップ型」に大別される。これまでは、いかに多くの時間を削減するか、またコストはどれだけ減るかという定量化できる効果に注目が集まり、大きな効果が見込める大企業を中心に、サーバー型RPAの導入が進んできた。
一方、デスクトップ型RPAは中堅・中小企業にも導入が広がり、より手元の細かい業務に対する効果が期待されている。労働力不足やコロナ禍のリモートワークに対応するためのツールとしても、注目されているのである。
冒頭の事例を紹介してくれた、RPAテクノロジーズの大角暢之代表取締役社長は、同社が提供するRPAの「BizRobo!」は、ITツールでなく、「デジタル労働者」だと言い切る。
「特に地方を中心に労働者が枯渇していく中で、単純労働を貴重な人材にさせていた『つけ』が回ってきていた。特に、女性の就労が大きな課題だが、優れたスキルを持っていても、出産、育児などでフルタイム勤務は難しい場合も多い。そこをデジタル労働者で補間し、企業の力になってもらうというのが、当社の大きな目標だ」
RPAをITツールでなく労働者の派遣と同じように考えると、人間の上司が指示命令を正しく出さなければ、狙ったとおりの成果を出すことができない。そのため、上司としての管理者は、あくまで業務の現場と位置づけている。
「RPAをITでなく人事の問題として考えている企業では、現場の業務を次々と自動化することに成功している。冒頭の例のように現場でいやな業務、面倒な定型作業を自動化することが重要。費用対効果を気にしていると失敗する」(大角社長)
大角社長は、RPAの利用が拡大しない企業は、費用対効果の呪縛から抜け出せていないと語る。「費用対効果に縛られると、最初は当然最大のインパクトが出る全社的な業務プロセスをターゲットにする。だがそこから対象業務を広げていくと、必然的に量的な効果は尻つぼみになっていく。それだけでなく、現場の小さな課題は置き去りにされてしまう」
この考え方を改め、現場主導、業務本位のRPA化を一から検討し直すべきだというのが、大角社長の主張だ。
続きは「週刊BCN+会員」のみ
ご覧になれます。
(登録無料:所要時間1分程度)
新規会員登録はこちら(登録無料) ログイン会員特典
- 注目のキーパーソンへのインタビューや市場を深掘りした解説・特集など毎週更新される会員限定記事が読み放題!
- メールマガジンを毎日配信(土日祝をのぞく)
- イベント・セミナー情報の告知が可能(登録および更新)
SIerをはじめ、ITベンダーが読者の多くを占める「週刊BCN+」が集客をサポートします。 - 企業向けIT製品の導入事例情報の詳細PDFデータを何件でもダウンロードし放題!…etc…
