DX推進でもっとも重要な要素とされる「データ活用」だが、満足のいく成果を出している企業は多くない。ガートナージャパンが2022年7月に国内企業に対して実施したデータ活用に関する調査によると「全社的に成果を得ている」と回答したのはわずか2.2%で、欧米諸国と比較すると後れを取っている状況が浮き彫りになっている。効果的なデータ活用を妨げている要因は何か。
(取材・文/大蔵大輔、日高 彰)
縦割組織でデータが分散
グローバルで企業の幅広いコンサルティングを行っているアクセンチュアでは、ここ数年でデータ活用に関する案件が増加した。ビジネスコンサルティング本部AIグループのコーネット可奈・シニア・マネジャーは「データアナリティクスに関心が持たれ始めた10年くらい前は企業が保有している少量のデータで何かできないか、ひとまずPoCを回してみる、というところで終わっていた。それが5年くらい前から各社でデータ活用を専門とする組織が立ち上がり、よりディープな分析を行う環境が整ってきた」と動向を説明する。「特にコロナ禍以降は、顧客ニーズの変化が捉えづらくなったこともあり、社内データだけでなく外部データも活用してきたいという声が高まってきた」(同)。同社のソリューションも急速に進化しており、特に「AI HUBプラットフォーム」をベースにしたソリューション群はデータ活用の多様なニーズに最適な解を提供できるものとして支持を拡大している。
アクセンチュア コーネット可奈 シニア・マネジャー
同社に持ち込まれる相談は、データ活用に特化した組織設計からソリューション提供まで多岐にわたるが、うまくいっていない企業にはいくつかの共通する問題があるという。コーネット・シニア・マネジャーが例に挙げたのは「人材の不足、戦略の欠如、データ基盤の未整備」だ。同社では技術的なサポートと両軸で人材育成にも注力しており、こうした問題の解決を図っている。
加えて、欧米企業と比較して後れを取っている要因として、「縦割組織ゆえの弊害」を指摘する。日本企業では部署ごとにデータが分散しており、包括的にデータ管理されていない環境が常態化している。目的が明確ではないデータが放置されている状況も好ましくない。「データは膨大になるほど、管理コストやセキュリティリスクが高まる。ROI(投資利益率)を意識してデータを蓄積していく必要がある」(同)と注意を促す。
また、データ活用はアジャイルで進めていくことが成功のかぎといえるが、苦手とする日本企業は多い。「品質や確実性を重視する文化が強いので、トライ&エラーでサイクルを回していくという意識を根付かせる必要がある」(同)。コーネット・シニア・マネジャーは「データ活用はステップ論。段階飛ばしはできないが、日本企業はコードやAIの活用も道半ばなので、成熟には時間がかかる」と現状を分析する。一方でデータドリブンへの意識については「どうすべきかではなく、具体的にこうしたい、という声を聞くことが増えた」とリテラシーの向上を感じている。
大企業も苦戦するデータ活用だが、特に後手に回っているのが、DX推進に割く資金がない中小企業だ。ただ「資金面だけで諦めるのはもったいない」とコーネット・シニア・マネジャーは話す。「社内にあるデータだけでも課題を解決する資源になりうる。まずはお金をかけずにデータドリブンのカルチャーを培っていくことが重要だ」。また、意外に軽視できないのがアナログデータだ。コーネット・シニア・マネジャーも支援の過程で「ディープな分析を実現する紙ベースのデータに出会うことは多い」という。資金を投入する余裕がなくとも、まずは手元にあるデータでどのようなことができるのか、社内で議論を深めていくことが第一歩といえそうだ。
データ活用を「民主化」する
ITの世界では長年にわたりデータ活用の提案が行われてきたが、とりわけDXの文脈においては、データ活用を“分析のための分析”といったレベルに終わらせることなく、ビジネスのための価値創出につなげる考え方がより重要になる。
特定の部門や分析担当者だけではなく、“非デジタル人材”も含む全従業員がデータを活用できる環境の整備に動いたのが、グーグル・クラウド・ジャパンがユーザー企業として紹介することが多い建材大手のLIXILだ。同社では21年5月、「Google Cloud Platform」のデータウェアハウス機能であるBigQueryを活用し、「LIXIL Data Platform(LDP)」と呼ぶデータ活用基盤を構築した。
LDPを構築した目的には、パフォーマンスや容量の拡大といった面もあるが、それよりも同社が強調しているのは、事業部門が情報システム部門の手を借りることなく、データを自ら引き出して活用できる、「データの民主化」を実現することだ。
DXを推進する企業では、「データを活用して新たな価値を生むカルチャーを全社に根付かせる」といったビジョンが掲げられることが多いが、ビジネスの現場でデータが必要となった場合に、その都度情報システム部門に依頼してデータが用意されるのを待つ必要があっては、求められるスピード感を得ることはできない。Webアプリケーションのみならず、基幹システムや生産設備にあるデータも含め、現場の従業員による活用が可能な環境を整えることで、営業プロセスの改善や、商品開発工数の削減などに役立てているという。
同社ではノーコード開発プラットフォームの「AppSheet」を用いた「開発の民主化」も並行して取り組んでおり、従業員がLDPに蓄積したデータを活用するためのツールを自ら作り出せる環境を整えている。導入にあたっては、経営幹部数十人に手を動かして開発を学んでもらう機会も設け、非エンジニアでも自らデジタル変革を主導できるという意識を組織に浸透させた。
企業におけるデータ活用を加速させるには、活用の目的・戦略の明確化に加え、活用の機会や意欲を拡大させるための、現場の環境作りが必要と言えそうだ。