「コアコンピタンスを見直す年だった」和田成史社長はオービックビジネスコンサルタント(OBC)の今年度の事業を振り返る。1999年、株式を店頭公開し、新ERPシリーズを発売して以降、上げ潮の勢いで事業展開を進めてきた。「ちょうどITブームの真っ只中だった。まるで乱気流に乗ってしまったような激動の日々だった」と、当時を語る。「乱気流からの脱出に成功し、コアコンピタンスの見直しを行い、進むべき方向が定まった」と話す和田社長。同社のコアコンピタンスとそれを核にどういった方向に事業を進めていこうとしているのか。
好調な業績を支える、5つのコアコンピタンス
──今年度の中間決算は、売上高、経常利益ともに前年同期を上回るなど、好調のようですが。和田 おかげさまで、中間決算はまずまずの結果となりました。今年度は、決算以上にコアコンピタンスを明確にすることができました。これが大きな成果だったと思います。
──OBCのコアコンピタンスは業務ソフトということが明確だったと思うのですが、あらためてコアコンピタンスを明らかにする必要があったのですか。和田 1999年11月に株式を店頭市場に公開しました。その直前の9月には新ERPを発売しました。ちょうどその時期はIT革命といわれた時期でして…。
──株価も非常に高かった時期ですね。和田 ええ(笑)。ちょうど世の中の変化が激しかった時期に、当社としても大きな出来事が重なり、正直なところ非常に大変だったんです。社内では当時を、「乱気流」と呼んでいるんですが、ようやくここから脱出することができたのが今年度だったわけです。
──自社の変化と周囲の変化が相まって、ある種混乱していた部分をきちんと整理するため、コアコンピタンスの見直しを図ったということですね。和田 その通りです。そこで明確になったのは、当社のコアコンピタンスは次の5つだということです。第1は業務ソリューションへのフォーカスです。これまでは、業務ソフトの提供にとどまっていました。しかし、新ERPを提供できるソフトをもったことで、ソフトにとどまらないソリューション事業の展開が可能になりました。これをもっと生かしていきたい。第2は、ターゲットユーザーを中小企業だけでなく、中堅企業まで幅を広げていくこと。新ERPは従業員規模500人クラスの企業でも十分に利用することができます。これで中堅企業をターゲットユーザーにすることができるようになりました。
第3は、マイクロソフトプラットフォームへのフォーカスです。データベースとしてオラクル、OSとしてLinuxへの対応も実施してきたのですが、やはり複数のOSやデータベースに対応することは、コストにも跳ね返ってしまいます。そこで、開発プラットフォームを集中した方がメリットが高いと判断し、マイクロソフトのプラットフォームにフォーカスすることにしました。第4は従来からの継承になりますが、パートナーによる市場開拓戦略をさらに加速化していくことです。そして最後の第5番目は、開発および販売パートナーがビジネスをしやすいようにインフラとサポートを充実し、広告などを打っていくことになります。
従来のパッケージから、ソリューション領域へ
──ソリューションは企業によって中身が大きく異なります。OBCにとってソリューションとはどのようなものを指しますか。和田 当社は新ERPによって、販売、財務会計、給与計算といった基幹業務システムのコアとなる部分を提供しています。そこに当社自身やパートナー企業が開発したシステムを付け加えていくことで、新ERPはより顧客に近いソリューションとなっていきます。まあ、システムと同義語に近いものと思ってもらってよいかもしれません。
──新ERPシリーズによって、従来型のパッケージソフト事業だけでなく、ソリューション領域まで対応できるようになったということですね。和田 新ERPシリーズは、発売から1年3か月で導入実績1000社を実現しました。1000社の導入企業のうち、500社に聞き取り調査を行ったところ、満足していると答えてくれた企業が495社と、ユーザー満足度も非常に高かったんです。これは、パッケージをそのまま活用することも、カスタマイズして使うこともできる自由度の高さが評価された結果です。さらに、カスタマイズに関して、従来のERPのようにシステムそのものではなく、当社が認定技術会社に提供しているローカル環境で使用する「ODAC(オーダック)」と、インターネット経由での接続環境で使用する「iDAC(アイダック)」というモジュール部分を変更するだけでよいという手軽さが受け入れられている要因だと思います。システムそのものを変更する場合、かなり大がかりな変更になります。例えばデータベースシステムとの接続試験などを含めても、運用開始まで3-4か月かかります。
一方、モジュール部分だけの変更であれば、接続テストの必要もありません。運用開始まで最短で数日というケースだってあるのです。生産性の高さ、信頼性の高さが顧客およびパートナーに評価されていると思います。
──販売パートナーは新ERPをどう評価していますか。和田 新ERP販売のためのパートナー制度であるOESP(OBC ERPソリューションパートナー)には、メーカー系のシステムディーラーなど従来の当社の販売パートナーではなかった層に加盟してもらっています。02年3月までに800社の加盟を目標に、今年4月から全国でセミナーを開催した結果、ほぼ800社のパートナーを獲得できる見込みとなりました。02年度は、第2ステージとしてカスタマイズ収入、サブシステムの開発による販売収入など、新しい収益モデルを獲得できるよう、支援していきたいと思っています。販売パートナーにとって、新ERPが顧客囲い込みの最適なツールとなるよう活用してもらいたいですね。
──02年も新ERPを核にビジネスを拡大していくことになりそうですね。和田 今、ブロードバンドは個人レベルでの活用ばかりが注目されています。しかし、企業がブロードバンドを活用することで、通信コストと事務コストを大幅に削減することができます。ようやく乱気流から抜け出して、02年はさらにビジネスを拡大させる年にしたいですね。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「どうも寝言でうなされているらしいんですよ。夜中にうんうん叫んでいるらしいんです(笑)」
乱気流に飲み込まれていた時期、和田社長は深い悩みを抱えていたようだ。「ずいぶん、髪の毛も抜けてしまったんですよ」と、本人は笑いながら話す。しかし、自身は相当に深く悩んだ様子である。
IT革命ブーム真っ盛りの株式公開は時流に乗ったうらやましいものに見えるが、当事者にとっては、喜んでばかりもいられない日々だったようだ。
もっとも、乱気流から抜け出しても、のんびりとはいかないらしい。「今、月間70-80社の新規導入企業が出てきました。この数字を早く3けたに乗せて、さらに来年には200社ペースにしたい」
和田社長、目標が高すぎて、悩みが尽きないのでは?(猫)
プロフィール
和田 成史(わだ しげふみ)
1952年8月30日生まれ。75年3月、立教大学経済学部卒業。76年10月、大原簿記学校会計士課勤務。79年12月同校を退職。80年3月に公認会計士登録、6月に税理士登録。同年12月、オービックビジネスコンサルタント(OBC)を設立、代表取締役社長に就任。
会社紹介
OBCでは、これまで続けてきたカスタマイズを行わないパッケージソフトの販売に加え、新ERPシリーズを核にしたソリューション企業への転身を進めている。従来の販売店に加え、ERPのための新パートナー制度「OESP」、ユースウェア事業認定店「OCIP」、個人のユースウェア事業者認定「OCI」、ネットワーク事業認定店「OCNE」、バンキングシステム認定店である「OBSI」、販売店内の個人のための資格制度「OSA」、会計士、税理士を対象にしたパートナー制度「OSAP」と、多彩なパートナー制度で幅広いソリューションを提供できる体制を作っている。これにより、売り上げにおけるサービスの割合を増加させていく計画だ。
和田社長は、「サービスの売り上げは、目標となる具体的な数字を作るのではなく、新ERPを販売することで自然と拡大していくのではないか」と話す。新ERPを原動力にビジネスモデルの変更を実現させる考えだ。