Special Feature
巻き返し図るオラクル 「分散クラウド」戦略の優位性
2023/05/25 09:00
週刊BCN 2023年05月22日vol.1969掲載
クラウドプラットフォーマーとして後発の米Oracle(オラクル)は近年、「分散クラウド」を推し進めている。ライバルであるはずの先行ベンダーとも手を組み、よりオープンなクラウドエコシステムの構築を目指す。巻き返しを図るオラクル。その戦略の優位性を探る。
(取材・文/谷川耕一 編集/藤岡 堯)
2000年代後半から10年代前半にかけ、パブリッククラウドの利用が急激に増えた。米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)が大きくビジネスを伸ばし、米Microsoft(マイクロソフト)や米Google(グーグル)がそれに続き市場は大きく拡大する。そのような動きの中、当時のオラクルはクラウドに対し懐疑的な姿勢を示していた。包括的なSaaSの提供には力を入れていたものの、AWSなどが主戦場とするIaaS、PasSにはさほど関心がなく、SaaSユーザーが求めるので仕方がなくそれらも提供するような雰囲気だった。
ただ、時間の経過とともに、企業の多くがクラウドファーストで取り組むようになった結果、先行ベンダーは成長し、オラクルもいよいよクラウド市場での遅れに気がついた。しかしその時点で、競合との市場シェアの差はかなり大きく広がっていた。転機となったのは、18年に発表した「Oracle Cloud Infrastructure(OCI) Generation 2(Gen2)」だ。それまでのアーキテクチャーを刷新し、エンタープライズ用途を重視した新しいクラウドインフラを構築したのである。
新たなOCIとそれを活用する「Oracle Autonomous Database」のサービスは、戦略的な価格設定もあり、市場で一定の評価を得ることとなる。しかし、先行するAWSなどとの差を急速に縮めるには至らなかった。トップを走るAWSは、扱うエンジニアやパートナー企業も多く、顧客を含めた良好なエコシステムが形成され、着実にユーザーを増やしていく。さらに「Microsoft 365」という強い武器のある「Microsoft Azure(Azure)」も、2番手プレイヤーとして高い成長率を維持していた。
米Oracle スコット・トワドル バイスプレジデント
オラクルが進めるマルチクラウドの一例に、AzureとOCIのクラウドデータセンター間を専用線で相互接続する「Oracle Interconnect for Microsoft Azure」(19年に提供開始)がある。互いのデータセンター間を低レイテンシーなネットワークでつなぐのみならず「ID管理やロギングのレベルまで統合し、互いのクラウド間でシームレスな運用を可能としている」と、米オラクルのスコット・トワドル・Oracle Cloud Infrastructureプロダクト開発担当シニア・バイスプレジデントは説明する。移行が難しいミッションクリティカルな既存ワークロードを、餅は餅屋で分散させる選択肢を提供し、スムースに移行できるようにするものだとも語る。
データベースの覇権争いでかつては犬猿の仲だったマイクロソフトとオラクルが、クラウドでは深いレベルで協業する。背景には「Windows Server」の上で多くの「Oracle Database」を使ったシステムが動いており、そのミッションクリティカルなシステムを最適なかたちでクラウド化したいとの要望に応えるためでもあった。
例えば、23年4月に開催された「Oracle CloudWorld Tokyo」で紹介された、チケット販売などのぴあの事例を挙げる。ぴあでは、データベースにOracle Cloudの「Oracle Exadata Database Service」を、Webのフロントエンドのアプリケーション層とバックエンドのアプリケーション層はAWSとAzureを選択。マルチクラウドで、ビジネスクリティカルなチケッティングシステムを構築している。
その後もマイクロソフトとは協業関係を深めており、22年にはAzure上からOCI上で稼働するデータベースサービスを安全かつ迅速に活用できるようにする「Oracle Database Service for Azure」「MySQL HeatWave for Azure」も提供している。さらに22年に米ラスベガスで開催された「Oracle CloudWorld」では、将来的にAWSとも協業して相互接続する計画も明らかにしている。
Dedicated RegionはIaaS、PaaSはもちろん、OCI上で稼働するSaaSも含めて顧客のデータセンターに導入・稼働できるようにした。運用管理はOracleがリモートで実施し、ユーザーは手元にあってもパブリッククラウドと同じように利用できる。発表した20年7月時点で野村総合研究所(NRI)が採用を明らかにし、順次NRIの金融向け各種ソフトウェアサービスをDedicated Region上に展開している。CloudWorld Tokyoでは、NRIのリテール証券会社向けバックオフィス・システム「THE STAR」のサービス基盤をDedicated Regionで構築し稼働を開始したと発表している。
オラクルでは小規模なラック構成でもフルクラウドサービスが可能となるようにしており、Dedicated Regionは当初の50ラックから現在は12ラックまで最小構成を縮小している。トワドル・バイスプレジデントは「世の中には、トップシークレットを扱うような、パブリックではないほうがよいシステムもたくさんある。Oracle Cloudならばパブリッククラウドと同じサービスを自社のデータセンターでも使え、それら要望に応えられる」と話す。
日本オラクル 竹爪慎治 常務
日本オラクルの竹爪慎治・常務執行役員クラウド事業統括は「Alloyを活用する戦略を具体的に進めているパートナー企業が複数ある」と話す。すでに自社クラウドとの連携やサービスの移行、契約やライセンスの考え方など、自社サービス展開の実現可能性の検証に入っているパートナーもあるという。
NRIが真っ先にDedicated Regionを採用したように「日本はSI市場が充実している事情もあり、Alloyも世界に先駆け日本初で展開したいと考えている」と竹爪常務。自社でデータセンターやクラウドサービスを展開し、かつ、Oracle Databaseに強みを持つ企業が日本におけるAlloyのビジネスで重要なパートナーとなる。
独自の分散クラウド戦略を打ち出したこともあり、欧米を中心に第4のクラウドプレイヤーとしてオラクルの名前が挙がる機会が増えているようだ。もちろん、市場シェアなどでただちにAWSやAzureに追いつけるわけではないだろう。しかし、パブリッククラウド以外の領域に視野を広げれば、Oracle Cloudの存在感は確かに増してくる。選択肢が広がるSI企業、ユーザー企業にとっては、自社の環境に合わせて、クラウドのあり方を見極めることがより重要になりつつある。
(取材・文/谷川耕一 編集/藤岡 堯)

2000年代後半から10年代前半にかけ、パブリッククラウドの利用が急激に増えた。米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)が大きくビジネスを伸ばし、米Microsoft(マイクロソフト)や米Google(グーグル)がそれに続き市場は大きく拡大する。そのような動きの中、当時のオラクルはクラウドに対し懐疑的な姿勢を示していた。包括的なSaaSの提供には力を入れていたものの、AWSなどが主戦場とするIaaS、PasSにはさほど関心がなく、SaaSユーザーが求めるので仕方がなくそれらも提供するような雰囲気だった。
ただ、時間の経過とともに、企業の多くがクラウドファーストで取り組むようになった結果、先行ベンダーは成長し、オラクルもいよいよクラウド市場での遅れに気がついた。しかしその時点で、競合との市場シェアの差はかなり大きく広がっていた。転機となったのは、18年に発表した「Oracle Cloud Infrastructure(OCI) Generation 2(Gen2)」だ。それまでのアーキテクチャーを刷新し、エンタープライズ用途を重視した新しいクラウドインフラを構築したのである。
新たなOCIとそれを活用する「Oracle Autonomous Database」のサービスは、戦略的な価格設定もあり、市場で一定の評価を得ることとなる。しかし、先行するAWSなどとの差を急速に縮めるには至らなかった。トップを走るAWSは、扱うエンジニアやパートナー企業も多く、顧客を含めた良好なエコシステムが形成され、着実にユーザーを増やしていく。さらに「Microsoft 365」という強い武器のある「Microsoft Azure(Azure)」も、2番手プレイヤーとして高い成長率を維持していた。
環境を問わずサービスを提供する道へ
出遅れたオラクルが挽回するための新たな戦略が「分散クラウド」だった。パブリッククラウド、オンプレミスと組み合わせるハイブリッドクラウド、他ベンダーと連携するマルチクラウド、そして顧客専用のクラウド。環境を問わずオラクルのクラウドサービスを利活用できる道を選んだのである。オラクルは後発であるため、顧客がすでにAWSやAzureなど他のクラウドサービスを利用しているケースが多い。乗り換えを促すのではなく、既存環境を生かせるオープンなエコシステムを構築する方向性と言えるだろう。
オラクルが進めるマルチクラウドの一例に、AzureとOCIのクラウドデータセンター間を専用線で相互接続する「Oracle Interconnect for Microsoft Azure」(19年に提供開始)がある。互いのデータセンター間を低レイテンシーなネットワークでつなぐのみならず「ID管理やロギングのレベルまで統合し、互いのクラウド間でシームレスな運用を可能としている」と、米オラクルのスコット・トワドル・Oracle Cloud Infrastructureプロダクト開発担当シニア・バイスプレジデントは説明する。移行が難しいミッションクリティカルな既存ワークロードを、餅は餅屋で分散させる選択肢を提供し、スムースに移行できるようにするものだとも語る。
データベースの覇権争いでかつては犬猿の仲だったマイクロソフトとオラクルが、クラウドでは深いレベルで協業する。背景には「Windows Server」の上で多くの「Oracle Database」を使ったシステムが動いており、そのミッションクリティカルなシステムを最適なかたちでクラウド化したいとの要望に応えるためでもあった。
例えば、23年4月に開催された「Oracle CloudWorld Tokyo」で紹介された、チケット販売などのぴあの事例を挙げる。ぴあでは、データベースにOracle Cloudの「Oracle Exadata Database Service」を、Webのフロントエンドのアプリケーション層とバックエンドのアプリケーション層はAWSとAzureを選択。マルチクラウドで、ビジネスクリティカルなチケッティングシステムを構築している。
その後もマイクロソフトとは協業関係を深めており、22年にはAzure上からOCI上で稼働するデータベースサービスを安全かつ迅速に活用できるようにする「Oracle Database Service for Azure」「MySQL HeatWave for Azure」も提供している。さらに22年に米ラスベガスで開催された「Oracle CloudWorld」では、将来的にAWSとも協業して相互接続する計画も明らかにしている。
パブリッククラウドを顧客の下へ
もう一つ力を入れているのが、Oracle Cloudのサービスを顧客のデータセンターで動くようにする「Cloud@Customer」だ。これには「Autonomous Database on Exadata」「Exadata」「Compute」というサブセットを顧客の環境で動かすものがある。同様なソリューションはAWSやAzureなどでも用意されているが、現時点でOracleしか提供できないサービスとなっているのが「Oracle Dedicated Region Cloud@Customer」(Dedicated Region)である。Dedicated RegionはIaaS、PaaSはもちろん、OCI上で稼働するSaaSも含めて顧客のデータセンターに導入・稼働できるようにした。運用管理はOracleがリモートで実施し、ユーザーは手元にあってもパブリッククラウドと同じように利用できる。発表した20年7月時点で野村総合研究所(NRI)が採用を明らかにし、順次NRIの金融向け各種ソフトウェアサービスをDedicated Region上に展開している。CloudWorld Tokyoでは、NRIのリテール証券会社向けバックオフィス・システム「THE STAR」のサービス基盤をDedicated Regionで構築し稼働を開始したと発表している。
オラクルでは小規模なラック構成でもフルクラウドサービスが可能となるようにしており、Dedicated Regionは当初の50ラックから現在は12ラックまで最小構成を縮小している。トワドル・バイスプレジデントは「世の中には、トップシークレットを扱うような、パブリックではないほうがよいシステムもたくさんある。Oracle Cloudならばパブリッククラウドと同じサービスを自社のデータセンターでも使え、それら要望に応えられる」と話す。
「Alloy」が秘める可能性
さらに独特なサービスとして、新たな可能性を秘めるのが「Oracle Alloy」だ。Dedicated Regionは運用をオラクルが担うが、Alloyは運用も顧客側で行える。Alloyの技術要素は、基本的にDedicated Regionと同じであり、運用を自社で行うために管理用のインターフェース機能が追加されることになる。Alloyの主たるユースケースは、パートナー企業が採用し、自社ブランドのサービスとしてOracle Cloudのサービスと独自の付加価値サービスを併せて展開するかたちだ。 当然、これまで通りパブリッククラウドを用い、パートナーが付加価値をプラスして顧客に展開したほうが、安価で迅速に提供できる場合もある。一方でパートナーが独自にコントロールしたい、あるいは国内に閉じたかたちの運用管理体制でクラウドを利用したいシステムもある。現時点でデータや運用の主権を自分たちに取り戻したいソブリンクラウドの要求に、最も応えやすいのがAlloyだと言えるだろう。
日本オラクルの竹爪慎治・常務執行役員クラウド事業統括は「Alloyを活用する戦略を具体的に進めているパートナー企業が複数ある」と話す。すでに自社クラウドとの連携やサービスの移行、契約やライセンスの考え方など、自社サービス展開の実現可能性の検証に入っているパートナーもあるという。
NRIが真っ先にDedicated Regionを採用したように「日本はSI市場が充実している事情もあり、Alloyも世界に先駆け日本初で展開したいと考えている」と竹爪常務。自社でデータセンターやクラウドサービスを展開し、かつ、Oracle Databaseに強みを持つ企業が日本におけるAlloyのビジネスで重要なパートナーとなる。
独自の分散クラウド戦略を打ち出したこともあり、欧米を中心に第4のクラウドプレイヤーとしてオラクルの名前が挙がる機会が増えているようだ。もちろん、市場シェアなどでただちにAWSやAzureに追いつけるわけではないだろう。しかし、パブリッククラウド以外の領域に視野を広げれば、Oracle Cloudの存在感は確かに増してくる。選択肢が広がるSI企業、ユーザー企業にとっては、自社の環境に合わせて、クラウドのあり方を見極めることがより重要になりつつある。
クラウドプラットフォーマーとして後発の米Oracle(オラクル)は近年、「分散クラウド」を推し進めている。ライバルであるはずの先行ベンダーとも手を組み、よりオープンなクラウドエコシステムの構築を目指す。巻き返しを図るオラクル。その戦略の優位性を探る。
(取材・文/谷川耕一 編集/藤岡 堯)
2000年代後半から10年代前半にかけ、パブリッククラウドの利用が急激に増えた。米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)が大きくビジネスを伸ばし、米Microsoft(マイクロソフト)や米Google(グーグル)がそれに続き市場は大きく拡大する。そのような動きの中、当時のオラクルはクラウドに対し懐疑的な姿勢を示していた。包括的なSaaSの提供には力を入れていたものの、AWSなどが主戦場とするIaaS、PasSにはさほど関心がなく、SaaSユーザーが求めるので仕方がなくそれらも提供するような雰囲気だった。
ただ、時間の経過とともに、企業の多くがクラウドファーストで取り組むようになった結果、先行ベンダーは成長し、オラクルもいよいよクラウド市場での遅れに気がついた。しかしその時点で、競合との市場シェアの差はかなり大きく広がっていた。転機となったのは、18年に発表した「Oracle Cloud Infrastructure(OCI) Generation 2(Gen2)」だ。それまでのアーキテクチャーを刷新し、エンタープライズ用途を重視した新しいクラウドインフラを構築したのである。
新たなOCIとそれを活用する「Oracle Autonomous Database」のサービスは、戦略的な価格設定もあり、市場で一定の評価を得ることとなる。しかし、先行するAWSなどとの差を急速に縮めるには至らなかった。トップを走るAWSは、扱うエンジニアやパートナー企業も多く、顧客を含めた良好なエコシステムが形成され、着実にユーザーを増やしていく。さらに「Microsoft 365」という強い武器のある「Microsoft Azure(Azure)」も、2番手プレイヤーとして高い成長率を維持していた。
(取材・文/谷川耕一 編集/藤岡 堯)

2000年代後半から10年代前半にかけ、パブリッククラウドの利用が急激に増えた。米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)が大きくビジネスを伸ばし、米Microsoft(マイクロソフト)や米Google(グーグル)がそれに続き市場は大きく拡大する。そのような動きの中、当時のオラクルはクラウドに対し懐疑的な姿勢を示していた。包括的なSaaSの提供には力を入れていたものの、AWSなどが主戦場とするIaaS、PasSにはさほど関心がなく、SaaSユーザーが求めるので仕方がなくそれらも提供するような雰囲気だった。
ただ、時間の経過とともに、企業の多くがクラウドファーストで取り組むようになった結果、先行ベンダーは成長し、オラクルもいよいよクラウド市場での遅れに気がついた。しかしその時点で、競合との市場シェアの差はかなり大きく広がっていた。転機となったのは、18年に発表した「Oracle Cloud Infrastructure(OCI) Generation 2(Gen2)」だ。それまでのアーキテクチャーを刷新し、エンタープライズ用途を重視した新しいクラウドインフラを構築したのである。
新たなOCIとそれを活用する「Oracle Autonomous Database」のサービスは、戦略的な価格設定もあり、市場で一定の評価を得ることとなる。しかし、先行するAWSなどとの差を急速に縮めるには至らなかった。トップを走るAWSは、扱うエンジニアやパートナー企業も多く、顧客を含めた良好なエコシステムが形成され、着実にユーザーを増やしていく。さらに「Microsoft 365」という強い武器のある「Microsoft Azure(Azure)」も、2番手プレイヤーとして高い成長率を維持していた。
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