IT資産管理ソフト「QND Plus」を手がけて4年余り。その品質は向上の一途をたどり、顧客ニーズに素早く応えることを念頭に、この4年間ですでにバージョアップは「8」に至る。東証1部上場企業のうち、6社に1社が導入(約16%)し、ライセンス数は今年11月までに約90万を数える。一方、ここ数年、国内外に開発・営業拠点を相次ぎ設立。常々、「世界に目を向けた事業展開が重要」と語る、浦聖治社長の戦略が動き出した。
好調なIT資産管理ソフト、中小企業にも訴求図る
──IT資産管理ソフト「QND」が好調のようですが、これはどんな製品なのですか。
浦 今日では、企業で使われるすべてのパソコンがネットワークにつながっていますね。その中の1台が古いバージョンのソフトのままだと、ウイルスにやられる可能性が非常に高い。社内ネットワークに入られてしまったら、セキュリティはそこから崩れていきます。どのマシンに、どんなソフトが入っているのか、簡単に把握できるのが「QND」です。
機能は豊富で、クライアントマシンのソフト・ハードの情報収集、台帳作成、ソフト配布、リモートコントロールに加え、モバイルパソコンの情報漏洩や、ウイルス感染によるセキュリティホール対策機能などがあります。一言でいえば、IT資産を統合的に把握・管理できる製品です。
──新製品「QND Plus Ver.8」はどんな新機能を盛り込んだのですか。
浦 社員が自分のパソコンを会社に持ち込んで使うなどのケースもあり得ますので、そうした未知のパソコンも発見する機能を搭載しています。
個人のモバイルパソコンを社内に持ち込んで重要データをコピーされても、発見はこれまで困難でした。また、モバイルマシンは、持ち出しも簡単です。パソコンの稼動状況を把握することで、長時間ネットワークに接続していない盗難・紛失の恐れのあるパソコンも検出できます。このように、社内のパソコンを一元管理することで、パソコンの持ち出し・持ち込みによる情報漏洩の予防に対応できるようになりました。
このほか、リモートコントロールの強化やファイル転送方式の追加、タスクユーザーインターフェィスのシンプル化などを図りました。
──ユーザー層に、変化は出てきていますか。
浦 当初は大規模企業のユーザーや、ITに関して先進的に取り組んでいるユーザーが多かったのですが、最近は300-500クライアント規模の中小企業ユーザーも増えてきました。ユーザーの関心が、より幅広く高まりつつある証拠だと認識しています。
ですから、これまで以上に中小企業のユーザーへ、より一層訴求していくつもりです。
──e-Japan関連はどうですか。
浦 好調ですよ。すでに栃木県、愛知県、和歌山県、兵庫県、香川県の5県に納入しました。今、商談がいくつも進んでおり、来年9月までには47都道府県の約3分の1は押さえたいと思っています。
その後には、市役所など市町村の動きも本格化してくるでしょうし、合併などが進展しそうな地方の金融機関へも重点を置いていきます。
──競合他社との差別化は、どのように。
浦 低価格で、簡単に使いこなせる操作性と利便性が一番の特徴です。IBMさん、富士通さんなど大手企業の製品がライバルですが、そうした製品を使っているユーザーから、「導入費用、導入時間ともに相当費やしたにもかかわらず、使いこなしにくい」という声をよく耳にします。
当社としては、操作性、利便性を訴求していき、競合の大手企業に対抗していきたいと考えています。
──中期的な構想をお聞かせ下さい。
浦 いつも言っているんですが「ゆりかごから墓場まで」のサポートです。資産管理だけにとどまらず、クライアントパソコンの廃棄や、完全なデータ消去の保障サポートまで、統合的なサービスの提供へと発展させていきたいと思います。
その一環として、ドキュメント・マネジメントシステムを開発しました。企業や組織がもっている情報を、ファイル単位で厳密にアクセスコントロールし、アクセス履歴を残し、ファイルが流出しても開けず、価値ある情報を守るシステムです。
また、ユーザーのニーズに的確に応えていく製品開発もこれまで通り、注力していきますよ。バージョンアップもどんどんしていきます。
和歌山県に検証拠点設立、パソコンリテラシーの向上に貢献
──昨年、和歌山県にソフト開発・製品の検証拠点として「エスアールアイ」を設立されましたね。どのような経緯、戦略で設立されたのですか。
浦 品質保証は当社にとって最大の関心事です。そのために製品のテスティングを行うわけですが、たとえば20台と200台のクライアントパソコンでテスティングした場合、20台では見えなかった問題点も、200台なら発見できることがあるわけです。
そこで大規模な製品の検証施設を作ろうと考えたんですが、都心部では地価は高いし、人も集めにくい。東京からのアクセスが短時間であること、また、私の故郷でもあるので土地感があるということで、和歌山県の田辺市を選びました。
昨年7月に和歌山県と紳士協定を結びまして、地元テレビで取り上げてくれるなど和歌山県のさまざまなサポートもありまして、当初1年で10人、2年で20人、3年で30人を予定したのですが、すでに約30人が集まり3倍のスピードで進んでいます。Uターンしたいといって、東京だったら絶対に来てくれないような人も参加してくれています。
エスアールアイでは今後、検証拠点だけにとどまらず、当社のソフトウェア開発拠点としても強化していきます。
また、南紀のパソコンリテラシーの向上を目指し、Linux講習会も行うなどNPO(民間非営利組織)活動にも力を入れようと思ってます。
──和歌山県との関係は。
浦 私は和歌山県をパートナーとして考えており、和歌山県が進めている、田辺・白浜地域への情報通信関連産業の集積を促進し、技術革新や創造的活動空間を創り出そうとするプログラム「IHS(Innovation Hot Springs)構想」にも協力させて頂いています。和歌山県のみなさんと共に、この地域を盛り上げていきたいですね。
「白浜が和歌山を変える。和歌山が日本を変える。日本が世界を変える」ぐらいの意気込みで取り組んでいきますよ。
──米クオリティソフトの設立に続き、中国・上海市に子会社を設立されましたね。海外展開については、どのようにお考えですか。
浦 私は創業当初から、「世界に通用する企業を創る」を念頭に置いてきました。全世界をマーケットと考え、グローバル戦略を進めていきたいと考えているんです。
そのためには、開発拠点はどこにあってもいい。とりあえず、中国・上海に進出しましたが、いい人がいればどの国に行ってもいいと思っています。上海は11人で、当面は当社からアウトソースしますが、こんなソフトを作りたいというアイデアをどんどん出して欲しいと言ってあります。彼らはバイタリティがありますから、期待しているんです。
──今年度(03年9月期)の業績は。
浦 売上高は、前期比33%増の18億9000万円を見込んでいます。中小企業と地方自治体、地方金融機関に重点を置き、また、海外での販売を強化していけば、十分達成できる数字です。ぜひ期待して下さい。
眼光紙背 ~取材を終えて~
浦社長は、社会人になってから英語を身につけた。その勉強方法は一風変わっている。学生時代の教科書を引っ張り出し、その教科書を“丸暗記”するのだという。
今年に入って、中国・上海市に拠点を設け、また、数々のアジア企業と提携していることもあり、現在は中国語取得のために勉強中とのこと。
今回も勉強方法は変わらない。中国語会話の参考書を丸暗記している最中だという。「必ず必要になるスキル」と、参考書と中国語会話が録音されているMP3プレーヤを片手に話す。
「クオリティは多国籍従業員で構成する企業を目指している。次の社長はどこの国の人間になるか分からないですよ」。その社長自ら“多国籍化”を実践している。(鈎)
プロフィール
浦 聖治
(うら きよはる)1952年、和歌山県生まれ。73年3月、国立和歌山工業高等専門学校電気工学科卒業。同年4月、パイオニア入社。カーステレオ事業部にて生産技術業務に従事。81年2月、同社退職。同年9月、マイクロシステムズ入社。プロダクトマネージャ兼テクニカルライターとしてソフトウェア開発に携わる。83年9月、同社退社。84年2月、クオリティサービス(現クオリティ)を設立、代表取締役に就任。
会社紹介
クオリティは、1984年2月に「クオリティサービス」として発足。当初、ソフト・ハード向けの翻訳ドキュメント事業を軸に展開してきた。現在はIT資産管理・クライアント管理ツール、ドキュメント作成ソフトの開発に主軸を置き、売上高は99年度5億8000万円(99年9月期)、00年度7億9000万円(00年9月期)、01年度12億3465万円(01年9月期)、02年度14億2100万円(02年9月期)と右肩上がりで堅調に推移している。
昨年は、経済産業省、国土交通省などから「平成13年度 情報化促進貢献情報処理システム表彰 情報化月間推進会議議長表彰」を受賞した。
国内外の拠点設置にも意欲的。96年4月、米カリフォルニア州サンノゼに「クオリティソフト」を設立したのを手始めに、昨年6月には開発拠点として和歌山県田辺市に「エスアールアイ」を、今年10月には中国・上海市に開発・営業拠点「闊利達軟件」を設立するなど、活発な動きをみせる。
従業員は74人。今年度(03年9月期)は18億9000万円の売り上げを見込んでいる。