Special Feature
計画業務をモダンに進化する「IBP」アプローチとその実践
2021/06/10 09:00
週刊BCN 2021年06月07日vol.1877掲載
日本オラクル 実行系と計画系を同期させるIBPXを提唱
ERPと言うからには計画もできて当然
そもそもERPとはEnterprise Resource Planningの略である。しかし、いつの頃からか、ERPは計画系の機能を提供せず、実行系の機能のみを提供するものという認識が定着するようになった。この常識に真っ向から異を唱えるのがオラクルだ。日本オラクルのクラウドアプリケーション事業統括事業開発本部ERP/SCM企画・推進担当の中島透・ディレクターは「ERPに計画機能がないのはおかしい。私たちから見れば、計画ができないものは単なる業務パッケージに過ぎない」と語る。
多くの実行系業務アプリケーションは、定型的な作業の効率化は得意だが、顧客の反応の変化を見て、商品を変更したり、生産計画を変更したり、在庫の持ち方を変えたり、物流を変更したりなどの臨機応変な対応は苦手。というのも、個別データモデルを持つシステムが乱立し、信頼できるデータを見ての意思決定を阻害しているためだ。
本当の意味での「顧客第一主義」を実現するには、マーケティングや営業だけでなく、バックオフィスの会計や人事、さらに上流の生産、物流に至る組織全体が、信頼できる一つの情報源を見て、総合的に正しい意思決定ができなければならない。そして、適切と考えた施策の他部門への影響が予測できる仕組みがなくてはならない。
その実現に向けては、実行系と計画系が連動する製品アーキテクチャーにしなければならないとオラクルは考えた。オラクルが提供する計画ソリューション「IBPX:Integrated Business Planning and Execution」は、エンドツーエンドで計画系と実行系を統合するアーキテクチャーを採用した。Oracle IBPXには、「Oracle Enterprise Performance Management(EPM)」と「Oracle Supply Chain Planning(SCP)」の両方の機能が含まれており、経営層はもとより事業計画に関わる全ての人たちの意思決定を支援している。

ソースコード改修で実現したIBPX
だからと言って、実行系のマスターにエンドユーザーが自由に書き換えられるようにはしていない。中島ディレクターによれば、他社製品と同様に、事実を記録する実行系のマスターデータは常に一つしか持てないが、内部で計画系のデータを複数持てる処理を行っているのだという。
現在のオラクルが持つクラウドアプリケーション製品はERPの他、HCM(Human Capital Management)、SCM、CX(Customer Experience)と多岐にわたる。買収した製品も多い。それらの製品も含め、すべてのアプリケーションが同じマスターデータを参照するよう、オラクルはソースコードを書き直した。クラウドアプリケーションに変わったことで、オンプレミス時代にあったパフォーマンス劣化の問題を心配する必要もなくなった。
計画担当者の業務環境に目を向けると、Excelとメールしか使えず、細かいデータの収集の負担が大きいことが最大の悩みであろう。しかし、「計画業務をプロセスとして捉えると、作るまでよりもその後のモニタリングの方が重要」と中島ディレクターは指摘する。データモデルが統一されていないと、販売計画と生産計画、あるいは金額ベースの財務計画と数量ベースのサプライチェーンの計画との間に分断ができてしまう。
IBPXはこの分断を解消し、「販売数量が変わるとP/Lにどんな影響が出るか」などをリアルタイムに見られる仕組みを提供している。地域別、事業部別、商品軸などの分析軸はEPM側で持つ。というのも、オラクルのクラウドアプリケーションを使っている企業ばかりではないし、グローバル企業のように、東京の本社はOracle ERPを使っているが、別の地域では異なるERPを使っているケースもある。オラクルとしては同社のアプリケーションを使ってもらう方が価値を得られると考えているが、Oracle EPMだけ利用することも可能だ。
パートナーは、総合コンサルティングファームやSIerと、小規模ながらEPMに特化した“ブティックコンサルティングファーム”に分かれる。「Modern Best Practice」と呼ばれる事前定義済みのプロセスを220以上用意しており、導入期間は平均して5カ月程度と、オンプレミス時代よりも短期間での導入を実現している。パートナーもこのプロセスを参照可能だ。
ワークデイ ERPを再定義する
新構想「Enterprise Management Cloud」の狙い
ワークデイと言えば、主力製品はHCM(Human Capital Management)アプリケーションであるが、会計分野の製品も日本語化を終え、2021年上半期中の提供開始に向けて準備を進めている。そして、計画担当者向けに同社が提供するのが、「Workday Adaptive Planning」である。この製品はこれまで同社が提供してきたWorkday Planningと、18年に買収したAdaptive Insightsの製品を統合してできたクラウド型プランニングツールである。ここ数年、ワークデイは会計、人事、プランニングという3分野のクラウドアプリケーションをオールインワンで提供するべく、強化を進めてきた。21年度から新しく打ち出そうとしているのが「Enterprise Management Cloud構想」である。

今、このビジョンを掲げる背景には、「現在のERPはかつて描いた理想からかけ離れ、カスタマイズのしすぎで柔軟性を欠いたものになった」という問題意識がある。この認識は、「2025年の崖」を乗り越えようとしている企業は共感するものであろう。かつて、経済産業省はDXレポートの中で「部門ごとに構築してきた基幹情報システムが老朽化し、このまま放置していては国際競争力の向上を阻害する」と指摘し、あらゆる日本企業が解決すべき課題であると訴えた。“デジタルディスラプター”と呼ばれる新興企業との競争に勝ち残るには、モダンなシステムへの移行が不可欠だ。同社の荒井一広・マーケティングディレクターはこの構想について「今までのERPを完全にディスラプトするもの」と評した。
Enterprise Management Cloudの根幹を支えるのはデータだ。ワークデイのクラウドアプリケーション製品はUnified Data Coreと呼ばれるデータレイヤー上で稼働する。Unified Data Coreには、ワークデイだけでなく、外部のアプリケーションのデータも統合されている。そもそも計画業務で使うデータソースは財務や人事だけに限らない。仮に財務データだけしか扱えないようでは、経営層の求める意思決定の材料は提供できない。
加えて、過去の実績の数値は正確でなくてはならないが、計画の数値はある程度の範囲内に収まっていればよいという曖昧さがある。種類や質の異なるデータを整理し、様々な分析軸でデータを可視化できるようにする。それがUnified Data Coreの役割であり、IBPを実現する上で不可欠な仕組みを提供していると言える。
計画メンテナンスを容易にかつ迅速に
実は、旧Adaptive Insights製品はエンジニアではなく、事業会社のCFOが開発したものだ。その後、ワークデイの製品開発チームに統合されてからも、Excelとメールが中心の計画業務を効率化することに取り組んできた。多くの企業のAdaptive Planning導入を支援してきた経験から同社は、予算編成短期化のトレンドがここ数年で急速に進行していることを指摘している。
以前であれば、上期から進めてきた年度計画の修正は下期に向けて一度でもよかったが、今では3カ月で見直しが必要になることも珍しくないという。さらに上場企業の場合、業績予想の修正では迅速な対応が求められる。財務計画の策定からモニタリング、修正ではアジリティの重要性が高まっているわけだ。
ワークデイでは「ファイナンス」「ワークフォース(人事)」「セールス」「マーケティング」「オペレーション(生産)」「IT」の六つのユースケースを用意している。導入の出発点になるのはファイナンスだという。事業部単位での損益計画を作るためにファイナンシャルプランニングから導入し、人材配置の最適化のためにワークフォースプランニング、営業のパフォーマンスを引き上げるためにセールスプランニングをと、組織横断的な全社計画の仕組みの構築に向けて、スケールアウトさせるパターンが多いとしている。
荒井ディレクターが挙げた同社製品が選ばれる理由は主に二つある。一つは計画のメンテナンスを容易にかつ迅速に行えることだ。例えば、一度作った予算の前提条件が変わったら、すぐに期末の業績予想を見直したい。他の部門に助けてもらうことなく、自分たちで計画のメンテナンスができる。これは証券市場が求めていることでもある。
もう一つは「アジャイル実装」が可能なことだ。旧Adaptive Insights時代から、設定ベースで実装が可能な「ノーコード・ローコード」を重視してきたため、データソースが少ない場合は3カ月、多い場合でも6カ月程度で新システムが使えるようになる。
パートナー戦略では、旧Adaptive Insightsのパートナーが現在は中心だが、今後はワークデイがリセラー契約を交わしている日立ソリューションズやIBMなどと共にビジネスを進めていくことも視野に入れる。というのも、Adaptive Planningを単体で販売する場合と、Enterprise Management Cloudの1モジュールとして販売する場合の二つが考えられるためだ。
システムがバラバラに孤立することなく、エンドツーエンドでプランニングから財務会計、人事までを一つのソリューションとして提供し、企業経営をサポートする。これがEnterprise Management Cloud構想の目指すところだ。企業の“CxO”層に対して、ワークデイは迅速にリソースの最適化を行い、その意思決定とアクションに役立つ材料を提供するためのクラウドアプリケーションスイートを展開していく。

「2025年の崖」という問題意識からERPのモダナイゼーションに取り組んでいる企業にとって、見過ごせないのが計画業務のデジタル化である。予算編成に代表される財務計画から在庫水準の最適化のための生産計画に至るまで、ほとんどの企業の計画業務はExcelとメールに依存している。これでは、ビジネス環境の変化に応じて計画を臨機応変に見直したくてもできない。どうすればこの課題を解決できるのか。コロナ禍で不確実性が増大する中、どんな支援が求められているのか。プランニングツールを提供する主要3社に聞いた。
(取材・文/冨永裕子 編集/日高 彰)
S&OPからIBPへの発展
経済環境の不確実性が高い状況下では、期初に立てた年間経営計画の着地点を見通すことは難しい。世界がコロナ禍に見舞われた後はなおさらだ。ビジネス環境の変化の兆候を迅速にとらえ、リスクを最小に抑えつつ、売り上げや利益、キャッシュフローを最大化する計画プロセスの確立が重要性を増している。
通常、日本の上場会社は決算発表時に「次期の業績予想」を開示するが、発表済みの数値を修正する必要が生じた場合は、次の発表を待たず、即時に開示しなくてはならない。5月は3月期決算の企業の本決算の発表がピークを迎える。2020年のこの時期は、ちょうど最初の緊急事態宣言下にあったため、大混乱が発生した。この業績予想を正確かつ迅速に開示できるようにする仕組みとして注目を集めるのが、「IBP(Integrated Business Planning:統合ビジネス計画)」ソリューションである。
IBPは、会計、人事、マーケティング、営業、調達、生産、物流など、組織のあらゆる業務機能が連携し、信頼性の高い一つのデータソースを参照しながら、組織リーダーの継続的な意思決定と対策の実行を支援するアプローチである。このIBPのルーツは、需要と生産のバランス調整のための「S&OP(Sales and Operations Planning)」にさかのぼる。
SCMが数量ベースで在庫の最適化と納期の順守でオペレーションの最適化を行うのに対し、S&OPは数量ベースの供給計画と金額ベースの財務計画の整合性を保ちつつ、事業計画の達成を目指すアプローチとして1980年代に登場した。この考え方を基に、現代の企業が求めるものに発展させたものがIBPである。
今のIBPには、S&OPに欠けていた、戦略との整合性や「ヒト」というリソースの最適化の視点が加わっている。エンタープライズソリューションとしてのIBPは、財務計画や業績予想のためのEPM(Enterprise Performance Management)、部門を越えたデータを可視化するBI、シミュレーション機能を融合したものに進化した。
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