かつてよく使われた「ディスラプター(破壊者)」という表現は、もはや古めかしいものになってしまった感がある。それでも、デジタルテクノロジーをフル活用してゲームチェンジに挑む取り組みは、新興企業、市場の既存プレイヤーを問わず着実に増えている。例えば日本の保険業界では、最後発のインターネット型自動車保険会社がビジネスのドラスティックな変革を進め、“InsurTech(保険+テクノロジー)”の旗手になりつつある。エンタープライズIT市場の「オールスター」とでも表現できそうなトップベンダーたちが支える現在進行形のDXプロジェクトを追う。
(取材・文/本多和幸)

 東京海上グループが2009年に設立したイーデザイン損害保険は、業界最後発のネット型自動車保険会社だ。そのビジネスの性質上、顧客体験(CX)や業務品質の向上にデジタルテクノロジーを積極的に活用する動きをグループ内で先導してきたが、昨年11月にその集大成ともいえる商材として、新たな自動車保険「&e」(アンディー) を発売し注目を集めている。

 &eを開発した背景には「究極のCXの実現」と「レガシーシステムからの脱却」という経営課題があった。
 
イーデザイン損害保険 酒井宣幸 取締役

 市場の最後発企業である同社がプレゼンスを高めるには、競合他社と一線を画したビジネスモデルに変革する必要があるという意識が経営層にはあった。そこで18年6月、部署横断で同社の変革で目指すゴールを議論する「ありたい姿プロジェクト」を立ち上げた。酒井宣幸・取締役IT企画部長兼ビジネスアナリティクス部長は「保険という機能だけでなく、お客様の体験そのものをバックキャスティング(ありたい未来像からの逆算)思考でデザインし直すというコンセプトでワークショップを行った」と説明する。顧客対象としてデジタルネイティブ層が拡大していく中で、従来とは異なるレベルでデジタルテクノロジーを活用した抜本的な提供価値の再構築が必要であるという意識が全社に浸透していったという。
 

 ありたい姿プロジェクトをきっかけに、企業パーパスを「事故時の安心だけでなく、事故のない世界そのものを、お客さまと共創する」と再定義した。これに伴いミッション、ビジョン(ミッション実現のための行動指針)をそれぞれ「事故のない安心・安全な世界の実現」「保険業界の新しいかたちをお客さまとともに」と設定。顧客に対しては、分かりやすく不安を感じないパーソナライズされたサービスを提供するだけでなく、事故に遭わない、事故を起こさない行動をデジタルの力で支援することで究極のCXを実現するという方針を固めた。

 ただし、こうした構想を実現するには情報システムも抜本的に変革する必要がある。同社は従来、90年代に発売された保険パッケージをベースにしたシステムを使っており、これがビジネスの変革の足かせになりかねないことも深刻な課題として浮上していた。酒井取締役は「機動性や柔軟性の不足、システム維持コストの急騰リスク、技術者枯渇などの課題・リスクを抱えていて、経済産業省のDXレポートで指摘された『2025年の崖』問題の典型例ともいえる状況に陥っていた」と振り返る。

 社内や東京海上グループ内で議論を重ねた結果、究極のCXの実現とレガシーシステムからの脱却は同時並行で取り組むべき課題であるという結論に至り、そのための方法論として、東京海上グループはイーデザイン損保をグループ全体の「デジタルR&D拠点」と位置付け、「InsurTech保険会社」に変革する構想を打ち出した。InsurTechとは、Insurance(保険)とTechnologyを掛け合わせた造語で、FinTechの一分野だ。&eは、InsurTech保険会社としての同社が市場に提供する商品・サービスの第1弾ということになる。