9月18日、NECフィールディングは東証一部に株式を上場した。株式市場が厳しい状況にあるなかでの上場だ。鳥居高志社長は、「NECグループ内だけではなく、外部からも評価される企業になる。資金を直接金融市場から調達する。この2つの目的を達成するために、市況が厳しいこの時期にあえて株式を上場した」と説明する。これまでNECの100%子会社だった同社。「NECというブランドを生かしながら、当社独自のブランドを確立していきたい」と話す。
グローバルな競争力を付け、グループ外からの評価を高める
――株式市場が非常に厳しい状況にあるなかでの上場となってしまいましたが。
鳥居 株式に価格の上下はつきものですから。短期ではなく、長い目で市場を見ていくものだと思っています。
――市況が悪い時期は上場を見合わせるところも少なくありません。あえてこの時期に上場に踏み切った理由は。
鳥居 それは、当社の上場の目的をお話すれば理解して頂けると思います。大きく目的は2つあります。ひとつは、NECグループ外からも評価される事業体質を当社がきちんと作り上げ、売り上げにも反映させていくことです。これまで当社はNECの100%出資の子会社でした。しかし、サービス・サポート事業は大きな成長分野であり、コンピュータ事業もオープン化が進んだことで、製造からシステムインテグレーションへと事業の注力ポイントがシフトし、現在ではサービス・サポートの実力が大きな差となってきました。
そういう状況となると、当社が手がけてきたサービス・サポートという、これまでは文化や言葉といった障壁があり、海外企業の参入がしにくかった分野も、グローバルスタンダード化が進んできました。まだ具体的に海外からの大きなライバルが現れたのではありませんが、そういう芽は出てきたと思っています。これまでのように国内で事業を確立すればもう十分という時代ではありません。インターネットでこれだけ国の壁がなくなってきているのですから。それを考慮すると、NECグループ内だけではなく、外部の企業からも評価される事業体制へと変貌し、競争力を高めていく必要があると思います。株式上場はそのいいきっかけとなります。
――海外からも競合が出てくることを想定すると、社内の競争力を強化する必要がありますね。
鳥居 グローバルな競争力をつけていくために、サービス品質チェックなどは積極的に受けるようにしています。すでに、品質保証の国際規格であるISO9000については2000年版で評価を受けています。このように客観的な評価を受けることができる体質への転換を進めています。
――社長の目から見て、社内の水準はいかがですか。
鳥居 それなりの水準は十分にクリアしていると思います。合格点は出してよいのではないでしょうか。サービス品質の向上は、創立以来しつこくやってきたテーマですし。ただ、現状に満足せず、サービス業で日本が世界をリードするというサイクルを作っていくことができればと思っています。80年代、日本の製造業は品質で世界を席巻したわけですが、21世紀になって日本のサービス業の品質が世界をリードする役割を果たすことができればうれしいですね。
アウトソーシングへ投資、ブランド力向上を目指す
――上場のもうひとつの目的とは。
鳥居 2つ目は直接金融市場からの資金の調達です。今回の上場によって調達した資金については、当社自身のITシステムの高度化につなげていくことと、最近急増しているアウトソーシング事業への投資に利用していきたい。ITシステムは、全面的に現在のシステムをリニューアルするのではなく、最新の技術を積極的に活用していくために利用する予定です。例えば、リモート診断のシステムを新たに導入することで、わざわざ客先に出向くことなく、対処できる案件も出てきますので、当社のコストも少なくてすみ、最終的には売り上げにプラスに寄与することになります。
アウトソーシングは、ITを導入するにしても自社で機器を購入しただけではコストが思うように下げられない顧客から急速にニーズが出てきています。当社側でこれに対応するためには、ハウジングのための設備投資なども必要になりますので、この投資のために調達資金を活用する計画です。
――ブランド力を高めていくという戦略は、NECグループ外の顧客獲得も積極的に進めていくということですね。
鳥居 グループ外の顧客獲得ということでいえば、既に実績が出始めています。ストレージ専業ベンダーのEMCについては、NEC経由で販売した製品はもちろん、当社自身でサポートを行っています。EMC自身で直販された顧客に対しても当社がサポートを担当しています。また、日本SGIのサポートも請け負っています。
――外資系ベンダーのサポートを請け負うというのは、確かに大きな需要がありそうですね。今後、さらに大手ベンダーと提携するという可能性もあるのでしょうか。
鳥居 そうですね、そういう可能性もあると思います。NECグループ外については、ベンダーに限らず、さらに多くの顧客を獲得していく努力をしていかなければなりません。 当社は57年の設立ですが、当初は企業のITシステム部門がユーザーでした。しかし、パソコンを個人で利用する人が増加し、パソコンは個人にとっては重要な資産ですから、これを守るためのパートナーとして当社を選んでいただけるよう認知度を上げていかなければなりません。ビジネス領域においても、かつてのようにコンピュータ室だけが顧客ではなく、ビジネスの現場の皆さんにも当社をパートナーとして選んでいただかなければなりません。
――これまでNECグループ内では高い評価を得てきたわけですが、これからは外部のユーザーにも認知してもらう「顔」を作っていく必要があると思いますが。
鳥居 外部の皆さんに認知してもらうための「顔」を作ることは非常に大切だと思っています。色に例えますとね、当社のイメージカラーは緑なんですよ。社名であるNECフィールディングのフィールディングは、フィールド、現場で活躍するという意味なんです。オフィスにとどまっているのではなく、顧客の所までうかがうという意味で、現場を意味するグリーンをイメージカラーにしています。
キャッチフレーズもありますよ(笑)。「コンピュータをもっと働き者に」。これは文字通り、当社のサービス・サポートによってコンピュータをもっと活用していただくという意味合いです。もうひとつは、イメージカラーのグリーンとだぶるのですが、「あなたのオフィスのソリューションクルー」です。「現場で顧客を助けていきます」という意味を込めています。ソリューションクルーということばを使ったのも、われわれはコンピュータの専門家であり、顧客の仲間になっていきたいという意味です。これから個人から企業まで、幅広い顧客から当社のことを頼れるコンピュータの専門家であり、仲間であると認識してもらいたいですね。
眼光紙背 ~取材を終えて~
NEC時代から、マスコミに接する物腰は穏やかな印象がある。社内では社員に檄を飛ばすこともあるそうだが、取材で接しているとそういう姿が想像できない。その鳥居社長、背広に似合わぬごつい腕時計がはまっている。「これはね、カシオの最新の奴で、ソーラー時計と電波時計と2つの機能を搭載した奴なんだ」と途端に笑顔がこぼれる。
実は大のメカ好きであり、時計だけでなくデジタルカメラなど新しいハードウェアには目がないタイプ。社内行事の時にはカメラマン以上にたくさんの写真を撮り、CDに焼いて配布したそうだ。個人ユーザーにとっては、ユーザーの心をわかった保守を行ってくれること間違いなしの心強い社長である。(猫)
プロフィール
(とりい たかし)1939年3月生まれ。62年3月、東京大学工学部卒業、同年4月日本電気入社。89年7月同社支配人、91年7月同社理事、93年7月同社第二コンピュータ事業本部長、94年6月同社取締役などを経て、99年6月日本電気フィールドサービス(現・NECフィールディング)社長に就任。
会社紹介
NECフィールディングは1957年の設立。65年から法人向けコンピュータ保守サービスを開始し、現在では売上高(02年3月期)2272億円、経常利益104億円、従業員約7000人、国内拠点434、海外拠点23となっている。企業および個人向け保守サービスである「プロアクティブメンテナンス」、インストレーションやネットワーク施設、ソリューションなどのサービス事業である「フィールディング・ソリューション」という2つの事業領域をもっている。
サービス・サポート事業は、売上高、経常利益ともに00年度以降は増加傾向にある。今年度の売り上げは7.4%増の2441億円、経常利益は26.1%増の132億円を見込んでいる。これを実現するために、営業力の強化、独自サービス技術の開発、ローコストでの事業展開などを図る。9月18日の株式上場で調達した資金は、事業強化のために積極的に活用していく。