Special Feature
Datadogの進化から読み解く クラウド時代に求められる「オブザーバビリティ」とは
2022/02/28 09:00
週刊BCN 2022年02月28日vol.1912掲載

クラウドで利用するインフラサービスやその上で動くアプリケーションの運用において、新たに「オブザーバビリティ(Observability)」が注目を集めているが、これは従来の運用管理の監視やモニタリングといったい何が異なるものなのだろうか。仮想化基盤のモニタリングツールとして生まれた米データドッグは、クラウドに対応した監視機能や分析サービスを次々と追加し、オブザーバビリティを提供価値のコアと位置づけている。同社のソリューションの進化を通じて、クラウド時代の運用管理領域で注目されるオブザーバビリティの姿を明らかにする。
(取材・文/谷川耕一 編集/日高 彰)
インフラ監視から進化
米データドッグは、2010年にニューヨークで創業した企業だ。創業者のオリヴィエ・ポメルCEOと、同じく創業者のアレクシス・ルクオックCTOは、同社の創業前に企業のシステム開発、運用のリーダーを務めていた。当時、普段は仲が良い開発と運用のメンバーが、トラブル発生時などに責任のなすり合いをしているのを見ていた。この状況は、結果的にトラブルの解決が遅れることにもなりかねない。この課題を解決するために、二人は開発と運用の間にある壁を取り除きたいと考え、データドッグを立ち上げる。
同社はビジネスをすぐに始めるのではなく、まずリアルタイムの統合データプラットフォームを2年かけて構築した。日本法人Datadog Japanの国本明善・日本カントリーマネージャーは「開発と運用の壁を取り除くための、デザインに注力した」と説明する。このリアルタイム統合データプラットフォームを用いて、12年に最初に提供したのがインフラモニタリングの機能だ。

プロダクトとしての「Datadog」は、当初は仮想化基盤をモニタリングの対象とし、その後はクラウドを中心としてきた。現在では対象をコンテナに広げ、さらにプロセス管理やサーバーレスにも対応する。ITインフラが変化し進化する中、Datadogはそれらに応じたモニタリング機能を提供してきた。
ここまではインフラのモニタリングを中心にしてきたが、17年に新たな展開を開始し、APM(Application Performance Management)とログ管理の機能を追加した。インフラ、アプリケーション、ログの状態を網羅的に監視、モニタリングできるようになり、これらの機能が揃ったことで、Datadogはソリューションの価値としてオブザーバビリティをうたうようになる。
Datadogは時代の変化、顧客ニーズに合わせ対象を広げ、機能が追加されてきた。それらの機能追加の際、「最初にリアルタイム統合データプラットフォームを作ったので、面倒なインテグレーションは必要なかった」と、国本カントリーマネージャーは技術的な特徴を強調する。サービス基盤としてしっかりしたプラットフォームが用意されていることで、新たに開発した機能や買収で手に入れた機能も、個別のインテグレーション作業を行って連携させるような手間は発生しない。UIや管理なども一元化できるメリットがある。
順調に成長を続けているデータドッグは、グローバルの売り上げ規模が21年12月期に10億300万ドル(約1153億円)となっている。同年度第4四半期の収益は前年同期比で84%増と、高いレベルの成長が続いている。
日本市場には19年末に参入し、日本法人となる合同会社を設立したのは20年とまだ日が浅い。とはいえSaaSによるサービスだったこともあり、日本法人設立前から日本にもDatadogユーザーがあり、扱うパートナーも既にいた。そして始まったばかりの日本のビジネスも順調に成長しており、20年に法人を設立した当初二十数人で活動を始めた組織は、現在は4倍ほどに拡大している。
日本の売り上げも、グローバルと同等かそれ以上のペースで伸びているという。市場参入は遅かったが、日本においてクラウドマイグレーションが加速したタイミングでもあり、それに応えるためのサポート体制を整えビジネスの成長に対処できているともいう。
部門を越えて同じデータを リアルタイムに見て判断する
汎用機(メインフレーム)の時代は、1台のマシンに対し運用の専任者が付いて監視・管理していた。汎用機のシステムを扱うのは基本的にIT部門の社員で、決められた操作をするオペレーターはいても、一般社員が汎用機に直接触れるようなことはなかった。それがオープンシステムになり、クラウド、SaaS、さらにはクラウドネイティブなアプリケーション実行環境に変化し、今ではIT部門の社員だけでなくビジネス部門の一般社員もクラウドなどに直接アクセスし業務を進めている。「ITの“民主化”が加速しており、ユーザーにとって使いやすいものでなければ使ってもらえない。ITリソースを把握し、アプリケーションなどが問題なく動いていなければ、ビジネスを止めることにもなりかねない」(国本カントリーマネージャー)。
ITリソースの状況を把握し、アプリケーションをスムーズに動かす。かつてはそのためにシステム開発、インフラ管理のチームがあり、アプリケーション担当、さらにはセキュリティ担当などがいて、それぞれが担当領域に対し独自のツールを用いて別々に管理してきた。ところがクラウドの利用が進んだ現在では、ビジネス部門が主導しITサービスやアプリケーションを利用するようになっている。そのためクラウド時代の多様化し複雑化している環境では、それぞれの領域の専門家が個別に管理し、対応をすり合わせて安定運用を図るのはかなり難しいものがある。
つまり新しいクラウドネイティブな時代には、ビジネスユーザーも含め、自社のITの状況に関して部門を越え同じデータを使い、瞬時に判断できることが求められる。それを実現するのがオブザーバビリティということになる。単に監視と言えば、専門家による自分たちの領域に特化した範囲のモニタリングの話になるだろう。対してオブザーバビリティは、アプリケーションやサービスを使って実施している業務に関わる全ての人が、同じ情報をタイムラグなしに見てさまざまな判断ができるようにすることを意味する。
もちろん手組みでも各領域の監視ツールなどから情報を集め、ダッシュボードを構築し一元的に情報を見られるようにはできるだろう。しかしIT環境がオンプレミスからクラウド、エッジまで大きく広がり、物理サーバーもあれば仮想サーバー、コンテナやサーバーレス、SaaSなどさまざまなアプリケーション稼働環境もある中では、Datadogのような統合化されたモニタリング環境が求められ、それがSaaSですぐに簡単に使えることがオブザーバビリティの実現につながるわけだ。
汎用機などモノリシックなシステムであれば、従来の運用監視でも問題ない。しかし「マイクロサービス化して数十のサービスが連携して動くような場合に、一目でITリソースの状況を把握し判断できるのか。手組みの仕組みでモニタリングできるようにするのは不可能だ」と国本カントリーマネージャーは言う。
デジタルビジネスを支える プラットフォームになる
Datadogには、450以上のクラウドやサービスとの連携APIが用意されている。これにより顧客に負担をかけずオブザーバビリティを実現できる。顧客側には既に、監視のスキルとプロセスはある。それを取り替えるのではなく、Datadogにインテグレーションして利用できるようにするのが顧客へのアプローチ方法だ。そして最近のDatadogの導入傾向としては、セキュリティがキーワードとなることが増えている。DevSecOpsを実現する際にDatadogを導入し、セキュリティの状況も開発や運用と合わせ同じ画面で見られるようにするのだ。
またDatadogでは機械学習技術も積極的に取り入れ、トラブルや性能劣化が発生する前に対処方法を推奨する機能に力を入れている。「AIOpsで運用を自動化する前のステップとして、なるべく人が介在せずに運用ができるようにする。ここがしっかりとできた次のステップが運用自動化であり、Datadogを使い、まずは人が気づけないことに気づいて負担を減らす」と国本カントリーマネージャーは言う。
コロナ禍で日本でもデジタル化が加速しSaaSなどの利用も増えている。その結果、インフラだけでなくITスタック全てを監視し、得られるデータを分析して活用したいとの要望は企業規模の大小を問わず増えている。需要の拡大に対応するため、日本法人はパートナー戦略には力を入れている。現在30社を超えるパートナーがあり、さらに増やす考えだ。
具体的には、国内のクラウドマネージドサービスプロバイダーにDatadogを採用してもらう取り組みを進めている。またDatadogを再販するパートナーも増やす。単に再販だけを行うのではなく、クラウドインテグレーションに強みをもつベンダーにDatadogをサービスの一つに加えてもらう。
企業のクラウド化を上流からサポートするようなベンダーには、コンサルティングアプローチの中にDatadogを組み込んで提案してもらう。これらのパートナー戦略を進める上では、Datadogがクラウドインフラのモニタリングのツールから、オブザーバビリティを実現できるツールに進化している点を価値として訴求する。
国本カントリーマネージャーは「デジタルビジネスに関わる全てのエンジニアにとって、Datadogがなくてはならないプラットフォームになることを目指す」と力を込める。これは、Datadogが個々のモニタリング機能ではなく、最初に確固たるリアルタイムの統合データプラットフォームを構築したからこそ目指せる目標だという。

クラウドで利用するインフラサービスやその上で動くアプリケーションの運用において、新たに「オブザーバビリティ(Observability)」が注目を集めているが、これは従来の運用管理の監視やモニタリングといったい何が異なるものなのだろうか。仮想化基盤のモニタリングツールとして生まれた米データドッグは、クラウドに対応した監視機能や分析サービスを次々と追加し、オブザーバビリティを提供価値のコアと位置づけている。同社のソリューションの進化を通じて、クラウド時代の運用管理領域で注目されるオブザーバビリティの姿を明らかにする。
(取材・文/谷川耕一 編集/日高 彰)
インフラ監視から進化
米データドッグは、2010年にニューヨークで創業した企業だ。創業者のオリヴィエ・ポメルCEOと、同じく創業者のアレクシス・ルクオックCTOは、同社の創業前に企業のシステム開発、運用のリーダーを務めていた。当時、普段は仲が良い開発と運用のメンバーが、トラブル発生時などに責任のなすり合いをしているのを見ていた。この状況は、結果的にトラブルの解決が遅れることにもなりかねない。この課題を解決するために、二人は開発と運用の間にある壁を取り除きたいと考え、データドッグを立ち上げる。
同社はビジネスをすぐに始めるのではなく、まずリアルタイムの統合データプラットフォームを2年かけて構築した。日本法人Datadog Japanの国本明善・日本カントリーマネージャーは「開発と運用の壁を取り除くための、デザインに注力した」と説明する。このリアルタイム統合データプラットフォームを用いて、12年に最初に提供したのがインフラモニタリングの機能だ。

プロダクトとしての「Datadog」は、当初は仮想化基盤をモニタリングの対象とし、その後はクラウドを中心としてきた。現在では対象をコンテナに広げ、さらにプロセス管理やサーバーレスにも対応する。ITインフラが変化し進化する中、Datadogはそれらに応じたモニタリング機能を提供してきた。
ここまではインフラのモニタリングを中心にしてきたが、17年に新たな展開を開始し、APM(Application Performance Management)とログ管理の機能を追加した。インフラ、アプリケーション、ログの状態を網羅的に監視、モニタリングできるようになり、これらの機能が揃ったことで、Datadogはソリューションの価値としてオブザーバビリティをうたうようになる。
Datadogは時代の変化、顧客ニーズに合わせ対象を広げ、機能が追加されてきた。それらの機能追加の際、「最初にリアルタイム統合データプラットフォームを作ったので、面倒なインテグレーションは必要なかった」と、国本カントリーマネージャーは技術的な特徴を強調する。サービス基盤としてしっかりしたプラットフォームが用意されていることで、新たに開発した機能や買収で手に入れた機能も、個別のインテグレーション作業を行って連携させるような手間は発生しない。UIや管理なども一元化できるメリットがある。
順調に成長を続けているデータドッグは、グローバルの売り上げ規模が21年12月期に10億300万ドル(約1153億円)となっている。同年度第4四半期の収益は前年同期比で84%増と、高いレベルの成長が続いている。
日本市場には19年末に参入し、日本法人となる合同会社を設立したのは20年とまだ日が浅い。とはいえSaaSによるサービスだったこともあり、日本法人設立前から日本にもDatadogユーザーがあり、扱うパートナーも既にいた。そして始まったばかりの日本のビジネスも順調に成長しており、20年に法人を設立した当初二十数人で活動を始めた組織は、現在は4倍ほどに拡大している。
日本の売り上げも、グローバルと同等かそれ以上のペースで伸びているという。市場参入は遅かったが、日本においてクラウドマイグレーションが加速したタイミングでもあり、それに応えるためのサポート体制を整えビジネスの成長に対処できているともいう。
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- 「部門を越えて同じデータをリアルタイムに見て判断する」を実現するオブザーバビリティ
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