コロナ禍が徐々に落ち着き、2023年上期はIT業界にも日常が戻った。マスクなしの生活が解禁となり、ビジネスシーンでは対面コミュニケーションの重要性が再認識された。一方、社会全体で引き続きDXが大きなテーマとなる中、大手SIerを中心にIT企業の事業環境はおおむね良好に推移。業界内では未来を見据えた動きも出始めた。週刊BCN編集部が注目するニュースをピックアップし、主な出来事を紹介する。
(構成/齋藤秀平)
PickUp1 JCSSA
3年ぶりの賀詞交歓会を開催
コロナ禍では、イベントの中止やオンラインへの切り替えが相次いだ。23年は、これまでの制限がほぼなくなり、企業や業界団体がリアルイベントを復活させた。
JCSSAの林宗治会長
日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)は1月23日、都内のホテルで3年ぶりに「賀詞交歓会」を開き、会員企業などから約750人が参加した。林宗治会長は「ITで日本を元気にするという結果に結びつく活動をしていきたい」と呼びかけた。
その後、レノボ・ジャパンとNEC、日本マイクロソフト、日本ヒューレット・パッカード、日本HP、Dynabook、富士通、日立製作所、VAIOの9社の代表者らが、直近のビジネスの状況などを説明し、販売促進に向けて協力を求めた。各社からは、22年は納期遅延などがビジネスに大きな影響を与えた一方、23年は改善の方向に進むとの声が多く上がった。
賀詞交歓会には、これまでは会員企業の約5割が参加していたが、今回は約7割が参加したという。会場では、新年のあいさつをしたり、旧交を温めたりする姿が見られた。
PickUp2 大手SIerの22年度決算
グループ再編やM&A効果で増収増益に
大手SIer3社の22年度(23年3月期)の業績は、いずれも増収増益で好調な決算となった。グループ再編やM&A効果などが要因で、中期経営計画で定めた目標の達成も目立った。
大手SIerの決算を伝えた5月23日・1923号の紙面
NTTデータの連結売上高は前期比36.8%増の3兆4901億円、営業利益は21.9%増の2591億円だった。22年10月にデータセンター事業などを手掛ける英NTTリミテッドを連結子会社にしたことなどが業績をけん引した。
野村総合研究所は、22年度までの4カ年中期経営計画で掲げた主要目標を達成。売上高は目標の6700億円に対して6921億円、営業利益は1000億円に対して1118億円となった。海外売上高は、M&A効果もあって中計期間中に2.3倍余りに増えた。
TISは、既存事業が好調に推移し、連結売上高が前期比5.4%増の5084億円と初めて5000億円を突破。営業利益は13.9%増の623億円と大きく伸び、24年3月期までの3カ年中期経営計画で目標としていた売上高5000億円、営業利益580億円を1年前倒しで達成した。
PickUp3 日本IBMと東京大学
23年度中に国内最高性能の量子計算機を稼働へ
日本IBMと東京大学は4月21日、127量子ビットのプロセッサーを搭載した量子コンピューター「IBM Quantum System One with Eagleプロセッサー」の稼働を、23年度中に「新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センター(KBIC)」で開始する予定だと発表した。日本における量子コンピューターの研究や産業革新の加速を目指す。
東京大学の相原博昭・理事・副学長(左)と
米IBM Researchのジェイ・ガンベッタ・IBMフェロー
KBICでは21年7月から、27量子ビットの量子コンピューター「IBM Quantum System One」が稼働し、東京大学がQIIに参画する企業・団体などと量子コンピューター利活用に関する研究を進めてきた。今回の127量子ビットのEagleプロセッサーを搭載した量子コンピューターの稼働は、北米以外では初の試みになるという。
東京大学の相原博昭・理事・副学長は「127量子ビットのプロセッサーを用いることで、世界最高性能を持つスパコンでもシミュレーションができない領域まで計算可能な範囲を広げられる」と説明。米IBM Researchのジェイ・ガンベッタ・IBMフェロー兼IBM Quantumバイス・プレジデントは「これから先、量子コンピューターを、科学を進歩させるための便利なツールとして使えることをうれしく思う」と述べた。
PickUp4 富士通
「Uvance」を軸とする新中期経営計画を発表
富士通は5月24日、25年度(26年3月期)を最終年度とする3カ年の中期経営計画を発表した。25年度に売上高にあたる売上収益を4兆2000億円(22年度実績3兆7137億円)、調整後営業利益を5000億円(同3208億円)、調整後営業利益率を12.0%(同8.6%)にするのが目標だ。
富士通の時田隆仁社長
システム構築事業のうちハードウェア提供を除いた「サービスソリューション」事業を成長領域に位置づけ、積極的に投資する方針。25年度に売上収益は2兆4000億円(22年度実績1兆9842億円)、調整後営業利益は3600億円(同1629億円)を目指し、調整後営業利益率は会社全体より高い15%(同8.2%)と大幅な成長を計画する。
急成長を実現する核となる戦略が、21年度に発表した事業ブランドである「Fujitsu Uvance(ユーバンス)」の伸長だ。22年度実績ではUvanceの売上収益は2000億円だったが、25年度には7000億円まで拡大させるという。
時田隆仁社長は「新たな中期経営計画に沿ってさらなる変革を進める。結果を出す準備は整っている」と強調し、今後はUvanceを中心にオファリングサービスの拡大を進めテコ入れを図り「成長の軌道に乗せる3年間にする」と力を込めた。