主要SIerは、今年度(2022年3月期)国内情報サービス市場が底堅く推移すると見ている。昨年度(21年3月期)決算では、コロナ禍の混乱にもかかわらず多くのSIerが増収増益を達成。SIer経営者は国内のIT投資意欲が大きく損なわれていないことに手応えを感じている。今年度も引き続き事業環境は大きく悪化しないことを予測しつつ、強気の成長を描く。NTTデータや野村総合研究所、TISなどが進出する欧米豪・ASEAN市場は国内以上にコロナ禍のマイナス影響が見られたが、今年度は急速に回復していくことが期待されている。主要SIerの決算を通じて今後の市場動向を探った。
(取材・文/安藤章司)
コロナ禍からの回復の兆しあり
新型コロナウイルスの感染拡大とほぼ重なった昨年度(2021年3月期)の主要SIerの業績は、「予想していたほど落ち込まなかった」(大手SIer幹部)と胸をなで下ろす結果となった。旅行や旅客運輸、飲食などコロナ禍の直撃を受けた業種や、厳重な都市封鎖をせざるを得なかった海外都市のマイナス影響を受けつつも、一方で国内のIT投資は「コロナ禍を受けてむしろ加速した」(別のSIer幹部)追い風の側面もあった。
情報サービス産業協会(JISA)が、経済産業省「特定サービス産業動態統計」をもとに集計した情報サービス業の今年2月までの売上高推移を見ると、感染が拡大するに連れて前年同期比でマイナスに振れる月が増え始める(図1参照)。コロナ禍で打撃を受けた業種がIT投資を控えたり、進行中のプロジェクトを縮小・凍結したりした影響が出ているものと推測される。
JISAが四半期ごとに主要SIer会員の景気判断を調査している売上高DI調査では、コロナ禍が表面化した20年3月時点では大きく落ち込んだものの、その後は徐々に回復。21年1月以降は「向こう3カ月の売上高が上昇する」と回答したSIer会員が、「低下する」と回答した会員を上回る状態が続いている(図2参照)。売上高上位の大手SIer会員を中心に、コロナ禍初期の厳しい見通しから一転して、売り上げ回復に手応えや期待を持ち始めていることがうかがえる。
NTTデータ
32期連続の増収を達成、下期に好転
SIer最大手・NTTデータの昨年度(21年3月期)連結売上高は、前年度比2.3%増の2兆3186億円、営業利益は同6.3%増の1391億円の増収増益決算で着地した。昨年8月時点で公表した通期業績見通しは減収減益と厳しく見ていたが、下期以降の国内を中心とした受注環境の好転によって32期連続の増収を達成。NTTデータ設立以来継続してきた増収の記録を維持することに成功している。今年度(22年3月期)も増収増益の計画を立てており、「33期連続の売上増を目指していく」(本間洋社長)と、強気の姿勢を崩さない。
本間 洋 社長
ただ、昨年度の地域別の受注高で見ると北米が前年度比26.9%減の3445億円、EMEA(欧州・中東・アフリカ地域)中南米が同7.3%減の4759億円と減少。国内の金融事業セグメントの受注増で補ったものの、NTTデータ全体でも同2.3%減の2兆2233億円にとどまり、コロナ禍の爪痕が顕わとなった。
今年度は連結売上高2兆5000億円・営業利益率8%の達成を掲げる中期経営計画の最終年度となる。だが、昨年度の受注高の伸び悩みを受けて、今期売上高は2兆3600億円、営業利益率7.6%の見通しを示す。増収増益ではあるものの、中計目標は現時点では未達の予想だ。本間社長は、「連結売上高2.5兆円は次期中計期間中の24年3月期には達成したい」と、粘り強く目標に肉薄していく姿勢を示す。
北米の構造改革で黒字転換を見込む
NTTデータにとってアキレス腱だった北米は、昨年度約160億円の巨費を投じて構造改革を実施。収益性が見込みにくい一部事業を売却しつつ、データ分析やAI技術を駆使したシステム構築(SI)、データウェアハウスのSnowflakeや、サービスマネジメントのServiceNowなど、北米の売れ筋商材を積極的に取り入れた提案活動に力を入れている。NTTデータの北米事業はこれまでBPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)系の仕事が多くを占めてきたが、「昨年度の受注のうち7割あまりがデジタル先進技術や売れ筋のオファリングを活用した案件が占めた」(本間社長)といい、構造改革の成果がすでに出始めている。
今年度の北米地域の業績見通しは、一部事業を売却していることから売上高こそ前年度比8.0%減を見込むものの、営業損益は昨年度の162億円の赤字から150億円への黒字転換を見込む(図参照)。欧州を中心とするEMEA・中南米地域は、今年度増収増益を見込んでいる。北米より早い時期に構造改革の投資を行ってきたことから、一歩早く業績が回復する見込み。とはいえ、製造業の集積度が高い「ドイツのIT投資意欲に依然として少し陰りが見える」(同)と懸念材料が残る。先進的なデジタル技術を駆使した付加価値の高い案件獲得に力を入れることで早期に正常軌道に戻す考え。
国内は公共、スマートシティ分野に注力
国内については、公共・社会基盤、金融、法人・ソリューションの主要3事業セグメントのいずれも今年度、増収増益を見込む。中でも公共・社会基盤の売上高は前年度比3.4%増と底堅い需要を見込む。今年9月にデジタル庁が発足し、中央省庁をはじめとするIT投資の増加が期待できるとともに、NTTグループと連携してスマートシティ領域にも積極的に取り組んでいく。
また、来年度(23年3月期)から始まる次期中期経営計画に向けては、業際連携による社会全体のデジタル転換を推進「デジタル」軸と、顧客と共創によって環境負荷に配慮しながら価値創造を行う「グリーン」軸の二つによって社会・産業全般にわたる変革を実現する方向性を示している。例えばデジタル軸では、行政と金融機関、医療、産業が生活者データを共有しつつ的確なサービスを提供する情報流通基盤ビジネス、グリーン軸では、NTTグループが持つAI、通信分野の研究開発力を活用しつつ、脱炭素や多様性を包含するスマートシティを実現することなどを念頭に置いている。
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