100万回線の大台を超え、今年度(2002年3月期)130万回線の加入を見込むフュージョン・コミュニケーションズ。今夏には、ADSL事業者からの音声データを取り込み、既存電話網につなぐサービスを始める。法人顧客の音声、映像、データをIP網で統合的に集約するVPN構築にも力を入れる。オンデマンド型映像配信の基盤となるCDN構築やビデオ電話への進出にも意欲を示す。今は中継網サービスが中心だが、光時代にはエンド・ツー・エンドのサービスも視野に入れる。
音声は重要なコンテンツ、今年はVoIP元年になる
――ヤフーBBやメディア、イー・アクセスなど、イーサネットやIP網技術を駆使した新興事業者が、相次いで低料金を打ち出しています。角田 今年は、ブロードバンド(BB)に不可欠な基本サービスとして、VoIP(IP網を使い音声を伝送する技術)が一気に立ち上がる年です。昨年4月に当社がVoIPを始めたときは、音声の品質や安定性に関して、周囲から疑心暗鬼の目で見られていました。これが大丈夫だと分かった今、同様の分野への新規参入が急増するのは、ごく自然な流れです。
当社のVoIPは、電話の両端にNTT交換機を用いた一般公衆網を使い、中継網にIP伝送網を使うタイプのVoIPです。ヤフーBBやイーアクセスは、自前のADSL網を使うため、固定電話に電話をかけるときは、着信側のNTT交換機しか使いません。このため料金が安くなるという仕組みです。中継網のみをIP化する事業者でも、当社の3分20円を下回る料金を打ち出していますが、当然、当社としても今後、対抗策を打ち出していく考えです。
――電話口から電話口まで(エンド・ツー・エンド)完結型サービスに進出する計画は。
角田 電話線が銅線のうちは、自らの投資でアクセス網領域(ラストワンマイル)に進出する計画はありません。10年後のアクセス網は、光ファイバーに移行することが明らであり、現行の銅線時代に無理な投資をする必要はないからです。
それよりも、銅線を使い、すでに高速通信を実現しているADSL事業者と提携する方が得策です。提携先はまだ決まっていませんが、今夏を目途にADSL事業者の音声通信を固定電話や携帯電話など既存電話網に中継するサービスを始めます。
ADSL事業者にとって、音声は欠かすことのできないコンテンツであり、円滑な音声伝送ができる中継網に対し需要が高まっています。これにより、自社中継網の利用者数が増えることに期待しています。
――今後も音声中心に手がけていく考えですか。角田 今はIP網に音声を通すことで収益を上げています。音声は一般利用者にも分かりやすく、手っ取り早く収益が得られますからね。しかし、そもそもIP網は、音声を伝送するためのものではありません。今は、たまたま音声が中心ですが、今後はデータや映像など、さまざまな種類のデータを取り込んでいく計画です。
映像は、ビデオ電話系とレンタルビデオ系の2種類を想定しています。後者は、見たいときに、見たい映画を観るといったオンデマンド型サービスであり、これを実現するためには、コンテンツ・デリバリー・ネットワーク(CDN)を構築する必要があります。また、企業の電話、ビデオ電話、データ、VPN(仮想私設網)などの通信を、IP網1つで統合的に、安くまとめあげるサービスにも力を入れます。
今は、音声が中心の当社のIP網ですが、3年後にはさまざまなデータを吸い込む統合的な基幹網に育てます。
余談ですが、80年代後半から始まったNTTのISDN(総合デジタル通信網)は、電話やデータ、ファクシミリなどを1本のデジタル網で統合的に処理するという発想です。ところがISDNは、10年以上の間、電話利用が中心で、一般には「1本の回線で2台の電話が同時に使える」程度の認識しか広まりませんでした。データ通信の方は64kbps3分10円で、今から考えると遅くて高い、どうしようもない遺産となってしまったわけです。
しかし、ISDNの音声とデータを統合的に扱うという着眼点は良かった。当社のIP網はISDNの轍を踏むことなく、音声、映像、データをバランスよく取り込み、今日的な意味での「デジタル統合サービス」を実現します。
光ファイバーはインフラ、BB先進国を目指せ
──光時代には、どう対応しますか。角田 現在、東京-大阪間の回線容量は、4.8Gbpsを確保しています。3年前だとこの容量を実現するためには、光ファイバーが100本ほど必要でしたが、今は2本で済みます。今後、本格的なビデオ電話やCDNが始まり、これの1000-1万倍ほどの容量が必要になったとしても、多重化技術などを使うことで、中継網の光回線は比較的容易に構築できるでしょう。
問題はアクセス網です。アクセス網は現在、ADSLが活躍しているように、基本的に銅線しかなく、光ファイバーの数が絶対的に不足しています。アクセス網の光化は、誰かがやらなければならない社会インフラです。私は、このアクセス網の光化投資には税金を使ってもいいと考えています。光化が進めば、ビデオ電話、レンタルビデオのオンライン化など、今考えられているサービスはほぼすべて実現できるようになり、経済効果は非常に大きい。
仮に、NTTが光を敷設するにしても、「NTT自身が使うのは全体の3分の1。残り3分の2は他の業者に任せなさい」と、政府が公平に指揮をとる必要があります。BB後進国の日本を救おうとしているADSLや、当社のように電話料金を値下げできる企業が出てきたのは、すべて規制緩和があったからなのです。NTTの独占を決して許さず、光アクセス網についても、希望する通信事業者に対し公平に分配する仕組みがなければ、日本は再びBB後進国に逆戻りしてしまいます。
──法人向けの販売施策は。角田 当社のIPを有効に活用してくれるシステム構築事業者と積極的に組んでいきたい。
当社にもVPNなどを構築し、電話、映像、データなどを一元的に伝送するシステムを構築する「ネットワークソリューション」を手がける部門はあるものの、全社員115人の人員でできることは所詮限られています。地域営業の現場では、人員規模で勝るNTTグループに取り囲まれ、苦しい闘いを強いられています。
ただ単に電話回線の拡販をする代理店ではなく、IP網を使ったネットワークソリューションに強いシステム販社と組み、VPNをはじめとする法人需要の開拓に力を入れていきます。法人においても、音声とデータ通信の統合は、加速度的に進んでいます。音声と親和性の高い当社のIP網を、システム販社のソリューションの1つとして、共に売り込める体制をつくっていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「フュージョンをやってみて、国産通信機器メーカーの製品は、北米の新興通信機器メーカーに比べ性能が悪く、価格も高いことが分かった」
この背景には、「NTT出入り業者御三家」と呼ばれるNEC、富士通、日立製作所の大手通信機器メーカーがNTTの要望ばかりに耳を傾け、世界の通信業界の流れを軽視し、自主的な開発に力を入れてこなかった要因が大きいという。
「交換機を使った電話ビジネスが消滅することは、通信機器メーカーのトップなら10年前から分かっていたこと。これをなおざりにし、NTT依存から脱却できなかった経営責任は大きい」と指摘する。
「国産品を採用したくても、採用するに値する機材がない。残念なことだ」と、胸の内を打ち明ける。(寶)
プロフィール
角田忠久(すみだ ただひさ)
1940年、佐賀県生まれ。63年、九州大学工学部卒業。同年、日本電信電話公社(現NTT)入社。92年、理事兼ネットワーク高度化推進本部推進部長。94年、日本高速通信(テレウェイ)常務取締役。95年、専務取締役。98年、KDD常務取締役。99年、クロスウェイブ・コミュニケーションズ取締役副社長。00年、フュージョン・コミュニケーションズ代表取締役社長。
会社紹介
2001年12月、サービス開始から9か月目にして100万回線の契約を獲得。個人契約と法人契約の回線数比率は、8対2で個人が多い。今年度(02年3月期)は130万回線を獲得し、100億円の売り上げを見込む。来年度(03年3月期)は250万回線で300億円を売り上げ、単年度黒字を達成する計画。
00年3月に創業し、実質、3期目で単年度黒字化と、おおむね順調に進む。株式公開による資金調達や電話料金の値下げ競争など、さまざまな課題があるものの、第5-6期目には累積損失の解消を目指す。同社の“売り”である、遅延がないIP網は、今後は音声だけでなく、ビデオ電話や映像配信、データ通信にも積極的に活用することで収益性を高める。