Special Feature
拡大続くセールスフォースのエコシステム もたらす価値は多岐に
2022/06/16 09:00
週刊BCN 2022年06月13日vol.1926掲載

セールスフォース・ジャパンのパートナーエコシステムが拡大を続けている。エコシステムのビジネス規模は、既に同社自体のビジネスの規模を大きく上回っており、今後も成長が継続する見通しだ。クラウドを中心としたDX需要の増加などに伴い、パートナーの数はここ最近、急増。もたらす価値は多岐にわたっておりエンドユーザーによる外販やパートナー同士の連携、事業変革につながっている。枠組みはIT業界だけにとどまらず、他業種への広がりに向けて期待感が高まっている。
(取材・文/齋藤秀平)
切っても切れない存在
セールスフォース・ジャパンは、米本社が発足した翌年の2000年に設立した。企業の規模に関係なく、インターネットに接続すればSFAやCRMなどのサービスが素早く利用できることを強みに事業を展開。設立当初からパートナーの存在を重要視し、エコシステムの拡大を進めてきた。同社のパートナーは、大きく「コンサルティングパートナー」と「ISVパートナー」の二つに分類される。コンサルティングパートナーは大手SIerなどが対象で、SIや技術支援などを担う。一方、ISVパートナーは、同社のマーケットプレイス「AppExchange」で、同社製品と連携できるビジネスアプリケーションなどを提供できる。
現在、コンサルティングパートナーが約400社、ISVパートナーが約200社となっており、とくに前者は直近2年間で倍増した。積極的な買収戦略によって新たにパートナーが加わったほか、コロナ禍で各企業がDX戦略を推進する中、クラウドの活用に注目が集まっていることもパートナー数の増加を後押ししているという。
エコシステムの拡大に伴い、関連ビジネスの規模も大きくなっている。同社は21年、米調査会社IDCがまとめた「Salesforceエコノミー」に関する調査結果を発表した。それによると、エコシステムのビジネス規模は、同社自体のビジネス規模の5倍と推定された。
クラウドへの投資は今後も続くと予想されており、ビジネス規模は26年には6.5倍に達し、同年のエコシステムの事業収益は20年比3.2倍になると予測されている。
さらに、26年までに同社が国内で創出する収益1ドルに対し、エコシステムには6.5ドルの収益をもたらすとされる。21年から26年までに、国内で44万300人(世界で933万人)の新規雇用と974億ドル(世界で1兆600億ドル)の新規事業収益を創出することも報告されている。
同社のパートナー事業を統括する専務執行役員の浦野敦資・アライアンス事業統括本部統括本部長は「国内のビジネスのうち7割前後について、パートナーが何かしらの支援をしている」とし、「われわれの成長を考える上で、エコシステムは切っても切れない存在になっている」と語る。
成功を直に体験できる
同社は、営業やマーケティング、技術の支援などに加え、ビジネスアプリの提供によって同社の製品にはない機能を追加できるAppExchangeなど、独自の取り組みも進めている。パートナーのITエンジニアは、エンドユーザーとかかわる機会が多いのが特徴で、これが好評を得ているという。浦野専務執行役員は、調査会社がパートナーのエンジニアを対象に実施したアンケートの結果を示し「セールスフォース関連の仕事が楽しく、今後も意欲を持って働けると答えたエンジニアの割合は、一般的なエンジニアと比較して約2倍高かった」と説明し、「エンドユーザーの成功を直に体験してもらえることは、エンジニアの喜びにつながっている」とつけ加える。
エコシステムは順調に拡大しているが、引き続き強化を進める考え。具体的な取り組みとしては、一つ一つのプロジェクトが複雑化している状況を受け、「外資のIT企業としては珍しい」(浦野専務執行役員)というプロジェクトマネジメントスキルの醸成に向けた支援に力を入れている。多様化するエンドユーザーのニーズに応えるため、マルチプロダクトで課題を解決できる人材の育成も進めている。業種に特化した強みを持つパートナーとの連携の推進や、地方での支援体制の拡充などにも注力中だ。
ITベンダーへの支援だけにとどまらず、エンドユーザー発のサービスの提供を充実させる戦略もある。神奈川県秦野市の鶴巻温泉で旅館「元湯 陣屋」を運営する陣屋グループは、セールスフォースのアプリケーションプラットフォームで開発したクラウド型旅館・ホテル管理システム「陣屋コネクト」をAppExchange上で販売しており、こうした事例を増やすことを想定している。
浦野専務執行役員は「旅館業は、これまでアプローチしきれていない業種だった」と解説し、陣屋グループのように、自分たちが得たノウハウを外部に展開できるようにすれば、支援できる企業の拡大につなげられるとみる。その上で「ITを専業としていない企業によるクラウドビジネスの開始を助けられることは、われわれの大きな強みの一つだ」と話す。
アクセンチュア
市場を一緒につくる感覚
パートナーにとって、セールスフォースのエコシステムに加わることは、どのようなメリットがあるのか。コンサルティングパートナーとして国内トップの実績を誇るアクセンチュアの篠原淳・テクノロジーコンサルティング本部クラウドファーストアプリケーションアジア太平洋・アフリカ・中東地区統括マネジング・ディレクターは「市場を一緒につくっている感覚があることは、エコシステムの特徴の一つだ」と話す。
同社は、ほかのグローバルITベンダーともパートナー関係を構築している。その中で「パートナーが情熱を持っている点は他社のエコシステムとは違う点」と分析。その理由については「パートナーが、セールスフォースのビジネスでもうけられると思っているからだ」と強調する。
パートナープログラムの内容は「他社と同じように充実している上、パートナーに対して非常に親身。新しい製品やサービスがどういったものかをすぐに教えてくれるほか、技術的な支援もしっかり対応してくれる」と説明する。
エコシステムの中で、資格保有者数やエンドユーザーからの評価などが公開されているオープンな点も歓迎しており、「パートナーは、投資した分のリターンをはっきりと見ることができる。それに加え、自社のケイパビリティをエンドユーザーにアピールできるし、個人としても会社のランキングが上がればうれしくなる」と語る。
同社は現在、主に大企業を対象にビジネスを展開している。クラウドへの投資意欲の高まりを背景に「セールスフォース関連のビジネスはものすごい勢いで伸び続けている」と説明し、「セールスフォースの成長に比例するかたちで、われわれも成長している」と胸を張る。
自社のビジネスに注力するだけでなく、エコシステムの拡大にも一役買っている。前述のプロジェクトマネジメントスキルの醸成では、育成コースを設けてパートナー向けの教育を実施した。パートナーが所属会社をまたいで勉強する取り組み「サタデー」では、会場としてオフィスを提供したり、社内の資格保有者を講師として出したりしている。
参加者は、市場では競争相手になることがある。しかし、篠原マネジング・ディレクターは「個別に取り組みを進めて市場で競争するよりも、セールスフォースのエコシステムを拡大させ、共創するほうが、お互いにとって利益が広がるはずだ」との考えだ。こうした横のつながりは、個社で課題の解決が難しいビジネスの場面でも生きているという。
今後は、エコシステムのさらなる拡大を見据えており、「エコシステムの外にいる人たちに新たに参加してもらうため、われわれやセールスフォースの名前を使ったり、各パートナーの協力を得たりしながら一大キャンペーンを実施できたらいいなと考えている」との構想を描く。
フレクト
ビジネスに伴走してくれる
クラウドインテグレーションなどを手掛けるフレクト(東京)は、10年ほど前からセールスフォース関連のビジネスを受注している。以前に比べて業績は大きく伸びており、昨年12月には東京証券取引所マザーズ市場(当時)に上場した。大橋正興・取締役COO兼クラウドインテグレーション事業部事業部長は、きめ細かいサポートや高い製品力を挙げ「セールスフォースは、われわれのビジネスに伴走してくれている」と語る。
同社は従来、顧客先に常駐し、システムを開発するビジネスを展開していた。しかし、リーマン・ショックで仕事が半減。生き残りをかけて新たなビジネスを探す中、セールスフォースのパートナーになることにした。
多くのITベンダーの中で、同社を選んだのは「ほかの大手ベンダーからも話は聞いたが、パートナーを支える体制が最も手厚く、そして最も熱量があった」からだ。
その後、セールスフォース製品の機能拡張に合わせてビジネスを拡大した。幅広い領域への進出に成功し、HerokuやIoT、AI、ミュールソフトの製品を活用することで付加価値も向上。ビジネスの単価が以前に比べて約2倍になったほか、優秀なエンジニアの採用もできるようになり、「セールスフォースのビジネスをやることによって、会社は成り立っている」と大橋COOは説明する。
パートナーへの支援については「これまでの資格取得や商談、セミナーに関する部分に加え、人材育成や採用の面などをはじめ、年々、手厚くなっている」と感じており、「お互いのビジネス目標を共有することが多くなり、つながりはより深くなっている」と話す。
その上で「われわれは、新しい領域を常に手の内に入れていくことを繰り返して伸びてきたので、セールスフォースには、これからも新しい製品を生み出し続けてほしい」と要望する。
さらに「個社でできることは限られている一方、ビジネスの範囲はどんどん広がっている。エコシステムの中で、得意領域のある会社が増えて、一緒に仕事ができるようになればいい」と期待する。

セールスフォース・ジャパンのパートナーエコシステムが拡大を続けている。エコシステムのビジネス規模は、既に同社自体のビジネスの規模を大きく上回っており、今後も成長が継続する見通しだ。クラウドを中心としたDX需要の増加などに伴い、パートナーの数はここ最近、急増。もたらす価値は多岐にわたっておりエンドユーザーによる外販やパートナー同士の連携、事業変革につながっている。枠組みはIT業界だけにとどまらず、他業種への広がりに向けて期待感が高まっている。
(取材・文/齋藤秀平)
切っても切れない存在
セールスフォース・ジャパンは、米本社が発足した翌年の2000年に設立した。企業の規模に関係なく、インターネットに接続すればSFAやCRMなどのサービスが素早く利用できることを強みに事業を展開。設立当初からパートナーの存在を重要視し、エコシステムの拡大を進めてきた。同社のパートナーは、大きく「コンサルティングパートナー」と「ISVパートナー」の二つに分類される。コンサルティングパートナーは大手SIerなどが対象で、SIや技術支援などを担う。一方、ISVパートナーは、同社のマーケットプレイス「AppExchange」で、同社製品と連携できるビジネスアプリケーションなどを提供できる。
現在、コンサルティングパートナーが約400社、ISVパートナーが約200社となっており、とくに前者は直近2年間で倍増した。積極的な買収戦略によって新たにパートナーが加わったほか、コロナ禍で各企業がDX戦略を推進する中、クラウドの活用に注目が集まっていることもパートナー数の増加を後押ししているという。
エコシステムの拡大に伴い、関連ビジネスの規模も大きくなっている。同社は21年、米調査会社IDCがまとめた「Salesforceエコノミー」に関する調査結果を発表した。それによると、エコシステムのビジネス規模は、同社自体のビジネス規模の5倍と推定された。
クラウドへの投資は今後も続くと予想されており、ビジネス規模は26年には6.5倍に達し、同年のエコシステムの事業収益は20年比3.2倍になると予測されている。
さらに、26年までに同社が国内で創出する収益1ドルに対し、エコシステムには6.5ドルの収益をもたらすとされる。21年から26年までに、国内で44万300人(世界で933万人)の新規雇用と974億ドル(世界で1兆600億ドル)の新規事業収益を創出することも報告されている。
同社のパートナー事業を統括する専務執行役員の浦野敦資・アライアンス事業統括本部統括本部長は「国内のビジネスのうち7割前後について、パートナーが何かしらの支援をしている」とし、「われわれの成長を考える上で、エコシステムは切っても切れない存在になっている」と語る。
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- パートナーのITエンジニア エンドユーザーの成功を直に体験できる
- コンサルティングパートナーとして国内トップの実績を誇るアクセンチュア 市場を一緒につくる感覚
- クラウドインテグレーションなどを手掛けるフレクト セールスフォースはビジネスに伴走してくれる
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