Special Feature
進化するクラウドマネージドサービス DX推進のキープレイヤーを追え!
2021/05/20 09:00
週刊BCN 2021年05月17日vol.1874掲載
成長を加速させるトップランナー
アイレットはCIerの枠を超えた存在を目指す
ポートフォリオ拡大の効果が出てきた国内を代表するクラウドインテグレーターとして存在感を高めているアイレットは、“AWS御三家”の中でも独自路線を鮮明にしている感がある。近年では、米ラックスペース・ホスティング(ラックスペース)との提携により新たなマネージドサービスをラインアップしたり、AWSに加えてGoogle Cloudのプレミアサービスパートナー認定やMSP(マネージドサービスプロバイダー)認定を取得してAWS以外のクラウドサービスへの対応力を強化するなど、より市場の多様なニーズに応えようという姿勢が目立つ。見据える目標は早期の売上高1000億円突破だ。
直近の同社のビジネスを振り返ると、最新の決算はまだ出ていない(アイレットが属するKDDIグループは5月14日に2021年3月期決算を発表予定)が、20年3月期の売上高は215億円。この1年も新型コロナ禍前に作成した計画をほぼ達成する形で着地したという。エバンジェリストを務める後藤和貴・執行役員は「特定の産業分野に偏らず、あらゆる業種業界のクラウド導入の相談に乗ってきたのがアイレットの強みだが、それが功を奏した」と説明する。
10年に始めた主力事業であり、クラウドの導入設計から構築・運用・保守までを行うフルマネージドサービス「cloudpack」は堅調に推移した。「20年4月~6月は、IT投資を抑えてキャッシュフローをコントロールしようとするお客様が多く、当社のビジネスも影響を受けた」(後藤執行役員)というが、夏以降は揺り戻しがあった。リモートワークの浸透などに伴いクラウド活用がコロナ禍以前と比べても拡大したことを受け、事業環境は改善された。
幅広いサービスポートフォリオのメリットも出ている。もともと組織内に機能としては備えていたシステム/アプリケーション開発やデザイン(グラフィックデザインやUI/UX開発)などの案件も増えたほか、ホワイトレーベルの動画配信サービスなども急成長。さらに、cloudpackのようなインフラ側を網羅的にサポートするサービスとのクロスセルやアップセルも頻繁に発生するようになった。「とにかくこの1年は、お客様のビジネスが急激にオンラインに寄っていった。それをワンストップサービスで支えられるという強みが評価された」というのが後藤執行役員の実感だ。
一方、ラックスペースとの協業については、第1弾として昨年6月にクラウドマネージドサービス「Rackspace Service Blocks for AWS」を開始した。ただし、同社との協業はまだ2年目ということもあり、この1年は準備段階という側面が強かったという。後藤執行役員は「cloudpackに比べてより自動化、ひな形化された非常に合理的なサービスを提供できるのがRackspaceの価値だが、これがようやく特定のお客様に伝わり始めている。昨年度(21年3月期)に営業やマーケティングの部隊も強化したので、KDDIの営業チームとも連携し、本格的な成長フェーズに移っていけると思っている」と見通しを語る。
また近年、cloudpackにはAWSのほかに「Google Cloud Platform」をラインアップしている。個別の案件では、「Microsoft Azure」や「Oracle Cloud」、さらにはVMwareの仮想化技術を基盤としたインフラなども扱っているという。これらについては「ニーズが高まって、運用保守や監視などのサービスがAWSを活用して提供してきたサービスと同水準まで到達したら、製品化してリリースしていく」(後藤執行役員)のが基本方針だという。多様化している顧客ニーズに的確に応え、機会損失を防ぐというスタンスだ。
クラウドネイティブと高信頼性の両立が強み
サービスのポートフォリオを広げるという方向性以外で、アイレットは自社のクラウドマネージドサービスの競争力の源泉をどこに求めていくのだろうか。後藤執行役員によれば、アイレットがMSPに不可欠な要素として定義していることが二つあり、強いて言えば、それが競合に対する差別化ポイントに近いという。
一つは、インフラだけでなく、アプリケーションレイヤーの運用保守までカバーできる仕組みを持つことだ。「開発・納品したシステムを改善しながら運営していく案件などには、アプリケーションのパフォーマンスだったり、脆弱性のチェックや可視化が必要。『New Relic』のようなツールを使ってそうした機能を効率的に実現している」としている。
もう一つは、高度なセキュリティや監査対応だ。金融や公共など、より厳しいセキュリティが求められる業種業界でもクラウド活用が広がりつつある。これに伴い、「第三者から認証を受けるなど、一定の信頼を担保したサービスがクラウドマネージドサービスにも求められるようになってきた」と後藤執行役員は指摘する。アイレットは、情報セキュリティの国際規格である「ISMS」やクレジットカード業界の情報セキュリティの国際基準である「PCI DSS」の認証取得、cloudpackにおける「SOC 2 Type2」保証報告書(受託サービスに関する内部統制の保証報告書)の受領といった取り組みを進めてきた。今年3月には、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度である「ISMAP」に照らして、政府が求めるセキュリティ要件をcloudpackが満たしているとの自己評価も発表している。
金融や公共領域の顧客のニーズに対応するという意味では、老舗の国産大手SIerなどにも豊富なノウハウはあるが、後藤執行役員は、「クラウドネイティブなシステムインテグレーターでありながら、第三者の評価を受けた信頼性の高いサービスが提供できることこそアイレットの強み」だと強調する。
結果として、同社がベンチマークとして設定する競合ベンダーも、大手SIerが多くなってきているという。ただ、SIやマネージドサービスは労働集約的な要素が強く、クオリティを保ったまま急激にビジネスをスケールさせるのは難しい。cloudpackチームが人力で行っていた監視業務の一部を自動化する「次世代監視基盤 AMS」を自社開発・運用するなど、生産性を上げるための工夫もしてきたが、いずれにしてもコンサルや実装のための人的リソースはビジネス規模に応じて揃えなければならない。現在、同社の従業員は700人規模だが、「人を増やして事業を伸ばしていくという取り組みは継続し、まずは早い段階で売上高を1000億円に乗せたい」としている。金融、公共も含めてクラウド需要が急激に伸びている市場で積極的に案件を獲得し、「クラウドネイティブな」という冠が不要な、日本を代表するシステムインテグレーターとしてのポジションを確立しようとしているのだ。
識者の眼
拡大するパブリッククラウド市場 マネージドサービスはさらに伸びる!?
国内のパブリッククラウドサービス市場の拡大は、新型コロナ禍によって加速するという見方が大勢だ。今年3月にIDC Japanは2025年までの市場予測を発表した(グラフ参照)。20年の国内パブリッククラウドサービス市場規模は前年比19.5%増の1兆654億円になったほか、25年の市場規模は20年比2.4倍の2兆5866億円に膨らむという。
クラウドマネージドサービス市場も、これに伴い成長するのだろうか。矢野経済研究所の小山博子・主任研究員は「(クラウドを活用して)デジタル化やDXを推進したいと考える企業が増加基調にあるものの、リソース不足などの課題がある。また、クラウド化によるセキュリティに対する懸念を持っている企業もあると推測する。こうした理由からクラウドマネージドサービスを利用するケースは増加基調にある」と説明する。さらに、「毎年、売上高ベースで前年比20~30%増で成長していく」と見ており、パブリッククラウドサービス市場を上回る勢いで拡大する可能性を示唆している。
アイレットやBeeXは、共通してセキュリティ領域のサービス拡充を目下の重要課題に据えている。BeeXの石川ディレクターは、「ISMAPの登録サービスに国産ベンダーだけでなくAWSやGCP、Salesforceなど外資系大手ベンダーのサービスが入ったことは市場に大きな変化が起きている象徴だ」と話す。公共領域などセキュリティの要求が厳しい分野でもクラウド活用を促進する環境が整い、その影響は市場全体に波及する可能性が高い。クラウドマネージドサービスプロバイダーにも、こうしたトレンドへの敏感さが求められる。

クラウドに対するニーズが従来とは一段違うレベルで膨らみつつあるのも、新型コロナ禍が法人向けIT市場にもたらした大きな変化の一つだ。これと軌を一にするように、クラウド市場の成長、特にIaaS/PaaS利用の裾野拡大をけん引してきたクラウドマネージドサービスも進化を遂げている。ユニークな施策を打ち出すクラウドインテグレーターの動きを深掘りすることで、これからの市場で何が競争力の源泉になるのかを探る。
(取材・文/本多和幸)
後発だからこその差別化に挑むBeeX
クラウドマネージドサービスは間接販売でスケールさせることができるか
AWSのSIパートナー御三家と言われてきたアイレット、サーバーワークス、クラスメソッドなどに代表される“クラウドインテグレーター(CIer)”が先鞭をつけた印象が強いクラウドマネージドサービスの市場。やがては大手SIerも軒並み参入し、2020年には新型コロナ禍の影響を受け、クラウドのメリットが改めて多くのユーザーに強烈に意識されるようになり、競争環境に新たな変化が生じている。そんな中でユニークな取り組みを始めたのが、テラスカイのグループ会社であるBeeXだ。後発のクラウドマネージドサービス市場で彼らがチャレンジするのは、チャネルパートナー経由の拡販による成長だ。“メーカー的な立ち位置”でストックビジネスを模索
BeeXはもともと、基幹系システムのモダナイズやクラウド移行の専業会社として2016年3月に発足した。SAPのビジネスアプリケーションのクラウドシフトでは既に実績も豊富だ。しかし社内では、既存のSIビジネスの範疇だけでは安定した成長を継続できないという課題も共有されていたという。そこで同社は昨年、クラウドインテグレーションのノウハウを生かしたクラウドマネージドサービス「BeeXPlus」を立ち上げた。「AWS」「Microsoft Azure」「Google Cloud」の大手3サービスに対応し、クラウドのライセンス再販、導入や活用・展開支援、監視・運用といったサービスをワンストップで提供する。
マルチクラウド対応であることは一つの特色ではあるが、それだけでは他社のクラウドマネージドサービスと大きな違いがあるわけではない。同社の戦略で最も特徴的なのは、BeeXPlusをチャネルパートナー経由で拡販しようとしている点だ。BeeXPlus事業をリードするビジネス開発推進本部営業開発部の小崎史貴・ビジネスディベロップメントマネージャーは「メーカーのような立ち位置で、パートナーとの協業によってスケールするストックビジネスを目指した」と話す。
クラウドに限らず、一般にマネージドサービスはSIerなどが自社のリソースや技術・ノウハウを活用して提供する一種のアウトソーシングサービスであるわけだが、これを再販するというのはどういうことか。小崎マネージャーによれば、パートナーに対してクラウド技術者を育てる教育プログラムを提供し、BeeXPlusのメソッドとスキームを身につけてもらった上でサービスを再販してもらうイメージだという。各パブリッククラウドサービス自体の契約はBeeXを窓口とする形が基本(パートナーにはマージンを支払う)で、チャネルパートナーが独自にパブリッククラウドサービスのパートナー認定などを取得する必要はない。
ローカルキングとWin-Winの協業関係を結ぶ
BeeXPlusのチャネルパートナー候補として同社が特に重視しているのが、“ローカルキング”とも呼ばれる各地域の有力SIerだ。首都圏などの大都市圏とそれ以外の地方では、クラウドの浸透度合いにまだまだ大きな差があるというのが多くのITベンダーの実感だろう。しかし見方を変えれば、地方市場の潜在的なクラウド需要は大きいということでもある。そして地場の有力SIerも、クラウドとどう付き合っていくべきか、いまだに悩みを抱えているケースが少なくない。BeeXはBeeXPlusを通じてそうしたSIerとWin-Winの関係を結ぶことができると考えているのだ。
BeeXにとっては、クラウドビジネスにこれから本格的に取り組もうとするSIerをチャネルパートナーとして育成することで、クラウドマネージドサービスのビジネスをスケールするためのリソースをスピーディーに確保できる。一方、チャネルパートナーの視点では、BeeXPlusに参画することでクラウドの知見を吸収し、新たなマーケットに参入するハードルを下げることができるという。小崎マネージャーは「地場の有力SIerはクラウドを活用したDX支援など新しいビジネスに舵を切っていかなければならないという課題を抱えている。そこにBeeXPlusを活用してもらえるし、当社にとしては、チャネルパートナーの力でBeeXPlusを地域のDXに貢献するサービスとして市場に浸透させることができる」と力を込める。
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