6月26日付で日本事務器の社長に就任した大塚孝一氏。「私の役割は、成長路線を築いていくこと」と話す。成長のための重点事業として、従来から強い医療分野、官公庁向け事業に加え、独自アプリケーション、サポート・サービスという4分野を掲げる。今年12月末までを第一段階として、「この4事業を核に企業としての成長を目指す」意向だ。
業務に精通したSEをもつ、それが日本事務器の強み
――大塚社長は、NEC時代から販社と接する機会が多かったと思います。今回、新たに社長に就任し、あらためて日本事務器の現状に点数をつけるとしたら、何点ぐらいになりますか。
大塚 社長という立場では、辛い点数になるかもしれない(笑)。日本事務器は非常に歴史ある会社です。コンピュータ分野の販社としては草分け的な存在で、1961年に国産初のNEAC小型コンピュータの取り扱いを決定したところからスタートし、その後、NEACシステム100がOAブームに乗って拡大しました。ハードを販売していくためには、業務に精通したSEが不可欠ですから、現在に至るまで業務をよく知るSEを多数抱えていることは大きな強みといえます。しかし、ご存じのように世の中が変わるスピードが非常に早く、しかもローコストの競争が求められている。このスピードとローコストの競争という点でいえば、全社すべてが対応しているかといえば、そういえない部分もある。
やはり、進んでいるのは元々強い、医療、福祉、介護、自治体、学校といった分野ですね。全部100点というわけにはいかないが、高い合格点をつけることができます。民間向けは、オリジナルのERP「CORE Plus(コアプラス)」が核になります。決して先発ではなく、どちらかといえば後発といえるスタートだったかもしれませんが、この製品は重要な戦略商品です。成功させなければいけないものだと思いますし、現在のところ順調に推移しています。ただ、eCRM、EIPといった、いわゆるフロントオフィスソリューションについては、今後の課題として頑張らなければならない分野だと思っています。
――従来からの強い分野を生かしつつ、新しい成長分野にも積極的に取り組む必要があるということですか。
大塚 そうです。新しい取り組みのひとつとしては、CORE Plusは他社との連携を視野に入れた展開を行う必要があると思います。この製品、基本部分のモジュールとしてはしっかりできている。あとは、ほかの企業と協力関係を築き、ソリューションの幅を広げていくことです。
例えば、特定業種向けソリューションなどは当社ですべて構築するのではなく、その業種で実績ある企業があれば、その企業と提携し、互いのモジュールを連携してシステムを作り上げるといったことが可能になります。この他社との連携戦略を実現するには、きちんとしたシステム戦略を描き、それに基づいたオープン技術での開発を行う必要があるでしょう。スタンダードな裾野の広い技術をきっちりと押さえて開発していけば、当社と連携したいと考えてくれる企業が自ずと増えくると思います。すでに連携が実現しそうな企業が約100社あります。今度さらに仲間を増やしていきたい。
また、これまではバックオフィスを中心としたIT化に取り組んできたわけですが、これに加え、新しいIT化ニーズであるフロントオフィス向けソリューションについても積極的に取り組んでいく必要があります。システムがクライアント/サーバーからウェブベースに移行し、フロントオフィスソリューション方向へと変化していますから、この分野にもきっちり対応していくことが欠かせません。さらに世の中の流れとして、事業のサービス化が大きく進展しており、当社としてもそういう新しい流れは積極的に取り組んでいくべきだと思っています。
担当役員制を導入サービス事業も強化
――これまでに強い分野、新しく取り組む分野を含め、注力すべき分野はどこだと捉えていますか。
大塚 今回、私の社長就任と同時に、医療関連、官庁および学校、ERPなどのSI事業、サポート・サービスという社内の4つの事業について、担当役員制を導入しました。各事業ごとに客層、変化のスピード、コストが大きく異なるため、担当役員が責任をもってビジネスを行う方がよいと判断したからです。この4事業は、すべて成功させなければなりません。ただ、サポート・サービスについては、かなり進んでいる販社さんもありますから、今後大きく進展させなければなりません。
――これまでは、サービス事業については十分な取り組みができてなかったということですか。
大塚 決してゼロだったわけではありません。例えば、「トータルシステムソリューションサービス(TSS)」という体系をもっていますし、これまでにも取り組みは行ってきました。しかし、もっと先行している会社もありますし、現状だけで十分ということはないでしょう。研究して新しい取り組みを積極的に行い、サービス事業を強化していくべきだと思います。現在、どのようにサービス事業を強化していくのか、プロジェクトを作り、新しい商品を作るためにどういった設備や場所が必要で、どうすればそれを実現できるのか――を検討している最中です。
――強化していくサービスを含め、4つの事業すべてを成功させるというのは新社長として、かなり強い意気込みを感じますが。
大塚 ここ数年は売り上げが伸び悩んでいたのが実状です。この伸び悩みを脱し、成長路線をきっちり作っていく必要があります。成長といっても、高度成長する必要もないし、そういう時代ではないと思います。ただ、やはり企業として、さらに従業員のモチベーションを高く保っていくためには、時々休むことはあっても、成長を続けていく必要があるでしょう。
――社長に就任し、成長路線に向かうための体制作りはいつ頃までに。
大塚 年内を第一段階として、次の成長のための変化をさせるのは03年の1月以降、その次は03年度ではないかと思っています。
――今、販社とメーカーの関係が大きく変わってきていると思うのですが。
大塚 メーカー独自システムからオープンシステムに移行したことで、販社はメーカーが提供したソフト、ハードだけを扱うのではなく、独自商品を増やしていくようになりました。この流れは最近になって始まったことではありません。ただ、当社のCORE Plusのように、オリジナル業務パッケージが各社から発売されて、この分野がずいぶん賑やかになってきているのが最近の傾向だと思います。各社とも、オリジナルアプリケーションをもって事業展開をしていますから、当社としてもメーカーとして製品を開発したら終わりではなく、バージョンアップを継続的に行っていくなどの体制作りは必要です。これまでの販社としての評価だけでなく、メーカーとしてどれだけ評価されるのかが重要な差別化ポイントになってきています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「就任早々だから、具体的な戦略が決まるのはこれから」と前置きでスタートしたものの、さすがNEC時代から販社を見る機会が多かっただけのことはある。社長就任と同時に素早く手を打っている。就任したその日に、事業ごとの担当役員制度を導入するなど、目指すべき方向がすでに見えているようだ。
日本事務器のスピードもかなり上がりそうだ。しかも、取材慣れしている。「いま、各担当役員がいろいろと仕込みをしているから…そうだなぁ、この事業は夏頃になったらぜひ取材してよ。その頃になるとかなりはっきりした形になっているはずだから」と記者にも的確なアドバイス。こちらも、のんびり取材しているわけにはいかなくなった。(猫)
プロフィール
(おおつか こういち)1941年、東京生まれ。65年、慶應義塾大学商学部卒業、同年NECに入社。96年6月に取締役支配人、00年4月に執行役員常務に就任。02年4月、日本事務器顧問。同年6月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
日本事務器は、1924年創業、今年2月に78周年を迎えた。コンピュータへの取り組みも早く、61年にNECと提携し小型コンピュータの取り扱いを開始するなど、NEC系販社の中では老舗といえるだろう。しかし、メーカー自身が事業の中心をサポート・サービスへとシフトするなかで、販社との関係も大きく変わりつつある。老舗販社といえども、メーカーとの連携とともに、独自事業を成長させていかなければならない。独自の事業をどれだけ作っていくことができるのかが、重要なカギとなる。
同社では、新たな注力商品として独自のERPである「CORE Plus」を開発。01年から中堅企業をターゲットに販売を開始した。販売パートナー網を構築し、売り上げ増加につなげていく計画だ。さらに、現在進めているサポート・サービス事業の強化により、eラーニングのようなこれまで手がけてこなかった分野への進出も計画している。歴史ある販社にどれだけの変化を起こすことができるのか。大塚新社長の手腕に注目が集まる。