日本マイクロコンピュータ。往時を知っている人には懐かしい名前であろう。パソコンより前、マイクロコンピュータ産業の勃興期に大活躍した1社である。紆余曲折を経て、現在は社名を「ジェイエムシー(JMC)」に変更。4代目となる香月誠一社長は「トータル情報セキュリティソリューションプロバイダ(TISSP)」を標榜し、セキュリティビジネスを核に新たな成長路線を軌道に乗せつつある。
パソコンからセキュリティへ
“トータルなサービス”にこだわる
──社長に就任なさったのが1997年だそうですが、どんなことに注力されてこられましたか。
香月 それまでいろいろな事業に手を出しましたが、基本的にはNECの代理店としてパソコンの販売がメイン事業でした。私が社長に就任した97年当時、まだパソコンは成長途上にあると見られていました。ただ、私自身は物品販売だけに頼るのは非常に危険だと考えていました。
──翌98年は、パソコンが96―97年の踊り場を経て再成長期に入り、一方でNECの「PC-98王国」が崩れ乱戦に入っていった時期ですね。
香月 確かにパソコンは再び脚光を浴びていましたが、普及率が高まれば、物品販売だけでは粗利率が減り続けることも見えていました。ですから、売り上げを追うのではなく、減収でも利益を出せる体制を作らないといけないと考え、蕫減収増益﨟を呪文のように唱えることにしたのです。
──具体的にはどんな目標を立てたのですか。
香月 サービスにフォーカスしました。
──サービスにもいろいろありますが。
香月 最初にチャレンジしたのは、「ISO9001」と「ISO14001」の取得です。
ISO9001は品質マネジメントシステム、ISO14001は環境マネジメントシステムの認定資格ですが、99年に両方を同時取得しました。
当時、両方同時取得というのは日本では初めてのことでした。認定事業者として、これからISO取得にチャレンジする企業に対し、われわれのもつノウハウを活用してもらおうというのが大きな狙いでした。
そして、セキュリティビジネスもこれから大きくなると考え、00年にはセキュリティ事業を開始する一方、社員にハッパを掛けセキュリティ認定事業者の資格取得に全力を挙げることにしました。
それが実って、02年8月には、セキュリティの認定資格である「ISMS適合性評価制度」と「BS7799」をやはり同時取得しました。BS7799は情報セキュリティ管理に関する英国規格ですが、国際標準として認知され、パート1はISO/IEC17799:2000として00年秋にISO規格として制定され、パート2は02年4月に日本情報処理開発協会(JIPDEC)が「ISMS適合性評価制度」として制定しました。
──セキュリティビジネスにもいろいろなレベルがあるようですが。
香月 セキュリティ対策では、まずセキュリテイポリシーと呼ばれる計画(Plan)を決める必要があります。社内を調査・分析して、セキュリティ対策のためのルールを決めるわけです。このルールに沿って、不正アクセス監視サーバーを導入するなどシステム構築、社員教育などの実行(Do)に移行します。セキュリテイの場合、相手も進歩しますので、運用過程でのチェック(Check)も重要で、第三者機関に任せた方が無難です。その監査に基づき、是正・改善(Act)していくというサイクルを常に回していく必要があります。
これを別の視点から見ますと、コンサルティング、認証(PKI)、監視/監査、ファイアウォール/ウイルス対策ソフトといったビジネス領域があります。コンサルティングはセキュリティポリシーのプランニングを行うわけで、難易度からいうと一番難しい。われわれは、このコンサルティングができる会社になりたいと考え、認証取得に全力を挙げてきたわけです。
──トータル情報セキュリティソリューションプロバイダ(TISSP)と、“トータル”を特に強調していますが。
香月 コンサルタントした後もいろいろなビジネス領域があるわけですが、基本的にはそのすべてをカバーする体制を作っているからです。
大きくは3つの事業領域に分けています。「セキュリティコンサルティング」では、セキュリティポリシーの構築支援とBS7799とISMS認証取得の支援を行います。「セキュリティサービス」では、セキュリティ監査サービス、不正アクセス調査サービス、セキュリティの運用・メンテナンス、サービスを受け持ちます。
「セキュリティソリューション」では、セキュリティシステムの構築、その最適商品の提供などを行います。要するに、セキュリティに関わることならコンサルティングからシステム構築、運用まですべてを引き受けます。
地方自治体市場が活発
学校向けにも新製品を投入
──実際のセキュリティビジネスは今、どのマーケットが活性化しているのですか。
香月 今は地方自治体です。e-Japan計画に基づき、地方自治体のIT化が進んでいますが、「高度情報通信ネットワークの安全性と信頼性の確保」、つまりセキュリティ対策は緊急の課題になっています。政府がその重要性を認識し、地方自治体への指導に乗り出しているため、セキュリティポリシー策定の必要性がわかってきた自治体が急速に増えています。
今、地方自治体に強い販売店とアライアンスパートナーづくりに取り組んでおり、協力して売っていこうと思っています。
──学校市場にも強いようですが。
香月 e-Japan計画よりも前に「教育の情報化」ミレニアムプロジェクトが動き出していたわけですが、当社は最初からこのプロジェクトにも参画し、おかげさまで高いシェアをとらせていただいてます。今の売り上げの70%は、このプロジェクト絡みで占めています。
そこに、地方自治体のセキュリティビジネスが乗ってくるというのが、この数年の読みですが、実は学校市場向けでも今年は強力な新製品を用意しています。
──どんな新製品ですか。
香月 昨年、ある県で、生徒が誤って操作をしたところ、先生の成績管理データベースにアクセスできてしまったという事件がありました。単純な操作ミスがとんでもない事件になったわけですが、何とかならないかという相談を受けて開発したのがこの製品です。
USBメモリと同じ形状の商品に、CPUなどを組み込み、「ハードロック(HardLock)」と名付けました。先生にこのハードロックをもってもらい、成績データベースなど重要なサーバーにはこの認証キーを差したパソコンからでないとアクセスできないようにしました。本人認証は、パスワードとハードロックの二重機構によって行いますので、ハードロックを落としたり、盗まれた場合などでも安心です。
──02年度(03年3月期)の業績はどのくらいに落ち着きそうですか。
香月 売り上げは約60億円といったところです。減収は覚悟の上ですが、私が就任以来続けてきた増益については、02年度は残念ながらかないませんでした。ただ、原因ははっきりしています。ハードロック開発と、アライアンスパートナーづくりへの先行投資が響いたためです。もちろん03年度は増益に復帰します。
眼光紙背 ~取材を終えて~
マイコンの時代からこの業界で生きてきた古強者である。
「もう28年経つんだ。早いよねぇ…」。業界の表も裏も知り尽くしている。4代目の社長に就任したのは6年前。NECの推薦だった。
「当時は販売の責任者をやっていた。後任の販売担当者をNECから出してくれるなら」という条件で社長を引き受けた。
「減収増益」を公言する。当時は100億円あった売り上げを約60億円にまで落としながらも、増益を実現。体質改善の決め手にしてきたのが「免許」だ。
「ISO9001」と「同14001」、「BS7799」と「ISMS適合性評価制度」。いずれも同時取得という蕫離れ技﨟。これら蕫免許皆伝状﨟が体質改善の象徴だ。(見)
プロフィール
香月誠一(かつきせいいち)1950年9月16日、兵庫県相生市生まれ。72年、東海大学通信工学科を卒業。同年、三菱電機の代理店である協栄産業に入社。75年、日本マイクロコンピュータに創立メンバーの一人として参加。86年取締役、93年常務を経て、97年社長に就任。今期で6年目を迎える。
会社紹介
1975年、インテルジャパンの社長だった馬上義弘氏が日本マイクロコンピュータとして創業。インテルのシステム製品の販売権を取得し、LSI・ボードコンピュータの販売を開始した。77年、NECのマイコンキット「TK-80BS」の受託製造を始め、NECブランドで東京・秋葉原などに直販。NECとアンテナショップ「ビットイン横浜」の共同開設などを経て、82年にNEC販売特約店となる。
97年、香月誠一社長が就任。翌年、社名を「ジェイエムシー」に変更した。99年、品質マネジメントシステムの国際規格「ISO9001」、環境マネジメントシステムの国際規格「同14001」を同時取得。00年、セキュリティ事業に乗り出し、02年8月、情報セキュリティマネジメントの標準規格「BS7799」、「ISMS適合性評価制度」を同時取得した。
香月社長は「減収増益」を唱え、積極的に体質改善に取り組む。現在は「トータル情報セキュリティソリューションプロバイダ(TISSP)」を標榜する。今年度(03年3月期)の売上高は約60億円の見通し。