主要なIT製品メーカー9社は、日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)がWebサイト上で実施した「新春セミナー」で、2023年の戦略などを説明する動画を掲載し、パートナーとの関係強化を一層進める方針を示した。クラウドやハイブリッドワークに加え、デジタルツインやサステナビリティといった注目のキーワードを意識した声が上がり、IT活用が一段と加速するとの見方も。ユーザー企業がDXの実現を目指す中、メーカーやパートナーにとっては、多様化するニーズの取り込みがビジネスのかぎになりそうだ。
(取材・文/週刊BCN編集部)
1 NEC
デジタルツインをパートナーと共創
NECは、25年までにグローバルで約140兆円規模の市場に成長すると予想されているデジタルツイン領域における取り組みを紹介した。同社はデジタルツインの技術スタックを六つのレイヤーに区分し、それぞれの領域で製品開発を進めている。橋谷直樹・執行役員は「ディスアグリゲーテッド(リソース分散型)コンピューティングやxPU、データ処理最適化、トラスト、センシング、データ収集技術などでNECとしての強みを持たせようとしている」と語った。
デジタルツインは製造シミュレーション、物流や工場の最適化、都市の3Dモデル化などの用途で社会に実装されてきており、同社も既に保守サービスや工場における計画立案時間の短縮に成功している。橋谷執行役員は「日々の業務の最適化だけでなく、より複雑かつ高度な将来予測によって経営の意思決定を支援するソリューションにしていきたい。パートナーと協業することで、リアル空間とバーチャル空間の双方で新たな顧客体験を作り上げていく」と今後のビジョンを示した。
2 Dynabook
DX関連商材の開発に注力
Dynabookの覚道清文社長は、DXの進展によるビジネスのデジタル化の加速に触れ、「当社のPCで培ったモバイルコンピューティング技術とAIoT技術を活用し、DX関連製品の開発を進め成長を目指す」と語った。23年も、テレマティクス、文教、オフィス・テレワーク、現場、ヘルスケアの五つを注力領域として事業を推進する。
同社は「dynabook」シリーズの強みとして、「高速・堅牢ユーザビリティ」「環境調和」「セキュリティ」を挙げ、「時代のニーズに高いポテンシャルで対応できるノートPCだ」とアピールした。注力製品として14型ノートPC「dynabook RJシリーズ」の性能を解説。軽量ながら頑丈なことや、AIノイズキャンセラー機能などを紹介し、ハイブリットワークに適したPCとして販売を強化する方針を示した。また、PCの運用にかかる業務をサポートする「ライフサイクルマネジメント運用サービス」をリニューアルしたことも説明し、サービス面も充実させることで同社製品の導入拡大を目指していくとした。
3 日本HP
Web会議支援製品を大幅強化
日本HPの岡戸伸樹社長は23年の同社ビジネス戦略について説明し、パートナーとともに最も力を入れたい領域として、ハイブリットワーク支援を挙げた。
同社ではPCや周辺機器の提供を通じて生産性の向上を図るほか、会議システムを手がけるPolyを昨年買収したことでWeb会議に関する製品群を強化し、顧客に質の高いコラボレーションを提供していくとした。岡戸社長は「ビデオ機能を備えた会議室は10%にも満たない状況だ。会議室ソリューションのビジネスチャンスは大きい」と力を込めた。
また、複雑性が増すデバイスの管理については、導入から管理、リプレース、リサイクルまでをトータルでサポートするサービスを提供するとし、「ハイブリットワーク・エコシステムを目指していく」と語った。
加えて、ハイブリットワーク環境下でのセキュリティの強化にも力を入れていく方針を示し、従業員の生産性・操作性を損なわずに保護していくとした。
4 日本ヒューレット・パッカード
GreenLakeでの協業を強化
日本ヒューレット・パッカードの田中泰光・常務執行役員パートナー・アライアンス営業統括本部長は、国内のDXが加速しているものの、IT人材不足が課題と指摘。同社では、AIやクラウドなどを活用して、システム運用の自動化や見える化を推進し企業を支援する、と話した。
オンプレミス製品をas a serviceモデルで提供する「HPE GreenLake」の22年のビジネス規模が、前年比72%増と好調に推移していると紹介した。売り上げにおけるパートナー経由の割合も50%に拡大しており、豊富な事例が生まれているという。「今後は、as a serviceモデルの需要がこれまで以上に高まる。パートナーとの協業を強化し、HPE GreenLakeのビジネスを伸ばす」と力を込めた。ハードウェアでは、x86サーバー「ProLiant」シリーズが30周年を迎えたとし、プロモーションの強化を図る。ストレージでは、注力製品として、昨年発売した「Alletra 5000」を挙げた。田中常務は「引き続き投資を行い、新しい魅力的なハードウェアを提供していきたい」と抱負を述べた。
5 日本マイクロソフト
クラウドビジネスでDXを支援
日本マイクロソフトの本多正樹・執行役員コーポレート戦略統括本部長兼パートナー事業本部長は、今後の事業方針として、産業向けと中堅・中小企業、公共機関の三つの領域で需要が期待できるとし、クラウドビジネスで各領域のDXを支援すると説明した。
本多執行役員は、各産業でDXの動きが加速しているほか、中堅・中小企業や政府・自治体の市場も盛り上がっていると解説。需要を取り込むためには「ますますクラウドのビジネスが重要になる」と述べ、クラウド・パートナープログラムを推進したり、パートナー協業支援スキームを拡充したりする考えを示した。
三上智子・執行役員常務コーポレートソリューション事業本部長兼デジタルセールス事業本部長は、中堅・中小企業向けのビジネスは「Teams」を中心に進めていると改めて紹介した。
その上で、25事業年度に中堅・中小企業のクラウドビジネスを21年度比で10倍にするとの目標達成に向けて協力を求めた。
6 VAIO
品質、機能美、使い勝手が「DNA」
VAIOの山野正樹社長は22年を振り返り、法人向けビジネスが堅調に成長したと報告。ハイブリッドワークの浸透を背景に「生産性やモチベーション向上のため、品質や機能が従来以上に重視され、金額が高くてもよいものを求める企業が増えている」と述べ、VAIOは法人市場で通用する品質を追求していると強調した。
23年については、引き続き高い付加価値を有する製品の開発を進めるとともに、販売店が取り扱いやすい、コストパフォーマンスに優れた新製品を展開する考えを示した。山野社長は「徹底した品質、機能美、使い勝手がVAIOのDNA」であるとした上で「特徴を備えた製品、サービスをパートナーとともに多くのお客様に届けていきたい」と意気込んだ。
広域営業統括部の矢野勝也・統括部長は、VAIOの強みとして、長野県安曇野の工場で丁寧に製造されている点を挙げた。一方で国内市場では「まだ小さな存在」であるとし、「日本のものづくりをもっと伝えていくために、存在感を高めたい」と訴えた。
7 日立製作所
DCの環境負荷の軽減を支援
日立製作所は、環境負荷軽減の経営課題に応えるため、データセンター(DC)の脱炭素化を加速させている。DCのストレージやサーバー、ネットワーク機器などの単位で電力消費やCO2排出量を可視化。データに基づいた環境報告レポートやCO2排出削減計画の策定を支援するとともに、ストレージメーカーとして環境配慮型の製品開発を通じてユーザー企業の脱炭素の実行に役立ててもらう。
具体的には、大容量SSDの積極的な採用や同社独自のデータ圧縮技術を駆使して、容量当たりの消費電力の低減。また、小型化によってストレージラックの設置面積を縮小することで、「新機種を投入するごとに3~4割のCO2削減を達成している」と、箕輪信幸・ITプロダクツ統括本部環境活動推進室室長は胸を張る。
太陽光発電などの再生可能エネルギーの活用についても研究を進めている。天候などで発電量が変化しやすい再エネの特性を踏まえ、調達可能な電力量に連動して複数のDC拠点で処理負荷を分散する制御技術も将来的に実現していく方針だ。
8 富士通
社会課題の解決にフォーカス
富士通のインフラ&ソリューションセールス本部の小松新太郎氏は、23年も引き続きサステナブルな社会の実現を目指すとの方針を示し、同社の事業ブランドである「Fujitsu Uvance」を紹介した。Fujitsu Uvanceは七つの重点分野に分かれており、社会課題の解決にフォーカスしたビジネスを推進するとしている。
セミナーでは七つの重点分野の中から、「Hybrid IT」に関わるインフラ&ソフトウェアサービス・ソリューションについて取り上げた。特にクラウド、ネットワーク、セキュリティなどの領域において、同社の展開するソリューションを説明した。
また、「Digital Shifts」に関するテレワーク端末についても紹介した。薄型で軽量の上、大画面モデルのノートPCも投入することで、多様な働き方に合わせた提案を可能にしたという。
小松氏は「今後、私たちはFujitsu Uvanceを起点に、お客様の先にある社会課題の解決にフォーカスしたビジネスを強力に推進していく」と語った。
9 レノボ・ジャパン
新たなデバイスでデジタル化を加速
レノボ・ジャパンは「ポケットからクラウドまで」をキーワードに、ワンストップでソリューションを提供できることを強みとしている。23年はその流れを加速させ、それぞれの領域の壁をさらに取り払っていく考えだ。PC事業では22年に「ThinkPad」が誕生30周年を迎えた。安田稔・執行役員副社長は「PCはコモディティ化していると言われるなかで、当社は新しい挑戦を続けている。今後も次の当たり前を提案していきたい」とコメント。また、遠隔地とのコラボレーションを実現するスマートグラスを例に挙げ、「PCやスマートフォン以外のデバイスも駆使しながらデジタル化が進んでいない分野にも変化をもたらしていきたい」と語った。
同社はサスティナビリティーの取り組みにも注力し、50年までの温室効果ガス排出ネットゼロを指針としている。すでにカーボンオフセットを含む形で製品を提供し、顧客にも恩恵がある仕組みを構築している。安田副社長は「サスティナビリティも含めて、あらゆる領域でパートナーと相互補完しながら、価値を提供してきたい」と意気込んだ。