Special Feature
Uvanceがもたらす富士通の変革 既存ビジネスを超え、新たな未来へ
2023/10/12 09:00
週刊BCN 2023年10月09日vol.1987掲載
2021年10月、富士通は新事業ブランド「Fujitsu Uvance(ユーバンス)」を発表した。「サステナブルな世界の実現」を掲げ、オファリングによるデジタルトランスフォーメーション(DX)、サステナビリティトランスフォーメーション(SX)支援を展開する。Uvanceは単純にビジネス成長を目指すためだけの取り組みではない。受託開発型である既存のSIビジネスモデルを超え、新たな富士通をつくり出す意思が込められている。その変革はIT業界に何をもたらすか。
(取材・文/藤岡 堯)
Uvanceの事業を構成する主要な要素は「社会課題の解決」「グローバルオファリング」「SaaS」の3点だ。つまり、SaaSを軸にITコンサルティング、SI、ITサービスを組み合わせ、グローバルで共通利用できるオファリングを開発・提供し、企業のDX・SXを支援することで、社会課題の解決につなげる。
オファリングの領域は多岐にわたる。まず、社会課題に応じた四つの分野(「Sustainable Manufacturing」「Consumer Experience」「Healthy Living」「Trusted Society」)を「Vertical Areas」と位置付けた。この4分野を支えるテクノロジー基盤となる「Horizontal Areas」として「Digital Shifts」「Business Applications」「Hybrid IT」の3分野があり、全7分野それぞれでオファリングを展開。Vertical Areasについては、現時点で26のオファリングを用意する(図参照)。
Vertical Areasでターゲットとなるさまざまな社会課題の解決には業種間連携が欠かせない。例えば、温室効果ガスの削減を実現するためには製造から流通、小売りの各業種を結ぶ取り組みが必須となる。Uvanceでは業種を横断する「クロスインダストリー」での展開に注力する方針を示す。
オファリング開発は自社の知的資産の適用だけにこだわらない。米Microsoft(マイクロソフト)や独SAP(エスエーピー)といったグローバルベンダーとのアライアンスを積極的に活用し、自社だけでは生み出せない付加価値を提供していく。
さらに顧客との共創を重点的に進めている点も大きな特徴である。帝人と進めるリサイクル素材の環境価値化プラットフォームに関するプロジェクトはその一例だ。富士通のブロックチェーン技術、帝人の環境負荷の評価に関するノウハウを掛け合わせ、リサイクル素材を使った製品製造における環境負荷に関するデータの収集・追跡などを実現する。顧客企業が持つ知見と自社のテクノロジーを掛け合わせ、市場のニーズに応じた付加価値の高いオファリングを生み出す考えだ。
22年度時点のUvance事業の売上高は2000億円で、これを25年度に7000億円まで引き上げたいとする。このうち4000億円を新規商材(Vertical Areas)で稼ぐという目標を掲げる。当面は富士通が得意とする製造業の領域である「Sustainable Manufacturing」を主力とするほか、「Consumer Experience」においてはM&Aで取得した企業の業績が寄与する見通しで、この二つの領域が牽引役となる見込みだ。
これまで示したUvanceの要素を踏まえると、従来のSIビジネスとの大きな違いがいくつもうかがえる。
従来のビジネスが具体的な業種・業務向けにつくられたソリューションをベースに、顧客の要件に従って個別にSIを実施する手法が中心だったのに対し、Uvanceは社会課題を起点に組み立てた複数のオファリングを用意し、顧客の要件にとらわれず、課題解決に必要なものをコンサルティング主導で提供する。
オファリングそのものも、顧客それぞれにカスタマイズされたものではなく、グローバルで標準化・共通化されており、業種や業態、国・地域を問わず複数の顧客が利用できる点もメリットとなる。オファリングの標準化・共通化が進めば、収益性の向上や、企画から市場投入までの時間短縮が期待できる。
収益モデルも大きく変わる。オファリングの軸はSaaSであり、継続的な利用に対して対価を得るストック型のビジネスとなる。顧客の要望に沿ったITシステムを納入する既存の人月ビジネスとは全く異なる考え方になる。
高橋美波 執行役員
「国内の先進的なお客様は、自身で最新のテクノロジーを採用し、SIレスで展開したいという気持ちが強くなっている。他方で、外資系コンサルティング企業がユーザー企業に海外の先端事例を示し、(市場の)占有率を高めている。これまでのSIerの役割は変化しており、5年、10年のスパンで考えたとき、(これまでのSIビジネスは)なくなりはしないものの、かたちが大きく変わっていくだろう。SIから『脱却』という言葉ではなく『ポートフォリオを変えていく』ということだ。お客様自身が変わっている中で、富士通も最先端に行かなければならない」
では、Uvanceは富士通をどう変えるのか。高橋執行役員はSaaS型のアプリケーションを軸とすることの利点を挙げる。ビジネスを素早く展開できるだけでなく、ストック型であることから顧客と継続的なリレーションシップを保てる。「一度きりのシステム構築からアプリケーションベースに事業転換することで、絶えずお客様とのエンゲージメントが確立され、課題を抽出して製品に展開するサイクルを回すことができるようになる」
顧客と継続的な関係を築くためには、従業員の意識も変革が求められる。これまでのように、システムを入れて終わりというわけにはいかないからだ。高橋執行役員は適切な業務プロセスとKPIの設定によって、変化を促したいという。例えば、営業の場だけで顧客と対話するのではなく、カスタマーサクセスのプロセスを設け、顧客の課題を拾えるフレームワークを導入する。KPIに関しても、売り切り型の指標ではなく、顧客のロイヤリティを図る要素や、顧客がどれだけ製品を使い込んでいるかという点での評価を取り入れることが重要になってくる。「マインドは話をするだけでは変わらない。プロセス、KPIをしっかり変えていく必要がある」(高橋執行役員)と力を込める。
ただ、オファリングを実装する中で、8割程度は標準化されているものの、残りのおよそ2割は顧客ごとのカスタマイズが求められる可能性はあり、その場合に既存のパートナーの力を借りることはありうるという。とはいえ、Uvanceのパートナーエコシステムはオファリング開発での協業に重きを置く方針であることは間違いない。SIビジネスのパートナーエコシステムもまた、変革の波にさらされることになる。
UvanceはSIビジネスの代わりとしてSaaSソリューションを売るだけのビジネスではない。オファリングの開発から提案営業、コンサルティング、デリバリー、カスタマーサクセスまでのエンドツーエンドのプロセスを一貫性のある思想のもとで提供する、新たなビジネスモデルを構築する試みである。その中で富士通の顧客やパートナーとの向き合い方も変容していくことになりそうだ。
もちろん、今後も富士通に個別SIを望む顧客は存在し、その仕事もまた大切であることに変わりはない。それでも、将来的にはUvanceをコア事業として確立させる未来を見据えている。国内トップクラスのSIerである富士通が、旧来型のSIビジネスとの別れを本格的に打ち出したことのメッセージ性は重く、多くのSIerに変革を促す契機となりうる。
ただ、Uvanceをコア事業とする道のりは容易ではない。組織マネジメントの転換や販売体制の強化、人員の育成、社内のオペレーション整備などの課題に加え、高橋執行役員が「従来の枠組みで展開したい人が絶対出てくる」と語るように、社内外からの反動も予想される。この産みの苦しみを越え、富士通が生まれ変ることができれば、国内IT業界はまた新たなステージへと進むはずだ。
(取材・文/藤岡 堯)

「社会課題の解決」「グローバル」「SaaS」
Uvanceは、あらゆる(Universal)ものをサステナブルな方向に前進(Advance)させる、との二つの言葉を組み合わせた造語で、グローバルで社員投票を実施して決定した。「30年に富士通がありたい姿」からバックキャストし、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」という自社パーパスを具現化するため、今後の伸長が見込まれるSX市場でのリーダーポジションを狙う動きとなる。Uvanceの事業を構成する主要な要素は「社会課題の解決」「グローバルオファリング」「SaaS」の3点だ。つまり、SaaSを軸にITコンサルティング、SI、ITサービスを組み合わせ、グローバルで共通利用できるオファリングを開発・提供し、企業のDX・SXを支援することで、社会課題の解決につなげる。
オファリングの領域は多岐にわたる。まず、社会課題に応じた四つの分野(「Sustainable Manufacturing」「Consumer Experience」「Healthy Living」「Trusted Society」)を「Vertical Areas」と位置付けた。この4分野を支えるテクノロジー基盤となる「Horizontal Areas」として「Digital Shifts」「Business Applications」「Hybrid IT」の3分野があり、全7分野それぞれでオファリングを展開。Vertical Areasについては、現時点で26のオファリングを用意する(図参照)。

Vertical Areasでターゲットとなるさまざまな社会課題の解決には業種間連携が欠かせない。例えば、温室効果ガスの削減を実現するためには製造から流通、小売りの各業種を結ぶ取り組みが必須となる。Uvanceでは業種を横断する「クロスインダストリー」での展開に注力する方針を示す。
オファリング開発は自社の知的資産の適用だけにこだわらない。米Microsoft(マイクロソフト)や独SAP(エスエーピー)といったグローバルベンダーとのアライアンスを積極的に活用し、自社だけでは生み出せない付加価値を提供していく。
さらに顧客との共創を重点的に進めている点も大きな特徴である。帝人と進めるリサイクル素材の環境価値化プラットフォームに関するプロジェクトはその一例だ。富士通のブロックチェーン技術、帝人の環境負荷の評価に関するノウハウを掛け合わせ、リサイクル素材を使った製品製造における環境負荷に関するデータの収集・追跡などを実現する。顧客企業が持つ知見と自社のテクノロジーを掛け合わせ、市場のニーズに応じた付加価値の高いオファリングを生み出す考えだ。
22年度時点のUvance事業の売上高は2000億円で、これを25年度に7000億円まで引き上げたいとする。このうち4000億円を新規商材(Vertical Areas)で稼ぐという目標を掲げる。当面は富士通が得意とする製造業の領域である「Sustainable Manufacturing」を主力とするほか、「Consumer Experience」においてはM&Aで取得した企業の業績が寄与する見通しで、この二つの領域が牽引役となる見込みだ。
これまで示したUvanceの要素を踏まえると、従来のSIビジネスとの大きな違いがいくつもうかがえる。
従来のビジネスが具体的な業種・業務向けにつくられたソリューションをベースに、顧客の要件に従って個別にSIを実施する手法が中心だったのに対し、Uvanceは社会課題を起点に組み立てた複数のオファリングを用意し、顧客の要件にとらわれず、課題解決に必要なものをコンサルティング主導で提供する。
オファリングそのものも、顧客それぞれにカスタマイズされたものではなく、グローバルで標準化・共通化されており、業種や業態、国・地域を問わず複数の顧客が利用できる点もメリットとなる。オファリングの標準化・共通化が進めば、収益性の向上や、企画から市場投入までの時間短縮が期待できる。
収益モデルも大きく変わる。オファリングの軸はSaaSであり、継続的な利用に対して対価を得るストック型のビジネスとなる。顧客の要望に沿ったITシステムを納入する既存の人月ビジネスとは全く異なる考え方になる。
脱却ではなく「ポートフォリオを変える」
Uvanceの推進は、これまでのSIビジネスからの脱却を図る動きに映る。富士通はなぜ今、変わろうとしているのか。この疑問に対し、Uvance事業を束ねる高橋美波・執行役員SEVPグローバルビジネスソリューションビジネスグループ長は、国内IT市場における顧客ニーズやプレイヤーの変化を指摘する。
「国内の先進的なお客様は、自身で最新のテクノロジーを採用し、SIレスで展開したいという気持ちが強くなっている。他方で、外資系コンサルティング企業がユーザー企業に海外の先端事例を示し、(市場の)占有率を高めている。これまでのSIerの役割は変化しており、5年、10年のスパンで考えたとき、(これまでのSIビジネスは)なくなりはしないものの、かたちが大きく変わっていくだろう。SIから『脱却』という言葉ではなく『ポートフォリオを変えていく』ということだ。お客様自身が変わっている中で、富士通も最先端に行かなければならない」
では、Uvanceは富士通をどう変えるのか。高橋執行役員はSaaS型のアプリケーションを軸とすることの利点を挙げる。ビジネスを素早く展開できるだけでなく、ストック型であることから顧客と継続的なリレーションシップを保てる。「一度きりのシステム構築からアプリケーションベースに事業転換することで、絶えずお客様とのエンゲージメントが確立され、課題を抽出して製品に展開するサイクルを回すことができるようになる」
顧客と継続的な関係を築くためには、従業員の意識も変革が求められる。これまでのように、システムを入れて終わりというわけにはいかないからだ。高橋執行役員は適切な業務プロセスとKPIの設定によって、変化を促したいという。例えば、営業の場だけで顧客と対話するのではなく、カスタマーサクセスのプロセスを設け、顧客の課題を拾えるフレームワークを導入する。KPIに関しても、売り切り型の指標ではなく、顧客のロイヤリティを図る要素や、顧客がどれだけ製品を使い込んでいるかという点での評価を取り入れることが重要になってくる。「マインドは話をするだけでは変わらない。プロセス、KPIをしっかり変えていく必要がある」(高橋執行役員)と力を込める。
デリバリーは原則内製で
デリバリー面でもこれまでとは異なる動きを見せる。従来型のSIが多重下請けを基本としたビジネスであったのに対し、Uvanceでは「多重化は全く考えていない」(高橋執行役員)。デリバリーリソースに関してはオフショア開発拠点であるグローバル・デリバリー・センターなど内製を前提とし、SXコンサルティングなど、富士通の専門外となる特定の領域についてのみパートナーと協力するかたちになるようだ。高橋執行役員は「従来の(多重下請け構造における)パートナーシップとは変わっていくことになるだろう」と見通す。ただ、オファリングを実装する中で、8割程度は標準化されているものの、残りのおよそ2割は顧客ごとのカスタマイズが求められる可能性はあり、その場合に既存のパートナーの力を借りることはありうるという。とはいえ、Uvanceのパートナーエコシステムはオファリング開発での協業に重きを置く方針であることは間違いない。SIビジネスのパートナーエコシステムもまた、変革の波にさらされることになる。
UvanceはSIビジネスの代わりとしてSaaSソリューションを売るだけのビジネスではない。オファリングの開発から提案営業、コンサルティング、デリバリー、カスタマーサクセスまでのエンドツーエンドのプロセスを一貫性のある思想のもとで提供する、新たなビジネスモデルを構築する試みである。その中で富士通の顧客やパートナーとの向き合い方も変容していくことになりそうだ。
もちろん、今後も富士通に個別SIを望む顧客は存在し、その仕事もまた大切であることに変わりはない。それでも、将来的にはUvanceをコア事業として確立させる未来を見据えている。国内トップクラスのSIerである富士通が、旧来型のSIビジネスとの別れを本格的に打ち出したことのメッセージ性は重く、多くのSIerに変革を促す契機となりうる。
ただ、Uvanceをコア事業とする道のりは容易ではない。組織マネジメントの転換や販売体制の強化、人員の育成、社内のオペレーション整備などの課題に加え、高橋執行役員が「従来の枠組みで展開したい人が絶対出てくる」と語るように、社内外からの反動も予想される。この産みの苦しみを越え、富士通が生まれ変ることができれば、国内IT業界はまた新たなステージへと進むはずだ。
2021年10月、富士通は新事業ブランド「Fujitsu Uvance(ユーバンス)」を発表した。「サステナブルな世界の実現」を掲げ、オファリングによるデジタルトランスフォーメーション(DX)、サステナビリティトランスフォーメーション(SX)支援を展開する。Uvanceは単純にビジネス成長を目指すためだけの取り組みではない。受託開発型である既存のSIビジネスモデルを超え、新たな富士通をつくり出す意思が込められている。その変革はIT業界に何をもたらすか。
(取材・文/藤岡 堯)
Uvanceの事業を構成する主要な要素は「社会課題の解決」「グローバルオファリング」「SaaS」の3点だ。つまり、SaaSを軸にITコンサルティング、SI、ITサービスを組み合わせ、グローバルで共通利用できるオファリングを開発・提供し、企業のDX・SXを支援することで、社会課題の解決につなげる。
オファリングの領域は多岐にわたる。まず、社会課題に応じた四つの分野(「Sustainable Manufacturing」「Consumer Experience」「Healthy Living」「Trusted Society」)を「Vertical Areas」と位置付けた。この4分野を支えるテクノロジー基盤となる「Horizontal Areas」として「Digital Shifts」「Business Applications」「Hybrid IT」の3分野があり、全7分野それぞれでオファリングを展開。Vertical Areasについては、現時点で26のオファリングを用意する(図参照)。
Vertical Areasでターゲットとなるさまざまな社会課題の解決には業種間連携が欠かせない。例えば、温室効果ガスの削減を実現するためには製造から流通、小売りの各業種を結ぶ取り組みが必須となる。Uvanceでは業種を横断する「クロスインダストリー」での展開に注力する方針を示す。
オファリング開発は自社の知的資産の適用だけにこだわらない。米Microsoft(マイクロソフト)や独SAP(エスエーピー)といったグローバルベンダーとのアライアンスを積極的に活用し、自社だけでは生み出せない付加価値を提供していく。
さらに顧客との共創を重点的に進めている点も大きな特徴である。帝人と進めるリサイクル素材の環境価値化プラットフォームに関するプロジェクトはその一例だ。富士通のブロックチェーン技術、帝人の環境負荷の評価に関するノウハウを掛け合わせ、リサイクル素材を使った製品製造における環境負荷に関するデータの収集・追跡などを実現する。顧客企業が持つ知見と自社のテクノロジーを掛け合わせ、市場のニーズに応じた付加価値の高いオファリングを生み出す考えだ。
22年度時点のUvance事業の売上高は2000億円で、これを25年度に7000億円まで引き上げたいとする。このうち4000億円を新規商材(Vertical Areas)で稼ぐという目標を掲げる。当面は富士通が得意とする製造業の領域である「Sustainable Manufacturing」を主力とするほか、「Consumer Experience」においてはM&Aで取得した企業の業績が寄与する見通しで、この二つの領域が牽引役となる見込みだ。
これまで示したUvanceの要素を踏まえると、従来のSIビジネスとの大きな違いがいくつもうかがえる。
従来のビジネスが具体的な業種・業務向けにつくられたソリューションをベースに、顧客の要件に従って個別にSIを実施する手法が中心だったのに対し、Uvanceは社会課題を起点に組み立てた複数のオファリングを用意し、顧客の要件にとらわれず、課題解決に必要なものをコンサルティング主導で提供する。
オファリングそのものも、顧客それぞれにカスタマイズされたものではなく、グローバルで標準化・共通化されており、業種や業態、国・地域を問わず複数の顧客が利用できる点もメリットとなる。オファリングの標準化・共通化が進めば、収益性の向上や、企画から市場投入までの時間短縮が期待できる。
収益モデルも大きく変わる。オファリングの軸はSaaSであり、継続的な利用に対して対価を得るストック型のビジネスとなる。顧客の要望に沿ったITシステムを納入する既存の人月ビジネスとは全く異なる考え方になる。
(取材・文/藤岡 堯)

「社会課題の解決」「グローバル」「SaaS」
Uvanceは、あらゆる(Universal)ものをサステナブルな方向に前進(Advance)させる、との二つの言葉を組み合わせた造語で、グローバルで社員投票を実施して決定した。「30年に富士通がありたい姿」からバックキャストし、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」という自社パーパスを具現化するため、今後の伸長が見込まれるSX市場でのリーダーポジションを狙う動きとなる。Uvanceの事業を構成する主要な要素は「社会課題の解決」「グローバルオファリング」「SaaS」の3点だ。つまり、SaaSを軸にITコンサルティング、SI、ITサービスを組み合わせ、グローバルで共通利用できるオファリングを開発・提供し、企業のDX・SXを支援することで、社会課題の解決につなげる。
オファリングの領域は多岐にわたる。まず、社会課題に応じた四つの分野(「Sustainable Manufacturing」「Consumer Experience」「Healthy Living」「Trusted Society」)を「Vertical Areas」と位置付けた。この4分野を支えるテクノロジー基盤となる「Horizontal Areas」として「Digital Shifts」「Business Applications」「Hybrid IT」の3分野があり、全7分野それぞれでオファリングを展開。Vertical Areasについては、現時点で26のオファリングを用意する(図参照)。

Vertical Areasでターゲットとなるさまざまな社会課題の解決には業種間連携が欠かせない。例えば、温室効果ガスの削減を実現するためには製造から流通、小売りの各業種を結ぶ取り組みが必須となる。Uvanceでは業種を横断する「クロスインダストリー」での展開に注力する方針を示す。
オファリング開発は自社の知的資産の適用だけにこだわらない。米Microsoft(マイクロソフト)や独SAP(エスエーピー)といったグローバルベンダーとのアライアンスを積極的に活用し、自社だけでは生み出せない付加価値を提供していく。
さらに顧客との共創を重点的に進めている点も大きな特徴である。帝人と進めるリサイクル素材の環境価値化プラットフォームに関するプロジェクトはその一例だ。富士通のブロックチェーン技術、帝人の環境負荷の評価に関するノウハウを掛け合わせ、リサイクル素材を使った製品製造における環境負荷に関するデータの収集・追跡などを実現する。顧客企業が持つ知見と自社のテクノロジーを掛け合わせ、市場のニーズに応じた付加価値の高いオファリングを生み出す考えだ。
22年度時点のUvance事業の売上高は2000億円で、これを25年度に7000億円まで引き上げたいとする。このうち4000億円を新規商材(Vertical Areas)で稼ぐという目標を掲げる。当面は富士通が得意とする製造業の領域である「Sustainable Manufacturing」を主力とするほか、「Consumer Experience」においてはM&Aで取得した企業の業績が寄与する見通しで、この二つの領域が牽引役となる見込みだ。
これまで示したUvanceの要素を踏まえると、従来のSIビジネスとの大きな違いがいくつもうかがえる。
従来のビジネスが具体的な業種・業務向けにつくられたソリューションをベースに、顧客の要件に従って個別にSIを実施する手法が中心だったのに対し、Uvanceは社会課題を起点に組み立てた複数のオファリングを用意し、顧客の要件にとらわれず、課題解決に必要なものをコンサルティング主導で提供する。
オファリングそのものも、顧客それぞれにカスタマイズされたものではなく、グローバルで標準化・共通化されており、業種や業態、国・地域を問わず複数の顧客が利用できる点もメリットとなる。オファリングの標準化・共通化が進めば、収益性の向上や、企画から市場投入までの時間短縮が期待できる。
収益モデルも大きく変わる。オファリングの軸はSaaSであり、継続的な利用に対して対価を得るストック型のビジネスとなる。顧客の要望に沿ったITシステムを納入する既存の人月ビジネスとは全く異なる考え方になる。
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- 脱却ではなく「ポートフォリオを変える」
- デリバリーは原則内製で
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