Special Feature
2軸で描く成長への軌跡 生まれ変わったパナソニックコネクトのこれから
2022/07/11 09:00
週刊BCN 2022年07月11日vol.1930掲載

BtoBソリューション事業を手掛けるパナソニックコネクトが、2022年4月にスタートして約3カ月が経過した。ブルーヨンダーを核に据え、ソフトウェア事業をベースにした成長事業、ハードウェア事業によるコア事業の2軸により成長戦略を描く。過去5年間の体質改善によって生まれ変わったパナソニックコネクトは、どのような未来へと進んでいくのか。
(取材・文/大河原克行 編集/藤岡 堯)
パナソニックグループは、22年4月から、パナソニックホールディングスを持株会社とし、その傘下に独立法人を設置。七つの事業会社が自主責任経営を行う体制へと移行した。七つの事業会社の一つが、パナソニックコネクトであり、それまでのパナソニックコネクティッドソリューションズ(CNS)社が母体となっている。
21年度実績で売上高9249億円、従業員数約2万8500人(国内約1万2500人、海外約1万6000人)の規模を持ち、24年度の目標として、売上高1兆1700億円、リカーリング比率50%、EBITDA1500億円、EBITDA率は13%を掲げる。樋口泰行社長・CEOは「財務面でピカピカの会社にしたい。強い会社を目指したい」と語る。
5年間で九つの事業を撤退・終息
事業構成をみると、成長の柱となるサプライチェーンマネジメント(SCM)ソフトウェアを提供するブルーヨンダーホールディングのほか、国内ソリューション営業を担当してきたパナソニックシステムソリューションズジャパン(PSSJ)を前身とする「現場ソリューションカンパニー」、電子部品の実装機や溶接機事業を行う「プロセスオートメーション事業部」、プロジェクターや放送用カメラ、音響機器などを展開する「メディアエンターテインメント事業部」、レッツノートやタフブックなどのPC、決済端末を中心とする「モバイルソリューションズ事業部」、航空機の機内エンターテインメント事業などを担う「パナソニック アビオニクス」などが並ぶ(図1参照)。
日本マイクロソフトの社長・会長を務めていた樋口社長・CEOが、古巣のパナソニックに戻ったのは17年4月。それから5年間、CNS社の社長として、大胆な改革に挑んできた。POS端末やフィーチャーフォン、ドキャメントスキャナ、PBX、SDカード、光ピックアップ、アグリ事業を終息したのに加え、セキュリティシステム事業への外部資本の導入、通信衛星サービス事業の売却、岡山工場およびパナソニックモバイルコミュニケーションズ北京工場の閉鎖などを行った。
特に大胆なメスを入れたのがハードウェア関連事業だ。アジアの新興国との直接対決や力の勝負をしない分野、参入障壁を築ける分野、日本企業としてハードウェアを研ぎ澄ませていける分野に事業を絞り込んだ。その結果、ハードウェア事業が陥りやすい、コモディティ化による収益悪化のリスクが排除できるプロセスオートメーション、メディアエンターテインメント、アビオニクス、モバイルソリューションズの四つの事業に限定した。これをコア事業と位置づける。
樋口社長・CEOは「それぞれの事業の核になっているのは、グローバルNo.1や国内No.1の製品である。そして、EBITDAが常に10%以上か、10%を狙うことができる事業である。これ以外のハードウェアはやらない」と断言する。ハードウェア事業では、ソリューションレイヤーへのシフトに取り組んでおり、これも差別化と収益性の向上につなげる手段となる。
成長事業の柱となるブルーヨンダー
ハードウェアによる「コア事業」に対して、ソフトウェアをベースにした領域を「成長事業」に位置づける。ブルーヨンダー単体での事業成長、ブルーヨンダーとパナソニックによるシナジーの創出、現場ソリューションカンパニーによる国内ソリューション事業の三つが推進役だ(図2参照)。
ブルーヨンダーは1985年の設立で、買収を繰り返しながら、35年間にわたってサプライチェーンに特化したビジネスを推進し、21年9月にパナソニックグループが完全子会社化した。中核となる「Luminate Platform」は、AIを利用して需要や供給、リソースの運用オペレーションの自動化を行い、業務をリアルタイムで予測して、即応できるように支援する。将来的には、サプライチェーンの上流から下流までをカバーし、現場のエッジデバイスやセンサーをソフトウェアで結び、自律的に連携して、課題への対応を図る「オートノマスサプライチェーン」の実現を目指す。
ブルーヨンダーとパナソニックとのシナジーとしては、23年度以降にグループにブルーヨンダーのソリューションの本格導入を開始して、自らをショーケース化するほか、日本市場開拓の加速に向け、樋口社長・CEO自らがブルーヨンダージャパンの代表取締役会長を兼務する。
パナソニックが持つセンシング、顔認証、画像解析といった技術の組み合わせによって約60のユースケースを特定し、その中から、小売店における電子棚札を活用した「ライブプライシング」と、倉庫におけるトラック管理を行う「ヤードマネジメント」の二つを22年度中にソリューション化する考えを示している。さらにパナソニックが得意とする現場データとの連携によるSaaSの高付加価値化や、ホワイトスペースとなっていた日本市場の攻略を積極化させる狙いだ。
現場ソリューションカンパニーでは、新たにソリューション部門を設置。新サービスの創出や、ブルーヨンダージャパンとの連携強化も進める。
SCM事業の上場計画を検討
こうした基本方針を打ち出す一方で、ブルーヨンダーを中心とするSCM事業の拡大に向け、これらの事業を株式上場させる計画を打ち出した。だが、現時点では「株式上場の検討を開始した」という段階に過ぎず、検討の結果次第では、組織再編が必要になる場合や株式上場をしないという結論に至る可能性もあるという条件付きだ。いわば、ほぼ何も決まっていない段階での発表となるが、これは、樋口社長・CEOが持つ危機感の表れだといってもよさそうだ。SCMソフトウェア市場について、樋口社長・CEOは「成長市場であるため、多額の資金が流入している。短期間に買収価格が上昇したり、人材確保が難しくなる懸念がある。速く走らなければいけない」と語る。加えて「ブルーヨンダーのようなクラウド型SaaSビジネスは、タイムリーに正しい意思決定を行えば、大きく成長でき、企業価値の向上も可能になる。クラウドビジネスは、速いスピードが要求され、先に規模を獲得することが大切である。スピード感を持って、必要な投資をタイムリーに行える経営を目指す」とも強調。IT業界で、長年の経験を持つ樋口社長・CEOならではの嗅覚が、こうした動きにつながっているようだ。
パナソニックホールディングスの楠見雄規・グループCEOも「上場検討の開始は、パナソニックコネクトからの要請に基づき、パナソニックホールディングスが検討して結論を出し、全員が腹くくりをしたものだ。詳細を決めていく上でも、『この話は内緒にしてほしい』と言わずに、さまざまな人に知恵を借りることができる。検討を速く進めるためにも発表した」とし、スピード感を優先する姿勢をにじませる。
スピード感のない企業から脱却
「パナソニックのハードウェア経営のフレームワークのスピード感では、ソフトウェアビジネスの経営は難しい」と語る樋口社長・CEOは、過去5年間の改革により、赤字事業をなくし、ブルーヨンダーによるリカーリングビジネスの基盤を構築し、さらに成長投資を積極化する体制を整えた。そして、なによりも、ソフトウェア企業としてIT業界で生き残る体質へと転換を図ってきた。「お客様を知らない、世間を知らない、考え方が古い、思考停止になっている、誰が何の責任を持つかわからない、誰も何も決めない、スピード感が遅いといった言葉で表現されてきたパナソニックを、俊敏で、オープンで、まともな考え方やまともな文化を持つ風土に変えないと何も始まらない」
体質改善は着実に進んだ。そして、IT業界を主戦場に、その真価が試される段階へと踏み出した。
自主責任経営で先行
パナソニックグループでは、事業会社に自主責任経営を徹底させているが、いち早く動き出したのが、パナソニックコネクトである。
ロゴマークの“CONNECT”の文字に使用した青は、パナソニックブルーではなく、ブルーヨンダーの青を採用しており、ここにもブルーヨンダーが重要な役割を担うことを示している。
注目を集めたのが人事給与戦略だ。競争力を持った給与体系とすることを目的に、初任給を改定。大卒では1万1000円増の23万円、大学院卒では1万7000円増の26万円とした。樋口社長・CEOは、「従来の水準では、パナソニックコネクトが戦う業界において競争力がないと考え、業界のトップレベルにまで引き上げた」とする。
さらに、人材開発投資を21年度比で4倍に引き上げ、プロフェッショナル人材育成、グローバル人材育成の二つのプログラムを開始。グループとして初めて登用選考制度を廃止し、上位職随時登用制度を開始した。キャリアパスに基づいた研修プログラムの拡充や、必要な知識やスキルを明確化するジョブディスクリプションの公開、MBA合格者に対する派遣費用の全額負担なども行う。樋口社長・CEOは、「パナソニックコネクトは、人材に最も投資する会社になりたい」と意気込む。

BtoBソリューション事業を手掛けるパナソニックコネクトが、2022年4月にスタートして約3カ月が経過した。ブルーヨンダーを核に据え、ソフトウェア事業をベースにした成長事業、ハードウェア事業によるコア事業の2軸により成長戦略を描く。過去5年間の体質改善によって生まれ変わったパナソニックコネクトは、どのような未来へと進んでいくのか。
(取材・文/大河原克行 編集/藤岡 堯)
パナソニックグループは、22年4月から、パナソニックホールディングスを持株会社とし、その傘下に独立法人を設置。七つの事業会社が自主責任経営を行う体制へと移行した。七つの事業会社の一つが、パナソニックコネクトであり、それまでのパナソニックコネクティッドソリューションズ(CNS)社が母体となっている。
21年度実績で売上高9249億円、従業員数約2万8500人(国内約1万2500人、海外約1万6000人)の規模を持ち、24年度の目標として、売上高1兆1700億円、リカーリング比率50%、EBITDA1500億円、EBITDA率は13%を掲げる。樋口泰行社長・CEOは「財務面でピカピカの会社にしたい。強い会社を目指したい」と語る。
5年間で九つの事業を撤退・終息
事業構成をみると、成長の柱となるサプライチェーンマネジメント(SCM)ソフトウェアを提供するブルーヨンダーホールディングのほか、国内ソリューション営業を担当してきたパナソニックシステムソリューションズジャパン(PSSJ)を前身とする「現場ソリューションカンパニー」、電子部品の実装機や溶接機事業を行う「プロセスオートメーション事業部」、プロジェクターや放送用カメラ、音響機器などを展開する「メディアエンターテインメント事業部」、レッツノートやタフブックなどのPC、決済端末を中心とする「モバイルソリューションズ事業部」、航空機の機内エンターテインメント事業などを担う「パナソニック アビオニクス」などが並ぶ(図1参照)。
日本マイクロソフトの社長・会長を務めていた樋口社長・CEOが、古巣のパナソニックに戻ったのは17年4月。それから5年間、CNS社の社長として、大胆な改革に挑んできた。POS端末やフィーチャーフォン、ドキャメントスキャナ、PBX、SDカード、光ピックアップ、アグリ事業を終息したのに加え、セキュリティシステム事業への外部資本の導入、通信衛星サービス事業の売却、岡山工場およびパナソニックモバイルコミュニケーションズ北京工場の閉鎖などを行った。
特に大胆なメスを入れたのがハードウェア関連事業だ。アジアの新興国との直接対決や力の勝負をしない分野、参入障壁を築ける分野、日本企業としてハードウェアを研ぎ澄ませていける分野に事業を絞り込んだ。その結果、ハードウェア事業が陥りやすい、コモディティ化による収益悪化のリスクが排除できるプロセスオートメーション、メディアエンターテインメント、アビオニクス、モバイルソリューションズの四つの事業に限定した。これをコア事業と位置づける。
樋口社長・CEOは「それぞれの事業の核になっているのは、グローバルNo.1や国内No.1の製品である。そして、EBITDAが常に10%以上か、10%を狙うことができる事業である。これ以外のハードウェアはやらない」と断言する。ハードウェア事業では、ソリューションレイヤーへのシフトに取り組んでおり、これも差別化と収益性の向上につなげる手段となる。
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- 成長事業の柱となるブルーヨンダー
- SCM事業の上場計画を検討
- スピード感のない企業から脱却
- 自主責任経営で先行
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