「ソフト開発会社にとっても、技術はあくまでもインフラ。それだけに頼っていては将来はない。技術の上に、ソリューション力をもたなければ将来はない」。アクシスソフトの大塚裕章社長は、ソリューション力の重要さを強調する。他社に先駆けオラクルを使ったデータベース構築技術に注力するなど、先進的な技術力をもつ同社だが、ソリューション力を備えるために、オリジナル商品「Biz/Browser」を開発、現在ユーザー獲得を進めている。大塚社長が目指すソリューションとはどんなものなのか。
情報化月間で議長表彰を受賞、本格的な販売を開始
──インターネットでの業務システム構築を容易にする「Biz/Browser Ver.3.0」が、情報化月間推進会議議長表彰を受賞しましたね。
大塚 ありがとうございます。この商品は当社にとって戦略商品です。 当社では株式公開を計画しています。その際に、当社の顔になる商品に育てていこうとしている商品です。これまでアクシスソフトの武器といえば技術でしたが、5年経てば技術だけでは食べていくことができない時代になります。先端の技術だって、5年経てば陳腐化していきます。
しかし、ソリューションは古びることがない。Biz/Browserは、当社にとってはソリューションです。現状のウェブを業務で使っていこうとすると、うまく処理できない場面に多くの人が遭遇していると思いますが、それを埋める役割を果たすソリューションとなる商品です。
──しかし、ブラウザとしてはマイクロソフトのインターネットエクスプローラー(IE)のように無償で提供され、圧倒的なシェアをもっている商品もありますが。
大塚 Biz/Browserは、「ブラウザ」という名前がついていますが、IEとは全く異なる商品です。業務のなかで、ウェブを活用する際に直面する問題を解決するソフトウェアです。業務でウェブを使うと、画面表示が遅くてレスポンスが悪いといった問題や、入力についてもクライアント/サーバーでは当たり前にできていたファンクションキーの割り当てといったことができないなどの場面に直面します。こうした問題を解決していくために、業務で利用するためのソリューションとして開発しました。
しかし、5年前に開発に着手した当時は、「無償で提供されているものに、なぜ改めてお金を払わなければならないのか」と、まったく見向きもされませんでした。しかも、当時はまだHTMLも現在ほど普及していなかったので、余計に状況が悪かったのかもしれません。それに日本では、実績のない商品はなかなか導入してもらうことができない。「海外で発売されました」というと導入してくれるのに、日本人が日本で使うために開発したというと、なかなか認めてもらえないんです。
──販売にはかなり苦労をしたわけですね。
大塚 今も苦労をしています(笑)。当社は営業に強い企業というわけではないので、できれば販売代理店、システムインテグレータさんを通じて販売していきたいのですが、皆さん結構保守的で、実績がないからと採用してもらえないんですよ。
そこで、直販スタイルに切り替え、まず各業界のトップ企業に採用してもらい、事例を増やしているところです。東京海上火災保険さんが採用してくれましたが、こうした事例を見て、最近になってメーカーやシステムインテグレータさん、パッケージソフトベンダーさんなどからの引き合いが多くなってきたところです。これから、本格的な販売が始まると思います。
株式公開を計画、海外での展開も視野に
──先ほど、技術だけでは食べていけないという発言がありましたが、あれはどういう意味ですか。
大塚 テクノロジーというのはソリューションではありませんよね?。当社がどんなに技術力が高かったとしても、お客様に必要なソリューションを提供することができなかったら、まったく意味がないんですよ。お客様がITを導入するのは、売り上げを増やすためであり、自社が抱えている何らかの問題を解決するためです。
ソフト開発会社が「競合他社に先駆けてJavaを導入しました」とアピールしても、それだけで売り上げがアップするわけではなく、お客様は評価してくれません。技術的に最先端ではなくとも、「売り上げアップにつながります」といった方がお客様が評価してくれるんです。技術だけを売り物にしていたら、今は良くとも5年後には生き残っていけなくなります。
──ソフト開発会社のトップが技術だけでは生き残れないと言い切るのは珍しいですね。
大塚 (笑)それは私が技術出身ではないからかもしれませんね。当社はオンリーワン企業を目指しています。システム開発だけを手がけていたら、あくまでもワン・オブ・ゼムにしかならない。つまり、オンリーワンになるために、オリジナル商品を開発したわけです。
会社を創業した当時から、ソフトは価値を生産するものだと思ってきました。だから、派遣の仕事はしてきませんでしたし、人/月計算もやりませんでした。だから、会社が軌道に乗るのには時間がかかってしまった。15年かけて、徐々に無理せず、ここまで来たという感じです。
──株式の公開を目指すということでしたが。
大塚 一応、2004年3月期の決算を目処にということで準備を進めています。そのためには、Biz/Browserである程度のシェアを獲り、海外での展開などを実行していく必要があります。
シェアといっても、汎用的な市場ということではなく、例えば経理業務といった決まったマーケットであれば、例えばシェア50%といったことも実現可能だと思うのです。数の力というものはやはり大きく、テクノロジーの良さだけでは実現できない、大きな威力を発揮します。ただ、会社の規模そのものは、あまり大きくしたくありません。アクシスソフトはあくまで頭脳を売る会社に特化し、エッジの尖った企業であり続けたいですね。
──規模は大きくしないで、なおかつ頭脳を売る会社にするというのは、かなり大変なことだと思うのですが、何か具体的なプランや施策はあるのですか。
大塚 それを実現するために、アクシスソフトが中心にあって、その周りに開発会社などの別会社を作るといった形態も検討しています。Biz/Browserについても企画は当社で行い、開発は別会社で行うといった形態も可能だと思います。
それも日本だけでなく、中国で開発していくといった方法も検討しています。実際に英語版のBiz/Browserは、中国で開発を行っています。その時は、アクシスソフト以外の会社は別な人が社長になってもらっていい。私はあくまで頭脳部分であるアクシスソフトでの事業を行っていきたいと思います。
眼光紙背 ~取材を終えて~
取材はオープンしたばかりの、開発スタッフのいるオフィスで行った。「コミュニケーションと集中をテーマに作った」というそのオフィスは、プロジェクトごとにスタッフが集結できるよう工夫されている。「固定電話でなくPHSで、机の下に移動可能なキャスターを置いた」。大塚社長自信のオフィスだ。
しかも、「什器は非常に低価格」という。たいへんお洒落な外観だが、「デザイナーが、自分の仕事の対価はデザイン料だけというポリシーの持ち主なので、什器はどこから買ってきてもいいということになった」という。通常のオフィス什器とは思えない低価格でありながら、お洒落に仕上がっている。本社もこのコンセプトで内装を変える予定だそうだが、一見の価値有り!(猫)
プロフィール
大塚 裕章
(おおつか ひろあき)1949年4月4日生まれ。72年3月、慶應義塾大学工学部卒業。同年4月、株式会社日本科学技術研修所に入社し、営業部に配属される。87年8月、同社を退社。同年11月にアクシスソフトウェア(現アクシスソフト)を設立、代表取締役社長に就任。
会社紹介
アクシスソフトは、10月1日付で社名を「アクシスソフトウェア」から、「アクシスソフト」へと変更した。従来から呼称として使われ、ホームページアドレスでもある「アクシスソフト」に社名を統一することで、ブランドを確立する狙いだ。
同社の現状は、「売り上げについては少しずつ上昇している」(大塚社長)。Biz/Browserにより売り上げを大幅に拡大させていくことを目標とする。その意味でも、Biz/Browserは戦略商品だが、元々は5年前に開発された商品。「汎用機で東京証券取引所のシステム開発などを手がけてきたスタッフから、現在のウェブでは基幹系システムにはうまく利用できない。ウェブを生かせる商品が作りたいという声が出て、開発に着手した」という。
そのために助成金を獲得し、さらに商品をブラッシュアップしていくために10億円の資金調達を行った。それだけに商品販売にも力が入っている。ちなみに、調達した資金は「まだ随分残っている」そうだ。