ゲーム専用機をコアプラットフォームに事業展開してきたスクウェア。だが、11月7日に発売する「ファイナルファンタジーXI」を皮切りに、パソコンプラットフォームに注力する。和田洋一社長は、「パソコン市場は大きなチャンスをもっている。パソコンでゲームを楽しむには、ボードを追加するなど障壁が大きいといわれるが、むしろ逆。それを乗り越えるだけの大きな可能性がある」とプラス面を強調する。「これまでのスクウェアのゲームファンとは異なるユーザー層を獲得する。これがパソコン市場の活性化にもつながる」と意気軒昂だ。
「大人も楽しめる」、ゲームの遊び方が変わる
――11月7日にパソコン版「ファイナルファンタジー硎皂」を発売されます。これはパソコンマーケットに注力していくということですが。
和田 これまでパソコンとゲーム専用機には、大きな差がありました。ゲームを楽しむという点では、パソコンのスペックはゲーム専用機に大きく遅れをとっていました。ゲーム専用機並みのグラフィックス解析能力をもったパソコンは、特別な方が使うマシンだけでしたが、おそらく次に発売されるパソコンは、ゲーム専用機とほぼ同等の能力をもったものになるでしょう。性能面の差がなくなると、パソコンでゲームを楽しむということが非常に現実味を帯びてくるわけです。
そもそも、「テレビゲームは子供の遊び」と思う方がいるかもしれません。しかし最近のゲームは、大人だからこそ理解できる、非常に高度な内容のものが増えているんですよ。もしかすると、ゲーム専用機業界の方が「子供の遊び」ということにこだわり過ぎて、本当は大人が楽しめるものになっていることをきちんとアナウンスしてこなかったのかもしれません。ゲームを楽しむ側も、「大人がゲームをするなんて」という照れがあったかもしれません。今やゲームは子供だけが楽しむものではないと思っています。
――つまり、パソコンでゲームを楽しむ要素が、以前に比べかなり揃ってきたということですか。
和田 ゲームの遊び方にしても、実はパソコンの方が向いているなぁ、と思う部分はたくさんあります。ゲーム専用機はテレビにつないでプレイするわけですが、リビングルームのテレビにつなぐと、番組を見たいほかの家族には不興を買うことになってしまう。私もリビングのテレビを占領して、子供に怒られてしまうことがよくあるんです(笑)。それに対し、パソコンは1人で使うものですから、長時間ゲームをしていてもほかの家族に迷惑をかけることがない。むしろゲームを楽しむには適しています。
そういう条件を考えていくと、パソコンとゲーム専用機のマーケットサイズは、両方が並ぶどころか、パソコンの方が大きくなるのではないかと思えるのです。当社では11月7日に「ファイナルファンタジーXI」のウィンドウズ版を発売します。これを機に力を入れてパソコンマーケットを攻めていきたいと考えています。パソコン版では、これまでスクウェアのゲームを楽しんで頂いていた層とは全く異なる層が獲得できるのではないかと期待しています。ただ、当社1社だけでは、パソコンマーケットの拡大はできません。色々なパートナーさんとの協業を進めていきたいですね。
――どういったパートナーとの協業を計画していますか。
和田 すでに、デルコンピュータのパソコンに、「ファイナルファンタジーXI」を同梱すると発表しています。それ以外にも、色々なところと協業を実現したいと考えています。別にコンテンツが偉いとは思わないけれど、コンテンツはエンドユーザーとの接点ですから、コンテンツの意向でハードやインフラのあり方を提言することも可能になります。パソコンの形、スペック、ビデオチップ、ゲームコントローラー、モニタの大きさ、回線…。色々な面で「こうあるべきなんでは」というお話ができると思います。複数の要素にまたがることだけに、バラバラに話を進めてもうまくいきません。コンテンツ側からまとめて話をしていくことで、一貫した提案ができるでしょう。
各社と協業することで、パソコンメーカーも、周辺機器メーカーも、ISPのようなインフラを提供しているところも、おそらく誰も損をしない、それぞれがプラスになる世界を作ることができる。しかも、各社が協業することでユーザーにとってもメリットになる。パソコンビジネスは、最近どうも調子が良くないという話を聞きます。各社の協業でマーケット全体を上向きにすることができればと思っています。これまでパソコンでゲームを楽しむには、インフラを強化しなければならず、非常に障害が大きいとされてきました。しかし、障害は逆から見ればチャンスだといえます。色々な方との協業によって、障害ではなく、プラスでビジネスチャンスがたくさんあるのだと証明したいですね。
コミュニティが重要に、パソコン業界にもチャンス
――パソコンゲームの世界がそれだけ進展していくと、逆にゲーム専用機のマーケットはどうなっていくのでしょう。
和田 ゲーム専用機の意味をもう一度考え直す必要があるでしょうね。専用機の意味とは、価格なのかもしれませんし、既存のテレビを活用してすぐに楽しめるといったことになるのかもしれません。こうした優位点は裏返してみると、パソコン業界に大きなチャンスだといえるのではないでしょうか。
――同じゲームでも、「オンラインゲーム」とパッケージとでは、違った要素が多いと思いますが。
和田 これまでのコミュニティは、メールに代表される1対1のコミュニティ、ダウンロードのような1対複数のコミュニティだったわけですが、オンラインゲームとなると複数対複数の世界なんです。コミュニティの生業というのが、非常に重要な要素となります。最初のルールをきちんと作らないと、住み難いコミュニティになってしまいます。プライバシー、ハラスメントといった問題が起きないように、コミュニティのあり方を真剣に議論し、作り上げていかなければなりません。
「儲かればなんでもいいんだ」では、トラブルが起こりやすくなってしまう。コミュニティのクォリティをきちんと作り上げていくという意識を、コミュニティを提供するメーカー側がきちんと自覚していく必要があります。例えば、ゲーム内で起こるイベントが陰惨なものになると、コミュニティ自体が荒んでしまう。そういうイベントは設定しないなど、コミュニティを作る側はかなり優秀でなければならないと思います。
――ゲーム専用機の分野で、日本は世界市場を牽引する立場でしたが、オンラインゲームでは今のところ後手に回っています。
和田 ゲームの主戦場がオンラインになっても、日本のベンダー同士で協業して、市場をリードしていきたいという思いがあります。やはり「日本が世界をリードしたんだ」という立場になっていくための協力関係をつくっていきたいですね。
眼光紙背 ~取材を終えて~
かつて、ゲームソフトがパソコン市場をリードした時代があった。今は一部を除けば売れているのはアダルトゲームばかり。「他人に言いにくいものは、やっている人も、売っているところも暗くなってしまう。市場を牽引するには明るいものを提供しないと」と、スクウェアのゲームは “明るい”と強調する。
特にパソコンでは大人のユーザーを巻き込むことが至上命題。「ゲームをしたことがない人も、ちょっと始めてみれば大丈夫だから」とアピールする。BCNランキングに対しても「ああ、ナンバーワン、ぜひなりたい!」と意欲十分。果たして、パソコン市場はどう受け入れるのか。11月7日の製品発売後のランキング推移に要注目だ。(猫)
プロフィール
(わだ よういち)1959年9月生まれ、愛知県出身。84年3月、東京大学法学部卒業。同年4月、野村證券入社。00年4月、スクウェア入社。同年5月経営執行役員、同年6月取締役兼最高財務責任者。01年9月、代表取締役兼最高業務責任者を経て、同年12月に代表取締役社長兼最高経営責任者に就任。
会社紹介
スクウェアはゲームソフト大手で、従業員は連結ベースで950人余り。2002年3月期の連結売上高は366億4600万円、経常利益は40億6600万円。今期予想は売上高316億円、経常損益マイナス12億円を見込んでいる。これまでゲーム専用機を中心に事業を展開してきたが、「ファイナルファンタジーXI」では初めてオンラインゲームを提供。ウィンドウズ版を発売するなど、従来のゲーム専用機用パッケージにとどまらないビジネスをスタートした。
この背景には、これまで急拡大を続けてきたゲーム専用機ソフトの成長が以前に比べ鈍化していること、台湾、韓国などアジア圏でオンラインゲーム市場が急拡大し、これまで世界をリードしてきた日本を脅かす勢いで伸張していることなどがあげられる。ビジネスの面から見ても、オンラインゲームはパッケージ販売とは異なり、販売した当初に売り上げが集中するのではなく、継続的に収益が入ってくる。和田社長は、「今期、来期についてはオンラインによる売り上げが急速に増えるということは考えていない」としているものの、ゲームビジネスの今後を占う上で、オンラインゲーム事業が成功するか否かは大きな注目点となってくる。