欧州はユーロで共同戦線を張る。日本もアジアを意識し、全世界向けにビジネスを展開する必要性が高まりつつある。マイクロソフトのアジア地域を統括するマイクロソフトアジアリミテッドのマイケル・ローディングプレジデントは、「日本には日本の良さが十分にある。もっと、日本は自信をもっていい」という。マイクロソフトから見て、アジアとはどんな市場であり、アジア各国に比べて日本はどのような市場に見えるのか。
成長率が高いアジア市場、IT導入の余地は大きい
──2002年、世界経済が大きな転換期を迎えています。円安が続いていますが、これは欧州でユーロが通貨として利用されるようになったことの影響も大きいと思います。これまでアジア市場は成長著しい地域であり、日本はそのリーダーだとされてきました。しかし、果たしてそれが継続的に続いていくと考えてよいのか。マイクロソフトではアジア市場をどう捉えていますか。
ローディング 当社の売り上げでアジア市場が占める割合は、20%強になります。ただ、今年は市況が厳しく、この割合に変化があるかもしれません。しかし、3年連続で最も成長率が高い市場です。3-5年のスパンで見れば、アジア市場は成長率が最も著しい市場であり続けるだろうと思います。私が、アジア市場は成長を続けると言い切る根拠は4つあります。第1には、日本を除くアジア地域では消費者の生活が豊かになる過程にあり、各家庭が最新のテクノロジーを導入したいという欲求をもっている点です。
これはビジネスチャンスがたくさんあるということです。第2は日本にも当てはまることですが、北米や欧州に比べITの普及率がまだ低く、導入の余地がまだ残っているということです。とくに企業向け市場については、北米地域ではITを導入した企業が着実な成長を遂げている事例があります。企業は規模を問わずITを導入していくべきでしょう。第3番目は、中国を筆頭に、成長期にある企業が存在する地域が多いということ。中国は年率7-8%ずつの経済成長を続けています。
ITに限ってみても3-5年はこの成長率が続くでしょう。中国以外のアジア地域では、今年はパソコンおよびPCサーバーの出荷台数は前年並みもしくは下がるケースもあるでしょうが、中国ではまだ成長期にありますからね。第4番目は、アジアに本社を置くITベンダーが世界で果たす役割がもっと増していくだろうということです。日本や韓国、台湾のようにハードウェア中心の国もあれば、インドのようにソフト中心の国もあります。中身は国によって異なりますが、アジアの企業が世界のIT市場で欠かせない役割を担っていくようになるでしょう。
──中国市場の話が出ましたが、中国は成長著しいですね。アジアのリーダーの役割が日本から中国へバトンタッチする日も遠くないのではないかと思ってしまいますが。
ローディング 日本の人は、中国を過剰に恐れ過ぎてはいないでしょうか。いや、日本だけでなく、アジア各国はすべて中国を脅威に感じているようですね。確かに中国はポテンシャルをもった市場ですが、日本には他国にない強みがたくさんありますよ。その強みを生かしていけば、日本がアジアのリーダーであり続けることは可能だと思います。
──日本の強みとは、どういった部分だと考えればよいでしょう。
ローディング 日本は法制度がきちんと整備されている。ビジネス環境も整っているし、識字率も高い。インフラも整っていて、ハイエンドな開発を行う土壌がある。品質を重視し、高いレベルの商品のみを認める国柄です。もちろん、マクロ経済上の問題をクリアしなければならないのはもちろんですが、決して悲観することはない。日本人は誇りをもっていいと思いますよ。
中国でのMS評価は高い、熱意がすばらしい韓国
──中国市場はマイクロソフトにとってどういう市場ですか。Linuxが話題になっているとも耳にしますが。
ローディング Linuxは決して軽視できない手強いライバルだと考えています。しかし、中国市場においてということになると、アジアのほかの地域に比べLinuxの利用率はむしろ低いのです。中国は海賊版ソフトが横行しているので、無償で提供するLinuxのメリットもあまり生きないし(笑)。Linuxを巡る騒ぎは大きいけれど、実質的にはそうLinuxが支持されているわけではないと思います。中国政府としては米国ベンダーの製品がイニシアチブをとることを安全保障の面で心配しているようですが、鉄道、国税、関税といった重要な分野でウィンドウズ2000サーバーが利用されているし、マイクロソフトに対する評価は高いと感じています。
──韓国市場はどうですか。
ローディング ブロードバンドとモバイルのインフラという点では、目を見張るばかりの成長ぶりです。このインフラを活用し、どんなことができるのか、可能性にトライする熱意が素晴らしいですね。とくに学校においては大学はもちろん、中学校や小学校までブロードバンドを利用できる環境になっている。この点は日本も早急に見習って、学校へのブロードバンド化を実現し、学校の先生がITをツールとして利用できるよう教育を徹底した方がよいかもしれません。
──日本も、アジア各国に学ぶべきところがたくさんありそうですね。
ローディング 私見ですが、日本のCEOはITで生産性が向上するという点を正確に理解していないように思います。ただ先日、IT推進全国会の会合で、名古屋、広島、福岡に行って中小企業向けビジネスを行うディーラーやVARの人たちと直接話をする機会を得て、非常に感激しました。彼らのビジネスを活性化するために、それぞれの自治体に地域の企業がITを導入し、競合優位性を発揮できる例が出てくれば、と思っています。あれだけの熱意があれば、中小企業の方が大企業よりも早く変化して、ITを活用して成長機運を得るようになるかもしれない。それくらいのパワーを感じました。
米国の企業もITを活用することで成長したのです。日本企業の中からもITを推進したことでトップになる企業がどんどん出てくれば、経済にも好影響を与えるのではないでしょうか。パソコンの出荷台数だけを見れば、中国が日本を抜いてしまう日は残念ながらそう遠くはないかもしれません。しかし、ソフトを活用するという面では日本がまだ上です。当社にとっても、日本は当面、アジアで最大の売り上げをあげる国であることに変わりはありません。
眼光紙背 ~取材を終えて~
とにかく明るい。こちらの厳しい質問にも明るい笑顔で答える。ただ、アジアと日本の現状について見る目はシビアだ。「日本企業は上手にITを活用していないのではないか。例えばマイクロソフト日本法人のITインフラと、日本のITベンダーを比較すると、非常に差がある。米国ではマイクロソフトとほかのITベンダーとの差はないのにね」アジア各国のIT環境を比較すると、「日本は決して劣っているとは思わない。ただ民間と政府が一緒になってそれをどう生かしていくのか、真剣にトライする姿勢、熱意は十分なのか。その点はとっても心配だね」と気にかける。逆に「日本はもっと自信をもっていい部分もたくさんある」と、エールを送ってくれた。(猫)
プロフィール
マイケル・ローディング 米バーモント州のミドルベリー大学で政治科学とドイツ語の学士号を取得。小規模個人経営コンサルタント「インターディベロップメント」に勤務。その後、ユニシスコーポレーションに5年間在籍し、プロダクトマーケティングと主要アカウントセールスを担当。マイクロソフトでは、中国圏全地域のリージョナル ディレクターとして、中国、香港、台湾の販売、マーケティングおよびサポート事業の運営を担当。
会社紹介
マイケル・ローディング氏がプレジデントをつとめるマイクロソフト アジアリミテッドは、アジア地域全体のセールス、マーケティングおよびサポート事業を担当している。アジア地域は、日本、韓国、台湾、インド、香港、中国、シンガポール、マレーシア、フィリピン、タイ、インドネシアおよびベトナムの12か国・地域。これらの国・地域で事業を行う12の法人から構成され、20か所に2000人以上の従業員を擁する。日本法人もアジアリミテッドの傘下にあり、日本法人の阿多親市社長にとってローディング氏は直属の上司ということになる。アジアはマイクロソフトの中では最も急成長している地域であり、会計年度2000年の売上高は全体の約18%を占める。その中で日本は最も売り上げが大きい地域となっている。