かつてクラウドは、技術的なパーツの一つと捉えられてきた。しかし、クラウドを多くの企業が利用するようになった結果、クラウドは技術要素ではなく、課題解決のための手段になり、顧客の要求に直接応えるビジネスソリューションに変わりつつある。このような変化は、SIerなどのIT企業にどのような影響をもたらすのか。クラウドを取り巻く市場状況をあらためて確認しながら考えてみたい。
(取材・文/谷川耕一  編集/日高 彰)

クラウド移行・運用の需要が伸びる

 米調査会社ガートナーによれば、クラウド市場のうちIaaS/PaaSは年率で40%ほどの成長があるという。この割合での成長が2年続けば、市場規模は約2倍となる計算だ。SaaSも成長は続いているが、IaaSよりも以前からあった形態のサービスであり、市場が他より成熟しているためか、IaaSやPaaSより少し低めの成長率となっている。このような傾向の中では、「IaaS/PaaSの大きな成長をどのように自分たちのビジネスに生かすかが重要だ」とガートナージャパンリサーチ&アドバイザリ部門の桂島航・バイスプレジデントアナリストは言う。
 
ガートナージャパン 桂島 航 バイスプレジデント アナリスト

 一方、クラウド市場の動向を顧客視点で見るとどうなっているのか。2020年にガートナーが企業のCIOに投資の増減項目を質問したところ、クラウドプラットフォームへの投資意向はかなり強いものがあったという。逆に投資を減らしたい項目としては、レガシーインフラストラクチャーとデータセンターテクノロジー、つまりはオンプレミスへの支出が挙がる。

 クラウド市場を牽引しているIaaS/PaaSを合わせたベンダーシェアでは、グローバルでAWSが大きなシェアを確保している。AWSは2位のマイクロソフトの倍くらいの規模があるが、19年から20年にかけてシェアは少し減らしている。AWSがそれだけ大きなシェアを維持するには、継続して倍のビジネスを続けなければならないが、さすがにそこまでの勢いはないようだ。AWS、マイクロソフトに続くのは、中国などアジアで強いアリババ、そしてグーグルといった具合で、ハイパースケーラーと呼ばれるベンダーだ。

 このようにハイパースケーラーが強さを見せる中で、クラウドに関連するITサービスの市場も大きく伸びている(左下グラフ参照)。その中でも大きいのがマイグレーションだ。これにはオンプレミスからクラウドへの移行作業だけではなく、移行に伴うアプリケーションの改修なども含まれる。ITベンダーのビジネスでは、クラウド上での新規アプリケーションの構築よりも「オンプレミスからクラウドに動く部分での需要を、どう捉えるかが短期的には重要となるだろう。その上でAWSやAzureの運用を助けるマネージドサービスにも大きな市場機会がある」と桂島アナリストは指摘する。
 

 マネージドサービスは継続型のいわゆるストックビジネスであり、これにチャレンジできるかどうかがITベンダーにとっては重要となりそうだ。そして、グローバルでは76%の企業が複数のIaaSを並行して利用しているといい、マネージドサービスではマルチクラウドへの対応が求められる。日本はまだ複数IaaSの利用割合はそれほど高くないが、近々にグローバルと同じような傾向になると予測される。

 このようにIaaS/PaaSを中心に拡大してきたクラウド市場だが、今後はIaaS/PaaSだけで捉えるのは危険だとも桂島アナリストはいう。「クラウドはもう一段、違う変化を見せてくる」と推測する。