ターボリナックスの日本法人を買収し、業界をあっと驚かせたSRA。中国では、民間企業として初めて大連市と提携を結び、これも業界の話題となった。ソフトウェア開発会社としては老舗だが、ここ数年は泣かず飛ばずの印象もあった。それが突然の変身。OSホルダーとなった立場を今後、国内外市場でどのように活かしていくのか。また、大連市との提携は、Linux分野へと発展していくのか。
衝撃的なターボリナックス買収、OSにわれわれの思いを反映させる
――ターボリナックスの買収にはびっくりしました。
丸森 今年の初めにターボリナックスから、経営的に厳しいので支援してもらえないかという話が来ました。『われわれのできる範囲なら良いですよ』ということで、具体的な詰めを始めたわけですが、途中でターボリナックス全体を手放す用意もあるという話になった。最初はそこまで考えていなかったので驚きましたが、これは絶好のチャンスだなとすぐ考えました。当社は、UNIXを日本で最初にサポートするなど、オープンの世界でビジネスを展開してきました。しかし、そのオープンの世界でも日本企業には何の発言力も権限もない。そこにOSホルダーにならないかという誘い話。即座に決断しました。
――うわさでは「何十億円、いや百億円単位の買収だろう。SRAは社運を賭けるのか」という話も伝わってきました。
丸森 確かにいろいろ尾ひれの付いた話が伝わったようですね。でも最終的な買収金額は3億円弱です。社運ですか。それはいつでも賭けてますからね(笑)。
――OSホルダーになって、具体的にはどんなことをなさるのですか
丸森 最近の日本企業は、グローバルで発言する場所を失っている。それもこれもOSを握られているからなんですね。システム全体のなかでのソフトウェアの比重はますます高まっているわけですが、OS自体にわれわれの思いを反映できるようになれば、ビジネスの形態は随分変わってくるだろうと考えています。
――反映させる場はあるのですか。
丸森 今年5月にカルデラ、コネクティバ、スーゼ、ターボリナックスの4社が設立した「United LINUX(ユナイテッドリナックス)」という団体があります。ビジネス向けのグローバルな統一Linuxディストリビューションの共同開発や動作検証を行う団体ですが、ここで発言権がもてることは大きな意味があります。「ユナイテッドリナックス」は、これまで企業顧客からのニーズが高かったビジネスに特化したLinuxの仕様として、「ユナイテッドリナックス」ソフトウェアと呼ばれる統一されたLinuxの中核部分を共同開発する目的で結成されました。
ハードおよびソフトベンダーは、複数のLinuxディストリビューションでの動作検証のために、かなりの経費と時間をかけていました。これが「ユナイテッドリナックス」により、動作検証する必要があるLinuxディストリビューションの数を大幅に削減することが可能となり、「ユナイテッドリナックス」は真の統一された標準オペレーティング環境となります。
――Linuxは無償が建前ですが、収益を上げるビジネスモデル、今後の方向性をどのようにみていますか。
丸森 当社は「Postgre(ポスグレ)」というオープンソースのデータベース(DB)ソフトに力を入れています。このDBを本当に理解している技術者は、世界で5人くらいだろうといわれるのですが、その5人のうち2人が当社にいます。とりあえずは、このDBとLinuxを組み合わせることで、ユニークなシステムが提供できるだろうと考えています。ソフトウェアに対する比重が高まっているといいましたが、それにともないコストダウンへの要求も高まっています。ここにチャンスがあるかなと。
また、組み込み機器へのニーズも高い。この辺はこれからの研究課題です。ターボリナックスは2バイト圏では高く評価されており、アジア市場では中国と台湾、韓国にそれぞれ拠点をもっています。この3か国(地域)と日本市場でどのように連携をとっていくのか。そのなかで、「ユナイテッドリナックス」でどのような発言をしていくか。いま詳細を詰めているところです。
――同じLinuxではレッドハット、またマイクロソフトの「.NET」などと競合することになりますね。
丸森 そのところも大きな研究テーマです。いろいろ案も練っていますが、具体的にどうするという点についてはもう少し時間をください。
中国・大連市と協力協定締結、足場を整え、来期には新ビジネス
――中国・大連市とソフトウェア開発などで協力協定を締結しました。具体的にどのようなことをお考えなのでしょう。
丸森 中国市場で、民間企業同士の協業は過去にいくつも例がありますが、今回のような大連市(情報産業局)と民間企業の協力協定締結は当社が初めてです。大連市はいまIT関連企業の誘致に本腰を入れており、ソフト開発の代表企業として当社を選んでくれました。公的機関が関与することで、いろいろなリスク回避が可能になると思っています。
――具体的にはどんなことをなさるのですか。
丸森 今回の協力協定は会社対政府の契約で、単発プロジェクトについての協力関係や、一時的な協力関係とは大きく異なります。まずは、人材開発で協力していきます。日本語のわかる技術者を養成し、日本からの進出企業へ人材を提供する予定です。大連には、日本企業がすでにかなり進出していますが、非常に親日的な地域ですね。学校でも日本語の勉強が盛んに行われています。飛行機も日本から週に約70便も出ているとのことです。また、大連市だけではなく、今後は上海、重慶、北京などの動きにも合わせながら、いろいろな国や都市と検討していきたいと考えています。
――中国は、Linuxのシェアが非常に高い。ターボリナックス買収とリンクした話なんですか。
丸森 いえ、これまではまったく別のプロジェクトとして動いてきました。当社としてはリンクできないかという願望はもちろんもっており、今後交渉のテーブルにのせていきたいと思います。
――今期の業績は。
丸森 全売り上げの約20%を占める主要顧客である金融機関の情報化投資の抑制により、金融分野の売上高が減少しました。他業種への積極受注に注力した結果、計画を若干上回る予定ですが、他業種からの受注のウェイトが増大したことで外注費が増加しました。売上原価の低減と販管費の削減を推進して、利益確保に努めてはいますが、全体的な情報化投資のさらなる抑制により、受注環境が一層厳しくなると予想しています。
また、ターボリナックスの買収資金や業績が連結に加わることにより、個別および連結の経常利益、当期純利益は下方修正しました。連結ベースで売上高は変更ありませんが、経常利益は今年5月に発表した10億円から6億2000万円に、当期純利益は4億5000万円から1億9500万円に下方修正しました。しかし、今期に足場が整ったと考えていますので、来期からは新しいビジネスでの業績に期待して下さい。
眼光紙背 ~取材を終えて~
丸森社長は今年で67歳になるが、極めて溌剌としている。「お元気ですね」と声をかけると、「いやいや、カラ元気ですよ」と活きの良い声が笑顔で返ってくる。取材の写真撮影時にも、カメラマン、広報担当者らのポーズの注文に気軽に応じ、自ら注文を出す場面もみられた。
普段、社員にも気軽に声をかけることが多いそうで、広報担当者によると、声をかけられた社員は、不思議と元気になるとのこと。社内でも、上司を役職で呼ぶのではなく、「~さん」と声をかけるのが、社内の風習になっているという。社長自らの明るく気さくな性格が創りだす「丸森イズム」が、社内に浸透しているのだろう。(鈎)
プロフィール
(まるもり りゅうご)1935年生まれ。62年3月、早稲田大学大学院商学研究科卒業。同年4月、沖電気工業入社。67年11月、SRA取締役。69年10月からSRA代表取締役社長。
会社紹介
SRAは1967年設立。システム開発、ネットワーク・システムサービス、コンサルティングサービスの3事業領域をもっている。02年3月期の連結売上高は274億3200万円、経常利益は6億1900万円、当期純利益は1億9300万円。従業員数は約1300人。国内外合わせて、12のグループ企業を保有する。
最近では、ターボリナックス日本法人の買収、中国・大連市との提携によるソフトウェア開発と、業界に衝撃を与える大きな動きを示した。また、インドに拠点を設けるなど、海外への進出に注力する。Linux事業においては、コンパックコンピュータ、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)との提携や、米ターボリナックスの一部営業の譲り受けなど、活発な動きをみせる。今年度は売上高290億円、経常利益10億円を見込んでいる。