SIer主要3社の2021年度(22年3月期)の連結決算が出そろい、軒並み好業績となった。顧客のデジタル変革に向けたIT投資意欲が高水準で推移していることに加え、新規のM&A効果や、円安による海外ビジネスの為替影響などが後押しした。NTTデータは海外事業のグループ再編を受け、単純合算ベースで年商が約3.5兆円に増える見込みで、野村総合研究所(NRI)は中期経営計画で掲げた営業利益を21年度に1年前倒しで達成。TISは中計目標の売上高を22年度(23年3月期)に1年前倒しで到達できる見通しを示す。
(取材・文/安藤章司)
海外での“稼ぐ力”が強くなる
NTTデータの22年3月期の連結売上高は前期比10.1%増の2兆5519億円、営業利益は同52.8%増の2126億円と過去最高の業績を更新するとともに、売上高については33期連続の増収を達成した。国内IT投資が底堅く推移していることに加え、海外事業におけるM&Aや円安による為替のプラス要素、さらに一連の構造改革によって「海外で稼ぐ力が強くなっている」(本間洋社長)ことが好業績につながった。
21年度は3カ年中期経営計画の最終年度で、中計の経営目標としていた連結売上高2.5兆円、営業利益率8%のいずれも達成した。21年度の北米での営業利益は20年度の162億円の赤字から172億円の黒字に転換、EMEA(欧州・中東・アフリカ地域)・中南米でも20年度の61億円の赤字から156億円の黒字に転換するなど利益面で苦戦していた海外の事業構造の改革成果が出てきたことが追い風となった。
日欧米の主要市場でコロナ禍が落ち着いてきた一方、ロシアによるウクライナ侵攻で安全保障環境の悪化が懸念される。NTTデータのロシア事業は「すでに売却フェーズに入っている」(NTTの澤田純社長)で影響は限定的と話す。英国に本社を置く海外事業会社のNTTリミテッドを含めた海外事業全体で見てもロシアでの新規事業は停止している。ロシアでの従業員数も数十人規模で大勢に影響はないと見る。戦禍に見舞われるウクライナで勤務するNTTグループの従業員もロシアより若干多い程度だという。
つくる力とつなぐ力で3.5兆円へ
NTTデータは、軌道に乗ってきた海外事業を一段と強化するため、英国のNTTリミテッドとNTTデータの海外事業を22年10月に統合する。両社の単純合算ベースの売上高は約3.5兆円、従業員数は約15万人から約18万人、海外売上高比率は足元の約4割から6割へ拡大する見込み。
NTTリミテッドは、旧ディメンションデータとNTTコミュニケーションズの海外事業などを統合して発足した海外事業会社で、ネットワーク構築やデータセンター、ITマネージドサービスといったITインフラ回りのビジネスを強みとしている。
NTTデータ 本間 洋 社長
一方、NTTデータは基本的には業務アプリケーションの開発が主力。本間社長は「NTTデータの『つくる力』とNTTリミテッドの『つなぐ力』を結集することで新しい価値を顧客企業に提供できる」と、ITインフラから業務アプリまで一気通貫で手がけることで、価値創造の力量が大幅に高まると統合の狙いを話す。
23年7月には持ち株会社のNTTデータホールディングス(仮)を設立し、その下に国内事業会社と海外事業会社を横並びに置く体制へ移行させる予定だ
ただ、NTTコミュニケーションズが手がけてきた通信キャリアとしての事業を引き継いだNTTリミテッドとの統合は、“SIerのキャリアフリー”の強みに水を差す恐れもある。SIerは通信キャリアやコンピューターメーカーから距離を置き、専門的な知見を生かして顧客の機材やサービス選定を中立的な立場で助言をする“目利き役”を務め、ベンダーロックインを嫌うユーザー企業から評価されてきた。
だが、NTTデータはこれまでもリミテッドと事業会社同士の連携を推進しており、この経験から「顧客への提供価値を高められる」(本間社長)と確信。リミテッドとの経営の一体化へと踏み込むことで経営のスピードを上げ、競争力を高めていく戦略を推し進める。
競合他社に目を向けると、米IBMはITインフラ事業部門を昨年9月にキンドリルとして分社化し、距離を置く施策を打つのに対して、NTTデータは逆にITインフラ領域を強みとするNTTリミテッドを取り込むことで競争力を高める方向に舵を切った。
NTTデータは、NTTリミテッドとの統合、新規のM&A、既存事業の一段と成長によって、26年3月期までの4カ年の経営目標で連結売上高4兆円、営業利益4000億円(営業利益率10%)、年間売上高50億円以上の国内顧客、同5000万ドル以上の海外顧客の合算数を現在の82社から120社へ拡大させる目標を掲げる。
海外売上高1000億円を射程圏内に
野村総合研究所(NRI)の22年3月期連結売上高は前期比11.1%増の6116億円、営業利益は同31.5%増の1062億円、営業利益率は同2.7ポイント増の17.4%と過去最高の業績を更新。営業利益については23年3月期までの4カ年中期経営計画の目標としていた1000億円を1年前倒しで達成。23年3月期連結売上高は中計目標である6700億円を目指す方針に変更はない。
21年度売上高の伸び幅である612億円の内訳は国内と海外で半分程度。オーストラリアで2社、ならびに21年12月にグループに迎え入れた米SIerのCore BTSの海外でのM&A効果が約230億円ほど含まれており、既存事業だけの伸びは約7%だった。中計目標1年前倒しとなった営業利益は、横浜市内のビルの売却益など一過性の利益を除いた既存事業ベースで約17%増と、好調な国内IT投資に支えられつつ、海外M&Aを上乗せする構図となった。
21年度の海外売上高は、主力の豪州でのビジネスがコロナ禍の落ち込みから復調したことに加えて、年商1億5000万ドル(約195億円)規模のCore BTSが加わったことから20年度比71.5%増の765億円と大きく伸びた。22年度はCore BTSがフルで連結するのに加えて、既存事業の伸びが期待できることから中計で掲げた海外売上高1000億円の目標を射程内に捉える。
NRI 此本臣吾 会長兼社長
NRIは中計目標が射程内に入ったことを受けて、30年に年商1兆円、うち海外売上高2500億円、営業利益率20%とする“2030年の成長イメージ”を公表した。一般的にデジタルトランスフォーメーション(DX)と言うと企業や業界ごとのデジタル変革を想定しがちだが、NRIではDXの発展の方向性として「企業や業種の垣根を越えて、社会全体のデジタル変革の需要が拡大する」(此本臣吾会長兼社長)と見ている。一連のDX需要を捉えつつ、国内や豪州での既存事業を伸ばし、北米市場でのビジネス一層の拡大や新規M&Aによって成長ストーリーを描く考え。
中計目標を前倒しで達成見込み
TISの22年3月期の連結売上高は前期比7.6%増の4825億円で12期連続増収、営業利益は同19.7%増の547億円で11期連続増益を達成した。既存事業が力強く伸びたことに加えて、M&A効果も約100億円あった。営業利益率も11.3%と20年度比で1.1ポイント増えており、稼ぐ力も着実に強まっている。
23年3月期もIT投資が高水準で続くことが期待できることから連結売上高5000億円、営業利益570億円を見込んでおり、24年3月期までの3カ年中期計画で掲げた売上高5000億円を1年前倒しで達成できる可能性が出てきた。営業利益に関しては、決済サービス、健康医療、ロボティクスなど重点領域での独自商材の開発投資や、企業や社会が抱える課題を解決する高度人材の育成投資を優先するため、中計前倒し達成にこだわらないとしている。
TIS 岡本安史 社長
TISは21年3月期までの前の3カ年中期経営計画でも売上高、営業利益の目標をともに1年前倒しで達成するなど、業績予想の上振れが続いている。岡本安史社長は、「自然災害や世界情勢の変化が顧客企業のビジネスにどのような影響を与えるのかの予測は困難で、楽観的な観測はできない」と、今後とも慎重に経営の舵取りをしていく構え。
一方で、タイのSIerのMFEC、データ分析の澪標アナリティクス、プリペイド決済サービスのULTRA、千代田化工建設との合弁会社のTIS千代田システムズを連結子会社にする一方、グループの相乗効果が薄いと判断した中央システムを売却するといったグループ再編やM&Aを意欲的に推進。併せて独自商材や人材投資を加速させることで持続的な成長を実現していく。