リーガルテック市場は、法務省によるAIなどを活用したソリューションやサービスに関するガイドラインが示されたことで、拡大の兆しを見せている。各ITベンダーは、法律業務に特化したAIの開発や、人材不足に課題を抱える中小企業向けのソリューションの展開、専門知識がない部門でも契約情報を扱える機能の拡充などで、法務DXを加速させている。
(取材・文/大畑直悠、岩田晃久)
ガイドラインの公表が市場を後押し
大手企業から中小企業まで契約業務が発生することから、企業の経営に法務機能は不可欠だ。近年は対応しなければならない法律が増加しているが、法務部門の人材不足が課題になっており、各企業の間ではリーガルテックを活用した法務DXに取り組む必要性が生まれている。
リーガルテック市場では、各製品が続々と登場し、市場規模は拡大傾向にある。ただ、AIなどを用いて契約書の作成や審査、管理業務を自動化することが、非弁護士の法律事務の取り扱いなどを禁止する弁護士法第72条に抵触するか議論されていた。
法務省は8月1日、「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」と題するガイドラインを公表した。ガイドラインによってグレーゾーンが解消され、法律に準拠したリーガルテックビジネスの展開が後押しされた。さらに、新たにAIを活用したコンプライアンスチェック業務などの領域へソリューションを展開することも可能になったことから、市場のさらなる拡大が見込まれる。
弁護士ドットコム
認知度やブランド力の高さが強み
弁護士ドットコムは、電子契約マネジメントプラットフォーム「クラウドサイン」を提供し、250万社以上で導入されている。元榮太一郎社長は「電子契約は相手がいて初めて成立するが、認知度やブランド力の高さから、クラウドサインを活用した電子契約は受け入れられやすい」と強調する。
弁護士ドットコム 元榮太一郎 社長
同社は、契約書のAIレビューソリューションを提供するリセとの資本業務提携により、7月に「クラウドサインレビュー」の提供を開始。ユーザーがアップロードした契約書ファイルに対し、不利な条項や欠落条項、要注意条項に加え、弁護士が作成した解説や自社に有利な条文サンプルを自動で表示する。9月26日には、三井住友銀行の法人口座を持つ顧客を対象にクラウドサインの無料提供も開始し、さらなる顧客基盤の拡大を図っている。
同社は、契約書のライフサイクル全体を管理するCLM(コントラクトライフサイクル管理)の提供を目指す製品戦略を進めており、すでに提供する文書管理機能に加え、今後は契約書作成機能の提供を検討している。クラウドサインの顧客基盤を生かしたクロスセルに注力することで拡販する構えだ。
中長期ビジョンとして、法律分野に特化した独自のバーティカル大規模言語モデル(LLM)を開発する「リーガルブレイン構想」に取り組んでおり、AIを活用した契約書業務の効率化に注力する方針。LLMは、同社が保有する弁護士データベース(DB)や契約DB、裁判官DB、法律相談QA、法律書籍DBを活用して構築する予定で、データベースのさらなる拡充も同時に進める。
弁護士向けの業務支援サービス「Copilot for lawyers」の開発・提供にも力を入れる考えで、第1弾として生成AIを活用したリサーチ支援サービス(α版)の提供を開始。12月には第2弾となるリサーチ支援サービス、2024年3月には第3弾のドキュメンテーション支援サービスの提供を予定している。
Copilot for lawyersを基に、今後は企業の法務部門の実務を支援する「Copilot for legal」の提供を検討する。加えて、クラウドサインの文書作成やレビュー、管理の機能にもリーガルブレイン構想の考え方を取り入れ、各企業の経営・契約戦略の策定を支援する計画だ。
元榮社長は「われわれは、弁護士と一般ユーザーをつなぐサービスなどの運営で、(IT業界だけではなく)法曹界の第一線と関わり続けていることから、独自のナレッジを蓄積している。それをリーガルブレイン構想に反映させることで、他社にはできない世界感が実現できる」とみている。
LegalOn Technologies
パートナービジネスで顧客層を拡大
LegalOn Technologiesは、AI契約審査プラットフォーム「LegalForce」の導入社数が3000社を超えるなど、リーガルテック分野で豊富な実績を誇る。9月からは小規模企業向けの新サービスの提供を開始。パートナービジネスにも力を入れており、引き続き顧客層の拡大を進める考えだ。
LegalOn Technologies角田 望 社長
同社は、自然言語処理などの技術を活用し、契約書をアップロードするだけで、契約リスクや条項の抜け漏れの洗い出しをサポートするAI契約審査プラットフォームのLegalForceと、締結済みの契約書をアップロードすると、契約管理に必要な情報をAIが抽出、管理台帳を自動作成する契約管理システム「LegalForceキャビネ」をSaaSで展開している。角田望社長は「チェックできる項目が多いことや、レビューの質が高いことに加えて、顧客の要望に沿って機能拡充できることが支持され、導入が進んでいる」と強調する。
これまでの顧客層は大手企業や法律事務所が多かったが、法務に必要な知識を持つ従業員がいないケースが多い従業員数20人以下の小規模企業向けに「LFチェッカー」を9月4日に発売した。LegalForceと同品質のAIを活用した自動レビュー機能を提供する。角田社長は「契約書を渡されても、どこに気をつけていいのか分からないという声が多い。LFチェッカーを活用すると、さまざまなチェックが入る。それを読むことで理解が深まり、弁護士に相談するといった行動に移せる。契約で足をすくわれないように支援するサービスだ」とアピールする。
同社は、22年11月にSB C&Sとディストリビューター契約を、23年3月に電算システムと販売代理店契約をそれぞれ締結し、間接販売の強化を図っている。角田社長は「パートナー経由での販売実績が伸びている」と手応えを語り、「多くの企業が対象となるLFチェッカーは、これまで以上にパートナーの力を借りて販売していきたい」と力を込める。パートナー専門の営業組織を設けており、リーガルテック商材を扱ったことがないパートナーでも販売しやすい体制となっているという。
LegalForceは、GMOグローバルサイン・ホールディングスが提供する電子印鑑「GMOサイン」、LegalForceキャビネは、米DocuSign(ドキュサイン)の電子署名ソリューション「DocuSign eSignature」などの電子契約サービスとの連携が可能。今後も他社製品との連携を強化し、利便性を上げていく予定だ。また、9月27日に松田綜合法律事務所(東京)と提携を開始したことで、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)に関するひな形を搭載するなど、対応する法律は拡大している。
Sansan
契約情報の全社的な活用を支援
Sansanは、契約DXサービス「Contract One」の拡販に注力している。22年1月に提供を開始し、現在200社弱の企業が導入している。契約情報の全社的な活用を支援するサービスとして価値を訴求しているほか、機能の拡充や自社製品との連携も進めている。
Sansan 西村 仁 ゼネラルマネージャー
西村仁・Contract One Unitゼネラルマネージャーは、Contract Oneを同社が提供する営業DXサービス「Sansan」、インボイス管理サービス「Bill One」に次ぐ、「第3の柱」として位置付け、「社内でもプロダクトマーケットフィット前夜という感触で、受注確度は上がってきている」と自信を見せる。その上で「売り上げの面ではSansanやBill Oneと桁が違うのが現状だが、本年度中に桁を並ばせ、来年度以降からの約2年でサイズを並ばせたい」と意気込む。
Contract Oneは、契約書の管理機能として、契約先の企業名や自社の担当者名、契約内容から文書を検索できるDBを提供。アカウントは無制限に作成でき、法務部門以外でも契約情報を活用できるのが特徴だ。生成AIを使った契約書の要約機能を搭載し、法律に関する専門知識の有無に関わらず、契約情報を活用できるように支援している。
西村ゼネラルマネージャーは「顧客の経営層からは、単に業務効率化だけではなく、法務DXをビジネス全体にコミットさせたいという要望が強い」と説明。契約交渉の際、自社に有利な契約をするために、これまでは営業部門が法務部門に確認する必要があったとし「営業サイドが契約書の内容や要点を素早く把握することで、ビジネスのスピードが上げられる」と胸を張る。
他社のリーガルテックサービスについては「電子契約の締結などのソリューションとのAPI連携が可能で、単純な競合というわけではない」としつつ、「契約書の格納先として、営業も含めて全社的に活用したいという場合は、他社のサービスと差別化できる」と語る。
今後の拡販に向けては、パートナーによる間接販売に力を入れる。西村ゼネラルマネージャーは「法曹界にバックボーンを持たない場合でも、Sansanの営業からオンボーディングでき、パートナーは売りやすいだろう。顧客管理システムや営業支援システム、業務アプリ構築といったソリューションと連携できるようにして、パートナーが持つ商材と組み合わせた販売を可能にしたい」と語り、販売チャネルの開拓に意欲を示す。
機能面では、契約書の親子関係のひもづけや、契約書の有効性の有無を判定し、自動で台帳を生成する機能の開発に取り組んでいるという。Sansanとの連携にも力を入れ、Sansanの企業DB上で各企業の契約情報の閲覧を可能にし、ユーザーの営業アプローチを支援する予定。西村ゼネラルマネージャーは「Sansanとのクロスセルによる販売も多く、顧客からも連携機能への期待値は高い。これからも開発に力を入れる」と話す。