中小企業の情報化推進を目的とするプロジェクト組織「オープンコンサルティングプロジェクト(OCP)」は、中小企業経営者のパートナーを目指し、シーガル、マイクロソフトの提唱のもと生まれた。桑山義明代表は、「中小企業も大企業と同様、コンサルティングは必要。インターネットをインフラに活用することで、これまでにない省力化したコンサルティングができる」と話す。マイクロソフトの中小企業向け販売パートナー制度「IT推進全国会」では、コンサルティングのベースにOCPのノウハウを活用することが決定している。
ビジネスプロデューサを養成、中小企業向けにノウハウ伝授
──そもそも、OCPとはどのような組織なのですか。
桑山 ユーザーのビジネスに直結したコンサルティングを行う、コンサルタント集団です。もともと、私が日本ユースウェア協会の会長だった当時から構想していた団体です。
当初は協会の事業として立ち上げることを想定していたのですが、協会は公的要素が強いものですから、改めて全く別なプロジェクトとして立ち上げました。
参加メンバーの中心となっている主任研究員7人は、それぞれ中小企業向け経営コンサルティングを20年以上続けてきた、一家言をもつメンバーばかりです。
しかし、年齢が50歳を越え、なんとか自分たちが構築したノウハウを伝えたい、いわば弟子にノウハウを伝授していきたいと考えたわけです。
ノウハウを伝えるビジネスプロデューサになるには、1週間泊まり込みで勉強するコースで30万円。1週間の泊まり込みは厳しいという人は、ビジネスプロデューサ補として、3日間で20万円というコースもあります。
メンバーになった人はこれまで50人弱ですが、10月頃までに200人規模にまで増やしたいと思っています。
メンバーにとって一番大切なのは、マインドの良さですね。やる気があり、心意気をもった人がたくさん集まった方が、中小企業のコンサルティングはしやすいんではないかと思います。
活動範囲は、中小企業ユーザーの地元に密着して展開しているところの方が成果を上げているようですね。
──しかし、主任研究員はそれぞれ会社をもっている人ばかりですね。例えば、桑山代表もシーガルという会社の社長ですが、自分の会社で後継者を育てることはできないのですか。
桑山 いろいろ試行錯誤しましたが、自分の会社に所属するスタッフにノウハウを伝えるのは難しいですね。例えば私の会社の場合、ついつい私に頼ってしまい、なかなか人材が育ちません。だから、会社とは異なる組織にしたわけです。
──中小企業をユーザーにすると、手間と時間がかかる割に売り上げに結びつかない、手離れが悪いことが問題とされていますが。
桑山 その問題を解決したのがインターネットでした。我々は経営者に対し、最初にアンケートに答えてもらいます。オンラインでコンサルティングを行うことで、これまで訪問し、面接し、調査しなければならなかった部分が大幅に短縮できる。しかも、ITインフラ構築については、ある程度のモデルケースを作ることができますので、この部分は決めうちしてしまうことで大幅な省力化が図れるわけです。
さらに、これまで個人でやってきたものをツール化し、人手でやってきたものをできるだけ省力化する試みも続けていきます。
そういう意味で、インターネットがなければ成立しない試みだと思います。
経営にとってプラスの情報、それは“いくら儲かるか”
──これまで、経営コンサルティングは大企業には必要だが、中小企業にはあまり必要ではないと考えられていたわけですが。
桑山 それは間違いです。これまでのIT業界は、「素晴らしい社内ネットワークができました」ということしかアピールしてこなかった。これでは大工さんが「私の使っているノコギリはすごいですよ」と主張するのと同じで、お客さんにとってはちっとも有り難くない。
お客さんは、自分が生活しやすい家を造って欲しいと思っているわけです。お客さんのニーズとIT業界が行ってきたアピールには、ズレがあったのではないでしょうか。
中小企業の経営者こそ、どうすれば経営にプラスになるのか、そのためにITをどう生かし、活用していくのかを知りたいと思っているのではないですか。経営者の立場になってみれば、社内ネットワークを完備し、過去の販売・仕入れ状況が把握できるようになっても嬉しくない。
欲しいのは来月、来年いくら儲かるかですよ。社内ネットワークを完備してデータ把握ができるようになったことで、来月、来年のビジネスに向けてこんなシミュレーションができる、明日どうなるのかを考えることができますよ――という答えを中小企業の経営者は求めているんです。
最近、全国の商工団体で話をする機会があるのですが、担当者が「メーカーさんから、『この地域には光ファイバーが張り巡らされて、これだけスピードが出るネットワーク網ができましたよ』と機能やスペックを説明されても、どうもピンと来なかった」とぼやいているのを聞きました。
それで何ができるのか、やりたいことにどうつながっていくのかという説明をしてあげないと、素晴らしいシステムも宝の持ち腐れになりかねません。
しかも、これまでのIT化は、会計業務、ワープロなど“守り”のために導入されるものが大半でした。しかし、今後は中小企業といえども、蕫攻め﨟のためにITを活用することが必要です。
これからは自ら情報発信して、お客さんを探していくといった攻めの姿勢で経営を行うことが大切で、そのためにはITを使っていくしかありません。
──中小企業市場に対する期待が高いのは確かですが、その割に市場が活性化していかないのも事実です。
桑山 今、中小企業市場は沸騰寸前というところまで来ているんじゃないかと思っているんです。それは社会システムが大きく変化し始めているからです。
例えば東京都では、取り引き企業がIT化することを求めています。東京都としてはその方が省力化、コスト削減が図れるからですね。そういう社会的インフラの変化があったら、中小企業といえどもIT化は後回しというわけにはいかないでしょう。
私の会社、シーガルも、これから大きく売り上げが伸びていくのではないかと考えています。地場に密着し、最適なビジネスモデルを作ることができれば、それをもとに全国を対象にビジネスしていくことは可能です。
例えば、青森県でクリーニング屋さん向けのビジネスモデルで良いものができたといっても、青森ではせいぜい数社のお客さんしか見つけられないかもしれません。しかし、それを全国向けに横展開するとお客さんの数は一挙に増やしていくことができますよね。
そうなればユーザー1人当たりのコストも抑えることができるし、サービスを提供する側にもメリットがあります。
──そうすると、ようやく中小企業市場が活性化する見通しが出てきたということですね。
桑山 その通りです。中小企業市場は、これからが本番になると思いますよ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「経営に役立つITシステムを導入する」
このコンセプトは、桑山代表が一貫して主張し続けてきたことだ。そう指摘すると桑山代表は嬉しそうに、「そう、話している中身は昔から変わらない。でも、インターネットが発達したおかげで、具体的なビジネスとして作り上げることができた」と答えてくれた。
OCPに参加するメンバーとのコミュニケーションも、インターネットを使ったネットミーティングを定期的に行うなど、「ネットが発達したからこそ」実現した部分は少なくない。あとはビジネスとしてどれだけ成果を残していけるか。風は吹き始めた。次は、どれだけその風に乗ってビジネスを拡大できるか――だ!(猫)
プロフィール
桑山 義明
(くわやま よしあき)1946年生まれ。68年、信州大学工学部卒、日本分光入社。79年、パソコン専門のシステムプラザ、シーガルを設立。パソコンを利用した基幹業務および情報系システム構築の企画、構築、運用を手がけて21年。数多くの業務や業種のシステム構築を豊富に経験。市販パッケージソフトを利用したシステム構築が特徴。
会社紹介
オープンコンサルティングプロジェクト(OCP)は、中心となる主任研究員、中小企業経営者の相談相手として活動していく認定ビジネスプロデューサ、認定ビジネスプロデューサが設計したシステムを実際に構築するコンストラクタ、協賛企業、協賛団体などから構成されている。プロジェクトによって、専業で活動を行っていく部分と、分業によって効率化を図る部分とを併せもって、中小企業の経営にプラスになるITシステムの導入を目指している。
NTT-ME、TDKなどと共同で、経済産業省、中小企業庁の支援のもと、全国中小企業中央会から2002年度「中小企業向けeラーニング事業」の助成を受け、ECなどについて学ぶ教材「どこでも学べる 中小企業のためのネット取引」を作成。体験型学習ができる仕組みを整えている。特定メーカー色が出にくい組織であることから、桑山代表をはじめとする主任研究員が各地方自治体、全国の商工会議所向けに講演なども行っている。