全体で5万人とも6万人ともいわれるNTT-ME系グループ。大半はNTT回線の保守業務が中心で、NTT東・西地域会社からの退職・再雇用者を含め、平均年齢は50歳を超える。全国に散らばるME系グループの中核となるのが、東京・大手町に本社を置く社員数5000人のNTT-MEだ。ほかの地域MEとは異なり、プロバイダや環境ビジネス、IP電話、周辺機器など、新規事業を幅広く手がける。6月に昇格した石川宏社長は、ME系グループ全体の精神的支柱とも言える存在だ。
さまざまな商材を開発販路の開拓と体制作りに注力
――ME系グループは、NTT東日本系と西日本系の大きく2つに分かれ、今年5月に実施した事業再構築では、さらに東西それぞれの地域会社に細かく分かれました。NTT本体の東・西地域会社やNTTコミュニケーションズ(NTTコム)などの事業領域と競合する部分も多いですが。
石川 全国のME系グループのなかで、NTTの回線保守業務以外で新規事業の開発機能を備えているのは、事業再構築後もNTT東日本傘下にある当社だけです。NTT西日本傘下のNTTネオメイト、およびネオメイトの傘下にあるNTT-MEサービスは、設立経緯などから、独自の商材を開発する組織は置かれていません。こうしたことから、東京・大手町に本社を置く当社(営業地域は関東甲信越)で開発したサービス・商品を、全国5-6万人いるME系社員が、NTT東・西地域会社と力を合わせて売るという構図は、再構築・再編後も変わりません。
例えば、最近では当社が構築・運営する基幹回線網「ゼフィオン」を、NTT西日本とNTTネオメイトが共同で、西日本の都市銀行に売り込んだ事例があります。また、ADSL対応のブロードバンドルータやセキュリティ製品は、全国で販売しています。NTT東・西やNTTコムと競合する領域については、全部が全部“白黒”つけられない部分が残ります。しかし、少なくともNTT東・西は規制会社であり、自由な営業活動ができません。先ほどの西日本にある都市銀行の事例では、他県に設置した支店とをインターネット回線で結びたいという要望でした。ところが、NTT東・西は法的な規制があり、県をまたぐ通信サービスができない。この手の案件では、東・西地域会社は県をまたぐ通信サービスが可能な事業者と組まなければなりません。今回の事例では、たまたまMEとNTT西日本が共同で営業していたという経緯があり、NTTコムではなく、MEが受注したということです。
――ME系地域会社の平均年齢は50歳以上。NTT-ME本体の平均年齢も40歳以上と聞いています。5月の再編で、新しく電話修理の電話受け付け部門(通称113番部隊)約2000人がMEグループに加わりました。固定回線の需要減退からNTT東・西本体の事業も厳しく、NTT-MEはその人員の受け皿ような印象を受けます。
石川 関東甲信越を担当するNTT-MEグループ(NTT-ME東京、同神奈川、同千葉など)の業績は、昨年度は赤字。各事業部門を見ても、必ずしも利益が出ているところばかりではありません。1人ひとりの生産性をどう高めて収益を出していくのかは、大きな課題です。われわれNTT-ME本体としては、通信から環境ビジネスまで、さまざまな商材を開発し続けています。地域のME系各社が売りやすい商材開発に努めるよう智恵を絞っていますし、一方、NTT-MEグループ全体として、これらの商材をどう顧客に届けるのかという販路・体制づくりに力を入れています。
平均年齢の高さですが、それは、若い方が動きが早いかも知れません。ですが、よく訓練された熟練技術者も大変貴重です。113番のコールセンター部門の2000人にしても、すべて熟練した正社員です。とにかく、みんな真面目で、問題を冷静に切り分ける能力に優れています。コンピュータ系の技能についても、NTT東日本傘下の関東甲信越および地域会社の約2万1000人のうち、約半数がマイクロソフトの技能試験に合格しており、通信機器のシスコシステムズの技能試験に至っては、1企業グループで最も多くの取得者がいます。社員はコツコツと勉強をして資格を取っているのです。「歳をとったら新しいことができない」というのは、まったくの迷信ですよ。だいたい50歳なんて、80歳の人から見れば、自分の子供の年齢です。重要なのは、いかに“やる気”が湧いてくるような施策や方針を打ち出すかです。きちんと方向性を示せば、40歳だろうが50歳だろうが、みな良く頑張ります。
保守業務は先細り法人向けサービスに注力
――今後の事業方針は。
石川 NTT東・西に依存しない独自の事業を強化しなければなりません。現在、NTT-ME本体(約5000人)のNTT東日本への依存度は約5割。NTT東日本傘下にある当社、NTT-ME東北、NTT-ME北海道を合わせた依存度は約7割。また、全国のME系グループ全体(5-6万人)のNTT東・西に対する依存度は約8割程度です。
NTT-ME本体を除いた地域のME系会社だけの依存度は約9割を占め、依然として高い水準にあります。NTTグループからの受託の内訳は、NTT東・西からが8割、NTTコムからが2割程度です。問題は、NTT東・西から受託する交換機や電話線の保守業務だけでは、縮小均衡というか、先細りになってしまう。新規商材の開発能力があるのは、NTT-ME本体だけですので、われわれが競争力のある商品やサービスを開発し、地域のME系企業が、努力してNTTグループ外からの受注を取り付けられるかが、今後の事業を大きく左右します。
今後は、個人向けのサービスだけでなく、中小企業やSOHOなど法人向けの商品やサービスに力を入れる。全国の保守部隊や2000人のコールセンター部門にしても、NTT東・西だけの業務をこなすには、もったいない。外資系メーカーや自治体、通信・ネットワークを手がける企業で、全国の保守網やコールセンターが必要な部分は、必ずあります。必要であれば、当社の保守サービスや新しい商材を、相手先のブランド(OEM)で提供してもいい。インテルのように、「インテル入ってる」ではなく、「ME入ってる」といった、顧客の気づかないようなところにMEのサービスをOEM方式で供給したい。
――環境ビジネスについては、どうですか。
石川 資源循環型社会の実現に向けたリサイクルや、運輸や交通と深く関わるエネルギー分野、医療、教育、福祉などは、池田茂前社長が非常に大切に育ててきた事業です。生ゴミ処理システムの「バイオランナー」事業は、規模は小さいものの、今年度から黒字になりそうで、この路線は今後とも継続します。これまで、ITの側面では当社と取り引きがなかった飲食店や娯楽施設などでも、バイオランナーの切り口で売り込みに行ける。当社のなかでも毛色の違った事業ですが、成長が見込める分野だけに、時流に乗って伸ばせないか模索しているところです。いずれにしても、保守業務を基盤にコツコツと全国を走り回りながら、商品やサービスを売り込む営業スタイルは、ME系グループの最も得意とする強みです。保守業務のキャパシティ(許容量)は非常に大きく、NTT以外からの受注が山ほど来ても、びくともしない体制です。NTT-ME本体で新規商材やサービスの開発をしつつ、外部からの受託を積極的に増やします。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「不具合の原因を明確に割り出さず、リセットボタンを押して『直った』と判断するのがパソコン文化。長年、NTTで保守作業に従事した技術者は、不具合の原因を、ひとつひとつ折り返して割り出す電話屋の文化が染みついている」「インターネットは、すでに社会の重要なインフラ。電話のように確実につながらなくては意味がない」。ブロードバンドになろうが、VoIP(IP電話)になろうが、この点は変わらない。「接触不良、絶縁不良など、基礎的な保守作業に関しては、ずば抜けて信頼できるのがMEグループ技術者の特性だ」熟練技術者の“技”を生かしつつ、競争力ある商品・サービスで新規領域を開拓することで、次の成長路線に結びつける。(寶)
プロフィール
(いしかわ ひろし)1942年、東京生まれ。67年、早稲田大学理工学研究科卒業。同年、日本電信電話公社(現NTT)入社。85年、通信網部門統括部長。90年、交換システム研究所長。94年、理事ネットワーク部長。96年、取締役ネットワーク部長。97年、常務取締役、再編成室次長。99年、NTT―ME代表取締役副社長。02年6月、NTT―ME代表取締役社長に就任。工学博士。
会社紹介
「ME(ミー)におまかせ」の題字に、赤、黄、青の3色の塗装をしたサービスカーで関東甲信越を走り回るNTT-ME。同社はNTT東日本の保守サービス統括子会社で、社員数は約5000人。プロバイダサービスの「ワクワク」をはじめ、基幹回線の「ゼフィオン」、家庭や中小企業向けブロードバンドルータ、生ゴミ処理機などの環境ビジネスまで、新規事業を幅広く手がける。同じNTT東日本の保守サービス統括子会社としてNTT-ME東北、NTT-ME北海道があり、またNTT西日本傘下のME系企業として、NTTネオメイトおよびNTT-MEサービスなどの企業群がいる。
これら全国のME系関連会社を合わせると、総勢5-6万人を抱える巨大企業グループとなる。NTT-MEは関東甲信越を担当エリアとしながらも、ME系グループの中核企業として事業を展開。昨年度(2002年3月期)の連結売上高は約3000億円、最終損益は約62億円の赤字だったが、今年度は売り上げが横ばいでも、黒字が出せるよう体質改善を目指す。